2013/10/13(日)、外苑前の梅窓院祖師堂にて「りんりんふぇす2013」が開催されました。寺尾紗穂さん、加川良さん、NRQ、七尾旅人さん、石橋幸さんといった豪華な面々のライブ演奏を楽しめる、素敵な機会となりました。

イベントのなかではビッグイシューに関わる人々の座談会も行われました。この記事では、座談会でお話いただいた「月三万円ビジネス」の実践者である前田敏之さんのトークを、まとめてご紹介いたします。




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前田敏之さんが語る「月三万円ビジネス」の愉しさ





前田さん:みなさんこんにちは、前田と申します。お時間を少々いただいて、ぼくがやっていることをお話させていただきます。

「月三万円ビジネス」は発明家の藤村靖之さんが提唱しているビジネスです。特徴の一つ目は、たった月3万円しか儲からないので、競争に晒されないということ。月三万円ビジネスの目から見ると、実は世の中にはたくさんの仕事の種が埋もれています。

二つ目は「いいこと、好きなことをやる」。悪いこと、嫌いなことはやらない、これが月三万円ビジネスのポイントです。

三つ目は「複業」が前提。たくさんのビジネスを同時に回すんです。たとえば、3万円ビジネスを4つやれば12万円になります。

そして、支出を減らすこと。1ビジネス3日以上かけないという原則があります。つまり、12万円なら12日で稼ぐ。支出をうまく減らして過ごし、余暇はセルフビルドや自給で愉しく暮らす。家を自分で造ったり、自分で野菜やお米を作ったり、そういう愉しさを追求します。

五つ目の特徴は、奪い合わずに分かち合う、ということ。月三万円ビジネスが成長して、もしも6万円稼げるようになったときは、他の人と仕事を分け合うようにします。うまくいったら、ほかの地域の人に真似してもらいます。




システムエンジニアから、月三万円ビジネスの実践者に



前田さん:ぼくは元々サラリーマンで、システムエンジニアをしていました。その後、青年海外協力隊としてミクロネシア連邦でコンピューターの講師として過ごしました。

ミクロネシアは貧しい国でしたが、日本のようにホームレスはいませんでした。当時、現地の人から「なぜ日本はあんなに豊かな国なのに、ホームレスがいるんだ?」と聞かれたが、うまく答えられなかった。

また、現地では海面上昇が起こっていました。自分は今コンピューターを教えているが、実は自分たちのせいで島が沈んでいるのではないか。そんな疑問を抱いて帰国しました。

日本に帰ってきたあとは、勉強のためにホームレス経験をしました。その後、低エネルギーな暮らしを研究するためドイツに滞在して、帰国後、福島で地産地消の量り売りのお店をはじめました。お店をやっているなかで藤村さんと出会い、さらに3.11と原発事故があって、月三万円ビジネスを始めることにしました。




人生を使って実験中



前田さん:今は、自分の人生を使って実験しようとしています。仕事を手放し、故郷を離れても、豊かな人生を送ることができる。資本がなくても、知恵と人のつながりで低支出・低エネルギーで豊かに暮らす。誰もができる『複業』という選択肢を創る。そういうことを、実験を通して示していきたいと思っています。

今現在、どういう仕事をしているかについてお話します。一つ目は、WEB構築サポートです。自分の仕事のためにサイトを作りたいけれど、作り方がわからないという人たちは多い。そんな人のために、15,000円、1日で簡単なウェブサイトをつくっています。

二つ目はノグソをしている伊沢正名さんのイベントコーディネート、ウェブ管理をしています。彼の価値観には共感していたのですが、ちょうどウェブがわかる人を探していたので、お仕事をすることになりました。

三つ目は、ゼロからの米づくり。まったく経験がなかったのですが、200平方メートルくらいの小さな水田でお米を作っています。

話を聞いてみると、米農家を始めるためには2000万円掛かるらしいんですよ。でも、それってどうなんだろうと思って。もっと別の方法があるのではないか、もっと愉しくやってみよう、機械を買わないで済むように手作業でやってみよう、と思い立って米づくりを始めました。


今後やりたいビジネスについてもお話します。ひとつは、『米の籾殻を使った天然素材まくら』を考えている。籾殻はお米の副産物です。月3万円くらい儲かればいいな、と。

もう一つは『竹製のリヤカーによる石焼き芋販売』。千葉では竹害が問題になっている。この竹でリヤカーをつくり、木更津で育てた焼き芋を売れば、完全に木更津産の焼き芋屋ができます。




毎月の電気代は300〜500円



前田さん:暮らしについて。新鮮な野菜が近くに生えていたり、自分で育てているのでそれを食べれば大丈夫です。冷蔵庫も使っていません。なので、電気代は毎月300〜500円くらいで、電気料金の契約は10アンペアで済みます。ビール飲みたければ近くのコンビニに行けばいい。外に冷蔵庫がある感じですね。


特に伝えたいこととして、『食っていくためには仕方がないんだ』という考え方がありますよね。サラリーマン時代にも、この言葉を言われたことがあります。これを、もうやめませんか。

ホームレスの人に弟子入りした時に『前田君、オレはね。夕方ラジオから流れるジャズさえ聞ければ、幸せ。あとは何でもいいんだよ』と言われて衝撃を受けました。いったいどちらが豊かなんでしょう。

『仕事は甘くない。親は家族のために、毎日我慢して働いているんだ』。…そんなんじゃ大人になりたくないですよね。大人って本当に愉しいんだよ、ということを見せていきたいと思っています。

まずは、自分が固定観念に囚われていないか、ということを考えてみると選択肢が出てくるのではないでしょうか。仕事と暮らしを分けるのではなく、一緒に考えてみる。家賃がいくらで電気代がいくらで、という「いまの支出」を前提に考えなず、選択肢を広げてみる。給与を減らして週休3日にできないか考えてみる。余暇には消費するのではなく、モノづくりを楽しむ。会社を経営しているのなら、売上を増やさずに、雇用を増やせないか考えてみる。

長くなりましたけれど、そんなことを考えて、やっています。ありがとうございました。




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価値観を揺さぶる前田さんの素敵なお話、関係者として参加したぼく自身も、自分の身の振りを考えさせられました。特に「支出を減らして余暇にはモノづくりを楽しむ」というのは、見習いたい暮らし方ですね。

前田さんはビッグイシュー本誌・214号にも登場しています。関心がある方はぜひバックナンバーを路上にてご購入ください。

月3万円ビジネスの事例をつくる、前田敏之さん「大人はこんなに自由だと、子どもに伝えたい」 | BIG ISSUE ONLINE









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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。