(2008年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 92号より)




多重債務、カード社会の落とし穴—女性自立の会、有田宏美さんに聞く



便利なクレジットカードの普及により、誰もが多重債務と隣り合わせの現代。
自らも父の借金に巻き込まれた経験を持ち、多重債務に悩む女性の相談を受けている
NPO法人女性自立の会・理事長の有田宏美さんに、その実情を聞いた。






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エステで自己破産した学生、夫の浮気が発端だった主婦



「多重債務は特別な人の問題ではありません。ここへ来るのは『本当にこの人が何百万円もの借金を?』と疑いたくなるくらい、ごく普通の人ばかりです」。NPO法人 女性自立の会・理事長の有田宏美さんはそう話す。これまでに面談した女性の数は1000人以上、メールや電話を合わせれば3000人にのぼる。

借金の原因は誰の身にも起こりそうな、ささいなことがほとんどだ。




例えば、幼い頃に母を亡くし、過食と拒食を繰り返してきた21歳の女性の場合はこうだった。ぽっちゃりした容姿にコンプレックスを持つ大学生の彼女に、キャッチセールスの女性が声をかけ、エステを勧めた。彼女は月々わずかな額だからアルバイトをすれば返せると、軽い気持ちで契約を結んだ。

ところが契約期限が終わりに近づくと「もう少しできれいになるのに」と施術チケットや化粧品の追加購入を勧められ、気がつくと借金は200万円にまで膨れ上がっていた。会を通して弁護士に相談した彼女は安定した収入がなかったため、自己破産の道を選んだ。




30代後半の主婦はパチンコが原因だった。あるとき、夫の浮気が発覚した。相手の女性は夫の姉の友人だった。夫と姉はかばい合い、彼女にも非があるかのような言い方をした。

それでも彼女は子どものためによりを戻そうと、夫の趣味であるパチンコにつき合うようになった。そのまま、すっかりはまってしまった彼女は、夫に内緒で借りたお金をパチンコにつぎ込み続けた。会のアドバイスに従って、夫にすべてを話した今は夫婦二人で立て直しをはかっているという。




「相談者の借金は少なくて百数十万円、ほとんどの方が数百万円抱えています。150万円借りているOLさんの場合だと、月々の返済額はだいたい5、6万円。アパートで一人暮らしだとすると、月収20万円ちょっとならそれでも十分に苦しい。初めはどなたもパニック状態で、泣きながら電話をかけてきます。まずは一対一の面談で現実を正しく把握して、それから法律家にバトンタッチします。ただ、法的に解決して借金をゼロにしても、その人の考え方を改善しない限り、多重債務は繰り返されていきます」




未来のお金をあてにせず、カードを賢く使いこなす



女性自立の会では月に一度、面談を終えた相談者を対象に「再生プログラム」という勉強会を開いている。ここでは、自分より少し前を歩いている経験者の話が聞けるほか、家計管理の指導を受けることもできる。まずは1ヶ月に必要な生活費を知り、貯金の習慣をつける。さらにwant(ほしいもの)とneed(必要なもの)を区別し、買うものの優先順位をつける訓練もする。

相談者の中には店員に乗せられていらないものまで買ってしまうなど、『NO』と言えない人が多い。同僚に誘われて無理をして行った海外旅行が原因で、多重債務に陥った女性もいる。給料は同じでも、親元で暮らす人と一人暮らしでは貯金できる額がまったく違うことに、彼女は気づいていませんでした」。参加者は、店員と客、無理な仕事を頼む同僚などと役割を決めて、『NO』と言う練習にも励んでいる。

「ポイントがつくことだけを売りに、クレジットカードを安易に勧める側にも問題はある。ただ近ごろは、インターネットのプロバイダーもETCもカード決済の時代。カードなしで過ごすことは難しい。カードのメリットとデメリットを知った上で、自己管理する能力が求められます」と、有田さんは言う。

カードを使う上で最も注意すべき点は、未来のお金をあてにしないことだ。「派遣の仕事と仕事の間に、ほんのつなぎのつもりで生活費を借りて返せなくなる人は少なくない。また、たとえ利息ゼロのボーナス一括払いでも、その直前に会社を解雇されるかもしれない。返済能力がある場合、例えば、財布には1万円しかないけれど通帳にはカード利用した以上の預金があるという方以外、カード利用はおすすめできません」

他社から借り入れてまで返済に回している人は、すでにかなり危険な状態だ。

「『借金=恥』という考えが事態を深刻にしている。1日も早い相談が、自分を守ることにつながる。みなさん、自己破産はいやだと言われますが、実際は持ち家も処分せず、『民事再生手続き』を適用できるケースも少なくありません。まずは現状を、冷静な第三者の目で判断してもらうことが大切です」

(香月真理子)
Photo:高松英昭




ありた・ひろみ
1965年生まれ。NPO法人女性自立の会理事長。96年より、多重債務に陥った女性の相談業務に従事。2000年6月、女性の心の支援会として「NPO法人 女性自立の会」を設立。『借金の問題は心の問題』をコンセプトに、相談者の再発防止カウンセリング(再生プログラム)に努める。著書に『借金で悩んでいるあなたへ〜人生をやり直すための63の方法』評言社。

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