世界一幸福な国~デンマーク・コペンハーゲン、高齢者福祉の今~




世界一幸せな国といわれるデンマーク。消費税は一律25%、所得税は約50%、国民の租税負担率は70%と高負担である代わりに、医療費、大学卒業までの教育費(学生の間は返済義務がない生活支援金も貰える)、出産費、介護福祉費は、基本的に無料。実際にデンマークの人々に話を聞いてみると、質の高い福祉を維持するために高負担であるのは当然のこととして受け止められており、むしろ人々は、こうした世界でもトップレベルである福祉サービスを受けられることに誇りを持っているため、税の高負担に反対する声はほとんど上がらないようだ。



今回はコペンハーゲンで最も一般的なモデルとされる、特別養護老人ホーム(プライエム=Plejehjem)を高齢者住宅・介護型住宅に改装したKildevald Sogns Plejehjemと、認知症患者のための最新鋭のケア・プログラムと設備を備えた「共通の庭」(falledgarden)という、高齢者住宅・介護型住宅用をレポートする。




住み慣れた家から家具持ち込み、自分らしい快適空間つくる、特別養護老人ホーム



デンマークでは、元々は特別養護老人ホーム(プライエム=Plejehjem)だった施設も、住み慣れた地域で、できるだけ長く自宅で過ごすことに重点が置かれるようになったため、現在では高齢者住宅・介護型住宅用として機能している。これらの施設は全て地方自治体の予算でまかなわれており、すべての介護福祉サービスは無料で提供されている。




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Kildevald Sogns Plejehjemの共有スペース-1





今回取材した特別養護老人ホーム 「Kildevald Sogns Plejehjem」 は、築35年。現在では全室60室、高齢者住宅・介護型住宅用として改装されており、全室個室・トイレ・シャワー付き。夫婦で入居を希望する場合には、2ベッドルームの広い部屋が提供される。万が一パートナーが先に亡くなったとしても、 そのまま2ベットルームの広い部屋に引き続き滞在することができる。もちろんペットと一緒に暮らすことも可能で、他の入居者と積極的に話し合いをする場が設けられ、入居における規則の詳細は、自主性にまかせているそうだ。入居者は住み慣れた家から家具を自由に持ち込むことが可能なので、それぞれ自分らしい快適な空間を作っている。






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入居者のBentさん(79)


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Bentさんの住居-1 家族の写真が飾られている。



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Bentさんの住居-2 ベッドルームとして使用しているもう一つの部屋。




全室60室の入居者に対して、54名がこの施設で働いており、1日3交代制、日中は5人で1人、夜は10人に1人の割合でケア・ワーカーを配置しているそうだ。(ソーシャル・ワーカーを除く)

デンマークでケア・ワーカーになるためには、1年間専門学校に通わなければならないが、その学校の費用は無料、学校に行っている間は、返済義務がない生活支援金も貰えるという高待遇だ。ケア・ワーカーは地方自治体の公務員であり、労働条件は、週に37時間、そして1年間に6週間の休暇。子どものいる家庭ではさらに手厚い待遇があるそうだ。

この特別養護老人ホームにおける認知症患者の割合は 70~75%。 ガンの末期患者も入居しており、この国では最期まで住み慣れた地域で、 自分らしい生活を大切にするため、ほとんどの場合、病院やホスピスなどの施設へは移ることはないそうだ。なお、日本の都市圏における特別養護老人ホームのウエイティング・リストの平均は約2~3年と長いが、デンマーク都市圏でのウエイティング・リストは、平均で約1年未満と、比較的短期間の待ち時間で入居が可能だ。




この施設、Kildevald Sogns Plejehjemの主任マネージャーであるマルギットさん(Margit Lundage)にお話を伺った。


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Kildevald Sogns Plejehjemの主任マネージャー、マルギットさん





マルギットさん:「出来る限り、最期の最期まで入居者の自主性を尊重することを大切にしています。もし入居者が判断出来ない状態でも、まずは私たちが入居者のために最善の方法を考え、その人が快適だと思えるサービスを提案します。 答えは一つではありません。同じテーマであっても、その都度何度も再考することで自主性を養っているのです。」

タケトモコ:自立性を養うための具体例を教えてください。

マルギットさん:「入居者ができることを出来る限り長くできるような体勢を作っています。入居者とは日常的なコミュニケーションを欠かさず、入居者のボードメンバーとは積極的に意見交換します。ミーティングは月に1回行いますが、要望があればいつでも開催されます。少なくとも年に3回は家族とのミーティングも開催します。あらゆる質問に納得するまで答え、入居者の要望を聞いて、その都度改善できることは改善し、快適に暮らせるように心がけています。ひとりひとりが違って当たり前。ひとりひとりが自分らしく生きる権利を持っていますから、自分らしく、楽しく生きることのお手伝いするのです。」




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