(2013年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第210号、「ノーンギシュの日々--ケニア・マサイマラから」より)






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(象牙はゾウの頭蓋骨を目の辺りまで切り刻まないと、取り出せない)




中国も参入、象牙本体と象牙細工。両方輸入は日本だけ



日本の合法象牙取引が違法象牙の流出のきっかけになった後、2008年に中国も合法取引に参加したことによって密猟がさらに悪化した。

近年、中国は、道路建設や貿易商などでアフリカの多くの国に拠点を置き始めている。たとえば、ナイジェリアやケニアなどのアフリカ諸国の国際空港で象牙を押収された中国人の数は2011年度のみで150人にのぼり、アフリカ在住の中国人労働者による象牙の違法な調達の現実が浮き彫りになった。また、中国本土の経済成長とインターネットによる商業取引の繁盛は、アフリカとアジアでの違法象牙取引に拍車をかけている。

国際動物福祉基金(International Fund for Animal Welfare)の象牙市場調査によると、中国で象牙を販売している店舗で合法象牙取引免許を得ている店は全体の64パーセントだが、免許をもつ店の60パーセントで違う商品に同じ象牙ライセンスを見せて何度も使用するなどの違法使用が発覚している。

驚くことに中国人の象牙購入者年齢は、主に26〜45歳までの中流階級だ。若者に人気のネットショッピングサイトなどでは多数の象牙商品が堂々と販売されており、中国本土での象牙需要は減る傾向をみせない。




現在、合法象牙の取引先は日本と中国で、取引対象の象牙の54パーセントは中国へ輸出されている。それを聞いて、象牙問題は象牙輸入率が高い中国の問題だと思ってしまう人も少なくはない。しかし、実は、中国で加工された象牙細工の輸出国に日本が入っているのだ。

中国から象牙細工を輸入している国は、日本、韓国、アメリカ、英国とヨーロッパ諸国(スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ)など。象牙自体を輸入して、さらに象牙細工までを輸入しているのは残念ながら日本だけである。





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(ゾウから切り取りだされた血だらけの象牙。こんな残酷な物が高級品と呼ばれるとは)




増えるアジアの象牙需要。象牙価格が4年で15倍に



2010年に行われた第15回ワシントン条約締約国会議で、タンザニアとザンビアが自国の象牙112トン(タンザニア90トン、ザンビア22トン)を日本と中国を対象に輸出する許可を求めた。しかし、その申し出は国際アフリカゾウ保護団体による断固とした抗議により、許可されることはなかった。

だが、11年には24.3トンの象牙が全世界で押収された。12年にはさらに多く34トンの象牙が押収され、この過去24年間で象牙密猟、最大の年となった。12年だけでも、アフリカ全土で3万8千頭のアフリカゾウが密猟者の手によって命を落としているといわれている。




そして、今年3月のバンコクで開かれる第16回ワシントン条約締約国会議では、再びタンザニアが「自国のゾウを個体群の附属書Iから附属書 Ⅱ へ移行し(「附属書 Ⅰ」は商業のための輸出入禁止。「附属書 Ⅱ」は輸出国の政府が発行する許可書が必要。)、101トンの象牙の1回限りの販売」を申し出ている。取引相手国は再び、中国と日本だ。
 
1月に入って、「タンザニアは象牙販売許可を申請しない」とニュースで伝えられた。しかし、タンザニアはセレンゲッティ国立公園の真ん中を通る高速道路の建設、セルー国立公園のウラニウム発掘、ナトロン湖のソーダ灰工場建設などの多くの世間の議論を引き起こし、近年多くの環境保護団体からバッシングを受けている。象牙販売許可の申請動向は、実際に3月のワシントン条約締約国会議になってみないとわからない。




恐ろしいのは、いっこうに減る傾向を見せないアジアの象牙需要。そして、とどまることを見せずに跳ね上がり続ける象牙の市場価格。違法象牙取引は今、紛争ダイヤモンドとまったく同じ悲劇を繰り返している。

08年にキロ157ドルだった象牙価格は、12年には15倍以上のキロ2357ドルまで跳ね上がった。今や象牙1本の値段は、アフリカ人の平均年間収入の20倍以上。麻薬取引と同じで、一攫千金を狙った人間がゾウ密猟の世界に引き込まれている。

高額で取引される象牙は、中国では「ホワイトゴールド」と呼ばれ、その販売ルートは麻薬シンジケートや暴力団によってコントロールされている。そして、ゾウの棲みかであるアフリカ諸国では、テロリスト・グループや反政府組織は象牙による外貨獲得と、それによる武器購入を広く行い始め、まさに象牙は紛争地帯の資金源と化してしまった。






たきた・あすか(滝田明日香)
1975年生まれ。NY州のスキッドモア・カレッジで動物学専攻。大学卒業後、就職活動でアフリカ各地を放浪。ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。現在はケニアでマサイマラ巡回家畜診療プロジェクトなどの活動を行う。ノーンギシュは滝田さんの愛称(マサイ語で牛の好きな女)。著書に『獣の女医 ―サバンナを行く』(産経新聞出版)などがある。

https://www.taelephants.org/



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シエラレオネ内戦を長引かせた「紛争ダイヤモンド」







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ビッグイシューについて

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前編を読む




今回、陀安さんらが京都近辺に住む約170人を調査した中間報告でも、同じ地域に住んでいても、その人の食生活によって窒素と炭素の値が異なっていた。

「髪の毛を提供してもらうほかに、食生活アンケートも書いてもらったのですが、大きく左下の方に行っている女性の方はふだんからマクロビオティックな生活をされているようで、かなり植物性タンパク質の影響を受けています。他にも『野菜をたくさんとっている』とアンケートに書いた人はたくさんいましたが、実際の身体はそれほどでもないケースがほとんどでした」









植物や動物を経た物質が、あなたの身体に流れている



それにしても、髪の毛の窒素と炭素の値だけで、その人の食生活がある程度わかってしまうというのは、どういうことなのだろう? 陀安さんが解説する。

「人間を含めた生物の身体は、水素や炭素、窒素、酸素、リン、イオウといった元素などで構成されています。私たちは、その元素を植物や動物などさまざまな食物から得ていますが、それらはすべてもともと植物が太陽エネルギーを用いて光合成した産物を出発点にしているんです。

つまり、人間も自然界の物質循環のつながりの中に位置づけられているということです。だから、原子の質量が異なり、時間がたっても壊れない安定同位体を使って身体の元素構成を調べれば、その人がふだんどんなものを食べているかがわかるんです」




この安定同位体を使った分子解析は、すでに絶滅してしまった生物に対しても何を食べていたかを研究できる手法として注目を浴びている。この解析によって、生命の起源や過去の生物の大絶滅にかかわる環境の変化を解き明かす手がかりも得られているのだという。

そして、最近ではいまだその実態がよくわかっていない生物の生態の調査や、環境問題の解明にも使われている。

「例えば、複雑に絡みあっている食物網(網目状に複雑に絡みあう「食う」「食われる」関係)は、環境の変化で変わりえますが、さまざまな時期に採取した生物を分析することで、食物網の変化を調べて環境問題に役立てることもできるんです」




また、同じ分子解析法でも、放射性同位体を使えば、生き物が暮らす「時間の流れ」さえも調べられる、と陀安さんは言う。これは、発掘された遺跡のように歴史年代の推定などでよく使われているものである。

「冷戦の時期、いくつかの国が大気核実験を行って、多量の放射性同位体を放出しましたが、この時からの放射性炭素同位体の減少レベルなどを測定することで、現在では炭素の流れの数年〜数十年の細かい年代がわかるようになりました。そのため、例えば、炭素が落ち葉や土壌の中をどのような経路で流れているのかもわかるようになり、それは温暖化問題を考える上で大きな示唆を与えることになると思います」


安定同位体や放射性同位体の分子解析法は、いまだ知られざる多様な生物の実態を解き明かしてくれるかもしれない。

(稗田和博)
Photo:中西真誠




たやす・いちろう
1969年生まれ。京都大学生態学研究センター准教授。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。総合地球環境学研究所研究部助手を経て、現職。安定同位体比の測定を通じて、通常の方法では見ることができない生態環境の変動やその機構の解明を行っている。
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(2007年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第83号




ヒトは何でできているの?-分子解析が解き明かす生物の多様性




二酸化炭素から植物、動物、人へと循環する分子レベルから、生物の多様な生態を解き明かす陀安一郎さん。その研究を支える分子解析法とは何か?








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肉食派?それともベジタリアン?髪の毛でわかる食生活



やや唐突な質問だが、あなたの身体は何をもとにつくられていますか?

そう聞かれて、即座に答えられる人はどれぐらいいるだろう? 「肉ばかり食べている」という人もいれば、「魚が中心」という人もいるだろう。あるいは「ダイエット中なので野菜」と答える人もいるかもしれないが、さて本当にそうなのかは定かではない。

そんなふだんの食環境を、わずか数本の髪の毛から分析して、まるで健康診断のように数値を出してくれる調査がある。




髪の毛調査をしている陀安一郎さんは、「健康診断ではないですが、一般の人からご提供いただいた髪の毛から、みなさんの炭素・窒素同位体比を解析して、その人がふだんどんな食環境にあるかを調べているんです」と言う。




炭素・窒素同位体比って何だろう?と思わないでもないが、まずは下のグラフを見てもらいたい。縦軸は人間の体内にある重い窒素の割合を表していて、横軸は重い炭素の割合を表している。この窒素と炭素の量が人によってそれぞれ異なり、さらに住んでいる国やその時代によって違うのがおもしろい。




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陀安さんは、続ける。

「簡単に言うと、左下の方向にいけば、植物性タンパク質(野菜・豆腐・納豆など)の影響を多く受けていて、上の方向に行くほど、魚の影響を受けているんです。あと、右の方向は、トウモロコシなどの飼料を餌に育てられた肉類の影響を受けていると考えられます。

例えば、実際の髪の毛から得られた各国別のデータを見てみると、左下の方にあるのはインドの菜食主義者で、やはり野菜を多く食べていることがわかりますよね。

逆に、ブラジル人やアメリカ人は右の方にありますが、北中米大陸ではトウモロコシ飼料などのC4植物(サトウキビやトウモロコシなど、高い二酸化炭素濃縮機能を備え、高温乾燥した過酷な地域でも生育できる植物)で家畜を育てているので、その肉の影響を受けていて、牧草で家畜を育てるヨーロッパのオランダは一番左にあります。

ちなみに、江戸時代の日本人の髪の毛は、魚と野菜(米)の割合が高くなっています」




後編に続く


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前編を読む






ヒトは成長の遅くなったサル?



時計の時間は、天体が一様に動いていく時間だ。無慈悲で、まったく手の届かないところにある時間を、私たちは客観的な時間だというふうに認識するようになった。だが、ヒトという動物はゆっくりと生きるという戦略をとって、そんな時間の進み方を遅くしてきたと、井上さんは語る。

ヒトは一生を80〜100年かけて生きるが、他の生物に比べて遺伝子の情報の読み出しが非常に遅い。

一つの細胞分裂にかかる時間は、大腸菌で20分、イースト菌は2時間だが、ヒトは20時間もかかる。胎児の期間に成長する速度も遅い。生まれた後の成長もチンパンジーと比べても遅い(図1)。


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ヒトは胎児の初期、ねずみの1日を4日間かけて成長する。生後ヒトは、ねずみの1日を30日かけて生き、ねずみの一生が3年で終わるところを、80〜100年かける。ヒトの性成熟も遅くて15〜16年かかり、18年もかかって大人になる。また、ヒトが特異なのは、生まれてだんだん身体のプロポーションが変わっていくこと。ヒトのように4分の1頭身が8分の1頭身になり、足の長さが2倍になる生物は他にはいない(図2)。


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ヒトの遺伝子はチンパンジーと1.2%しか違わず、ヒトは幼児のチンパンジーに酷似している。サルの幼児は毛が生えていない。骨がやわらかい。歯が生えていない。そこからこんな仮説が生まれた。ヒトは、サルの幼児の特性を持っているのではないか?

「サルの集落の中で、おそらく成長が悪かった突然変異が現われて、それがヒトになったんじゃないかと、あくまで仮説ですが」

笑いながら、井上さんは続ける。

いつまでも子供のような顔をしているので、サルの中に生まれた発育不良のヒトの祖先は、可愛がられたのではないか。ヒトというのは成長の遅くなったサルで、成長が遅く、脳と生殖能力だけは正常だったということを生かして、地球での繁栄を勝ち取った。

「私たちは、時間を遅くすることによって、この地球上で繁栄したのではないでしょうか?」




人間の精神の健全さは、過去・現在・未来の時間の割合が決める



また、分子レベルで見ても、人ほど無駄なものを保持している生物はいない。ヒトの身体の一個の細胞は、引き伸ばしたら2mに達するようなDNAを持っているが、それのわずか1.6%しか使っていない。

「でも、その無駄が、もしかしたら将来何かがあったとき、生き残るための資源として残しているのかもしれないのです」




ヒトはこのような分子や生理上の複雑さを守るために、何事も非常にゆっくりすすめる戦略をとっている。しかしと、井上さんは言葉を継ぐ。

「ヒトは21世紀になって、こんなに急いだ社会をつくってどうするのでしょうか? 効率を求める社会と、ヒトという生物の特性がどこかで、そろそろ矛盾しかけているのではないかと思うんです」




物理的な時間が絶対的なものであるのに対して、生命の時間はなんとか私たちの手の届くところにある。過去を語れば、過去に隠れていた失敗から新しい智恵が飛び出し、未来を夢見れば、未来という時間が今を包み込んでくれる。

「人間の精神の健全さというのは、過去、現在、未来をどのくらいの割合で取り入れるかという、その比率で決まってくるのではないでしょうか」




生命の時間には血の通った人間の希望が含まれている、と言う井上さん。

若い人に伝えたいのは、時間は自分でつくれる、生活が時間をつくるということです。時間には濃淡があって、その濃淡をうまく利用できれば、時間がうまく使えます。頭が働く時間があるし、運動が得意な時間があって、私たちの身体の中の時間は同じではない。その時間にうまく生活を合わせれば、私たちの時間はもっと鮮やかになるはずです。生物の生命の時間をうまく使えということなのです」

(編集部)




いのうえ・しんいち

山口大学時間学研究所教授。東京大学大学院理学系物理専攻修了。三菱化成生命科学研究所脳神経生理学研究室研究員、ノースウェスターン大学研究員を経て、山口大学教授。山口大学学長に就任した広中平祐氏の提唱した時間学研究所の設立に参加し、2004年まで所長。著書に、『脳と遺伝子の生物時計』共立出版、『時間生物学の基礎』裳華書房、『やわらかな生命の時間』秀和システム、などがある。

山口大学時間学研究所

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(2006年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第63号 [特集 鮮やかな時間をあなたのものに—時の贈り物]より)




時間はつくれる。時間を遅くすることでヒトは生き延びてきた。



時間はいつどこで生まれたのだろう?
時間はたった一つのものだろうか?
そして、時間は誰のものだろう?
時間学を研究する井上慎一さん(山口大学時間学研究所)に、生命の時間の不思議について聞いた。





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時間を長くする方法—自分の知らないこと、できないことをする



時と場合によって、人はその時間を長く感じたり短く感じたりする。また、年齢によっても感じる時間は違う、とよくいわれる。

10歳の人の1年はその人の人生の10分の1で、60歳の人の1年は60分の1だから、60歳の人の1年は短いのだという説明がある。

また、子供の頃は短い時間しか自覚できないが、大人になると1年、2年先のことが予想できるので時間が短くなるという、時間に対する視野が違うという説もある。さらに、生理学的に運動能力が衰えるという説明もある。人が年をとると、同じことでも時間がかかるから、時間が短く感じられるというものだ。




だが、井上慎一さんが一番気に入っている解釈は、脳の中にある海馬と記憶の話である。記憶があってこそはじめて時間が感じられる、過去と今を比較してその間に時間を感じ、意識されるという説だ。

脳の海馬という場所は、記憶のあり場所といわれる所で、事故でそこを損傷すると人は記憶を失い、同時に時間を失う。直前の過去のことも覚えられないから、今という時しかなくなってしまうという。





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「海馬は、外界の世界の記憶を大脳皮質に振り分けるのですが、その振り分けの回数がそのまま、私たちが感じる時間に比例しているんですね。子供の頃には脳の記憶というのはまっさらですから、海馬を経由して記憶を蓄える回数が多い。年をとって経験を積んでくると、すでに脳の中に蓄えられているので、海馬を経由する回数が減ってくる。それで時間がだんだん短くなってくる、時間が短くなるということは成熟した証なのです」と井上さんは言う。




だから、もし長く生きたいと思ったら、海馬を働かせること。自分の知らないこと、できないことをやれば、時間は長くなる。例えば外国旅行に行ったときの1週間は、ぶらぶら1週間を自分の家で過ごした時間よりはるかに長く感じられる。

しかし、時間が長い方がいいのかというと、「それはわからないですね。例えば苦しい時間は長い。不幸が起こった年は長いと感じる。1年が短かったというのは、幸せな1年だったと思うことですよ。安穏に過ごせたということなのですから」



 

江戸時代、時間を守るという言葉はなかった



人間が最初につくった時計は紀元前3000年頃、エジプト人の手によって、太陽のつくる影で時間を知る「日時計」だった。同じ頃に中国人も「日時計」を作ったといわれている。機械式時計ができたのは1300年頃で、ヨーロッパの教会の工房で発明され、その後、時間は社会の共有物となっていった。

一方、日本では、江戸時代になっても、時計はなく、夜明けから日没までを六等分して時間を決めるという不定時法に従って人々は暮らしていた。当然のことながら、季節によって、また昼か夜かによって、時間の長さが違っていた。

「わずか百数十年前ですが、江戸時代には少なくとも、日本人の社会規範の中に時間を守るということはなかったはずですね。人を待たせてはいけない。でも時間を守るとは言わなかったんです」




そして時を経て現代、私たちの腕時計の時計が表す時間は、ニュートンの作り出した物理的時間である。

「私たちが常識にしている時間は、もともとは天体の運動から導かれた、絶対的な時間ですね。それが、共通の社会のルールになりうることから利用しているにすぎないのですよ。待ち合わせをするための道具として時計を使い、あるいは経済上の都合で人に賃金を払うときに使うために」




ところが、物理的時間に対して、もう一つ忘れてはならないのが私たちの体内にある生物的時間である。規則正しく動く天体の動きと、生物である人間の身体の中の動きは違っている。心臓から出ていった血液は1分かからずに戻ってくるが、半分以上の血液は静脈の方に溜められ、例えば走り出すやいなや20倍もの血液を流し始める。

また、ヒトが体内に持っている生物時計は、物理的時間よりも遅い。他の動物はだいたい24時間プラスマイナス10分ぐらいだが、ヒトは25〜26時間の生物時計を持っている。

ヒトだけがほっとけば、物理的時間に遅れていくような生物時計を持っています。おそらくは、ヒトというのは生物として1時間ぐらいはずれてもいい時間を持っていた。かつては、それで何も問題はなかったんですよ」




後編へ続く


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(ビッグイシュー・オンラインは、社会変革を志す個人・組織が運営するイベントや、各種募集の告知をお手伝いしております。内容については主催者様にお問い合わせください。)




住宅政策の新たな挑戦 貧困化、高齢化と移民の社会にどう応えるか?




使用言語:フランス語 (同時通訳付き)

日時:2013年07月06日(土) 10:00 - 17:15

場所:日仏会館 1階ホール

10:00 〜12:30 ドキュメンタリー上映
『移民の記憶―マグレブの遺産』、第二部「母」
【監督】ヤミナ・ベンギギ、1997、フランス語・日本語字幕

『さようならUR Goodbye UR―Japanese Social Housing Crisis』
【監督】早川由美子、2011、日本語・英語字幕

13:30 〜15 : 15 ラウンドテーブル 1 : 保護か監視か、問われる住宅政策
【報告】
マルチン・オリベラ (人類学、NPO Rues et Cités)
公共政策によって創出される『流浪の民』:ルランスにおけるロマ移民の不法居住地について

稲葉剛 (NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事)
現代日本における住まいの貧困

セシル・浅沼=ブリス (都市社会学、日仏会館 ・フランス国立研究センター)
窮地に陥れるための擁護か?福島における移民管理の道具としての住宅

【司会】
エレヌ・ルバイ(日仏会館・フランス国立日本研究センター)

15:30 〜17 : 15 ラウンドテーブル 2 : 社会住宅・移民・高齢化
【報告】
李 錦純 (看護学、兵庫県立大学)
在日外国人の人口高齢化と介護の現状ー在日コリアンの在宅ケアを中心に

マルク・ベルナルドー(社会学、ル・アーヴル大学、フランス)
移民労働者用宿舎に迷い込んだ高齢者移民—行政的な圧力と社会的な保護と連帯

森千香子( 社会学、 一橋大学)
郊外の比較社会学ーグローバル化にともなう団地の変容を中心に

【司会】
伊藤るり (社会学、一橋大学)


【主催】 日仏会館フランス事務所
【共催】 一橋大学、ANR-JSPS chorus ILERE
【協賛】 ダランベール基金(アンスティチュ・フランセ)
【協力】 明治学院大学

* 参加者限定の研究セミナー等を除き, 特に記載のない限り, 日仏会館フランス事務所主催の催しはすべて一般公開・入場無料です. ただし, 席数の都合でご入場いただけない場合もありますので, 予めご了承ください.参加申込はメールで(contact[の後に@mfj.gr.jp] まで)どうぞ.




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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集長のイケダです。最新号の読みどころをピックアップいたします。続きを読む
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(2013年2月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第178号、「ノーンギシュの日々--ケニア・マサイマラから」より)




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密猟によるアフリカゾウ絶滅の危機―日本の象牙買い取りが引き金に。1989年、象牙販売は全面禁止



広大な緑色のサバンナの中をゆっくりと歩いていくアフリカゾウの群れは、サファリのシンボルの一つだ。しかし、そのアフリカゾウたちが今後10〜15年でこの地球上からいなくなってしまうかもしれない危険に脅かされている事実は、あまり知られていない。

本来は、アフリカゾウが自分の身を守るために使っている象牙。その象牙が今、アフリカ全土でかつてない規模で繰り広げられている密猟のせいで、ゾウ自身にとって呪われたものとなってしまった。




今世紀始まって以来、アフリカ諸国は史上最悪の象牙密猟問題を抱えてきた。いっこうに減る傾向が見えない象牙需要を前にして、「この地球からアフリカゾウがいなくなる日」も、そう遠い日ではないと思わざるを得ない。そして、このアフリカゾウがいなくなる原因の大きなキッカケをつくってしまったのは、他でもない2000年に日本企業が合法的に購入した象牙なのだ。

アフリカゾウ殺戮の歴史は、現在に始まったわけではない。1980年代には象牙やトロフィーハンティングの影響で、アフリカゾウの全体の約半数といわれる72万頭がその命を落とした。当時の日本は全世界の象牙消費の40パーセントを占める「象牙大国」。これは、70年以前までは印鑑の先端だけが象牙で作られていたのに、70年以降は印鑑全体が象牙ものが好まれ始めたことが原因だといわれている。





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80年代までのアフリカゾウはワシントン条約会議で「附属書Ⅱ」とされていた。「附属書Ⅱ」に載った動物は国際取引で国同士の取引を制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなる恐れがあるとされ、象牙などの輸出は可能だが輸出国の政府が発行する許可書が必要とされていた。

ところが、日本の象牙需要が伸び、現地での密猟が増加したため、アフリカゾウの絶滅を心配した国際保護団体などのアピールにより、89年にはワシントン条約会議で国際取引の規制対象になっていたアフリカゾウの附属書の見直しがされたのだった。

その結果、アフリカゾウは「附属書Ⅱ」から、今すでに絶滅する危険性がある生き物に指定された「附属書I」に移行された。「附属書I」に載った動物は商業のための輸出入は禁止され、全世界で象牙販売が廃止されるに至った(学術的な研究のための輸出入などは輸出国と輸入国の政府が発行する許可書が必要とされる)。




日本と中国の合法象牙取引が象牙市場を復活させる



ところが00年に、再びアフリカゾウたちの平和な日々を脅かす時代の幕開けとなる出来事が起こる。

97年のワシントン条約会議により、 南部アフリカ諸国(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ)からの象牙が「附属書Ⅱ」に戻され、00年に流通・販売実験 として日本が約50トンの「合法象牙」を500万米ドル(約5億2千万円) で買い取ることが許可された。この合法象牙の流出は、象牙密猟者、販売カルテル、 そして消費者に「象牙ビジネス再開」という大きな勘違いを植えつけてしまった。

その後 06年には、南ア、ジンバブエ、ボツアナ、ナミビアから60トンの象牙が日本にのみ取引許可されたことで、08 年には「一回限りの販売」として、中国とともに日本は108 トンの象牙の買い取ったのである。




象牙の国際取引には、「ゾウの保護に役立つ適切な国際取引」と「ゾウを絶滅に追いやる違法な国際取引」の二つがあるといわれている。確かに書類上はそうかもしれないが、実際には合法象牙と違法象牙を区別することは簡単ではない。本来は、象牙市場に合法象牙を過剰に供給することで密猟を減らす試みが、実際には正反対な効果が出てしまったのだ。

つまり、合法象牙取引が象牙市場に加算されたことで、象牙の需要が復活して象牙価格が上がってしまい、違法象牙取引も復活してしまった。

本来なら自然死や害獣コントロールで殺されたゾウの象牙だけが国際取引の対象になるはずだった日本と南部アフリカ諸国の合法象牙取引は、実際には「アフリカゾウの乱殺」と「象牙のローンダリング」(違法象牙を合法の象牙として流通させる)が可能な土台を築き上げてしまった。






たきた・あすか(滝田明日香)
1975年生まれ。NY州のスキッドモア・カレッジで動物学専攻。大学卒業後、就職活動でアフリカ各地を放浪。ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。現在はケニアでマサイマラ巡回家畜診療プロジェクトなどの活動を行う。ノーンギシュは滝田さんの愛称(マサイ語で牛の好きな女)。著書に『獣の女医 ―サバンナを行く』(産経新聞出版)などがある。

https://www.taelephants.org/
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7月1日発売のビッグイシュー日本版218号のご紹介です。



ビッグイシュー・アイ 想田和弘監督


前作『選挙』では、究極のドブ板選挙を描いた想田和弘監督が、震災直後の川崎市議会選挙で「反原発」を掲げて再出馬した“山さん”を再び追う。ドキュメンタリー映画『選挙2』から見える日本社会の今とは?



スペシャルインタビュー VAMPS


つくりこまれた骨太のロック・サウンドと独自の世界観を掲げ、数多のステージで暴れまわってきたVAMPS。結成5年、夢を追い続ける二人が、本格的な海外進出への意気込みを語ります。



リレーインタビュー 私の分岐点 塩谷哲さん


サルサバンド「オルケスタ・デ・ラ・ルス」のピアニストとして、国連平和賞などを受賞し、その後もソロで活躍を続ける塩谷哲さん。分岐点の一つは、前号に登場した小曽根真さんとの出会い。デュオで共演し、その「聴く」力に衝撃を受けたと言います。



特集 小水力発電。自然エネルギーの突破口


水力発電と聞くと、黒部ダム(出力33.5万kW)などの大型ダムを思い浮かべます。しかし、125年前(1888年)に始まった日本の水力発電の技術は、1000kW以下の小水力発電によって確立されたといいます。
今、小水力発電(1000kW未満)のもつ可能性は、出力で黒部ダム15個分の約490万kW、その適地は1万7708ヵ所あると見積もられ(環境省)、適地の半分は短期間で開発できるといわれています。ところが、現実の小水力発電の数は522ヵ所で、3パーセントにも満たない状況。はるかに適地の少ないドイツでも、日本の14倍、7325ヵ所もあります。
そこで、「分散複合型のエネルギーシステムへ転換のトップバッターになりうる小水力発電。その開発を最優先すべき」と語る小林久さん(茨城大学教授)に話を聞きました。
また、小林さんの案内で、約半世紀にわたり小水力発電所を運営してきた岡山県西粟倉村と、現在、計画中の高知県の馬路村、高知市土佐山の現場を訪ねました。さらに、1919年から94年間、電気を供給し続けてきた愛媛県新居浜の住友共同電力の小水力発電所を取材しました。
再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度のスタートから、ちょうど1年。現行の大規模集中型から分散複合型のエネルギーシステムへの転換の突破口であり、その鍵をにぎる小水力発電について考えました。



この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。

最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
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