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新顔の覆面ストリート・アーティスト「Stik」



2年前、ホームレスのストリート・グラフィティアーティストとして、ロンドンのビルのあちこちに、特徴のある細長い線で描かれた奇妙な人物像(棒人間)を描き残し始めたスティック。今や彼は、イギリスのアート界で最も話題のアーティストだ。

多くのギャラリーが彼の展示会を開こうとして大騒ぎをしているし、彼の作品は、エルトン・ジョンやボノ、ブライアン・メイ、タイニー・テンパーなどのスターの自宅に飾られている。

自分の正体を隠すためにアーティスト名「スティック」を名乗る彼は、ボクソールにあるビッグイシューのロンドン事務所を訪れ、なぜビッグイシューの読者のために、新しい作品(ビッグイシュー223号に折り込まれているポスター)を作りたかったのかを説明してくれた。いつも特大のサングラスをかけている彼は、椅子にゆったりと腰かけて、ロンドンの路上で暮らした苦しい年月について話し、また、なぜストリートアートは決して飼いならされることはないと信じるのかを語ってくれた。




Stik一問一答

 

Q: 今や世界中から声のかかる人気アーティストですが、ビッグイシューのために新しい作品を作ることがなぜそんなに大事だったのですか。

S: ビッグイシューは、多くの人々が再び自立できるように手助けしている素晴らしい組織だ。今回のようなプロジェクトをしたいとずっと思っていた。僕を助けてくれたホームレスの友人たち、ゴミ箱から食べ物を探す方法を教えてくれた人や最初にスクワット(空き家屋の不法占拠)をした時に助けてくれた人たち、路上で生き延びるコツを教え、なんらかの安定感を与えてくれた人たちにも恩返しをしたいというのもありました。




Q: あなたの描く「棒人間」は、単純だけど、感情に訴えてくるものがある。何を表したいと思っていますか。

S: 絵は僕の気持ちそのもの。僕の描く大きな人物像は、じわじわと街に広まりつつある。彼らは自分自身の巨大さには気がつかず、恥ずかしそうに壁から街を見つめている。彼らは街に存在する人々を表している。どこにでもいるが、疎外されている人々。この街は残酷だけれど、僕はそれを少し温かい人間味のあるものにしたいと思っている。




Q: アーティスト名の由来は?

S: 僕が棒のような人物を描くから、みんなが僕のことをスティックと呼び始めた。それに僕はちょっと痩せているから。自分自身のことはあまり公にしたくないので、絵を描くときは大きなサングラスをかけています。




Q: あなたは何年もホームレスでしたが、ストリートアートは、あなたがトラブルから抜け出すために必要なはけ口だったですか?

S: 何か音を立てないと、自分を見失ってしまいそうだった。街の騒音に比べればほんの小さな音だっただろうけれど、自分にとっては描くことでアイデンティティを感じることができた。他の人が自分の作品に共感してくれるとは、最近まで夢にも思わなかった。ただ自分の思いを壁に描いていただけ。おかしなことだけれど、絵を保存するには、僕が持ち歩いていたスケッチブックより、壁の方が安全な場所だった。それに、壁は社会と直接つながる接点でもあった。僕が当時とても疎外されていると感じていた社会とのね。





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Q: ホームレスであることは、身体的にはもちろんのこと、精神的にもかなりのダメージを与えますよね?

S: 家は、言ってみれば第2の皮膚のようなもの。外界から身を守ってくれるものだ。それがないと、肉体的にも感情的にもひどく傷つけられる可能性がある。無慈悲に、ただ生き延びているだけのレベルに落ちるまで痛めつけられる。厚い皮膚を身に着けようと努力しても、結局は傷ついてしまう。その状態で前向きに生きることはとても困難です。ホームレスを経験すると、たとえ家の中にいても、いつも路上にいるように感じてしまう。一方で、ホームレスでなくなっても、路上がまるで自分の居間のように感じられる。




Q: それは全く異なった心理状態にいるということ?

S: 今では家があるのに、あの心理状態に戻り、ホームレスのように感じる時がある。ホームレスを体験した人なら、理解できると思う。役所からの手紙や納税申告用紙などが来ると、そうなることが多いね。通常の家庭生活の一端が一時的に理解できなくて対応できない感じ。そのたびに、すべてを失うことがいかに容易いかを、思い出します。




Q: 優れたストリート・アーティストは、身の回りの街の雰囲気に敏感だと思いますか?

S: ほとんどの人は、街をまるで平らな地図であるかのように歩き回る。でも本当に街を知っている人は、街を3次元、「立体」でとらえている。どこからフェンスをすり抜けるかや非常階段を登れるか、はたまた、誰も知らない秘密の場所へと続く塀の間の隙間があるなんてことを知っている。




後編に続く




(Photo by 横関一浩)