(2012年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第202号

目立ちはじめた20代前半のホームレス。家族の限界と崩壊が背景に



2001年から、ホームレス状態にある人たちの生活相談をしてきたNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」。現場で相談を受けるスタッフの冨樫匡孝さんと碓氷和洋さんに、最近の状況について話を聞いた。


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(碓氷和洋さん)

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(冨樫匡孝さん)

高校中退、仕事経験なし、高い就職や自立へのハードル



リーマンショックを境に、20代、30代の若者ホームレスの姿を見かけることが多くなった。しかし、彼らはネットカフェ、ファストフード店などの24時間営業の店舗、寝るだけの空間を提供するゲストハウスなどで夜を過ごすことが多く、その実態を把握することは容易ではない。

「今年に入って若い人からの相談が急増しています」と話すのは、『自立サポートセンター・もやい』で困窮した人の相談に応じる冨樫匡孝さん。

最近目立つのは、実家との関係が悪化し、家にいられなくなったケースです。派遣切りに遭っていったん、実家に帰っていた人とか、不安定雇用のため自活できず居候を続けていた人が、家族に押し出されるかたちで路上に出てきた感じです。背景には、家族の経済的問題がある場合がほとんど。父親が定年で年金暮らしになるため、これ以上やっかいになれないと出てきた人もいました」

さらに最近、冨樫さんらもやいスタッフを驚かせているのが、20代前半層の増加だ。

「21歳とかで相談にやって来る人が増えています。複雑な家庭に育った人が多く、親の虐待や精神疾患などが原因で必要な養育をほとんど受けてこなかったという人もいます。家族との関係がうまくいかず、18歳から友達の家や路上を転々とし、今に至っている人。母親の病気にかかる費用の支払いが滞り、家を出てしまった人。ギャンブル依存で借金をかかえた両親が立ち退きを迫られており、本人は自立したいが精神的な問題で働けないというようなケースもあります」

特に20代前半の若者の場合、働いた経験がほとんどなく、また高校を中退しているケースも多いため、就職や自立のハードルはいっそう高くなる。

今年に入って相次ぐ生活保護バッシングの影響のためか、生活保護を受給している人からの相談が増えていると話すのは、もやいスタッフの碓氷和洋さん。

「生活保護受給中に懸命に仕事を探しても、求人自体が少なく、不安定かつ最低賃金ギリギリの仕事しか得られない場合がほとんど。そうした状況の中、意欲を失ってしまう人もいます。また、再就職できた人の中にも、数年のブランクがあったため現場の技術革新についていけず辞めてしまったケースもありました。教育訓練などアパート入居後に活用できる具体的資源が少ないことも、自立の妨げになっています」

単身者の公共住宅があればホームレスには陥らない



もやいでは、そんな孤立しがちな若者のための居場所づくりを数年前から続けてきた。「Drop-in こもれび」という集いで月2回、日曜日の午後、「こもれび荘」で集まりをもっている。

「食事を作って食べるほか、これといった決まりもない自由でゆるい集まりです。彼らは将来が見通せない職場でギリギリの状態で働いています。愚痴や悩みを言い合える仲間がいることで何とか乗り切ってもらえれば……」

20代でホームレス状態を経験し、もやいに相談に訪れたことをきっかけにスタッフになった冨樫さんだけに、その思いは強い。

若者の3人に1人が非正規雇用という雇用状況が改善される兆しはなく、今後もホームレス状態に陥る若者は増えていくことが予想される状況の中、冨樫さんは2万円程度の低廉な家賃で入居できる、単身者用の公共住宅を設けることを提案する。

都会では一人暮らしの経済的ハードルが高い。そのため自立したくても家を出られない人や家賃を払えなくなる不安を常に抱えている人は大勢います。住居だけでも安定すれば、ホームレス状態にまで陥ることはありません

若者支援施策がほとんどないこの国では、実家に暮らすことでかろうじてホームレス状態を免れている若者が大勢いる。しかし家族による包摂は、崩壊寸前にさしかかっていることが今回の取材でも明らかになった。

「若者を非正規雇用に押しとどめ、まったく育てようとしない企業や社会に『本当にそれでいいんですか?』と問いたい。このまま行くと次の世代は確実に貧しくなり、国は先細っていくでしょう。どんな状況の若者も平等にスタートラインに立てるよう、自分のこととしてこの問題に関心を向けてほしい」

(飯島裕子)
Photo:横関一浩

NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい
東京都内の路上生活者支援団体のメンバーが中心となり、2001年設立、03年よりNPO法人。「経済的貧困」と「人間関係の貧困」の二つの貧困を社会的に解決していくことが活動理念。ホームレス状態にある人がアパートに入る際に連帯保証人を提供する入居支援事業、生活困窮者の相談に応じて制度利用のサポートなどを行う生活相談・支援事業、生活が安定した後の孤立化を防ぐための交流事業を中心に活動している。04年以降、「こもれび荘」が活動拠点になった。