密猟によるアフリカゾウ絶滅の危機―日本の象牙買い取りが引き金に
(2013年2月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第178号、「ノーンギシュの日々--ケニア・マサイマラから」より)

密猟によるアフリカゾウ絶滅の危機―日本の象牙買い取りが引き金に。1989年、象牙販売は全面禁止
広大な緑色のサバンナの中をゆっくりと歩いていくアフリカゾウの群れは、サファリのシンボルの一つだ。しかし、そのアフリカゾウたちが今後10〜15年でこの地球上からいなくなってしまうかもしれない危険に脅かされている事実は、あまり知られていない。
本来は、アフリカゾウが自分の身を守るために使っている象牙。その象牙が今、アフリカ全土でかつてない規模で繰り広げられている密猟のせいで、ゾウ自身にとって呪われたものとなってしまった。
今世紀始まって以来、アフリカ諸国は史上最悪の象牙密猟問題を抱えてきた。いっこうに減る傾向が見えない象牙需要を前にして、「この地球からアフリカゾウがいなくなる日」も、そう遠い日ではないと思わざるを得ない。そして、このアフリカゾウがいなくなる原因の大きなキッカケをつくってしまったのは、他でもない2000年に日本企業が合法的に購入した象牙なのだ。
アフリカゾウ殺戮の歴史は、現在に始まったわけではない。1980年代には象牙やトロフィーハンティングの影響で、アフリカゾウの全体の約半数といわれる72万頭がその命を落とした。当時の日本は全世界の象牙消費の40パーセントを占める「象牙大国」。これは、70年以前までは印鑑の先端だけが象牙で作られていたのに、70年以降は印鑑全体が象牙ものが好まれ始めたことが原因だといわれている。

80年代までのアフリカゾウはワシントン条約会議で「附属書Ⅱ」とされていた。「附属書Ⅱ」に載った動物は国際取引で国同士の取引を制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなる恐れがあるとされ、象牙などの輸出は可能だが輸出国の政府が発行する許可書が必要とされていた。
ところが、日本の象牙需要が伸び、現地での密猟が増加したため、アフリカゾウの絶滅を心配した国際保護団体などのアピールにより、89年にはワシントン条約会議で国際取引の規制対象になっていたアフリカゾウの附属書の見直しがされたのだった。
その結果、アフリカゾウは「附属書Ⅱ」から、今すでに絶滅する危険性がある生き物に指定された「附属書I」に移行された。「附属書I」に載った動物は商業のための輸出入は禁止され、全世界で象牙販売が廃止されるに至った(学術的な研究のための輸出入などは輸出国と輸入国の政府が発行する許可書が必要とされる)。
日本と中国の合法象牙取引が象牙市場を復活させる
ところが00年に、再びアフリカゾウたちの平和な日々を脅かす時代の幕開けとなる出来事が起こる。
97年のワシントン条約会議により、 南部アフリカ諸国(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ)からの象牙が「附属書Ⅱ」に戻され、00年に流通・販売実験 として日本が約50トンの「合法象牙」を500万米ドル(約5億2千万円) で買い取ることが許可された。この合法象牙の流出は、象牙密猟者、販売カルテル、 そして消費者に「象牙ビジネス再開」という大きな勘違いを植えつけてしまった。
その後 06年には、南ア、ジンバブエ、ボツアナ、ナミビアから60トンの象牙が日本にのみ取引許可されたことで、08 年には「一回限りの販売」として、中国とともに日本は108 トンの象牙の買い取ったのである。
象牙の国際取引には、「ゾウの保護に役立つ適切な国際取引」と「ゾウを絶滅に追いやる違法な国際取引」の二つがあるといわれている。確かに書類上はそうかもしれないが、実際には合法象牙と違法象牙を区別することは簡単ではない。本来は、象牙市場に合法象牙を過剰に供給することで密猟を減らす試みが、実際には正反対な効果が出てしまったのだ。
つまり、合法象牙取引が象牙市場に加算されたことで、象牙の需要が復活して象牙価格が上がってしまい、違法象牙取引も復活してしまった。
本来なら自然死や害獣コントロールで殺されたゾウの象牙だけが国際取引の対象になるはずだった日本と南部アフリカ諸国の合法象牙取引は、実際には「アフリカゾウの乱殺」と「象牙のローンダリング」(違法象牙を合法の象牙として流通させる)が可能な土台を築き上げてしまった。
たきた・あすか(滝田明日香)
1975年生まれ。NY州のスキッドモア・カレッジで動物学専攻。大学卒業後、就職活動でアフリカ各地を放浪。ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。現在はケニアでマサイマラ巡回家畜診療プロジェクトなどの活動を行う。ノーンギシュは滝田さんの愛称(マサイ語で牛の好きな女)。著書に『獣の女医 ―サバンナを行く』(産経新聞出版)などがある。
https://www.taelephants.org/
ビッグイシュー日本版 7月1日発売 218号の紹介

7月1日発売のビッグイシュー日本版218号のご紹介です。
ビッグイシュー・アイ 想田和弘監督
前作『選挙』では、究極のドブ板選挙を描いた想田和弘監督が、震災直後の川崎市議会選挙で「反原発」を掲げて再出馬した“山さん”を再び追う。ドキュメンタリー映画『選挙2』から見える日本社会の今とは?
スペシャルインタビュー VAMPS
つくりこまれた骨太のロック・サウンドと独自の世界観を掲げ、数多のステージで暴れまわってきたVAMPS。結成5年、夢を追い続ける二人が、本格的な海外進出への意気込みを語ります。
リレーインタビュー 私の分岐点 塩谷哲さん
サルサバンド「オルケスタ・デ・ラ・ルス」のピアニストとして、国連平和賞などを受賞し、その後もソロで活躍を続ける塩谷哲さん。分岐点の一つは、前号に登場した小曽根真さんとの出会い。デュオで共演し、その「聴く」力に衝撃を受けたと言います。
特集 小水力発電。自然エネルギーの突破口
水力発電と聞くと、黒部ダム(出力33.5万kW)などの大型ダムを思い浮かべます。しかし、125年前(1888年)に始まった日本の水力発電の技術は、1000kW以下の小水力発電によって確立されたといいます。
今、小水力発電(1000kW未満)のもつ可能性は、出力で黒部ダム15個分の約490万kW、その適地は1万7708ヵ所あると見積もられ(環境省)、適地の半分は短期間で開発できるといわれています。ところが、現実の小水力発電の数は522ヵ所で、3パーセントにも満たない状況。はるかに適地の少ないドイツでも、日本の14倍、7325ヵ所もあります。
そこで、「分散複合型のエネルギーシステムへ転換のトップバッターになりうる小水力発電。その開発を最優先すべき」と語る小林久さん(茨城大学教授)に話を聞きました。
また、小林さんの案内で、約半世紀にわたり小水力発電所を運営してきた岡山県西粟倉村と、現在、計画中の高知県の馬路村、高知市土佐山の現場を訪ねました。さらに、1919年から94年間、電気を供給し続けてきた愛媛県新居浜の住友共同電力の小水力発電所を取材しました。
再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度のスタートから、ちょうど1年。現行の大規模集中型から分散複合型のエネルギーシステムへの転換の突破口であり、その鍵をにぎる小水力発電について考えました。
この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。
最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
販売場所検索はこちらです。
なぜ増える?見えない女性ホームレス。単身女性3人に1人が貧困(雨宮処凛)
社会に受け皿がない。単身女性3人に1人が貧困
女性ホームレスはめったに見かけないという人が多いかもしれない。
しかし、女性ホームレスは確実に存在する。
雨宮処凛さんが出会ったホームレス状態の女性たちとは?
夜間は「身を隠す」ことに必死
「単身女性の3人に1人が貧困」。昨年末に発表されたこの数字はこの国の人々に大きな衝撃を与え、「貧困女子」なる言葉も生み出した。続きを読む
研究者・高林純示さんが語る、「かおり」で会話する植物たち(2/2)
<前編を読む>
「かおり」で害虫の天敵を呼び寄せ、仲間に伝える植物
「植物と植物の会話」が成立していることもわかってきた。もし害虫の被害に遭っている植物の株の隣に、まだ被害に遭っていない株があったら、いずれ害虫の次のターゲットになるのはまちがいない。さて、この未被害株は何もせずにただ害虫に攻撃されるのを待っているのだろうか? 答えは否である。

植物を外から観察するだけではわからないが、コナガ幼虫の天敵を誘引する「かおり」にさらされた未被害のシロイヌナズナは、その細胞内で防衛遺伝子のなかの代表的なもののいくつかを活性化させるという。
それを高林さんは「むしろ『立ち聞き』と呼んだほうがよいのかもしれませんね」と話す。しかも、彼らは、害虫の種類ごとに、違った「かおり」を放つというのだ。だが、いったいどうやって害虫の種類を識別するのかは謎に包まれている。
さらに、植物が病気にかかったときも、植物間で同様の防衛のためのコミュニケーションを行うといわれている。このように、植物は光と温度だけに敏感なのではなく、害虫や病気に対しても受身でなくアクティブに反応しているのだ。
植物の知られざるコミュニケーションツールとしての「かおり」。彼らはどのように「かおり」を感知し、会話するのだろうか?
「植物の『かおり』は彼らの言葉です。ですが”植物は鼻がないのにどうやって『かおり』をきくの?“と聞かれても、そのしくみはまだわかっていないんです。彼らが絵本の『葉っぱのフレディ』のように、哲学的に会話をしているかどうかは知りませんけれども、独特の『かおり』の受容メカニズムを持っていて、それを介して会話や相互作用をしていることはまちがいありませんね」
しかも、次々と新しい発見も続く。 「ミカン、リンゴ、イネ、マメ、アブラナ科…、単子葉から双子葉まで、食害に反応して何らかの『かおり』を出して、それが植物自身の何らかの防衛に役立っているという事実についての研究は積み重なってきています」
植物の「かおり」、重く木霊のように漂う
だが、「かおり」の情報がどれほどの範囲まで届くのかは、まだ明らかにされていない。
「植物の『かおり』は、分子量が100とか150なので、空気の2〜3倍も重いんです。そういう重いベタっとした『かおり』の情報が流れているんですね。それがどのくらいの距離を流れていくのか? それを蜂の反応や植物の細胞内での防衛遺伝子の発現の様子から調べているところです」
高林さんは、植物の「かおり」を『もののけ姫』に出てくる木霊のイメージにたとえる。
「木霊が何かはわかりませんが、森の中にいて何らかの役に立っていますよね。植物の『かおり』も、重たくて断片化したもので、それ自身が情報なんです。一つ重要なことは『かおり』は混ざりにくいものだということです。例えば、飲み屋街で、焼き鳥屋とウナギ屋の中間に立っても、その匂いは混じらないでしょう? 森の中でも、植物が放出するいろんな『かおり』が断片化して、かたまりとなって漂っているというのが実態ではないかと思います」
葉っぱの一部が害虫に食べられても植物は死ぬことはなく、翌年も新芽を出す。だが、葉っぱを食べられれば食べられるほど、光合成を行う場所が減る。だからこそ、植物はできるだけ自分の組織を失わないように、「かおり」を出して害虫の天敵を呼ぶなどの進化をしてきた。そして、さらに生物間での複雑な関係をつくってきたのだ。
「群盲が象をなでるという言葉がありますが、象よりももっと巨大な生物多様性の一つの切り口として『かおり』を介した生物間の情報ネットワークみたいなものを考えていけたらいいなあと思います。つまり、複雑な食物網を支える目に見えないかおりを介した植物と動物との情報ネットワーク、さらにそれを支える植物間の情報ネットワークというような層状のネットワーク構造の視点です」
人間の嗅覚のしくみさえ明らかにされたのは数年前で、その研究者がノーベル賞を受賞したばかり。高林さんらの植物の「かおり」についての、これからの研究が待たれている。
(編集部)
Photo:中西真誠
たかばやし・じゅんじ
京都大学生態学研究センターセンター長。1987年10月より京都大学農学部助手、88年2月〜90年1月までオランダワーゲニンゲン大学研究員、95年5月より京都大学農学研究科助教授、00年4月より京都大学生態学研究センター教授を経て、07年4月より現職。00年3月に日本応用動物昆虫学会学会賞を受賞。日本応用動物昆虫学会評議員。著書に『虫と草木のネットワーク』東方出版(07年)、『寄生バチをめぐる三角関係』講談社メチエ(95年)などがある。
京都大学生態学研究センターについて
生態学の立場から、生物の多様性がどのようにして生まれ、どのようにして維持されているかを明らかにすることをミッションに掲げ、例えば、植物、動物、微生物の生態学の研究者が集い、行動の進化から生物集団のダイナミクス、生物群集のネットワークや生態系の機能などの研究をして、生物多数性のさまざまな問題に取り組んでいる。
植物は「かおり」で会話する—植物間コミュニケーションの秘められた物語(1/2)
(2007年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第83号)
植物は「かおり」で会話する—植物間コミュニケーションの秘められた物語
植物同士が、植物と昆虫が会話をしているといっても、半信半疑の人がほとんどかもしれない。でもそれは本当のこと。高林純示さんに、そんな不思議でエキサイティングな話を聞いた。

(高林純示さん)
植物が会話をしている? そんなバカな?!
植物が会話をしている? それも「かおり」(具体的な香りと抽象的な薫りの両方を含めた概念としてここでは使っている)を出してというと、そんなバカな?!という反論があちこちから聞こえてきそうだ。だが、そんなグリーンファンタジーとも呼べそうな事実がだんだん明らかになってきた。
「1983年に虫に食べられた葉っぱが『かおり』を出して天敵を呼ぶという研究が発表されて、86年に植物が会話するという最初の論文が出たんですね。
最初は『すごいな』と言われたんですが、『そんなはずないだろ? きっと実験がおかしいんだ』と言う人がいて、特にプラント・プラント・コミュニケーション(植物間のコミュニケーション)研究は休止してしまいました。
けれど、2000年からサイエンスの世界で再び研究が始まって、植物間のコミュニケーションはまぎれもない事実であることがわかってきたんです」と、高林純示さんは話す。
確かに、私たちは「見てわかる」ものについては納得しやすい。ライオンがシマウマを食べているのを見れば、「あれが自分だったら嫌だな、痛いだろうな」と実感が持てるが、それが虫に食われている植物だったら、ただ静かにたたずんでいて虫に食われるに任せているだけだと見えてしまう。
「でも、植物って動物とはまったく違う生き物。例えばライオンは餌としてシマウマを狩る。四本足と二つの目で、空間の中に座標を定めて餌を狙う。だけど植物は動けないし、餌は光合成をするための光ですから、葉っぱをたくさん配置して、薄く広く存在している餌(光)をなるべくたくさんもらうようにしているんですね」
そんなふうに静かにたたずんでいるように見える植物が、実際に害虫に葉っぱを食べられた場合、それに反応して「かおり」(揮発性物質)を放出し、害虫に対して反撃していることがわかってきたのだ。
高林さんの研究によると、例えばキャベツの芽だしやシロイヌナズナ(アブラナ科の植物)にコナガ幼虫がやってきてその葉っぱを食べると、葉っぱがコナガ幼虫の天敵を誘引する特別な「かおり」を出すことがわかった。その「かおり」が漂い出すと、「かおり」をかぎつけた寄生蜂がやってきて、コナガ幼虫に卵を産みつけ、卵は10日ほどで幼虫の身体を食い破って出てくる。キャベツやシロイヌナズナはまさに、自分を守ってくれるボディガードの寄生蜂を、「かおり」の言葉で呼び寄せ、会話をしているのである。

「寄生蜂は2〜3と小さいんです。野原でコナガ幼虫を探しても、自分ではなかなか見つけられない。でも『かおり』が出ていれば、集中的に探すことができます。『かおり』があるのは、寄生蜂にとってはうれしいことで、シロイヌナズナと寄生蜂は友だちの関係だといえるわけです」。こうした植物のボディガードのような昆虫の存在は特殊な例ではなく、一般的に成立しているという。
では、昆虫は「かおり」に対して、どれくらい敏感なのだろうか?
「犬の嗅覚は人間の1000万倍といわれます。カイコ蛾の性フェロモンの感度はだいたい犬と同じくらいといわれていますから、よくわかってはいないのですが、昆虫もすごく『かおり』に敏感なんだと思いますね」
<後編に続く>
携帯電話の依存症かもしれません… [ホームレス人生相談]

携帯電話の依存症かもしれません…
最近自分でも、携帯電話の依存症かなって思うんです。家に忘れて出かけた日には一日中、気になって仕事が手につかず、電車の中ではずっとウェブを見ているし、夜寝る時も、携帯をいじりながらでないと眠れないようになりました。おまけにメールを送った相手からの返信がないと、それも不安で落ち着きません。どうしたら解放されますか?
(34歳/女性/会社員)
この相談者さんのように携帯依存症で不安に感じている人って、すごく多いんじゃないかな。今は小学生からおじいちゃん、おばあちゃんまで、1人につき携帯電話を1台の割合で持っていてもおかしくない。携帯電話を持ってないと仲間にも入れない、そういう時代になっちゃったんでしょうねぇ。
昔は僕も携帯電話を持っていて、1日1回くらいは電話していたなぁ。メールは打つのが遅いもんで、用事があったら電話で済ませちゃう。
実はね、最近また、携帯を持ち始めたんですよ。バックナンバーの配達がある時に電話でやりとりをしたり、何かあった時にも会社との連絡が取りやすい。やっぱり便利なもんだなって思います。街中の公衆電話も減ってしまって、なかったら不便でしょう。だから「携帯電話を持たない方がいい」とは決して言いませんよ。
ただ、駅前で販売していていつも思うのは、階段の上り下りの途中で止まってピコピコとメールを打つ人や、自転車に乗りながら携帯電話を使う人、1日に何人も見るんですが、通行人にぶつかってほんとに危ないですよ!
それと今は、イヤホンとマイクまでつけて通話できるでしょう。あれも最初はびっくりしました。「この人さっきから、えらい長い独り言やなぁ」って思うでしょう(笑)。
僕が携帯で電話かけるのは今、1ヵ月に4、5回程度。プリペイド式携帯電話だから、使ったらそのつど料金が引かれて、入金した分の残高がないと電話もかけられないようになってます。この方も思い切って使い放題や家族割のプランをやめて、使ったら使った分だけ料金がかかる、あえて数字が見えるプランにしたらどうでしょうか。
メールの返信がないっていうのも、相手が仕事中だとか、すぐに送れない時もあるじゃない。どうしても一方通行になっちゃうことも多いんじゃないかな。「1日に送るメールの数は○通まで」と制限を決めてみるのもいいんじゃないかな。そうすると、一方通行ではない本当に大切な相手や内容のメールっていうものが、自分の中でわかってくると思いますよ。
(大阪/T)
(THE BIG ISSUE JAPAN 第111号より)
住宅政策という投資を、いま、始めよう(平山洋介)
(編集部より:「住宅政策のどこが問題か」などの著作がある、住宅政策の研究者、平山洋介さんに寄稿をいただきました。)
住宅政策という投資を、いま、始めよう
貧困が増えていて、これからさらに増える可能性がある。住む場所の不安定さが貧困を増やす重大な原因になっているし、そしてまた、居住が不安定なままでは貧困から抜けだせない。
ところが、日本では、貧困対策といえば、雇用と福祉の領域の施策ばかりである。所得さえあれば、それで必要なものを買えるし、住まいも確保できる、という暗黙の仮説があるように思われる。
だとしたら、それは、間違いである。雇用がみつかっても、不安定・低賃金の仕事では、適切な住まいは得られない。生活保護を受給すれば、住宅扶助がある。
しかし、保護受給が必要になるほど困窮しないと住居費を負担できない、というシステムは奇怪である。住宅を雇用・福祉の付属物としてしか扱わない政策は間違っている。
住宅それ自体を保障する独自の施策が必要である。雇用を失っても住む場所はある、だから、貧困状態にまでは落ちない、という仕組みをつくる点に住宅保障の意義がある。
戦後日本の住宅政策は、中間層の持家取得ばかりに支援を集中した。公的賃貸住宅は6%と少なく、住宅扶助を除けば公的家賃補助はほぼ皆無。この政策編成は、経済先進諸国のなかで、特異である。欧州では、社会的賃貸住宅が2割程度、家賃補助受給世帯も2割前後という国が多い。低所得者向け住宅対策が貧弱なアメリカでさえ家賃補助制度をもつ。
日本では、終戦からバブル破綻の頃まで、経済は成長し続け、中間層が拡大した。だから、政府は、たいていの世帯は家を買えると仮定し、持家促進に傾く政策を続けた。しかし、バブル破綻以来、経済の不安定さが増し、中間層は縮小し始めた。
これから、住まいに困窮し、そして貧困に陥る人がいっそう増える可能性がある。
第1に、「非正規第一世代」に注目する必要がある。前世紀末に労働市場の自由化が始まった。そのとき、非正規被用者が急増した。この第一世代の人たちが、加齢にともなって、雇用の不安定化に見舞われ、住居を確保できなくなる、といった事態の発生がありえる。
第2に、「無配偶者」の住宅困窮と貧困が拡大するおそれがある。日本は、あからさまに既婚有利の社会である。経済力の弱い人たちの未婚率が増え、未婚の人たちはさらに不利な経済状態に置かれる。離婚もまた増えている。
第3は、「高齢借家人」の増大である。高齢者の8割は持家に住んでいる。残りの2割のうち、何割かは公的借家に住んでいる。不安定なのは、民営借家の高齢者である。低所得者が多いうえに、住居費が高い。高齢者の民営借家率は低い。しかし、その絶対数が激増する。
住宅政策の再構築には、短期と長期の2種類の課題がある。
まず、「野宿」とか、「脱法ハウス」とか、「追い出し」とか、あってはならない問題状況は、ただちに解消しなければならない。次に、将来に向けて、社会的に利用可能な住宅ストックを蓄積していく必要がある。
雇用・福祉領域の施策と異なる住宅政策の独自性は、それが投資の役割をはたすという点である。欧州諸国の多くは、終戦から1960年代頃まで、社会的賃貸住宅を大量に建てた。そのストックが、いま、役に立っている。住宅建設に必要であった借入金の償還がすでに終わったので、「成熟」したストックの家賃は低い。
私物の住宅ばかりを建ててきた日本では、社会的なストックが異様に乏しい。このままで超高齢社会を迎えると、どういうことになるのか、想像してみるとよい。
将来の貧困増大をくいとめるために、住宅政策という投資を、いま、始める必要がある。社会的に使える「成熟」した住宅ストックこそは、人口・経済・政治の激動から人びとを守る最重要の基盤である。
(編集部より:住宅政策に関する記事は、こちらのタグページからまとめて読むことができます。平山洋介さんと稲葉剛さんの対談記事なども掲載しておりますので、ぜひ続けてご覧ください。)