(2012年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第196号より)





ダンスが人生を変えてくれた。売春とドラッグの人生から「路上の星」に



ブラジルのストリートチルドレンたちが、スペインを訪問。
暴力が支配する、過酷な路上で暮らしてきたブラジル、フォルタレザの若者たち。ここではダンスが、支援者と彼らを結ぶ懸け橋となっている。







Ips brazilian street stars dance and shine in spain
(マラガの町で、アフロ・ブラジリアンダンスを披露する若者たち)




スペインで27回のダンス、5000人を集客



自ら作り上げた色鮮やかな衣装に身を包んだ6人の若者。今年5月、ブラジル北東部の都市フォルタレザにあるダンスチーム「路上の星」に参加する13〜21歳の若者たちが、スペイン南部の都市マラガを訪れた。

彼らはスペインで20日間にわたり27回の公演を行い、伝統舞踊を披露。学校や文化センター、市民団体の施設、マラガの市庁舎を舞台に、5000人の観客を集めた。




現在21歳のジョナタンが「ASMMF(フォルタレザのストリートチルドレンを支援する会)」の運営するプログラムに参加するようになったのは、今から4年前のこと。人口250万人のフォルタレザは、ブラジルで5番目に危険な都市とされている。

もし路上から救い出されなかったら、売春とドラッグの人生に身を落としていたはずだよ」。かつてストリートチルドレンだったジョナタンはそう話す。

ストレートの髪を伸ばした、ほっそりと背の高いジョナタンは、資金援助を受け縫製のコースを修了した後、体育学を勉強している。さらに彼は、自身初の仕事として「ASMMF」にやって来る子どもたちや若者にダンスを教えている。




他の「路上の星」メンバーたちも、それぞれの人生経験を語った。

プログラムに1年前から参加している19歳のダヴィドは「ダンスが人生を変えてくれたんだ」と話す。「踊ることが大好き」で、7歳の頃から筋金入りのダンサーだったという彼は、協会のおかげで人見知りを克服し、大人に近づけたと言う。

同じく1年前に入った16歳のビアンカも「ひったくりとかけんかとか、路上は暴力だらけだったわ」と言う。「だから、ダンスのリハーサルを見に行って、すっかり気に入ってしまったの」




彼らのこのようなスペインへの訪問は、今回が初めてではない。20年前に創設された「ASMMF」は、マラガの「ストリートチルドレン協会」と17年来の協力関係にあり、資金援助を受けている。両協会は、10代の性的搾取の被害者やシングルマザー、トランスベスタイト(異性装)の若者を力づけ、彼らの就職を支援することを使命として連携してきた。

マラガの協会で働くブラジル人教育者マリオ・アルメイダは、「ダンスがいかに彼らの人生を変える手助けをしたかを示し、マラガの人々に関心をもってもらいたいのです」と話す。




縫製ワークショップ受講者約400人。うち90パーセントが脱路上



フォルタレザでコーディネーターを務めるレジーナ・メスキータは、フォルタレザを途方もない社会格差と暴力の連鎖が続く街だと説明する。

まだ9歳の幼い少年少女が、家計を助けるために売春をするようなところです。多くの若者が違法なドラッグにかかわるようになりますが、それはつらい人生をやり過ごすための手段であることも多いのです」




97年、「ASMMF」は、路上で声をかけた子どもたちがすぐに立ち寄れる場所として、デイセンター「アンダルシアの家」を開所した。ここでは子どもたちに、「路上の星」や裁縫ワークショップのほか、読み書きの訓練といった教育プログラムへの参加を勧めている。

センターには4人の先生がいて、児童売春を仕事にする、あるいはそうなりかけている少女たちの支援に特に力を入れている。




過去17年間で「ASMMF」のプロジェクトへの参加者は数千人にのぼる。縫製のワークショップを受講した若者の数はおよそ400人で、そのうち90パーセントが脱路上を果たした。前回の受講者募集の際は40人の定員に対して500人の応募があったそうだ。

さらに、「アンダルシアの家」の何らかのプログラムに参加した若者の30パーセントが仕事を見つけ、40〜50パーセントの人が再び学校に通うようになった。




今回のスペイン訪問の間に、参加した若者たちは学資金の援助を、6人全員分取りつけることができた。コーディネーターのメスキータは、自分たちの目標は子どもたちを学校に通わせること、彼らの自尊心を育てること、そして訓練の場を提供し就職の機会を与えることだと話す。「それは一歩ずつ、とても時間のかかる道のりなのです」




(Inés Benítez/IPS, ©www.streetnewsservice.org)
Photo: Inés Benítez/IPS