(2013年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 229号より)

オーガニックマーケット。作る人と食べる人がともに食を考えた



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(こたつを囲んで、生産者と消費者が語り合った「ふくしま有機農業女性の会」ブース)

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、農地が汚染された福島県。食や農産物の安全と安心を考えようと、有機農業者やその加工品の生産者、そして消費者などが参加した「ふくしまオーガニックフェスタ2013」が11月23日、郡山市で開かれた。

福島県や周辺地域などでは、農業者団体や行政によって、放射能測定器で農地や農作物の汚染度を測ってから栽培、収穫、販売することや、できる限り数値をゼロに近づけるための取り組みが続いている。今回のイベントの目的は、「子どもたちの生命と健康を守りながら、地域コミュニティを大切にした食と農のありかたはどのようなものかを、生産者と消費者が一緒に考えたい」というもの。

屋外のマーケットエリアでは、有機農業、自然農業で生産した農作物を販売する「オーガニックマーケット」のテントがずらりと登場。テントの前で足を止める来場者に、生産者が直接、農作物の栽培の様子や土づくり、作物の特徴、放射能測定の重要性を紹介しながら、有機野菜の販売や情報交換が行われた。

「ふくしま有機農業女性の会」(福島県二本松市)は、会場のブースにこたつを設置し、女性の会のメンバーと来場者ら12〜13人が一緒にこたつに入り、福島の農業や農業者が抱える課題について対話するイベントを企画。

福島の農業者の女性は「放射能の影響がどうしようもないという時、首都圏の消費者の方から声をかけてもらって元気が出た。課題を共有し、これからどのような農業を目指していったらいいのか話し合いたい」。首都圏から駆けつけた大学生の女性は「農業を応援したいという思いがずっとあった。こうして農家の方と直接お話ができてよかった」と語り、参加者の男性も「こうして生産者と消費者が顔を合わせて話をすることが、とても大事」と話した。

友人と来場した恵泉女学園大学(東京都)の西川しおりさん(大学3年)は「震災後、被災地を応援するということで、大学でオーガニックカフェを続けてきた。会場で、世田谷の『ふくしまオルガン堂下北沢』の方や農家の方とお会いし、有機農業についてより深く考えることができてよかった」と笑顔で語った。

(文と写真 藍原寛子)
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寝る前に考えたり想像したりして、なかなか眠れません……



小さい頃から、寝る前にいろいろ考えたり想像したりして眠れなくなることがよくあります。「今日こんなことしたなぁ、そういえばあんなこともした」と思い出しているうちに、勝手にストーリーを想像してハラハラドキドキしてしまうんです。「早く寝なきゃ」と焦って羊を数えるんですけど、また想像の世界に飛んでしまってなかなか寝つけず、授業中は睡魔に襲われてばかりです。
(女性/20歳/大学生)


これは全然悪くない癖だと思うな。私もやってます。眠たくなるまでいろんな想像をめぐらすんですよ。よくやるのは、宇宙とか大好きなんで、そのことを考えちゃうのね。

たとえば漫画やテレビドラマで、月と地球の間に宇宙ステーションが7つくらい並んでるじゃないですか。月と地球の間には、互いの引力がちょうど均等に取れる7つの「ラグランジュポイント」っていうのがある。それぞれのポイントに衛星が並んでいるわけですよ。これはガンダムからの話なんですけどね(笑)。

本当にそれが可能なのか。どういうふうにしたらできるのかとか。そこに住んでいたら地球みたいに地平線は見えるのか。上を見上げたら家が逆さについているのか。どうやってビルを建設するのかとか。答えの出ないわけのわからんことを考えると、だんだん眠たくなってくる。嫌なことも忘れるんですよね、不思議なことに。

起きている間は仕事のストレスとかたまっていて、失敗やらトラブルやら、寝る前にどっと浮かんでくるのね。今日起こったことを考えたらハラハラドキドキというより、緊張してしまう。身体も寝つけへんから、そこで違うことを考えたらどうやろう。明日どういう服を着ていこうか、お弁当どうしようか、友達や家族のプレゼント何にしようかとか。もっと楽しいことを考えるように切り替えてみません?

突きつめなくていい楽しい想像や、答えの出ないネバーエンディングストーリーは、リラックスして眠くなる。

それからもうひとつ、もし羊を数えるなら、羊に服を着せてみる。マフラーをした羊が1匹、靴下をはいた羊が1匹、ジュビロ磐田の服を着た羊が1匹、っていうふうに。そうするとややこしくて面倒になって寝ちゃうから(笑)。もっとすごいのは、13450匹、13451匹、といったように、スタートする数をすっげぇデカくしてみる。そうするとこれもややこしくて面倒になって寝ちゃうよ(笑)。一度試してみてください。

(大阪/Nさん)
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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。現在発売中の234号から、読みどころをご紹介いたします。

被災地で仕事をつくる女性たち



最新号の特集は「被災地、女性の仕事」。被災地から新たなビジネスを生み出す女性たちのプロジェクトが7つ紹介されています。

1つ目に紹介されているのは、編み物チーム「Tsubomi」。不要な服や布を一度切ったり裂いたりしてつなぎ、かぎ針で編む「さき編み」と呼ばれる手法で製品をつくっています。紙面には野田治美さんのインタビューが掲載されています。

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2つ目のチームはアクセサリーブランド「Amanecer(アマネセール)」。おしゃれで丈夫で手頃なアクセサリーが受け、「現在は20代、30代の女性10人以上が月2〜3万円、時給800円程度の収入を得ている」そうです。

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3つ目のチームは「ソーシャルニットワーク・プロジェクト」。会津若松市と宮古市で編み物商品を製作するチームです。地域や団体を超えた横断的な活動となっています。

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4つ目のチームは「にこまるクッキー」。会津市、陸前高田市、遠野市、仙台市、石巻市、そして東京で作られているクッキーです。売上の40%が生産者に分配される仕組みになっています。紙面では東京に自主避難してきている女性たちにお話を伺っています。

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5つ目のチームは「かーちゃんの力・プロジェクト」。約20名のスタッフがクッキー、マドレーヌ、炒り豆、調味料、お弁当などなどの商品をつくっています。「避難直後は目標を持つことさえできなかった私たちが、今は"多くの人に喜んでもらえるものを作りたい"と仕事をしています」と語るのは、代表の渡辺とみ子さん。

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最後に紹介されているチームは「みんなのカフェ」と「キッチンNagomi」の2つのチーム。京都に避難してきた人々が立ち上げた素敵なカフェです。近隣の読者の方はぜひ足を運んでみては。

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紙面では、すべてのチームの方々に、詳しい取り組みの内容と、その想いを語っていただいております。東京からでも関われるプロジェクトも多いので、ぜひご一読の上、アクションを取ってみてください。

その他、最新号では歌手の「ZERO」のインタビュー、16歳にしてグラミー賞を獲得した歌姫「ロード」のインタビューなどが掲載されています。「ピープルツリー」の限定クーポンも付いているので、こちらも気になる方はぜひ。

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。


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前編を読む

どんぐりの粉も私の食欲をそそらなかった。どんぐりは、ポリフェノールの一種であるタンニンを豊富に含むスーパーフードだ。ソフィーが教えてくれた食べ方では、まずローストし、それから、乳鉢と乳棒でどろどろになるまですりつぶす。ペースト状になったどんぐりをストッキングに入れて、流水にさらす。「それでもまだ苦味が残っているかも」。「それだけ手をかけてもまだ苦いの?」。そう泣き言を言った私は、便利な現代生活にすっかり甘やかされた怠惰な欧米人そのままだった。

ありがたいことに、ソフィーは野生食以外のものを一切認めない原理主義者ではなかった。「オリーブオイルやバター、塩を入れるのがポイントなの。きのこだって、味つけしなければたいしておいしくないのよ。炒め物や煮込み料理に使ってはじめて風味が引き立つきのこもあるし」。楽しそうに話しながら、ソフィーは薄暗い森へと進んでいく。

「おっと!こっちにもあったわ」。急いでソフィーのところに向かうと、菌床を傷めないようにマイタケを根元から切り取っているところだった——菌床を傷めないのは野生のきのこを採集するときの鉄則だ。マイタケはメロンほどの大きさで、4人分の料理2食分はありそうだ。おまけに、木の裏側に同じくらいのサイズのマイタケがもうひとつ見つかった。そのオークの木は、「森の雌鳥」の巣だったのだ。

次に私が叫び声をあげた。「私がみつけた最初のマイタケよ!」。マイタケはちょうど食べごろだった。成長しすぎると、水分が抜けてやわらかくするのに何時間もかかるのだ。

マイタケ

収穫はマイタケだけではなかった。ムラサキシメジに、ほのかな紫色をしたウラムラサキ。どちらもいい香りがする。

「キツネタケは、子どもたちのキノコ狩りにぴったりね。いい風味づけにもなるのよ」

だが、あいにく「ビーフステーキ」は見あたらなかった。英語でビーフステーキマッシュルームと呼ばれるカンゾウタケは、「見た目は赤くてぶあついタン(舌肉)のようで、木の枝から垂れさがって生えるのよ」とソフィーが教えてくれた。タンのように見えるキノコをいくつか見つけた私はにんまりとして指さしたが、ソフィーは「それは猛毒」と答えて肩をすくめた。

今年は、きのこの様子が例年とは違うようだ。その日はさらに、マイタケが二つ、傘の裏側に美しい光沢のある肉厚の立派なヒラタケも見つかった。おまけに通常なら9月末には姿を消している、イロガワリキイロハツまで。

ワイルドロケットとタンポポは サラダ、マイタケはリゾットに



家に戻る道すがら、一面にしげるローズマリーの何本かの小枝をちぎりとった。ローズヒップに、皮がしわしわになった野生リンゴ、ワイルドロケット、それにタンポポの葉っぱだって、立派なごちそうになのだ。

タンポポ

ワイルドロケットとタンポポの葉に、スーパーで買ったレタスとオーガニックのニンジンをあわせ、それに採集中に出会った、北ロンドンで八百屋を営む年配のギリシア人からもらった野生のクルミをくだいて混ぜた。ドレッシングは、レモン汁とオイルをベースに、少量のザクロジュースとシーソルトを少々。ディナーの完成までもう少しだ。マイタケは一部を小房にわけて、パルメザンチーズとパセリをかけた伝統的なスタイルのリゾットに。45分かけてゆっくり煮れば、鶏の胸肉のような歯ごたえになる。本物の鶏肉もほんの少し加えてみたが、マイタケの風味の足元にも及ばなかった。

実際のところ5食分になるほど大量のマイタケがあったので、採集仲間の一人を招待すると、別の市内の公園でとったというスモモの一種のスローベリーを漬けこんだリキュールを手土産に持って来てくれた。残ったマイタケは、後日、ローリエとタイムをきかせたオリーブオイルで素揚げにしたり、チリとガーリックで味つけをしたパスタにした。最後に残ったマイタケのかけらはバターで炒め、トーストにのせてたいらげた。

夫がお返しにと、シナモンとクローブを入れたレモン汁で煮て、カスタードクリームをからめたマルメロとリンゴのデザートをつくってくれた。どちらも、近所の木から熟して落ちたものだ。自然の恵みを存分に満喫した1日だった。

 (The Big Issue/Daemienne Sheehan)
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(2008年4月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 93号より)


野草は究極の地元素材。南ロンドンの公園で野生食ハンティング



高級レストランにひとり占めさせるなんてもったいない! 家の近所でみつかる自然の珍味を食べてみよう。それは地球に優しいライフスタイルでもある。ダミエンヌ・シーハンによる野生食体験記をロンドンからお届けする。


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ロンドンで都市の野生食者が急増中



それはまさしく運命の瞬間だった。地元のいきつけのパブにいると、いかにもカントリー・ガールといった風貌の美人がやって来て、南ロンドンの公園で2キロもの「森の雌鳥」(マイタケのこと)をみつけたとすっかり興奮した口ぶりで話したのだ。

その女性はソフィー・ターノイ。プロの野生食ハンターだ。彼女は、「オリーブオイルで揚げて食べるといい」と言って収穫の一部を気前よくわけてくれた。私は、採集に一緒に連れて行ってくれるようにソフィーに頼みこんだ。

大都会ロンドンの公園で野生の食物を採集し、なかでもベジタリアンにとっての上質のたんぱく源の一つといわれるマイタケをメインディッシュにして、まともな食事ができるか試してみようと思ったのだ。ソフィーは快諾してくれた。数日後、ナイフと採集バッグを携え、名前は明かせないが、誰もが知っているロンドンのとある公園に向かった。こうして私は、最近急増している都市の野生食愛好者にさっそく仲間入りすることになった。

ニューヨークでは、野草探索ツアーを主催し、ナチュラリストとして有名なスティーブ・ブリルが、数年前にセントラルパークでタンポポをつんで食べたところを公園管理局によって包囲されて逮捕されるという騒ぎを起こした。だが、幸いにも、証拠を食べてしまっていたおかげで、指紋を取られただけで釈放された。

タンポポ

英国では、公園で野草を食べたからといってそんなひどい目にあうことはないし、長距離空輸によって食物のビタミンやミネラルが失われるという報告がされて以来、最近では都市住民の間で地元産の果物や野菜への需要が急速に高まっている。自宅のそばの公園こそ、究極の「地元」といえるだろう。


ガーデニングの大敵ヒルガオは食べて退治




ヒルガオ
英国の若手人気シェフ、ジェイミー・オリバーの「フィフティーン」をはじめ高級レストランが次々と野生の食材をメニューに採用するようになったとはいえ、みずから採集におもむくとなると気後れする人が多いのが現状だろう。もったいない話だ。

ありがたいことに、法律では、海辺や歩道、乗馬道などの共有地や公有地から野生の植物を採集することを禁じていない。イラクサやタンポポ、ギシギシなど食用にできる植物も除去すべき雑草とみなされており、ヒルガオも例外ではない。ほうれん草に似たヒルガオをサラダやガーリックソテーにして食べてみるといい。ガーデニングの大敵であるヒルガオだが、おいしい退治方法としておすすめだ。

まずいという先入観も、野生食が敬遠される理由のひとつだろう。ごく普通のイギリス人家庭の食卓で、渋みや苦み、泥臭さがそれほど歓迎されるとは思えない。実際に秋咲きのタンポポの葉を食べてみたが、その苦味は強烈だった。肝臓を赤ちゃんのころのようにきれいしてくれようと、イボを取ってくれようと、どうでもいい。あわてて吐きだすと、口直しのミントを口にほうりこんだ。

<後編に続く>
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3月1日発売のビッグイシュー日本版234号のご紹介です。
グラミー賞の年間最優秀楽曲賞を獲得したロードが表紙を飾ります!

特集 温、魅、質。被災地、女性の仕事づくり
東日本大震災から丸3年、今、被災地の女性たちがつくりだしている仕事は、温かく、魅力的で、ハイレベル。それは、なぜでしょう。
被災地外の市民が被災地の女性たちの仕事づくりをサポートしたいと動きだし、それに応えて始まる仕事、あるいは、被災地の女性たちが新しい仕事を始めたいと動き出したとき、サポートに現れる市民たち。仕事をつくっていく志、生みの苦しみと緊張感、両者の交流やプロセス、そこに、希望や生きがい、生きる喜びが生まれ、思いもかけなかったかたちで、仕事が誕生する。そんな作品と作り手に会いたくなる7つのチームを紹介します。

スペシャルインタビュー ロード
シンプルでありながら一度聴いたら忘れられないサウンドと、深く響く歌声。16歳にして瞬く間に全米・全英チャートの1位を獲得し、今年はグラミー賞の年間最優秀楽曲賞にも輝きました。ニュージーランド出身の歌姫ロードの、シャイな素顔に迫ります。

リレーインタビュー。私の分岐点 歌手 ZEROさん
ドラマ『美しき日々』の主題歌をきっかけに人気を博した、ソウル出身の歌手・ZEROさん。今では日本を拠点に活動を続けており、「絶体絶命の自分にチャレンジする場をくれた日本への思いはとても強いものがあります」と、熱い思いを語ります。

国際記事 南アフリカ、マリカナ鉱山事件
2012年8月、南アフリカのマリカナ鉱山で、ストライキに参加した労働者たちに対し、警察が機関銃を発砲して34人を殺害する事件がありました。英国人のベテラン弁護士ジム・ニコルは、事件後現地に渡り、真相究明と遺族の救済のために闘っています。二コルさんに事件の経緯、マンデラ後の南アフリカの行方について聞きました。

映画インタビュー 『僕がジョンと呼ばれるまで』太田茂監督
アメリカの介護施設が舞台のドキュメンタリー。認知症患者の1人エヴリンが、次第に冗談好きな“自分らしさ”を取り戻す旅は、家族の希望となりました。症状でなく人間を描くため、家族の視点が必要だったと監督は語ります。

この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。

最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
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<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>


賃貸住宅政策の再構築を ─公的住宅の拡大と、公的保障制度の導入、家賃補助の恒久化を



低所得、かつ不安定な雇用の拡大により、住宅購入が困難な世帯が増加している。戦後、持家取得の促進を中心に展開されてきた住宅政策を、住宅所有形態の選択に中立的な政策へと転換する必要性が高まっている。

賃貸住宅政策の再構築にあたり、まず、全住宅のわずか4%にまで落ち込んだ公営住宅ストックの供給量の拡大を図るとともに、老朽化した住宅の適切な改善・更新が求められる。次に、民間賃貸住宅市場を維持した住宅セーフティネットの整備が急務である。

公的援助を通じ、低所得者や高齢者、障害者、母子世帯等の生活困窮世帯が入居可能な、低廉かつ良質な民間賃貸住宅ストックの形成が図られることが求められる。

このような生活困窮世帯向けの賃貸住宅の管理・運営の主体として、民間非営利組織などが活用され、生活相談などのサービスも含んだ包括的な居住支援がなされることが期待される。

また、賃貸住宅市場へのアクセスを可能にし、家賃滞納を保証する公的な仕組みの整備が必要である。さらには、低所得者を対象とした家賃補助の恒久化が求められる。(川田)


住まいとケアの統合を ─有効なアウトリーチによる見守り



核家族化や単身世帯の増加、高齢社会の拡大、貧困や格差の拡大など社会構造の変化が大きい時代になっている。そのなかで特徴的なことは、家族相互の扶養や介護などに期待ができない状況が出てきたということだろう。

個人では解決できない家族問題や生活問題の社会化が求められている。介護や介助、生活支援、見守りなどのニーズを有する人々に対し、家族以外の人や社会が、対応していくことを求められてきている。

その前提において、住宅政策も議論することが重要だ。一人で暮らせないなら施設という従来の考え方を超えて、支援体制を組み合わせながら、住み慣れた地域で暮らせるように支える仕組みが必要となる。

例えば、地域で空き家となっている住宅を有効活用しながら、ケア付き住宅やシェアハウスとして、活用していくことも必要だろう。住まいとケアの統合を福祉や住宅の垣根を越えて議論し、新しい実践の取り組みを進めていくことが求められる。そのようなケア付き住宅には、ソーシャルワークなど社会福祉援助技術を学んでいる専門職人材を積極的に配置していくことが不可欠だ。

そして、孤立死対策でも有効性が明らかとなっているのは、アウトリーチによる見守りである。一人暮らしでは誰も訪問することがなく、異常があっても気づかれない。しかし、多少のケアを導入する工夫をするだけで、訪問者が常にいる状況を作り出せる。食事提供や介護等をしなくても話し相手や相談相手になるだけでも生きがいが持てる人々も多い。施設でもなく、住宅提供だけでもない見守り型の中間施設の整備が今後も必要となってくるだろう。(藤田)


居住支援体制をつくろう ─実現可能かつ、多様な支援プログラムの展開



2007年に制定された住宅セーフティネット法は、低所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯など「住宅の確保に特に配慮を要する者」が民間の住宅に円滑に入居できるようにするため、地方自治体ごとに居住支援協議会を組織できると定めている。居住支援協議会は、それぞれの地域の自治体、不動産業者、民間の居住支援団体等によって構成されるとしている。

国土交通省は居住支援協議会の設立を各自治体に呼びかけており、1協議会ごとに年間1000 万円の補助を出しているが、2013 年 5 月時点で協議会を設立している自治体は 32 団体(24 道県、2特別区、6 政令市)にとどまっている。

各協議会の取り組みは様々だが、なかでも注目すべきは、シングルマザーなどを支援する NPOと連携して空き家・空き室を活用したモデル事業を実施している東京都豊島区の居住支援協議会である。ただ、実際にモデル事業を進めると、空き家の家主の理解がなかなか得られない、空き家が現在の耐震基準を満たしていないので活用できないなどの問題が生じているそうだ。

それぞれの地域の実情にあった居住支援プログラムを実施していくためには、行政と不動産業界、居住支援 NPO の連携は不可欠である。住まいの貧困が深刻化している大都市部では、すべての基礎自治体で居住支援協議会を設立してほしい。そしてすでに設立している自治体でも、市民に開かれた議論を行なうことで、協議会を活性化してもらいたい。(稲葉)


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(THE BIG ISSUE JAPAN 第128号より)

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いきつけのバーの店長に気に入られて困っています



最近よく行くレストランバーがあります。通ううちに常連さんたちと仲よくなれたのに、そこの店長の男性が私のことを気に入ったと言って、常連さんや近くの飲食店の人たちに「俺のハニーが……」と勝手に言いふらしています。せっかくそこで出会いを見つけようと思っていたのに、みんなに気を使われて、誰も誘ってくれません。どうにかして前の状態に戻したいです。店長も傷つけず、何かいい方法はありますか?
(女性/28歳/大阪府)


販売をしている時でも、けっこうお客さんでよくしゃべられる方がいらっしゃるんです。お客さんも「話をするのが楽しい」って言って来てくださいます。自分のことばかり一方的に言わんと、「最近調子はどうですか」って、まずはお客さんの話から聞きます。その後に自分の言いたいことをポンっと言うねん。「楽しい」って言って、30分くらいしゃべっていかれる方もいたはります。

そのレストランバーも、店員や常連と交わすおしゃべりを楽しみにしてみんな通っているんやろうし、相談者さんもきっとそうやと思うねん。でも、私も飲食店で働いていたことがあるけど、お客さんが楽しく過ごせるように一線を引くのは水商売の鉄則やわ。

私が昔行ったことのある居酒屋はたまたま開店したばかりやって、そこの女店長が帰りわざわざ見送りをしてくれてん。でも、ずーっとついて来るねん(笑)。気がついたらその店長さん、駅までついて来てたわ(笑)。「別に初めて来ただけなのにそこまでサービスしなくても」と、逆にかまわれすぎても行く気がしないものです。

そのレストランバーの店長さんは若いんかしら。はっきり言ってプロとして失格やと思います。お客さんを気に入って、しかも独り占めしたいんか知らんけど、周りに言いふらすなんてもってのほか。昔のバーのマスターたちは、本当にそういった部分の線引きがきっちりしていて格好よかったわ。今は時代が変わったせいかナアナアになっているのかもしれんけど、これはちょっとひどいわ。

もう別にこの店にこだわらずに、行かんといたらいいねん。別にここでなくても、いい店は他にもいくらでもあるやんか。この店にこだわることはないと思いますよ。せっかくお金を払って飲みに行くんやから、楽しくて気持ちよく過ごさせてくれる店に時間を使った方がいいと思うわ。

(大阪/Eさん)
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<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>


公的住宅保障の確立を:必要かつ必然。社会の安定、福祉コスト抑制に効果



住宅供給を市場経済にゆだねるのか、あるいは公的に推進するのかは、これまでも、住宅政策のあり方に関する基本的な争点となってきた。現実には、すべての人々が市場で住まいを確保できるという社会は存在しないし、政府がすべての住宅供給をコントロールするという社会も存在したことがない。政府と市場の役割をどのように組み合わせるのかが問題になる。

しかし、まず、重要なのは、住宅の公的保障の必要に関する理念の確立である。日本では、市場での住宅確保が困難な人たちがさらに増大すると予測される。人口は超高齢化し、経済は不安定なままで推移する。雇用と所得の安全性が回復する見込みは乏しい。家族世帯は減少し、より低所得の単身・母子世帯などが増える。社会・経済条件のこうした変動のもとでは、公的住宅保障の対象範囲の拡大が必要かつ必然になる。

住宅政策のための財政支出に社会的な合意が得られるかどうか、という問題がある。しかし、その投資が社会安定を支え、社会保障・福祉などのコストの増大を抑制する効果をもつ点をみる必要がある。住宅供給をもっぱら市場にゆだねる方針は、住む場所を得られない人びとを増やし、そこから増大する貧困は、膨大な対策コストを社会に要求する。この文脈において、これからの脱成長・超高齢社会では、住宅の公的保障を充実する政策は高い合理性をもつ。

(平山)

住宅政策から居住政策へ :セーフティネットから予防的連携・連動の方策へ



非正規雇用者や単身世帯、低所得高齢者等の居住不安定層の増加が予想される中、市場からこぼれ落ちる人たちを「住宅セーフティネット」で救う、だけでは量的に限界があり、予防の観点から、様々な施策と関係付けた総合的な政策体系としていくことが必要と考えられる。

そもそも安定した住生活を実現するためには、支払い能力に応じた適正な住居費負担で、モノとして居住空間の基本的な質が担保され、安心して暮らすことができる社会的な関係が備わっていることが求められる。また、そうした居住を確保する際、年齢や世帯構成、職業などによる入居の差別がない公正な市場が形成されていることが前提条件となる。

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これらの条件を満たす住宅政策を実現するためには多くの課題がある。例えば、適正な住居費の負担を追及するには、まず、それぞれの家計条件にとって適正といえる住居費負担(率)を明らかにすること、その住宅が当該居住世帯に適合した基本的な質を有しているかどうか、その家賃が住宅の質に対し適正であるかどうかなどを判断するための尺度や計測する仕組みがあること、医療・福祉施策やまちづくり・コミュニティ施策と連携・連動していることなどが求められる。

住生活基本法制定後、様々な市場施策や連携施策が生まれているが、これらを今一度、住生活の安定という観点から検討する必要がある。とくに、普遍的住宅手当などを円滑に機能させるためには、これまで住宅政策の中で見落とされていた「モノ:居住空間の質」「ヒト:社会的関係」「カネ:住居費負担」の相互の関係性を重視し、上記のような周辺システムを整備していくことが求められる。

そのためには、国や都道府県などが主導する広域対応の市場政策と、基礎自治体(市区町村)による日常生活上の課題に対応した部局横断型の連携施策を組み合わせ、居住政策として一体的に取り組んでいくことが望まれる。

(佐藤)


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