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food performance ”EatScape” over view




コペンハーゲンでのフード・リサーチ



8月初旬より、デンマーク・アーツカウンシルの援助による、実験的な舞台芸術の制作支援を行なうウエアーハウス・ナイン(Warehouse9)に招待され、コペンハーゲンに滞在している。
8月の北ヨーロッパは日照時間が長く、夜の9時〜10時くらいまで明るいので、街角のテラスやカフェは、夜遅くまでたくさんの人で賑わっている。コペンハーゲンの街を堪能するには、最もふさわしいと言える季節だ。

コペンハーゲンに着いた翌朝には、早速自転車を手に入れ、気の赴くままにフード・リサーチを始めた。地図を片手に、見慣れない街の景色を楽しみながら、デンマークならではの旬の食材を探す。

北欧の中でも、とりわけ食に関心の高いと言われる首都コペンハーゲン。今が旬の生のグリーンピースは、新鮮なものを生のままスナックとして食す。生のグリーンピースの入った紙袋を片手に、ビールを嗜む人たちの姿も街中でよく見かける。ここコペンハーゲンでは、生のグリーンピースは、シンプルでヘルシーなストリート・フードとして存在しており、日本のものと比べると、やわらかくて苦味がないのが特徴。噛めば噛むほど、ほんのりとした甘さがほとばしる。

今回見つけた食材の中で、最も印象的だったのは、生のヘーゼルナッツ。デンマークは日本よりも夏の日照時間が長く、穏やかな気候だからか、この季節のものは生で食べられるのが特徴。新緑のようなエメラルドグリーンの殻に包まれたヘーゼルナッツは、成熟・乾燥した通常のものよりもマイルドで、 青味の残る爽やかな風味が口の中に広がる。

私の暮らしているオランダでも、ヘーゼルナッツは人気の食材であるが、生のまま食す習慣がないため、生のヘーゼルナッツは市場で見かけたことがない。グリーンピースもヘーゼルナッツも、オランダでは見慣れた食材ではあったが、生で食べられるのを知ることができたのは、新しい発見だった。







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fresh hazelnuts




フード・パフォーマンス「イート・スケープ」



こうして、初めて訪れた街、そして初めて会う人たちと、約2週間という短い時間で、新作フード・パフォーマンス「イート・スケープ」*1を制作することとなった。とにかく時間が限られているので、フード・リサーチをしながら、この土地の季節の食材を生かしたメニューで試作を重ね、5コース11品のヴィーガン(菜食)メニューとパフォーマンスを考案していった。
地元のパフォーマンス・アーティスト、コアアクト(CoreAct)*2、地元のシェフたち、その他大勢の人々からの協力を得て、2013年8月16日〜17日、フード・パフォーマンス「イート・スケープ」*1を、コペンハーゲンのAFUKで発表した。

フード・パフォーマンス「イート・スケープ」では、人間の持つ感覚(五感+第六感)を刺激しながら、 食べものや食べるという行為からメッセージを発信し、ヴィーガン(菜食)という視点から、現代社会や生活にマッチした新しい「食」のヴィジョンを提案し、「食」に対する意識を高めたいという思いを表現している。



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“the taste of visual”




デンマーク舞台芸術の評論家、メッテ・ガーフィールド氏は、「イート・スケープ」をこう評した。*3

———「確かな甘味、苦味、塩味の効いた味の料理が、舌と口腔を打つ。これらの料理は2人の白いローブをまとった天使たちのささやきと共に、繊細なヴィーガン(菜食)料理が巧みに提供された。視覚を楽しませてくれる御馳走だ。様々な手法で参加者を巻き込みながら、人間の持つ感覚を刺激し、美的感覚が交差するフード・パフォーマンスだった。(中略)

パフォーマンスの前に参加者たちは、最初のコースであるサラダの準備を手伝う。彼女がリサーチで手に入れた繊細で特別な食材がキッチン・テーブルの上に並んでいた。キビの種、黒海の塩、殻付きのアーモンド、ぶどう、スイバ(イタドリ)、ローズマリー、白インゲン豆、ザクロなど。参加者たちは、これらの食材を洗い、切り分け、茹で、混ぜ合わせる。後に私たちは、これらの食材で、キャンバスの上に「風景」をつくり、それを食すのだ。(中略)

それぞれのメニューは、味覚だけでなく、 視覚、聴覚、あるいは第六感に働きかけ、食べものや食べるという行為を通じて、自らの感覚を体験するものだった。それはコペンハーゲンで上演された、ヴォルスパーの『巫女の予言』(Vølvens spådom)を題材とした、他のフード・パフォーマンスと比較すると対照的で、食べものとパフォーマンスとが見事に溶け合っており、それは純粋に感覚を研ぎすますことを意味しており、特別な感覚的経験だった。(中略)

食べものによって、私たちの感覚を思い出させるという手法は、新鮮でおいしい食べものの重要性を物語っており、私たちがどのように食べものを扱うべきか、という意識を芽生えさせる意図が明確に表現されていた。それゆえ、直接参加者に「食」について問いかける必要はなかった。私たちは素晴らしい感性と美しさに捕えられ、私たち自身が、何をどのように食べるのかを決定できるということが、このフード・パフォーマンスに反映されていたからだ。」




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“the taste of feeling”



特に今回のフード・パフォーマンスでは、ピュアな食べものを提供するばかりでなく、 白砂糖についての批判的なメッセージも表現した。砂糖はご存知のように、かつて、西洋諸国の植民地において“三角貿易”と呼ばれる搾取を繰り返し、巨額の利益を得て、文明を発展させてきた歴史がある。その流れを汲んで現在、私たちが食す加工食品のほとんどに、砂糖が使用されており、植民地政策において「奴隷の売買」を行った結果、現代の先進国は「砂糖の奴隷」となってしまっている。

これを視覚的に表現するために、「砂糖の奴隷」を象徴する首輪のようなアクセサリーに、クリスタル・シュガーをジュエリーとして吊るしたネックレスを、砂糖が好きだという参加者に、パフォーマンスのあいだ身につけてもらっていた。そして、パフォーマンスの最後、デザートを提供する時に、2人の天使たちが、参加者の首輪から引きちぎったクリスタル・シュガーに、バーナーで火をつけて燃やし、溶けた砂糖の甘い香りが部屋中に漂う中、真っ黒に焦げた苦いカラメルをソースとして、デザートの皿に落とすという、象徴的なアクションを取り入れた。





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food performance ”EatScape” over view 2





世界も注目している日本の「食」にまつわる問題



今、世界中で、食の安全や食の質が、改めて問いただされるべく、数々の問題が巻き起こっている。 日本の抱える問題としては、福島第一原子力発電所事故による諸問題———放射性物質の拡散、 食品汚染、食品による内部被曝などだ。特に最近発覚した汚染水漏出については、 欧米諸国の各種メディアで連日、自国のニュースのように大きく報道されている。世界中の人々が「食」に対して危機感を抱いている状況で、もはや日本だけの問題ではなくなっている。

汚染水漏出問題後、私が料理をすると、「日本から持ってきた食材は何もないよね?」と確認が入る。そして皆は一様に、「日本食品はもう一生買わない」と言って沈黙する。ここコペンハーゲンでは、日本食品は日本人が思っている以上に静かにボイコットされている。日本政府は、クールジャパンで日本食をアピールしている場合ではない。

欧州では、日本国内よりも、日本のニュースが入りにくい状態にあり、放射能汚染、食品汚染の状況は人々に正確に把握されていなかった。それに追い討ちをかけるように、今回の海洋汚染漏出問題が発覚した。さらには、福島第一原子力発電所の事故が収束していないにもかかわらず、 現政府が日本国内の原発再稼働を推進し、海外に原発技術を輸出しようとしていることにも、欧州の一般市民は懸念を抱いている。とくに今回の汚染水漏出問題では、充分な情報が掴めないことが原因で、他の放射能汚染されていない日本の食品に関しても、信用が急速に失落しているように見える。日本政府と東電は一丸となって、今回の問題を何とか食い止め、 汚染を含めた放射能汚染全般の正確な情報を、日本国内のみならず、世界に向けて公開することを切望する。さらには放射能による食品汚染の実態を解明し、海外における日本の食品への信頼を取り戻せるよう、早急に対応していくことが、日本の食文化を守っていくためには必要だ。






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「料理」するということ



本来「料理」とは、それぞれの食材の選択、組み合わせ、特徴、エネルギーについて、最大限の力を引き出し生かす調理法を考えること。現在の身体の状態を観察して、バランスを整えるレシピを、季節や風土、気候を配慮しながら、その時/場/人にあわせて、日々、微妙に調節し変化させていくことだ。

料理は、科学的な部分と非科学的な部分が強く結びついていて面白い。桜沢如一氏の唱えた「無双原理」は、陰陽を対局した二元論ではなく、陰と陽のお互いが常に変化しながら補い合う一元論である。これらの融合させた哲学を「マクロビオティック」と名付けた。カリウムの多いものを陰、ナトリウムの多いものを陽として、料理の素材選びと調理法は、陰と陽のバランスで決めていく。

料理の「理」について、wikiで調べてみると、「『理』 とは、中国哲学の概念であり、本来、理は文字自身から、璞(あらたま)を磨いて美しい模様を出すこと」、さらに仏教における「理」では、「現実を現実のままに認識することを言い、それを理論づけたり、言葉に乗せること」である。

料理は文字通り「理」を料ることである。かたちのある食材とかたちのないエネルギーを「料理」し、食材の一つ一つが、体の細胞の隅々まで届いた時に、再び目に見えないエネルギーに変容する。これらのエネルギーは、料理を食した人がアクションを起すことで、見えるかたちに再生され、別のかたちに昇華されていく。このように、「料理」から生み出される「食」の持つエネルギーは、無限に繋がっている。





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「食」を知ることは、自分を知ること



TPPとも深い関連性のある、遺伝子組み換え食品問題、モンサント問題、農薬問題、肥満問題など、様々な角度から見ても、私たちの先祖から引き継いできた美しい自然と一体であった「食」が、皮肉なことに、私たち現代人の手によって脅かされている。私たちが築いてきた文化、社会、そして家族や自分自身を守るために、 私たち自身も、根本的な「食」の改善が必須とされるのは、もはや時間の問題なのではないだろうか。

基本に戻って、自分自身の食生活を見つめ直すことからはじめたい。———本来、食べものが持っている性質と効用を知ること。「食」の持つ力を生かすことのできる食材を選び、それぞれの食材に見合った適切な料理法を学ぶこと。 それぞれの人間が持つ力を最大限に引き出すための自分に合った「食」を知り、日常生活の中で実践していくこと。そして、「食」にまつわる環境—食べるという行為や状況を見直し、「食」のありかた全体を意識していくこと。

人間は食べること無しには生きていけない。「食」を知り、料理するということは、日々、何度か食材(=自己)に向き合うための創造的な時間が与えられることである。料理はそれを食す人の身体性や精神性に直接的に働きかけ、新しいエネルギー生成しながら、感覚や記憶と結びつき、新しい価値を生みだしていく。

シンプルに言い換えれば、私たちは毎日、食べることで心身のエネルギー源を直接頂いている。 心と身体が喜ぶような料理を作ることで、毎日の食事を楽しむことができれば、「食」がいかに大切なことであるかを、誰もが容易に思いだせるはずだ。





タケトモコ
美術家。アムステルダム在住。現地のストリート・マガジン『Z!』誌とともに、”HOMELESSHOME PROJECT”(ホームレスホーム・プロジェクト)を企画するなど、あらゆるマイノリティ問題を軸に、衣食住をテーマにした創作活動を展開している。

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注脚:
*1 「イート・スケープ」(EatScape) : http://eatscape.tumblr.com
*2 コアアクト(CoreAct) : コペンハーゲンを中心に国内外で活躍する、アニカ・バーカンとヘレナ・クヴィントによるパフォーマンス・ユニット。二人は十七歳の時に出会い、意気投合、共にパフォーマンス活動を始める。その後二人は約十年間、諸外国で別々に活動した後、ニューヨークで再会。2006年、偶然にも二人はほぼ同時期にコペンハーゲンに戻ることとなり、コアアクトを結成し活動を始める。http://www.coreact.dk
*3舞台芸術の評論家メッテ・ガーフィールド氏 (Mette Garfield)による論評(デンマーク語) http://www.teater1.dk/tomoko-take-pop-up-restaurant/


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9月1日発売のビッグイシュー日本版222号のご紹介です。



ビッグイシュー・スペシャル ディック・ブルーナの街、オランダ・ユトレヒトを訪ねて


本誌19号、126号に登場し、ストリート・マガジンを応援してくださっているディック・ブルーナさん。彼を育んだオランダ・ユトレヒトの街を歩きながらブルーナさんとミッフィーの足跡を訪ねました。現地紙『ストラート・ニュース』の全面協力で実現したスペシャルレポート。



リレーインタビュー 私の分岐点 渡辺えりさん


劇作家、演出家、女優として多くの作品を世に送り出してきた渡辺えりさん。最近では「あまちゃん」への出演も注目されましたが、その原点は子どもの頃に観た農村の女性たちが踊る若妻会。「お化粧した女性たちが変身することにワクワクした」といいます。そんな渡辺さんは、わざわざ電車に乗って芝居を観に来る人たちは「何らかの痛みをもった人ではないか」と語ります。



特集 未来をつくる仕事――小さなものが社会を変える


大きく強いものや、そのシステムの脆さがあらわになった3・11から2年半。それらに代わって、一見、小さく弱いものに注目し、しなやかで柔軟な仕事や、そのシステムづくりに挑戦する人たちがいます。
体内の葉緑素で光合成を行う微細藻類ミドリムシを培養、食料問題やエネルギー問題の解決に挑戦するバイオベンチャー「ユーグレナ」。
40万ヘクタールの耕作放棄地を農地のまま残すため、有機無農薬の体験農園、農業を学ぶアカデミーなど、「自産自消」社会をめざす「マイファーム」。
デジタルツールの進化で製作インフラが低コスト化するなか、個人や小さな企業の“マイクロモノづくり”を提案、サポートする「enmono」。今、個人が仲間とともに、未来をつくる仕事や、新しい価値をつくり、社会を変えていく時代が来た!
「ユーグレナ」の出雲充さん、「マイファーム」の西辻一真さん、「enmono」の三木康司さんと宇都宮茂さんに話を聞きました。



ビッグイシュー・アイ 巨木トラスト。琵琶湖の源流、トチノキの巨木群をまもる市民たち


400本ものトチノキの巨木が滋賀県高島市朽木地区にあります。この巨木群に伐採の危機が迫った時、市民は「巨木トラスト」を考えました。青木繁さん(滋賀県立朽木いきものふれあいの里館長)と村上美和子さん(日本熊森協会滋賀県支部長)のご案内で、現地を訪ねました。



この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。

最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
販売場所検索はこちらです。


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(ビッグイシュー・オンラインは、社会変革を志す個人・組織が運営するイベントや、各種募集の告知をお手伝いしております。内容については主催者様にお問い合わせください。)


文京区 「まちとつながる仕事をつくる!」文京社会起業講座






公開シンポジウム「社会の変化は、新しい仕事を求めている!」




目の前の課題をビジネスチャンスにするオープン・イノベーションの実践手法を学ぶシンポジウムを東京大学産学連携本部と共催で開催します。

◆日時
平成25年9月13日(金)18時45分~21時00分 (18時20分開場)

◆場所
東京大学福武ホール

◆対象
区内在住・在勤・在学者、社会起業に関心のある方

◆定員
100名(抽選)

◆参加費
無料

◆主な内容
第1部…「変わる社会が新しい仕事を生み出す」
人と人をつなぐことで新しい仕事を生み出してきた方々が語ります。

ゲスト:
影山 知明 氏(クルミドコーヒー店主/ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京ファウンダー
ナカムラ ケンタ 氏(日本仕事百貨代表/(株)シゴトヒト代表取締役)
各務 茂夫 氏(東京大学教授/東京大学産学連携本部イノベーション推進部長)

第2部…「文京区、東京大学からの挑戦」
コーディネーター:菅原 岳人 氏(東京大学産学連携本部助教)
総合ファシリテーター 広石 拓司((株)エンパブリック代表)

◆申込方法
メールフォーム(こちらをクリックしてください)
又は
FAX・ハガキに「シンポジウム」・住所・氏名(ふりがな)・年齢・電話番号・応募動機を明記し下記お問い合わせ先へ

◆応募締切
平成25年9月2日(月)必着

文京区 「まちとつながる仕事をつくる!」文京社会起業講座


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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部です。いつもご愛読ありがとうございます。

ビッグイシューオンラインも、お陰さまで運営開始から1年を迎えます!お陰さまで毎月15,000〜20,000人の方にアクセスしていただき、順調に成長しております。

さらに内容を拡充していくために、このたびアンケートを実施いたします。ご協力いただいたみなさまには、抽選で3名の方にビッグイシュー日本・10周年を記念したTシャツをプレゼントさせていただきます!


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アンケートは以下のフォームから入力できますので、ふるってご回答ください。

(スマートフォン、タブレットで閲覧いただいている場合など、フォームが表示されないことがございます。フォームが見えない場合は、こちらのリンクからご回答ください。)

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ホームレスと障害者



2010年3月、「都心のホームレス3割超知的障害か」という見出しが毎日新聞の紙面を踊った。記事はこう続く。

東京・池袋で臨床心理士らが実施した調査で、路上生活者の34%が知能指数(IQ)70未満だったことが分かった。調査グループによると、70未満は知的機能障害の疑いがあるとされるレベル。路上生活者への別の調査では、約6割がうつ病など精神疾患を抱えている疑いも判明している。調査グループは『どうしたらいいのかわからないまま路上生活を続けている人が大勢いるはず。障害者福祉の観点からの支援が求められる』と訴えている。


一方、平成24年度版障害者白書にはこうある。「身体障害、知的障害、精神障害の3区分で障害者数の概数を見ると、身体障害者366万3千人、知的障害者54万7千人、精神障害者323万3千人となっている。」人口千人当たりの人数で見ると、知的障害者数は4名だそうだ。

路上生活者の3割超に知的障害が疑われるとした、上記の調査結果との大きな乖離に驚く。

私は2011年8月よりビッグイシュー基金のスタッフとして働いている。相談に来るホームレスの方やビッグイシュー販売者の話を聞く中で、気づいたことがあった。障害(主に知的障害)が疑われる人のほとんどが、障害者手帳を持っていないことだ。

例えば30代後半の男性、ビッグイシューの販売をしていたSさんのケース。知的障害があるように見受けられるものの、特別支援学級に通ったことはなく、高校も「底辺の成績」ではあったが無事卒業。障害者手帳は持っていない。

「仕事をしたい」という意欲はあるものの、一般の仕事の面接を受けても落ちてしまう。私は生活保護受給を機に彼に愛の手帳(東京都が知的障害者に交付する療育手帳)の申請を勧めることにした。行政はもちろん、民間が行う障害者の就労支援もたくさんあるが、その大多数は、「障害者手帳を持っていること」を利用の条件にしているからだ。Sさんのように障害者手帳を持たないが、知的障害があると思われる人たちへの就職サポートは、まったくといってよいほど、ない。

愛の手帳取得へのハードル



Sさんが愛の手帳を取得するには、高いハードルがあった。知的障害者へ発行される療育手帳は、「18歳未満の時点で知的障害がある」人に限られる。通常は、幼児期や学齢期の知能検査で発見される“はず”の知的障害。万が一18歳以上になるまで見過ごされてしまった場合は、学校の通知表や、幼少期のエピソードなどで18歳未満での知的レベルを証明できないと、手帳の取得は困難だといわれる(専門機関を経由して取得するなど、その限りではないケースもある)。

私もSさんに関して、東京都福祉局(愛の手帳の発行元)から「18歳未満時の知的レベルを証明できるものを持ってこられないか?」という質問を受けたが、ホームレスの人の多くがそうであるようにSさんも家族と関係が切れており、提出は叶わなかった。

結局、膨大な時間と手続き、何度かの再検査を経て、精神科医の判断のもと、Sさんには愛の手帳が発行された。

運に左右される療育手帳へのアクセス



公的サービスや年金受給要件となる「障害」の有無やその等級を規定する障害者手帳の基準が厳格に規定されているのは、当然ともいえる。

しかし、療育手帳の取得が18歳未満での診断を前提にしているということは、つまり学校や親の気付きや支援が不可欠であるということだ。では、周囲の理解やサポートに恵まれない人はどうするのか。大人になっても、手帳がないという理由で障害者支援の枠組みには入れない。

一方で、理解力が足りないなどの理由で一般の仕事の面接では落とされてしまう。制度の狭間で大人になってもずっと自助努力を強いられる人たちがたくさんいる。

多様な「働く」をサポートする取り組みが必要



働くことに意欲的であったとしても、その意欲を活用できない社会のあり方を変えていきたい。知的障害や発達障害は外からわからない分、その線引きが難しいが、初期に障害を検知し必要な社会制度へのアクセスができるように、親や学校だけでなく社会全体で支えていくことが重要だろう。

そして中間労働の多層化・多様化が必要だ。例えば、NPO法人FutureDreamAchievementは、まさにその実践をしている団体だ。障害の有無に関わらず、得意なことを伸ばし、苦手なことをフォローして「働く」をサポートする試みは、まさに仕事を通じて利用者の居場所をつくり、自己肯定感の醸成に寄与している。こうした取組みから、学ぶことは多い。

(NPO法人ビッグイシュー基金 東京事務所 瀬名波雅子)
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(2013年1月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 207号より)






「子どもを被曝から守れ」「事故被害を過小評価するな」—IAEA国際会議で住民グループ抗議




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(IAEAのテューダー報道官を前に要請書を読み上げる小渕・共同代表(左))





昨年12月15日から17日まで福島県郡山市で行われた「原子力安全に関する福島閣僚会議」(政府と国際原子力機関〔IAEA〕共催)の会議場の外では、市民の抗議活動が展開された。

福島県や県議会は廃炉に向けた請願を採択し、核燃税の廃止を決めるなど、再稼働ストップから廃炉に向けた「ポスト3・11期」を歩み出している。そのなかで、「核(原子力)の平和利用」を掲げるIAEAが福島県内に拠点を設けて活動を開始することに対して、市民は、「子どもたちの未来を守ってください。子どもたちに放射能のない美しい未来を約束してください」と抗議と懸念を表明した。

IAEAの活動をウォッチする「フクシマ・アクション・プロジェクト」共同代表の武藤類子さん、小渕真理さん、関久雄さん、事務局長の佐々木慶子さんらは、「福島原発事故を過小評価せず、福島第一、第二原発の即刻廃炉や、子どもや若者たちの放射能被害の最小化、避難、疎開の実施に向け、日本政府に働きかけてほしい」とする要請書をIAEAのジル・テューダー報道官に手渡した。

また、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、伊藤和子弁護士も「福島では原発事故後、健康に生きるという最も重要な基本的人権が危機にさらされている。IAEAと政府が一緒になって、人権侵害の状況を継続し、さらに悪化させてしまうのではないかと懸念している」などと述べ、米国、フランス、ドイツ、チェルノブイリの被害にあった国の人々、福島から全国に避難した人々の要望をまとめた意見書を手渡した。

テューダー報道官は「IAEAは盲目的に世界の電力政策を進めるためにあるのではない。チェルノブイリの被害の大きさについて意図的に矮小化したという印象がみなさんにあるのは残念。福島の被害を矮小化しようということはない。この会議の目的は、福島支援のために、事故についての客観的、科学的な情報をどう集めるか、関係機関が協力することにある」と述べ、13年1月をめどに、住民らに回答するよう本部に伝えると話した。

しかし海外から会議に参加した電力関係者の中には、この会議で「福島は安全」とのお墨付きが得られたとして、原発建設に向け各国との連携を模索する動きもあり、現実的に福島の被害矮小化の可能性を残した。

同市内では脱原発をめざす首長会議や市民会議も開かれ、佐藤栄佐久・前福島県知事、桜井勝延・南相馬市長、海外のNGOや関係者らが参加し、被害の過小評価の問題点などを議論した。




(文と写真 藍原寛子)
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オンライン版編集長のイケダです。本誌で連載中の東田直樹さんに関する、嬉しいニュースを見つけたのでご紹介いたします。





東田直樹さんの書籍がイギリスでベストセラーに!



NewSphere誌が報じるところによると、東田直樹さんの「自閉症の僕が跳びはねる理由」が英訳され、イギリスでベストセラーとなったそうです。



今、英国で、日本の少年が綴った一冊の本が話題になっています。

本のタイトルは、「The Reason I Jump: One Boy’s Voice from the Silence of Autism」(原題「自閉症の僕が跳びはねる理由──会話のできない中学生がつづる内なる心」)。著者は、重度の自閉症を抱えて執筆活動を行う作家の東田直樹さん。東田さんが13歳のときに自らの抱える自閉症について語ったものが、このたび英語に翻訳され、英国で発売されました。

「自閉症の僕が跳びはねる理由」自閉症の少年が綴った日本の書籍が英国でベストセラーに


翻訳を手がけたデイヴィッド・ミッチェル氏もまた、お子さんが自閉症であるという当事者のひとり。記事によれば、この本を手に取ったとき、「まるで初めて息子が、彼の頭の中で起こっていることについて、直樹の言葉を通じて、私たちに語りかけているかのように感じたんだ」と感じたそうです。




実際、英国Amazonのレビュー欄は超高評価となっています。現時点で、なんと215件のレビューが突いており、星5つが大半!驚きです。

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「自閉症者が身近にいる人は絶対に読むべきだ」「自分の息子が何に苦しんでおり、なぜ独りの時間が必要なのかがよくわかった」「教育現場で自閉症の児童に関わる機会があるが、この本はたいへん参考に鳴った」などなど、歓びの声に満ちあふれています。




そんな「The Reason I Jump」は、日本でも購入可能です。電子書籍(Kindle)版がお買い得となっています。



もちろん日本語の原書も購入できます。感動的な作品ですので、ぜひ手に取ってお読みください。



BIG ISSUEからも東田直樹さんの本が2冊出ています。


BOOKS
社会の中で居場所をつくる 自閉症の僕が生きていく風景(対話編・往復書簡)
東田直樹・山登敬之 著
作家であり重度の自閉症者の東田直樹さんと、精神科医・山登敬之さんの立場をこえた率直な往復書簡。「記憶」「自閉症者の秘めた理性」「純粋さ」「嘘」「自己愛」「自分らしさ」など、根源的な問いが交わされる。
2015 年12 月発売
定価1600 円(税込)
B5判変型
(800 円が販売者の収入になります)
--
風になる 自閉症の僕が生きていく風景(増補版)
東田直樹 著
発話できない著者が文字盤で思いを伝えられるようになるまでの日常や、ありのままの自分を率直に語る。連載エッセイ74 編、宮本亜門さんとの対談も収録の増補版。路上で一万冊突破。
2015 年9月発売
定価1600 円(税込)
四六判
(800 円が販売者の収入になります)

2016/10/14よりクレジット決済が可能になりました。

<ご購入方法>


1.全国の販売者よりお買い求めください。
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2.全国の書店でもご購入いただけます。
書店で書籍名をお伝えいただきますとご注文ができます。

3.クレジットカード決済にてご購入いただけます。
クレジットカードを利用して今すぐ書籍をご購入いただけます。
※VISA、MasterCard 、JCB、AMEX、DAINERSがご利用いただけます。
https://www.bigissue.jp/books/index.html

4.郵便振替にてご購入いただけます。
郵便局備え付けの振込用紙に、本のタイトル、ご希望の冊数、お名前、送付先住所及び郵便番号、電話番号をご記入の上、下記の郵便口座にお振込みください。
送料は冊数に関わらず100 円です。 ご入金を確認後にお送りします。

ご入金金額:ご希望の本の代金 × 冊数 + 送料100 円
郵便振替口座番号: 00900-3-246288
加入者名:有限会社ビッグイシュー日本
TEL:06-6344-2260  E-mail:info@bigissue.jp



関連記事:
東田直樹さん著書『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』出版記念記者会見 | BIG ISSUE ONLINE
自閉症の作家・東田直樹氏の名言まとめ [イベントレポート] | BIG ISSUE ONLINE
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Genpatsu


(2013年8月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 221号より)





異常に高かった作業員の内部被曝



7月19日の報道によれば、福島第一原発事故で放射性ヨウ素を体内に取り込んだことによる甲状腺の内部被曝が100ミリシーベルトを超えた作業員が1973人(※東電は22日に訂正して1972人とした。)に達することが、東京電力の調査でわかった。

呼吸を通してヨウ素131を少なくとも25万ベクレル取り込んだことになる。爆発当時にマスクを着用していなかったか、あるいは、全面マスクのフィルターが期待通りに機能しなかったことも考えられる。マスクを外しての作業があったのかもしれない。

一方、7月12日の東電の発表によれば、指定緊急作業での甲状腺被曝と、2016年3月までの甲状腺の累積被曝線量の合計が100ミリシーベルトを超えるとしている(取り込んだヨウ素によって将来にわたって被曝することを計算に入れた値)。

内訳は東電社員が976人、下請け作業員が996人となっている。提出された作業員の被曝線量に関するデータにWHO(世界保健機関)が疑問を投げかけたことをきっかけに、調べ直した結果わかった。

再調査前の人数は、それぞれ東電社員が2人、下請け作業員が119人だった。数値は、ヨウ素131は半減期が8日なので、半減期の長いセシウムの取り込みから推定したもので、厚生労働省の指示によるとしている。作業員の甲状腺がん発症などの健康影響が心配される。




上記のデータは甲状腺だけの被曝線量で、これに0・05をかけると全身の被曝線量(実効線量という)に換算できる。逆に、発表されている全身の被曝線量をこの係数で案分しても正確な甲状腺の被曝線量は求められない。

作業員の被曝線量は、放射線にさらされて被曝する「外部被曝」と、呼吸から体内に放射性物質を取り込んで被曝する「内部被曝」とがある。両方を合わせた総被曝線量を東京電力は発表しているが、事故直後から2013年5月末までに福島第一原発で被曝作業に従事した人は2万8279人であり、平均被曝線量は12・28ミリシーベルト、最大は678・8ミリシーベルトに達している。事故前の09年度は平均1ミリシーベルト、最大が19・5ミリシーベルトだったことを考えると、作業員は異常に高い被曝を受けている。


第一原発は廃炉へ向けて作業が行われているが、作業員の被曝を最小化する観点から、作業の見直しをするべきだ。このままいけば作業員の確保は難しく、したがって一人あたりの被曝が増える恐れがある。





伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)








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116人生相談





過眠症で悩んでいます



過眠症で会議中いつも舟をこいで、お局さまにたびたび叱られています。今のところ「持病の薬の副作用です」とか言って、適当にごまかしてはいるんですが、いつまでもそんなことが通用するとは思えないし、悩んでいます。ちなみに睡眠は平均5・5時間。電車では立ち寝。会社に着いても午前中から早速眠くなり、もちろん午後も。そういえば学生の頃、歌を歌っている時も眠かったような……。
(女性/29歳/派遣社員)





えーっと、「春眠暁を覚えず」だっけ? 近頃みたいにポカポカした季節に眠くなっちゃうってこと。ところが、この人は年がら年中、一日中。やはり問題だと思う。睡眠が5・5時間とは、えらく短いね。昼寝をするのもいいけど、眠気って、睡眠不足だけじゃなく、栄養不足からもくるんだよ。

僕の実家は、農業をやってたんだ。収穫期は早朝にトラックを運転して市場まで出荷。昼は農作業して、夜は出荷準備と時間に追われてね。睡眠は短かったけど、居眠りして事故ったりはしなかった。昼に仮眠をとったりしながら、3食きっちりバランスよく食べた。なにせ農家だから、食事がとにかくウマイ。

逆にビッグイシューを販売したばかりの頃は、お金がなくて1日1食。販売中、立ち寝してコックリコックリ。頭が働かないの。お客さんがせっかく来てくれても、見逃しちゃったりしてね(笑)。女性はダイエットして朝食抜きにしているかもしれないけど、朝の寝ぼけまなこに、おにぎり1つでもつまんだほうが、頭がシャキッと目覚めるよ。よくTVのCMでも言ってるじゃない。

あと眠りは、長さだけじゃなくって、質も大事。最近は路上も新参者が多くなって物騒でね。こないだなんか寝ている間に眼鏡を盗られちゃって、うかうか寝てられないけど、なるべく1日の疲れを取ってから床につくようにしている。お風呂に入ってカラダを温めるのが
一番だけど、これがままならない僕は、足裏をもんだり、100円均一でも売っているシートをはったりも。

睡眠時間を削ってでも夜はTVドラマを見たいし、彼とデートをしたいという、気持ちはわかる。でも熟睡したほうが、昼間が充実することは間違いないから!

(東京/Yさん)





(THE BIG ISSUE JAPAN 第116号より)







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