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1月1日発売のビッグイシュー日本版230号のご紹介です。

スペシャル・インタビュー 加古里子(かこ・さとし)さん
加古里子さんの絵本といえば、『だるまちゃんとてんぐちゃん』が有名です。24歳の時に、子ども会で紙芝居をつくって以来、33歳で最初の絵本を出版、その創作活動は60年以上。今年は『からすのパン屋さん』と『どろぼうがっこう』の続編が相次いで出版されました。そんな加古さんのアトリエを訪問、生い立ちから創作秘話、子どもたちへの思いを聞きました。

お正月スペシャル企画 オンライン短編小説『もう、昔のままじゃない』
1月1日号をお買い上げの方限定! スコットランドの伝説的小説『トレイン・スポッティング』の続編がお読みいただけます。INSPの親善大使でもある原作者のアーヴィン・ウェルシュ氏から、世界の販売者への書き下ろしプレゼント。
「ビッグイシューオンライン」特設サイトにアクセスし、当号内にあるパスワードをご記入いただくと、短編小説をお読みいただくことができます。1月6日、解禁です。

特別企画 日本の子どもたちの未来を考える
  ―子どもたちを放射線災害からどう守るのか?
〈対談〉 菅谷昭さん×吉野裕之さん

2年9ヵ月、いまだ収束しない福島第一原発事故。子どもたちは、どこででも自由に戸外で遊べるわけではなく、不自然で不健全な生活を強いられているのではないでしょうか。どうか、思い出してほしい、子ども時代の1年がどんなに長かったかを。
遅きに失したのかもしれないけれど、私たち大人は子どもたちを放射能被曝から守る責任があります。福島の事故で汚染され続けている国土に住み、国内すべての原発が閉鎖されても核廃棄物を保管し続けなければならない日本人が、ともに考えるべき問題ではないでしょうか。  そこで、チェルノブイリの事故後、5年半、ベラルーシの医療機関で働き、汚染地域の家庭訪問も行った菅谷昭さん(医師/現松本市長)と、汚染の厳しい福島市渡利地区で子どもたちの保養活動などを続ける吉野裕之さん(NPO法人シャローム災害支援センター)に、「子どもたちを放射線災害からどう守るのか」をテーマに対談いただきました。

国際記事 すべての傷は時間とともに癒やされる―作家 イザベル・アジェンデ
ラテンアメリカ文学界を代表するイザベル・アジェンデは、かつて軍事政権下の故国チリを逃れ、小説『精霊たちの家』を著しました。クーデターから40年、アジェンデが当時を振り返ります。

リレーインタビュー 歌手・AFC代表 佐良直美さん
1969年、「いいじゃないの幸せならば」でレコード大賞を受賞し、NHK紅白歌合戦には13回出場、司会も5回つとめるという華々しい経歴の佐良直美さん。引退された現在は、家庭犬しつけ教室を主宰しており、「保健所の前を通るといても立ってもいられない」と語ります。

この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。

最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
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「単身女性」の3割が貧困、「母子世帯」の就労収入は181万円:「ハウジング・リスク」を抱える人々(1/3)

不安定就労層─住居費、収入の5割前後に



2008年、リーマンショックで話題となった「派遣切り」は、不安定就労層が急速に広がっていることを明らかにした。

そのような派遣労働者を含む非正規雇用で働く人々の数は、過去最高で、全労働者のうち、38.2%を占めると報告された(2013年7月総務省発表)。

非正規労働者は、一般的に昇給や賞与がなく、十分な賃金や身分保障がないため、生活が不安定になりやすい。貯蓄も少ないため、準備がないまま失業や解雇を経験した場合、容易に生活困窮や家賃滞納等のハウジング・リスクが発生する。生活困窮者の多くは、そのような元労働者だ。その労働者が家賃や光熱水費などのライフラインに必要な最低限の生活費にも事欠く状態に陥ってしまう。

そのなかでも生活費に占める住宅費の割合は極めて高い。相談者の多くが住宅費を払うことが困難になり、ネットカフェや友人宅を住居として利用している。

例えば、先日相談に来られた都内在住の倉庫整理業の派遣労働者の30歳代男性の場合、毎月の収入は手取りで約12万円である。家賃は月額6万円、ワンルームを借りている。住宅費に収入の約50%が支出される。他に光熱水費を支出し、食費を捻出すると手元には毎月数百円しか残らない生活が続いている。男性は体調を崩し、休職する日が続くと収入は減額されるため、生活ができないと相談を寄せられた。

別の埼玉県在住、書店アルバイトの40歳代男性の場合、毎月の収入は手取りで約16万円である。男性の家族は、病弱な妻と幼い娘がいるため、収入は男性に依存せざるをえない。家賃は2LDKで月額8万円である。ここでも住宅費に収入の約50%が支出される。

このような相談者の多くが生活困窮を抱えて苦しんでいるが、特筆すべきは、その住宅費の負担の大きさであろう。上記の事例で、例えば住宅費が1万円~3万円程度と想定したらどうだろうか。低所得であっても安心して暮らすことは可能かもしれない。今後も広がり続ける非正規労働者や不安定就労者のために、住宅費の軽減は必要不可欠であることは言うまでもない。(藤田)

障害者─進まない「脱施設化」、「地域福祉」



2000年に社会福祉基礎構造改革が行われた。その時のテーマは、地域福祉の推進であった。地域福祉とは、住み慣れた地域で誰もが安心して住み続けられるように、支援システムを整備していくことである。

障害者が一人暮らしをしたいと思ったときにも可能なように支えていくことだろう。しかし、未だにその支援システムの整備は進んでいない。そのため、家族などの介助者がいれば、地域で住み続けることは可能だが、介助者がいなくなった場合、介助困難を理由として、施設への転居を勧められることは頻繁に行われている。

軽度知的障害のある50歳代の男性は、介助者の母親の死をきっかけに、役所から施設への転居を勧められたが、拒否をした。その後、家賃の支払いや生活全般に関して、介助なしでは困難なため、住み慣れた公営住宅を解約し、ホームレス生活に至ってしまう。公営住宅で一人暮らしを支える仕組みや支援者がいれば、施設入所することなく、その場で生活することは可能であっただろう。

そして、障害者にとって必要な住宅支援とは何か、という議論が不足している。障害年金で住み続けることが可能であり、バリアフリーなどの特別な配慮のある住宅は、十分な量の供給がない。移動に制限があるにもかかわらず、公共交通機関から離れた不便な場所に住み続けざるを得ない人々の姿も見られる。

また、社会福祉分野では「社会的入院」という言葉がある。これは、医療機関における治療や静養が必要なく、退院が可能にもかかわらず、医療機関に留まっている人々を表す言葉である。例えば、精神科病院の患者は、平均291.9日間、療養病棟では171.8日間、入院継続している。20年、30年というより長期間にわたる入院患者も存在している。

このように何らかの障害を有し、日常生活に何らかの配慮を必要とされる人々の住宅が足りない。病院以外の場所で生活することは可能であるが、低廉な、バリアフリー住宅、グループホーム、ケア付き住宅が不足している。

地域福祉が推進され、「脱施設化」が叫ばれ、障害者の地域生活支援を支える仕組みが整えられてきているが、障害者にとって住みやすい住宅とは何か、という議論は今も不足したままだ。(藤田)

参考文献・資料:厚生労働省「平成24年(2012)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」


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世帯内単身者─増え続け、30代前半では4分の1に



若い世代では、親もとに住む未婚の世帯内単身者が増大した。その割合は、1980年から2005年にかけて、25~29歳では24%から41%、30~34歳では8%から25%に増え、年齢の高い35~39歳においても3%から16%に上がった(図3)。多くの世帯内単身者の経済状態は、不安定である。

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低賃金であるがゆえに、親の家を出られない人たちが多い。親同居の未婚者は親の所得に「パラサイト」しているという見方がある。しかし、親の定退職と加齢によって、その収入は減るだろう。世帯内単身者の大半は、親の持家に住み、その居住の安定性は高い。しかし、老朽化する住宅の修復コストを負担できない世帯が増える可能性がある。

世帯内単身者の増大は、若年層の変化として注目されてきたが、その年齢は着実に上がってきている。今後は、経済力の不安定さに加え、老親の扶養・介護に関する問題状況が生じる可能性がある。(平山)

単身女性─3割が相対的貧困、6割が低所得の非正規雇用



女性のライフコース、すなわち結婚、就労、子育てなどの選択のあり方は多様化している。

晩婚・非婚化の進展により、シングル女性が急増した。女性の高学歴化や社会進出が進むなかで、職業キャリアを形成し、安定した所得を得る女性が増えた。一方で、女性労働者の約6割は、派遣社員やパート、臨時・契約社員といった不安定、かつ低所得の非正規雇用である。

とくに、ひとりで暮らすシングル女性の経済基盤は弱く、国立社会保障・人口問題研究所が2009年の国民生活基礎調査を分析した結果によると、その約3割が相対的貧困の状態におかれている

住居費は低所得のシングル女性の家計を圧迫する。2009年の全国消費実態調査によると、30歳未満の勤労単身世帯の消費支出に占める住居費の割合は、男性の21.6%に対し、女性では31.1%におよんだ。女性は男性に比べて、セキュリティの側面などから水準の高い住まいを選択せざるを得ない。

どんなに経済的に困窮しても、路上生活にいたる女性は少ない。厚生労働省が2012年に実施した調査では、路上生活者のうち女性は4.5%であった。路上生活を回避するために、旅館・ホテルや性風俗産業の従業員など、寮・住み込みの住まい付きの労働に従事するシングル女性は多い。また最近では、女性専用の低家賃のシェアハウスが都市部を中心に普及し、低所得のシングル女性の住まいの受け皿にもなっている。(川田)

母子世帯─124万世帯、5年で8%増、経済的困窮から1割以上が家賃を滞納



1970年代以降、日本においては離婚の増加が顕著である。子どものいる夫婦の離婚にともない、母子世帯の数が増大している。2011年度の全国母子世帯等調査によると、20歳未満の未婚の子と母親のみの世帯は123.8万世帯であり、2006年の115.1万世帯と比較して大きく増加した。

母子世帯を特徴づけるのは、その経済的基盤の弱さである。同調査によると、母子世帯の母親の就労収入は181万円と少なく、他の同居家族の収入等をあわせた世帯収入も223万円しかなかった。

母親ひとりでの子育てになるために、長時間の勤務ができないこと、労働市場から長期に離脱した経験があることなどの理由により、パートなどの非正規雇用を選択せざるを得ない母親が多いことがその背景にある。

低所得であることに加え、子育てと仕事の両立という課題を抱える母子世帯は、住宅問題に直面する可能性が高い。

著者らが独自に実施した調査によると、離婚後に母子世帯を形成した女性は、「公営住宅に入居できなかった」、「実家に戻りたかったが戻れなかった」、「家賃を滞納した」、「敷金や礼金、引越し費用などの一時金を用意できなかった」、「家主から入居を拒否された」などの多くの住宅問題を経験していた(図4)。

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全国母子世帯等調査によると、母子世帯の住まいでは、民間借家などが最も多く約3割を占める。一般世帯では6割以上を占める持家率も、母子世帯では約3割と低い。また、公営住宅の割合が2割と比較的高いことも特徴である。多くの自治体では、公営住宅において、母子世帯の優先入居制度を設けている。

しかし、とくに利便性の高い地域では、公営住宅の応募倍率が極めて高く、円滑に入居できない場合が多い。また、公営住宅の立地の偏在から選択肢になり得ないことも多い。

さらに、自力で住まいを確保できず、居候の状態におかれている世帯が約1割存在していることも、注意すべきである。また、母子世帯を一時的に保護する母子生活支援施設などがあるが、施設の老朽化や地域偏在などが大きな課題となっている。(川田)

次の記事→<ハウジング・リスクに陥る非正規労働者、見過ごされる「障害者の住宅支援」(2/3) | BIG ISSUE ONLINE

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2015年「「若者の住宅問題&空き家活用」シンポ報告書」


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脱法ハウスなどにおける不安定居住の実態は、それ自体が深刻な問題状況を形成すると同時に、その背後の住宅事情の変化に注目する必要を示している。ここでは、不安定居住を生みだす“母体”ともいえる住宅事情について、その変化のあり様をみる。

世帯の変化─いまや単身世帯が最も多い



少子高齢化、未婚化の進展、離婚の増加、家族に関する価値観の変容などから、世帯構成は大きく変化した。これまで「標準世帯」とされてきた夫婦と子の世帯は、1980年代半ばまでは、全世帯の約4割を占めていたのに対し、2010年には約3割にまで減った。

現在、最も多いのは単身世帯で、その比率は3割を超える。これに加え、夫婦のみの世帯、ひとり親と子の世帯、非親族からなる世帯などが増加傾向にある。これら増えているタイプの世帯では、経済的困窮、社会的孤立、そして劣悪な居住条件などの問題をかかえているケースが多くみられる。(平山・川田)

持家市場の変化─ローン返済額の対可処分所得比が急上昇



日本の住宅政策は、持家促進を重視してきた。しかし、住宅購入はより困難になった。バブル経済は1990年代初頭に破綻し、それ以降、住宅価格は低下し、住宅ローンの金利は下がった。だが、経済の長い低迷のために、所得は減少した。

このため、住宅ローンの頭金を少ししか用意できず、大型借入を必要とする世帯が増大した。住宅ローンをかかえている世帯では、その返済額の対可処分所得比(※)が上昇し、1989年では10.9%であったのに対し、2009年では17.1%に達した(図1)。


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人々が持家を求めた理由の一つは、住宅所有が不動産資産の形成に結びつくことであった。しかし、バブル破綻後に増えたのは、資産価値が不安定になった持家のためにより重い債務を負う世帯である。

住宅ローンを返済している持家世帯(二人以上勤労世帯)に関するデータによれば、1989年から2009年にかけて、住宅・土地のための残債(一世帯当たり平均)は780万円から1560万円に増え、住宅・土地資産額(同)は4380万円から2650万円に減った。

持家を得た世帯は、それを保持しようとするが、住宅ローン破綻が増大した。借入が大型化し、住宅資産価値が下がったことから、住宅ローンを返済できなくなった世帯の多くは、「持家を処分しても借金が残る」という担保割れの状態にある。

中小企業等金融円滑化法の2009年12月施行によって、返済猶予などの措置があったことから、不動産競売は2010年から減った。しかし、同法の2013年3月終了のために、住宅ローン破綻が再び増える可能性がある。(平山)

※可処分所得とは、個人所得から支払い義務のある税金や社会保険料を引いた、残りの手取り収入を指す

賃貸住宅市場の変化─家賃の対可処分所得比も上昇



借家市場では、より低い所得しか得られないのに、より高い家賃を支払う世帯が増えている。家賃の対可処分所得比は、1989年の9.6%から2009年には15.1%に上がった(図2)。

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経済が停滞し、借家人の所得が減れば、市場家賃は下がると予測される。にもかかわらず、高い家賃を支払う世帯が増えた。その原因は、低家賃ストックの減少である。経済状況からすれば、同一住宅の家賃が上昇したとは想定できず、したがって、低家賃住宅の減少によって高家賃住宅の比重が増したと考えられる。

賃貸セクターのなかで、公的賃貸住宅と給与住宅は、市場メカニズムにもとづかない低家賃の「非市場住宅」である。このストックが、1993年では全借家戸数の31%を占めていたのに比べ、2008年では25%に下がった。

賃貸セクターの構成により強く影響するのは、量の多い「市場住宅」の変化である。民営借家の市場では、零細家主が木造アパートを供給し、低質ではあっても、低家賃の住む場所を提供してきた。しかし、低家賃のアパートの多くは老朽化し、再開発などによって取り壊されてきた。木造共同建ての民営借家は、1983年では全借家の24%を占めていたのに、2008年には13%に減った。(平山)

住宅政策の市場化─公的賃貸セクターの縮小



政府は、1990年代半ばから、住宅政策を転換し、住宅とそのファイナンスに関する市場化を推し進めた。この政策再編は、住宅事情の変化に反映した。経済が停滞し、所得が減少するにもかかわらず、持家促進の政策が続いた。

その結果、無理をして家を買い、住宅ローン返済の重い負担に苦しむ世帯が増大した。住宅金融公庫は、1990年代末から融資を減らし、2007年に廃止となった。これに代わって、市場経済にもとづく持家促進政策が進展した。民間住宅ローンの金利規制は1994年に廃止され、その結果、銀行による貸出競争が激化し、大型ローンの利用を促進した。とくに増えたのは、変動型金利の住宅ローンの利用である。

このタイプのローンは、借入時の金利が低い一方、将来の金利の不透明さというリスクをもつ。税制を使った持家促進は、1970年代から小規模な施策として続いていたが、90年代に大型化し、景気対策手段としての位置づけを与えられた。

住宅政策の市場化を追求する政府は、公的賃貸セクターをさらに縮小した。公営住宅の新規建設はほとんど停止し、さらにストックの絶対数が減り始めた。住戸数の減少をともなう建て替え事業が増え、それがストック縮小のおもな要因となった。

住宅・都市整備公団(旧日本住宅公団)は、1999年に都市基盤整備公団、そして2004年に都市再生機構に再編された。新しい再生機構は、住宅建設の事業を大幅に減らすと同時に、保有する住宅ストックを削減し始めた。さらに、団地の建て替え事業は家賃を上昇させた。(平山)

高齢期の施設居住─12年間で1.6倍増に



長寿命化、それにともなう要介護・要支援老人の増大、家族扶養に関する価値観の変化、在宅ケアを支えるべきサービスの不十分さは、住宅以外の施設に「居住」する高齢者を増やしている。

高齢(65歳以上)の施設居住者数は、2000年の102.4万人から2012年の166.8万人に増加した。介護施設や医療施設などの施設に居住している人口の割合は、65歳以上では5.7%であるのに対し、85歳以上では21.7%におよぶ。

こうした施設居住の問題状況として、第1に、家族の受け入れを期待できず、また介護施設などにも入所できず、治療の必要がなくとも入院を続ける「社会的入院」の状態にある人たちが多く、高齢患者の約4割に達すると推計されている点がある。

第2に、介護施設にも、病院にも入ることができず、短期入所の施設などを渡り歩く不安定な高齢者の存在が指摘される。

さらに、第3に、低所得の高齢者、生活保護受給者などを対象とした劣悪な居住環境の介護施設が存在する。厚生労働省が2012年10月に実施した調査によると、有料老人ホームの約5%が無届けであった。ある自治体の調査は、無届施設の約8割に防火設備などが備わっていないことを明らかにした。(平山・川田)

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不安定居住の変遷と広がり—野宿から脱法ハウスへ



1990年代前半、バブル経済の崩壊がきっかけとなり、全国の大都市で仕事と住まいを失った人々が野宿へと追い込まれるようになった。その多くは中高年の日雇労働者であり、各地の路上や公園、河川敷などで野宿生活をおくる人々の数は2000年前後にピークを迎えた。

その後、大都市を中心に自立支援センターなどの対策が整備されたことや生活保護の適用が進んだこともあり、野宿者の数は徐々に減少していったが、2004~05年頃から中高年だけでなく若年非正規労働者の不安定居住の問題が表面化した

この問題は「ネットカフェ難民」という流行語で世に知られるようになったが、実際にはネットカフェだけでなく、個室ビデオ店や24時間営業のファストフード店、カプセルホテル、サウナ、友人宅など、安定した住まいを失った人々が寝泊まりする場所は多様化し、拡散していった。

こうした不安定居住が広がった背景には、労働分野での規制緩和が進み、派遣などの非正規労働者が増加したことに加え、民間の賃貸アパート市場で入居者の居住権を侵害する業者が増え、家賃を少し滞納しただけで入居者を立ち退かせる「追い出し屋」の被害が広がった影響もあると見られる。


2008年の年末には世界同時不況の影響で、大量の派遣労働者が失職する「派遣切り」問題が発生した。その際、最も生活に困窮したのは、派遣会社の用意した寮に暮らしていたために仕事と同時に住まいを失った人々であった。従前から労働者向けの低家賃住宅が整備されていれば、こうした問題も生じなかったと言えるわけで、この「派遣切り」問題も労働政策の問題であると同時に、日本の住宅政策の貧弱さが生み出した問題であると言える。


2013年には、「レンタルオフィス」や「貸し倉庫」などの名目で人を集めて居住させる「脱法ハウス」問題が社会問題となった。国土交通省はこうした居室を建築基準法に基づく安全基準などに違反する「違法貸しルーム」と呼び、その規制に乗り出している。

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しかし、「脱法ハウス」に暮らす人々のほとんどは、ネットカフェなどに寝泊まりする人々と同様、アパートの初期費用(敷金・礼金等)や保証人を用意できない状況にあることがわかっており、入居者が適切な住居を確保できるための支援策を実施しないまま規制だけが進んでしまえば、多くの人々が路頭に迷うだけの結果になりかねない

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また、生活保護や高齢者福祉の分野でも、劣悪な居住環境とサービスしか提供していないにもかかわらず高額の家賃や利用料を徴収する「貧困ビジネス」施設の問題が、2000年以降、何度も社会問題化したが、抜本的な対策が取られることがないまま今日にまで至っている。

このように、過去20年もの間、不安定居住の問題はかたちを変えながらも、確実に日本社会に広がってきた。「住まい」と呼ぶには不適切な場所に寝泊まりをせざるをえない人々の数は、年齢や性別を問わず増えていると見られるが、その全体像を把握するための概数調査すらいまだ実施されたことはない。


私たちの社会では「自分の住まいを確保するのは自己責任である」という考えがあまりに根強いために、長年、低所得者向けの住宅政策を軽視してきた。今こそ、住まいの貧困を直視し、住宅政策の見直しについての議論を始めることを広く呼びかけたい。(稲葉)

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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。「ビッグイシューの立ち読みをしたい!」という声にお答えして、路上で発売中の最新号より、読みどころをピックアップしてお伝えします。

カメルーンで蔓延する偽造・違法薬



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最新号で、特に目を引いたのはINSPが提供する国際記事。カメルーンでは、なんと流通する薬の7割が、違法・偽造の薬になっているそうです。いったい、どういうことでしょうか。

記事のなかでは、マラリアの偽造薬を飲んで意識不明になった男性の声が掲載されています。

「(偽造薬は)以前マラリアにかかった時によく効いたし、値段もとても手頃だったから、店で薬を買ったんです。2ドルもあれば、マラリアに効く(偽の)コアルテムが買えるんですよ」と、病床でピロアは取材に答えた。コアルテムは薬局で買うと、1箱6〜8ドルはかかる。



問題の背景には、発達した密売ネットワークの存在が指摘されています。カメルーン薬学会評議会のクリストフ・アムポーム氏はこう語ります。

「薬物の不法売買への出資は、正規ルートに比べて5倍の儲けがあると推定されています。また、地元の役人たちは、司法制度や税関制度にまで浸透している密売ネットワークを、ひどく恐れているのです」


偽造薬・違法薬の被害は甚大で、世界中で数多くの人が命を落としています。

世界保健機関(WHO)は、全世界で年間約100万人にのぼるマラリア死者数のうち、偽造薬を使用しなければ、20万人の命が失われずに済んだはずだと推定している。また、国際政策ネットワークはその報告書の中で、結核とマラリアの偽造薬だけでも、世界中で推定70万人を毎年死亡させているとしている。


こうしたまがい物の薬は、医師不足という社会問題と密接に関係しているそうです。

偽造・違法薬が蔓延する背景には、深刻な医師不足がある。WHOのデータによると、カメルーンでの医師1人に対する患者数は、1万3514人。だが、特に地方において、この比率はもっと高いという指摘もある。そして何より貧困が、多くの人々を病院や診療所から遠くに追いやっている。


日本でも偽造薬の問題は広がっており、特にインターネットを介して輸入する薬物は、偽造品が多いことが指摘されています。厚生労働省のページでも注意喚起がなされているので、心当たりがある方はぜひ確認しておきましょう。

最新号の229号では、ほかにもベネディクト・カンバーバッチ氏へのインタビュー、犬猫写真家の新美敬子氏へのインタビュー、そして特集は世界の「路上レシピ」集となっています。年末プレゼントも実施しているので、ぜひぜひ路上にて「ビッグイシュー」を手に取ってみてください。

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part3を読む

第3部 「市民が語ろう!住宅問題」







ビッグイシュー基金・高野さん:
では3部を始めます。みなさまに休憩中に書いていただいたポストイットを読み上げてみようと思います。



「都内で築50年の都営住宅に住んでいます。年々家賃が上がっています。居住者は年金暮らしが多いです」「コレクティブハウスを作ろうと思うが、規制もあり難しいです。」「ぼったくる大家さんが多く、問題だ」

地域や自分にできることは、という点について。「家賃を払うことができないのでモバイルハウスを作ろうとしています。自分たちで作るしかないと思っています」「明らかで住居を持っていない人を見かけるが、何ができるかわからない」

制度や政策に求めることについて。「家庭の所得に応じて家賃負担率が決まるような政策があればいいのでは」「安い物件のデータベース化」「中古物件にいらないリフォームが多すぎる、これが家賃上昇の原因になっているのでは」

「最低住居基準未満の劣悪な住宅を駆逐するために、そうした住居の入居者を公的住宅に移すことはできないか」「公営住宅の増加は必須だと思う。民間では入居審査時の差別もある」

最後はその他の声。「避難者として公営住宅を使っているが、申し訳ない一方で悔しく思う」「こんなに空家があるのになぜ?」「そもそも日本に住宅政策があったのか疑問です」


会場からの質問



高野さん:会場から何か言いたいことやご質問はあるでしょうか?

枝元さん:セーフティネットを直していくだけでは追っ付かないのでは、と思いました。画期的に変える方法はあるのでしょうか?新しいかたちのみんなで繋がれるかたちは、どんなものなのかなぁ、と思うのですが…。

平山さん:お答えにはならないと思うのですが、ひとつ気づくのは、住宅の分野でセーフティネットという言葉を使うのは、アメリカと日本くらいに見えるんです。セーフではないから、そういう話になるんだろうと思う。


会場から:
空家の活用が鍵だと思う。勇気があれば、若者のシェア居住も、高齢者のシェア居住もできる。これは当面の解決策になります。

一番大切なのは家賃補助なんですね。70年代くらいから議論があるが、国交省などが抵抗をして家賃補助が進んでいない。民主党が政権を取った際ときにマニフェストに家賃補助についての言及があったが、政権交代もあり流れてしまった。

生活保護の住宅扶助を広げることが鍵ではないか。住宅扶助だけを貰えるようにするという解決策が、研究者の間でも言われています。


会場から:基礎的な自治体がなにができるのか、というテーマに関心をもっています。ほっとプラスの藤田さんがやられているような、空家を借りて生活の自立再建をするというのはいいと思いました。

国の法律が変わるなかで、自治体レベルで「生活保護の一歩手前」で自立の再建を制度化し、相談窓口を作り、サポートしていくという考え方があると思う。ここまでの議論は自治体では難しいという流れだったが、何か道があるのか。

藤田さん:生活困窮者自立支援法に関しては、予算の3/4は国が持っている。シェアハウスなどの予算も取ることができるようになっている。法案はあるので、あとは運用。自治体は支援に慣れていないのでNPOなどと連携しながら地域の居住支援の枠組みを作って欲しい。

稲葉さん:住宅の問題を考える時に、困窮者支援は厚労省の管轄になっている。一方で、住宅セーフティネット法は国土交通省ということになっている。自治体のレベルで縦割りを超えた土俵を作らせる、ということが第一歩だと考えています。脱法ハウスの問題についても、東京都に対して縦割りを超えた協議の場をつくる提案を行っており、かたちになりつつある。


会場から:松戸に住んでいます。木造のアパートを見かけるが、防災上問題があるのではないか。建て替えは必要であるが、そういったことにはどう考えればいいのでしょうか。

平山さん:
仰るとおりです。木造アパートは70年代から問題になって、建て替えを進めている。一方で、住む場所の選択肢になっていた。日本ではホームレス問題が起きるのが、先進国より遅かった。都市のなかで2万円くらいで住める場所があった、というのは日本の大きな特徴。

ここはジレンマです。神戸は地震で木造アパートがなくなった。問題は解決したが、それによって住む場所がなくなった人がいっぱい出てきて…代替になる住宅を公的に保証してから、再開発をすべきだと思います。


住宅政策は少子化対策にもなる



会場から:諸外国の取り組みや成功事例などがあれば教えてください。

川田さん:
全体的に日本の住宅政策は弱い傾向があり、家族と企業で補完されてきました。法定外福利として、大きな役割を占めてきました。

諸外国については、たとえばオランダだと、所得再分配の機能がひじょうに大きいです。公営住宅も2割程度です。住宅の自助が厳しい地域に関しては、義務として2割供給しないといけない、そうしないと罰金がある。

所得再分配が大きければ貧困が緩和される。それに加えて、少子化対策にもなっている。フランスは高齢化を早期に迎えたが、若年世帯に対する住宅手当をしたということもあり、出生率の改善に繋がったということがある。

住宅の困窮を解消するというだけでなく、家族形成を促し、少子化の解消にもつながる、という役割を担う国もあります。


住宅政策の議論は始まったばかり



司会:委員のみなさまから最後にひと言お願いいたします。

平山さん:
日本の住宅政策はこんなもんなんだ、というのがこびりついている。公営住宅が4%なのはこんなもので、今から増やすのは…という考え方。欧州ではリーマンショック後、公営住宅を増やしている。中国、韓国も増加に向けて動いている。

日本では国の内側だけで変な常識がこびりついている。家賃補助をやろうという話は70年代からやっているが、「日本で家賃補助は無理だよね」というのが常識になっている。それはおかしいのでは。声をあげないといけないと思います。

今日お話をしていて、話を聞いていて、改めて「ひどいなぁ」という気がしてきた次第です。政府が悪いんだ!というのは簡単ですが、まったく世論になっていないわけで、そりゃ政府も何もしないよね、という話です。この問題は社会全体にとって大切だ、と声を挙げることを続ける必要があります。

稲葉さん:提案書の終わりにも書いていますが、この提案書はちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、噛めば噛むほど味が出る内容になっていますので、ぜひご活用ください。各地で勉強会、読書会をやっていただけると嬉しいです。

藤田さん:学者がいない、ということをよく話している。住宅政策の研究者にぜひなっていただきたい。後継者になってください。

川田さん:住宅問題に興味関心を持っている人が、こんなにいることに驚きました。多くの方々が問題を抱えているのに、それを問題だと認識していない、これが問題だと思います。こんなにたくさんの人が問題を抱えている、これを認識することが大切です。

佐藤さん:
同じことを大阪でやったときにこんなに集まるのだろうか、と感じました。国レベルの話もありますが、賃貸市場はローカルな事情で変わってくるので、それを鑑みないといけない。
たとえばうちの大学の近くでは、3万円代でお風呂付きに住んでいる学生もいます。生活保護よりも安い値段で、そこそこの物件に住んでいます。地域性が大きいと感じています。


平山さん:
今日で終わるのではなく、ここから議論を続けていきたいと思います。福島から来ている方が都営住宅で期限を切られているという話もあった。そんなことがあっていいわけがないので、市民レベルで議論を続けていきましょう。

最後に、ビッグイシュー基金のみなさまにはお世話になりました。シンポジウムもたいへん丁寧に作っていただいて…コーヒーとビスケットが出てきて驚きました(笑)ありがとうございました。

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編集後記:編集部のイケダです。長いレポートでしたが、お読みいただきありがとうございました。3時間近いシンポジウムでしたが、大変充実した内容になっていると思います。住宅政策をここまで包括的に語るイベントは、行われてこなかったのではないでしょうか。

シンポジウムでもお話が出ていますが、日本ではまだまだ住宅政策に関する議論が盛り上がっていません。ビッグイシュー・オンラインでは「住まいの貧困」についての情報も精力的に扱っていきますので、関心がある方はどうぞメルマガ、Facebook、Twitterなどのフォローをお願いします。


part1
part2
part3


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part2を読む

入居倍率400〜800倍の公営住宅



藤田さん:
ほっとプラスの藤田です。埼玉県で困窮した方の支援をしています。不安定就労の人たちが増えています。特に若年層は5割が不安定就労、賞与もない、昇給も難しい、という状況で働いています。

家賃負担をどう考えるか、というテーマでいうと、私たちは相談に訪れる人たちに、家賃負担の割合を聞いています。「12万円しか収入がない」というケースでは、そのうち半分が、約6万円もの家賃を払っていたりする。

埼玉県では住むだけで精いっぱいという2LDKの家でも、家賃8万円します。生活保護申請などをしていますが、極めて高い家賃負担になっていることを実感します。公営住宅で1〜3万円程度に住めれば、生活保護も不要になるのではないでしょうか。

家賃負担に苦しむ方々が次々と相談に訪れる。できるかぎり支援を行っているが、公営住宅も減っています。ホームレス状態の人に公営住宅の申込みをするが、当たらない。400〜800倍となっている地区もあります。

公営住宅は、4回5回申請しても通らないという人たちばかり。住宅政策を変えていかないとどうしようもない。保証人が立てられないがために物件を借りられない、というケースも多い。

民間市場だけに任せると、障害者の方々などが住めるバリアフリー住宅が用意されにくい、という問題もあります。

精神障害がある方などは、隣りの声が聞こえると落ち着いて眠れない、という声もある。住宅上の問題から精神状態が不安定になるという相談者がかなりの割合にいる。簡易的な住居ではない対策も必要だろう。

刑務所からの出所者の相談・支援もやっていますが、住宅費が払えないがためにホームレス状態になる人たちが多い。そのうち一部が、万引き、無銭飲食をしてしまっている。

家賃負担が軽ければ、低賃金でも暮らしていけるはずなのに、住宅費が払えないがためにアパートを追い出され、罪を犯さざるをえない、という人たちがいます。

出所者の多くが居住先がなく、「再犯をして刑務所に戻りたい」という人たちが多い。私たちのところに来る人のなかにも、NPOがなければ刑務所に戻っていくような人たちがいます。

犯罪やワーキングプアなど、ほとんどの社会問題は、住宅政策の転換を求めているのでは。社会問題は住宅問題から発生しているのでは、と感じています。


貧困ビジネスの温床となる、日本の不完全な住宅セーフティネット



川田さん:
大分大学の川田です。私からは住宅のセーフティネットの変遷についてお話をしていきます。

2006年には住生活基本法が制定され、ストック重視・市場重視が掲げられ、2007年には住宅セーフティネット法が制定されました。住宅セーフティネット法は①公的住宅の供給促進、②民間賃貸住宅への円滑な入居促進を掲げている。

住宅セーフティネットの考え方は、公的住宅、住宅手当、公的家賃保証、公的扶助などがあります。

日本では、公営住宅は供給量が絶対的に足りていません。管理戸数は217万戸、募集戸数は9.7万戸で、10年で半減しています。全国平均倍率は8.9倍。都心部になると東京では30倍、人気地区では数百倍となっています。

ヒアリングした母子世帯のお母さんなどは100倍くらいの倍率だった。5年で12回申し込んだが、入居できない。なかば宝くじのような状態になっています。

公営住宅には、地域が偏在している、老朽化している、福祉世帯の集住によってコミュニティが弱体化する、自治体の裁量の拡大によってお金が掛かる公営住宅への関与低下といった問題がある。

つづいて生活保護の住宅扶助。これも簡単に受給できるものではない。住宅扶助の問題点は、質の保証がないこと。一般的に住宅手当は住宅の水準が設定されている。世帯規模などに合わせて面積や設備などが要件になっているが、住宅扶助にはそれがない。

そのため、貧困ビジネスにつながっている。劣悪な物件なのに住宅扶助の上限ギリギリに設定している、という問題があります。生活保護については、今後受給額の見直しもあると思われます。

住宅支援給付について。離職者向けの住宅手当で、日本初めての家賃補助制度。しかし、支援策としては後退しています。問題点としては、認知度が低い、初期費用を捻出する仕組みがない、離職者のみが対象、受給期間が短い。

日本のセーフティネットは、住宅市場をこぼれ落ちた人を救う仕組みとしては、限定的です。穴がある制度になっています。こぼれ落ちた人々が、脱法ハウスなどの貧困ビジネスを頼らざるをえなく、居住権、生存権などが侵害された状況にある。

公的な家賃保証がないことも問題です。賃貸契約をする際に保証人がおらず、それで契約できないという人が増えています。その点からでも、公的家賃保証が課題になっていると思います。


法律が「理念」に留まっている



佐藤さん:
大阪市立大学の佐藤です。テーマは「住宅政策の再構築に向けての課題について」です。所得の低い高齢者が増えていることが問題になっており、これも大きな課題だと思われる。

生活保護、公営住宅制度の改善と、それ以外の第三の道を安定的なシステムとして構築できるのか、これも論点です。

社会福祉依存型ハウジングの増加。川田先生からもご指摘があったが、生活保護受給者向けの民間賃貸市場が形成されてしまっている。

こちらの図をご覧下さい。大きくは、ヒト(コミュニティ)、モノ(居住空間の質)、カネ(住居費負担)の三点から整理できるのではないか。身元保証人問題、収入の減少、低家賃住宅の減少、家賃負担率の上昇など。



こうした問題を解決するために住宅関連の法律改正が進んでいるが、プレーヤーは民間であることを前提にしており、理念を掲げているものに留まっている。実態として見ると、理念は反映されていません。

本来なら悲鳴を上げなければいけないのは自治体であるはずなのに、そこが声を挙げている状態になっていない。自治体や地域が声を挙げ、それを受け止める仕組みが必要。セーフティネットをもう少し予防的に展開していく方策が必要ではないか、と提案しています。

part4に続く
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part1を読む

第1部に続いて、第2部前半の内容をレポートしていきます。

第2部「これからの住宅政策のあり方」 検討委員会の各委員からの提案



<住宅政策提案・検討委員会>
・平山洋介委員長 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科教授)
・稲葉剛委員 (NPO法人もやい代表理事)
・川田菜穂子委員 (大分大学 教育福祉科学部講師)
・佐藤由美委員  (大阪市立大学 都市研究プラザ特任講師)
・藤田孝典委員 (NPO法人ほっとプラス代表理事)

不安定居住の歴史と現状



稲葉さん:
私の方から「不安定居住の変遷と広がり、というお話をさせていただきました。不安定居住の問題は古くて新しい問題です。1960年頃から「寄せ場」と言われる場所がありました。日雇いで仕事をして、「ドヤ」で寝泊まりしている人たちがいました。」

現在は福祉の町として、生活保護を受けている人たちが多い地区になっています。日本の不安定居住、不安定労働のひな形がここにあったのではないかと考えます。周りからの差別・偏見もあり、社会全体で取り組むべき問題として捉えられてこなかった。

これが変わってきたのが1990年代です。バブルが崩壊し、1993年頃から路上生活者が溢れ出しました。この写真は新宿の段ボール村です。東京、大阪、地方都市含めて、ホームレス問題が急速に拡大した。

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日本ではホームレスというのがイコール路上生活者、という限定されて定義されているが、その背後にはネットカフェ難民、ドヤやサウナを転々としている方々、さらには派遣会社の住み込みで暮らしている人たちがいる。


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不安定居住全体の問題として捉えないといけないが、狭い定義がされてしまい、そこだけの問題として語られてきてしまった。ところが、2000年代に入って、若年層にも貧困問題が広がってきた。

路上生活者は減少傾向にあります。支援者や法律家による生活保護の申請同行が進み、統計的に見ても減少しています。一方で、路上一歩手前の人たちは増えつつあるのではないか、と感じています。そもそも調査がなされていないが、実感としてはそういう人たちが増えてきている。

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2007年に流行語になった「ネットカフェ難民」。非正規が増えて住む場所を確保できない若者が増えていることが広く知られてきた。東京ではネットカフェ規制条例ができて、ネットカフェにすら寝泊まりできない人たちが出てきた。

そこにつけ込むようなかたちで新しいビジネスが生まれてきたのが、最近の状況。当初私たちはコンビニハウス、押し入れハウスと呼んでいました。貸し倉庫やオフィスビルを細分化して一部屋3万、4万円で貸し出す。

これが新たな不安定居住の形態として広がっているなぁ、と感じていたところ、今年毎日新聞の「脱法ハウス」報道によって社会問題化しました。国土交通省は「違法貸しルーム」と呼び、規制に乗り出しています。


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脱法ハウス規制自体には賛成だが、その内容に問題があると考えています。支援策が伴わないまま規制が行われています。建築基準法の「寄宿舎」の定義を当てはめて、仕切りをきちんとしなさい、という話にしている。

良質なシェアハウスやゲストハウスまで規制が掛かりそう、という新たな問題にもなっている。若者が自衛策としてシェアハウスを始めていたりするが、ひっくるめて全部規制されるという事態に。

そうなると、そもそも貧乏人が暮らせない町になってしまう懸念がある。一律に規制するのではなく、支援策を行うこと、若者で広がるシェア居住を制度的に位置づけて線引きを行うべきではないか、という提言を行っています。


日本の住宅市場の知られざる現状



平山さん:
私からは住宅事情全体の話をしたいと思います。不安定居住を生み出す母体はどうなっているのか。これを10分間でざっとご覧頂きます。

最初のグラフです。右は年齢別で持家率を見せて、左は借家率を見せています。よく分かるとおり、若い世代で持家率の下がり方がはっきり出ている。家を買うことによって住まいを安定させることが難しくなっている、ということです。

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持家率は6割で一定だが、中身を見ると、若い人が下がっている。高齢者の持家率が高くなっています。若い世代では民間の借家に住む人が増えている。


賃貸住宅高いし狭いし…でもいずれ家を買おう、と昔は考えていた。しかし、今は家を買えなくなっている。国際的に見ても、持家と借家の差が大きいのが日本です。日本では、家を買うしかちゃんとした家に住む方法がありません。

次は家族類型の変化です。「夫婦と子」が減り「単身者」が3割になっている。父子・母子も増えており、こちらは8.7%です。「結婚して子どもを産んで家を買う」という人たちだけではなくなっている現状があります。

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単身世帯の内訳でいうと、これから高齢単身者が増えていくわけです。日本では9割の高齢者が家を持っています。残り1割が賃貸。家を買ってください、という政策によって持家率が高くなったわけです。

しかし、この残り1割が問題。今後、絶対数が増えていきます。国民年金では民間の賃貸住宅ではまず住めません(*注:国民年金は満額でも月6万円程度)。単身、賃貸の高齢者をどうするか、これを考えないと大変なことになります。

続いて、持家セクターの変化を見ていきます。可処分所得が減っているのに、住居費が上がっています。返済額が増えている現状があります。政府は家を買ってくれ、銀行はローン借りてくれ、という圧力をかけている。返済負担率がじりじりあがっている。

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ご存知のとおり、ここ15年くらいデフレです。デフレということは、借金が重くなるということです。そういう観点から考えると、デフレが続いているのに、住宅ローン借りてくれ、一本槍という政策は、これでいいのでしょうか。

住宅の資産価値がダーッと下がり、負債額は上がっています。家を買って資産になる、という考え方はもう現実的ではありません。

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賃貸セクターでも、所得が下がり、住居費が上がっています。不景気で所得が下がれば家賃が下がるはずだが、なぜか家賃が上がっている。

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低家賃の家がどんどん減っていて、平均値が上がっている、というのがひとつの理由です。公営住宅や寮や社宅、民間の安いアパートが急激に減っています。都市の中から、安く住める場所が少なくなっているということです。

そして家賃負担率が20年で5%も上がっています。確実に住居費の負担は重くなっているのに、なぜか問題になっていない。賃金や失業率が数%変わると大問題になるが、住居はなぜか注目されません。

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世帯内単身者の比率が上がってきている。これは1990年代に初めて指摘されたことです。バブル直後ということもあって、当初は、いつまでも親元から離れていない、自立できない人々といったように、ひどい言い方をされていた。時間が経って研究が進むにつれ、むしろ非正規雇用で低賃金であることがわかってきた。

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家を出たいのに、お金がなくて出れない、という人が多いと見られる。30代の世帯内単身者の比率がどんどん上がっています。親元に住みつづける人の年齢が上がっている、ということです。生活が安定していていいじゃないか、と思われがちだが、親が定年退職したらどうなるか、本人も低所得です。老朽化した自宅の改修が難しいのではないか、と懸念されています。

最後に住宅の分類の図です。ややこしい図ですが、要するに、日本では公営住宅が4%しかない。こんなに公営住宅が少ないのになんでやってこれたのか。社宅、寮、親の家がある。それをひっくるめて、住宅を確保してきたという歴史があります。

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ところが現在、公営住宅も減り、社宅も減り、低家賃住宅も減っている。唯一増えているのは親の家。社会が壊れずに持っているひとつの理由は、親の家の存在があると考えられるでしょう。

しかし、そういうやり方で社会を維持していくのは健全なのでしょうか。独立して世帯を作りたい人向けに、低家賃の住宅を用意すべきだと考えます。駆け足になりましたが、私からは以上です。

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part3に続く

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