Genpatsu

(2012年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 204号より)




大飯原発に活断層? 問われる規制委員会



原子力規制委員会が発足してから2ヵ月が過ぎた。福島原発事故という大きな犠牲を払ってようやく発足した組織だ。

事故以前にあった、原子力安全・保安院は原発を強力に推進していた経済産業省の中にあり、規制組織が推進組織から独立していないと、国際原子力機関も長年にわたって問題にしてきたが、日本政府は規制は十分に機能しているとして、対応してこなかった。




ところが、ふたを開けてみると、原子力安全・保安院も原子力安全委員会も電力会社の言いなりだったことが、国会の中に設置された福島原発事故調査委員会によって明らかになった。

こうして9月に原子力安全委員会が原子力規制委員会に、原子力安全・保安院が原子力規制庁に改組され、強力な権限をもった行政委員会が誕生した。新しい原子力規制委員会だから、私たち住民の安全のためにきちんと規制活動を行ってくれないと困る。





ところが時間がたつにつれて、こうした期待が少しずつしぼんでいくことを感じている。大飯原発の断層をめぐる議論には落胆した。

2基が運転中の大飯原発の敷地内に、破砕帯が見つかっている。地面が割れてずれると、その接触面がこすれて粘土状になる。この部分を破砕帯という。これが今後も動く可能性があるのかどうかが問題だ。重要な機器や設備が破砕帯の真上に設置されているからいっそう深刻だ。

4人の専門委員のうち1人はまぎれもない活断層と主張、2人が活断層を疑い、1人が地滑りの可能性を示唆、そして関西電力だけが強く地滑りだと主張している。




島崎邦彦委員長代理は「12万〜13万年以降にズレが生じたことが確認された。活断層によるものだと考えても矛盾はない」としていたが、結局、継続して調査することになった。4人の専門委員がみな地滑りだと認めるのならともかく、活断層の疑いがある場合には、活断層と安全サイドに立った判断をするべき、と旧安全委員会の手引書に書いてある。判断の先送りといえる。

まず原発を建てる土地を手に入れた後に敷地の詳細な調査をしてきた経緯から、その段階で活断層が疑われても、ないことにして建設してきたのが実情だ。今、あちこちの原発敷地内に破砕帯が見つかっている。原発を止めるという判断ができるか、原子力規制委員会の真価が問われている。







伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)









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仕事大好き人間な私に迫られる、仕事か恋愛か。



最近フラレました。私の残業が多く土日も仕事で、「いつも二番手、〝都合のいい男〟なのが耐えられない」と言われたのです。いざ彼を失ってみて、彼がいたからこそ、つらい仕事も頑張れたと気づきました。今でも彼と電話やメールのやりとりをしますが、いざ復縁となると、聞く耳を持ってくれません。私も仕事優先の毎日に疑問を抱くようになってきてしまい、どっちを選んでも後悔しそうです。
(女性/会社員/35歳)





これまでこの女性は彼氏さんに「仕事も大事だけど、あなたも大事なのよ」ということを言ってこなかったんでしょうね。彼氏さんが女性のことを嫌いだったらメールも来ませんから、まだ復縁の可能性はあると思います。

ただし、二人で意地をはっていてもうまくいきません。はっきり言って、この二人を隔てているのは、恋愛ではなく、仕事なのではないでしょうか。




まぁ、これは僕の理想でもあるんですけど、彼氏さんは甘えたいんではないでしょうか。

「あなたはこうしたらいい」が、「私の言うことを聞きなさい」になってしまったんじゃないんでしょうかねぇ。女性は彼氏さんを守ってあげるぐらいの気持ちで、接してあげるといいと思います。




さっきも言ったように、二人の問題は仕事のように思いますから、仕事についてとことん話し合うか、逆に仕事については、何も話さないというルールを決めるかの、どっちか。この女性は仕事が楽しいって言うけれども、毎日が楽しいってことはないと思います。その悩みを彼氏さんに、素直にぶつけてみたらどうでしょうか?




ちょっと毒を吐いちゃいますけど、仕事が楽しいっていう相手の話は、そうでない人間にとっては、自慢にしか聞こえないんですよね。

だから、彼氏さんが仕事の悩みについて相談したくても、男のプライドが邪魔をして言えなかったのかもしれません。そう、お互いが負けず嫌いで、男同士がつき合っているみたいになっちゃってたんじゃないですか。




仕事の話をしないと決めた場合は、彼氏さんに笑顔でニコニコと接してあげて、彼氏さんの好きなことを最優先してあげて。カレーや肉じゃがとか彼の大好物を作ってあげましょう。

ウケ狙いも含めて、「お帰りなさいませ。ご主人さま」ぐらいに、メイドカフェ気分で彼氏をもてなしてあげるのもいいと思います。これもまた僕の理想なんですけど(笑)。


(東京/H)






(THE BIG ISSUE JAPAN 88号より)




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前編「”水“赤字国、日本。沖大幹さんが語る、バーチャルウォーター(間接水)から見える世界(1/2)」を読む




”水“赤字の日本。バーチャルウォーター年間640億トン



ここまでくると勘のいい人は気づいたかもしれない。なぜ日本では、水があり余っているように見えてしまうのか? そのカラクリが——。
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Genpatsu

(2012年11月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 203号より)




六ヶ所再処理工場、2013年4月本格運転予定



10月27日、東京の日比谷で屋内集会とデモがあった。前日の金曜には恒例の官邸前抗議行動があり、連日のためか、日比谷の集会はこじんまりとしたものとなった。

屋内集会では、原発ゼロ政策や核燃料サイクル、そして原子力規制がテーマだった。スピーカーの一人に青森から佐原若子さんが加わってくれた。




青森には、原発、核燃料再処理、放射性廃棄物の埋設や一時貯蔵などの核関連施設がある。この中で原発ゼロ政策と強く関連するのは、再処理工場と大間原発の建設再開だ。

再処理工場は、原発で使い終わった燃料を化学処理してプルトニウムを取り出す工場だ。プルトニウムは原発の燃料に利用する。原理としては成立するのだが、経済性がない。事故の危険性もいっそう高くなる。世界的に見てもフランス以外は撤退している。そのフランスも再処理工場を造ったから続けているので、規模を増やす計画はない。




青森の工場は地名から、六ヶ所再処理工場と呼ばれている。佐原さんによれば、工場は1993年から8年の歳月をかけて完成し、試験運転に入ったが、その後トラブル続きで、現在も試験中だ。本格運転の時期は2013年10月とされている。

建設費は当初の3倍以上の2兆2000億円に達している。沖縄を除く各電力会社が再処理契約をしているから、建設費を負担させられているのは私たち消費者だ。さらに、この工場が本格的に動き出せば、原発が1年の間に大気や海に放出する放射能を1日で出すと言われるほど、環境への影響の大きい施設だ。




また、大間原発は本州最北端の大間崎のすぐ近くで建設中だ。40%程度進んだところに福島原発事故がおきて、工事は止まった。しかし、政府が認めない新増設には当たらないとの枝野大臣の発言を受けて、10月に工事を再開してしまった。再処理との関連が強く、プルトニウムの多くをこの原発で使用することが可能だ。

津軽海峡をはさんで対岸の函館は市をあげてこの建設計画に反対している。地震や近くの海底火山の影響などが事故につながるのではないかと、懸念されている。

これらを止めるのは私たちみんなの問題なのだと佐原さんは参加者の心に切に訴えた。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)









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(2007年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第73号より)




バーチャルウォーター(間接水)から見える世界



バーチャルウォーター(間接水)という視点から、日本と世界の水問題を読み解く”水文学“の専門家、沖大幹さん(東京大学生産技術研究所)。
水問題が食料問題と深くかかわっているカラクリが見えてくる。





沖大幹さん

(沖大幹さん)





水が”あり余っている“ように見えるカラクリ



蛇口をひねれば水はいくらも出るし、公園に行けば子供たちの遊び場に大きな噴水があったりする。水しぶきが空を舞い、天気のよい日には虹がかかったりして。それはなんと気持ちのいい午後だろう。浜辺に立てば、見わたすかぎりの海。宇宙から眺めた地球の写真は、どうしてこの星が青い惑星と呼ばれるのかを私たちに思い出させてくれる。

水に包まれたこの世界。それゆえ、水はまるであり余っているかのように思えてくるのだ。

だけどちょっと待って。例えばそこで牛丼を食べているあなた。口の中にほおばったそのお肉、唇の横についているお米の粒なんか、いったいどれぐらいの水を使って作られたものか知ってる? 水不足なんてことが言われているけれど、どうして日本で生活している私たちにその実感が湧かないのだろう? 




水文学の専門家、沖大幹さんは話す。「だから水のことを勉強していくことで”水がなぜあり余っているように見えるのか“がわかってくるんですね」。確かに水は”あり余っている“ように見える。けれど、実はそこにカラクリがあるのだ。

「海外から食料を輸入することによって、日本はその分だけ水を使わないで済んでいるんです。その輸入したものを、もし日本で作ったとしたら、一体その水がどれぐらい必要になるんだろう?というのを推定したのがバーチャルウォーターになるわけです」




バーチャルウォーター。日本語で「仮想水」、水を間接的に輸入しているという意味で「間接水」と訳すこともある。

元々これは飲み水を得ることの難しい乾燥した中東地域で、どうして水をめぐって大きな争いが起きないのかを説明するため生まれた考え方。




……え? どうして争いが起きないのかって?

答えは簡単。つまり、中東はみんながほしがる石油を輸出し、その分で食糧(間接水)を輸入すればいいわけだ。でもこう書くと、「どうして飲み水でなくて食料なの?」と不思議に思う人もいるにちがいない。




水不足の本質は「飢餓」の恐れ



これは意外と知られていない事実だけれど、海の塩水を、飲んだり農業に使ったりできる淡水の状態にするのはとても大変なことで、相当のエネルギーが必要になる。そして淡水が世界の水のわずか2・5%にしかすぎない事実に加え、そのうちの3分の2以上が氷河、永久凍土層などのため、人間には利用できない。

そして、私たちが現在使っている水のうち、3分の2以上が農作物と家畜を育てるために利用されている。工業が約21%を、生活用水が約10%の割合で占める。逆にいえば、ほとんどの水は”食物を得るために使われている“と言っていい。それならば、飲み水を輸入するよりも、莫大な水が必要とされる食料をそのまま輸入してしまったほうがより効率的というわけだ。




「何回でも言います。飲み水だけだったらちょっとでいいんですから、争わなくたっていいんです。だけど農業用の水というのは大々的にやらないと確保できない。もし世界に水が足りないって聞いたら”ああ、飲み水がなくて困っているのか。確かにペットボトルの水は高いからな“と思っちゃう人が多いでしょう? そうではなくて、やはり食料と水というのが”裏腹の関係“だっていうことをわかってもらうために、バーチャルウォーターという考え方が有効なんです」




 ついつい「のどが渇く」というイメージで語られがちな水不足の問題。しかしその本質は「飢餓」の恐れなのだと沖さんは語る。

「水問題を考えるときに大事なのは、年々の水の変動が大きいということ。平均的には水が足りているようでも、多い年と、少ない年がある。その少ない年に問題が表面化するわけですね。途上国は旱魃になって食糧が十分につくれない、外国から買うお金もない。そういう国はやはり飢饉になるので、しょうがないから国際援助に頼って食糧がくる。それはまさに水が足りないところに食糧がくるわけですよ。貧しいから水を得られない、水を得られないから貧しい。その悪循環をどこかで断ち切って、なんとか水を確保し、経済発展への逆回転にしなければいけない」




後編に続く


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妻がまったく家事をしなくなってしまいました




妻がある日をさかいにまったく家事をしなくなってしまいました。洗濯や掃除は私がやり、食事はもっぱら外食です。わが家には社会人1年生の息子が一人います。
うつ病というわけでもなさそうなので、病院につれていくわけにもいきません。妻は外に出て行ったり昼間も寝てばかりいます。会話もなくどう言葉をかけたらいいかもわからず、最近は私も毎日が憂うつです。
(45歳/男性/会社員)





ある日突然、降って湧いたようにこういうふうになったと言っているけれど、奥さんの心は長い時間がかかってジリジリと扉が閉まってきたんじゃないかな。夫婦といえども、人間同士のつき合いなのだから。

詳しくわからないので推測でしかないんだけど、奥さんは何ごとも一所懸命な人で、子どもが社会人になって、一種の虚脱感に襲われているんじゃないかな。キツイことを言わせてもらうと、オレは旦那さんにも問題があるように思える。

奥さんの髪型が変わっても気づかなかったり・・・。ご飯をつくってくれた奥さんに「ありがとう」なんて言葉があったらよかったかもしれない。




そこでオレにはアイディアがあるんだ。子どもの手が離れたことだし、これまでをリセットして恋人時代に戻るってのはどうかな。青春時代の思い出の公園にでも出かけて、デートをしたりしてさ。最初は会話がなくても、そのうちに「そういえばこんなことあったよね」って、なってくると思うんだ。

オレのいる公園にも、夫婦で歩きに来ている人がいる。その姿を見てると、うまくいっているのとそうじゃないのかが、わかるんだよ。この夫婦は、たぶん二人で歩いてても、旦那さんが一人でずんずん歩いちゃって、奥さんが足元の悪い所を歩いていても気がつかなかったのかな。




これまで愛する家族のために頑張ってきた奥さんだから、家事をやっている旦那さんを見て、「やらなきゃ」「やりたくない」と心の中では葛藤しているはず。もしくは、意外にうまく回っている家族を見て、「私はやっぱりいらない存在なのかしら」と思っていたら、逆に立ち直りは遅くなるかもね。




だけど、ある程度まではすぐによくなるさ。こうなって旦那さんは、奥さんの存在感に気づいたのだから、完全に冷えきっているのではない。

ただし、このまま同じような生活を続けていたら、旦那さんの定年と同時に「どうもお世話になりました」ってことにもなりかねないよ。夫婦というのは、表裏一体。

ここが大事なところだけどさ、旦那が変わらないと奥さんも変わらない。恋人時代に戻って、もう一度やり直すのをオレはおすすめしたい。
(東京/H)





(THE BIG ISSUE JAPAN 86号より)




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(2012年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 194号より)




かるたで学ぶ「放射線防護」福島でワークショップ




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「あ あわてて逃げずに 屋内退避」「い 家の中 遠くに避難と同じこと」「こ 子供の甲状腺をまもれ」「す 吸い込み注意 マスクで防御」「せ セシウムは土にたまる」……。

これは「万が一かるた」の一部。万が一、原発事故が起きた場合、どうやって放射性物質から身を守ったらよいのかなど、具体的な対応をイラストと共に五十音の「かるた」にしたものだ。




5月19、20日に福島市内で持続可能な社会を考えるイベント「アースデイ福島」が開かれ、JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)が「かるた」を使ったワークショップを開催、多くの親子が参加した。作成したのは、東京都で広告制作会社を経営する佐藤哲康さん。佐藤さんは「住民の避難や防護に必要な知識を、記憶に残りやすい『かるた』にまとめてみた」と言う。

佐藤さんも、事故が起こるまでは放射能に関する知識はあまりなかった。昨年の3月15日には特に多くの放射性物質が福島県内に飛散したにもかかわらず、それが住民に知らされなかったと聞き、「無用の被曝が避けられたのでは。乳幼児や子どもへの影響が心配になった。深刻な事故直後から放射性物質が飛散する間を想定した住民の対応をどうやって伝えたらいいかを考えた」という。

福島県を訪ねて、専門家のシンポジウムに参加、書籍や資料も参考に、伝えたい情報を盛り込んだ「かるた」を完成させた。「みなさんからのご意見を参考に、もっとよいものにしたい。自治体ごとに内容を変えてパンフレットにしてもらうなど、各地で役立ててもらえれば」




JIM-NETは6月24日に猪苗代町で開く「アースデイ福島inいなわしろ」の中で、「万が一かるた」を使っての遊びや、子どもに放射能の知識を尋ねる催し「おしえて きみがしってる『ほうしゃのう』のこと」などの開催を予定している。担当の小松真理子さんは「『万が一かるた』はビジュアル的にインパクトがあって親しみやすく、ワークショップで好評だった。どのような活用方法があるのか共有していきたい」と話す。

震災後は、放射線防護などに関する子ども向けの副読本が作成され、理解を深めるための授業も各学校で予定。福島原発事故を契機に、放射線防護教育がさまざまな場面で進められる時代がやってきた。
 (藍原寛子)




※ 「万が一かるた」の内容はホームページ参照(現在市販はしていない。問い合わせがあれば検討予定)。
※ JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)

写真提供:JIM-NET


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居場所の限界。SOSを発せられる社会へ



2012年2月、さいたま市で、60代の夫妻と30代の長男が亡くなっているのが発見された。所持金は数円。電気・ガスは止められ、半年ほど前から家賃も滞納していたという。遺体は死後2ヵ月が経った状況で、死因は餓死と見られている。この事件は、あまりにも多くの課題を私たちに突きつけた。

まず、死者に30代の長男が含まれていることへの衝撃を多くの人が口にした。建設作業員だったらしい彼の背景を、私は知らない。ひきこもりや心の病といった文脈から語る人もいるが、詳しいことはわからない。ただ一つ言えるのは、「若者ホームレス」にかなり近い状態の者が両親が健在の「家庭」の中にいたということである。しかし、いつからか家族ごと困窮していた。

さいたま市では、2年前の夏にも痛ましい事件が起きている。76歳の男性が熱中症で死亡したのだ。10年以上前に電気を止められていた男性は、40代の長男と同居していた。しかし、長男は腰痛などで長年働けず、2人は男性の年金で生活していたという。




こういった痛ましい死が伝えられるたびに、「つながり」という言葉が強調される。特に「地域社会の見守り」の重要性が語られる。しかし、親と成人した子どもが同居している場合、私たちの目は彼らを「見守りの対象」から外してしまう。「あの家は息子さんがいるから大丈夫」「親と一緒に暮らしているなら問題ないだろう」。そんな思い込みにまったく根拠がないことを、改めて突きつけられている。




親子3人の死と「若者ホームレス」が抱える問題の共通点は、「SOSを発していない」ということだ。彼らは生活保護の相談に訪れることもなく、窮状を隠すように暮らしていたという。

若者ホームレスの多くも、滅多にSOSを発信しない。多くの者が、自らの窮状を知られることを恐れ、「生活の立てなおし」に関する情報も持っていない。また、多くが、他人や行政が「助けてくれる」ことをそもそも欠片も信じていない。背景には、そこに至るまでの厳しい経験がある。

学校でのイジメや複雑な親子関係、使い捨て労働の繰り返しや、生存競争の中での他人や企業の手痛い裏切り。社会や他人への信頼を根底から奪われるような経験を、彼らの多くは持っている。




では「居場所」的なつながりがあれば解決できるのだろうか?

ここ数年、若者支援や困窮者支援の現場を見てきて、「居場所」の限界も感じている。もちろん、そこで他者への信頼を取り戻した、元気になったという声も多く聞く。しかし、居場所は時に「共通言語」などのハードルをクリアしなければ存在できない。常に無条件性が担保されているわけではない。誰にとっても居心地のいい居場所は存在しない。だからこそ、それは万能の解決策ではない。

生涯未婚率が上がる中、これからどんどん単身者は増えていく。また、親と同居しながら「若者ホームレス」とかなり近い状態にある人は予想以上に多いはずだ。どんな状況にあろうとも、尊厳を傷つけられずにSOSを発信できる社会。そして具体的なシステムの構築。若者ホームレス問題と無縁社会、そして孤独死の問題への処方箋は、多くの共通点を持っている。




雨宮 処凛(作家。反貧困ネットワーク副代表)




NPO法人ビッグイシュー基金を応援する
・「若者ホームレス白書」を読む


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「男性片働きモデル」から「夫婦共働きモデル」へ 



以前、「東京で暮らす25~34歳の未婚女性が結婚相手に求める年収は?との問いに、70%が400万円以上と答えた」という調査結果を見た。同年代でその水準にある男性は、所定内給与(いわゆる基本給)で見ると1割にすぎない。

25~34歳男性の正規雇用率は、それでも85%あるので、非正規はいうまでもなく、「正規でも低賃金」の人が少なくないことがわかる。残業代等を含めた実収入で5割だ。日本の被雇用者は残業代で稼ぐ。男性は残業して、女性の経済的要求水準を満たしている状態だ。

それにしても、基本給で1割、実収入でも5割というのは厳しい数字だ。その結果、男性の未婚率は30代前半でほぼ5割に達し、34歳までの男性は、未婚のほうが「ふつう」になりつつある(女性は3人に1人)。




「女性が贅沢だ」と感じる人もいるかもしれないが、そういう話でもない。日本の女性は、出産の際「仕事か出産か」の選択を迫られ、辞めざるを得ない人が多い。子どもが小学校にあがるころ再び働きだす人もいるが、多くはパート労働。つまり、女性の人生には、無収入と低賃金の時期が織り込まれてしまっている。現実的に考えれば考えるほど、「好きなら収入が低くてもいい」とは言いにくい。

問題は、「男は一家全員分の生活費を稼ぐべきで、それができない男は甲斐性なし」という昔の規範が変わらぬまま、実際には賃金が低下し続けている点にある。昔の規範を維持すべきなら、賃金は上げないといけない。賃金を下げるなら、昔の規範は放棄しないといけない。しかしそのどちらにもいっていないのが現状だ。結果として未婚男女が増え続け、子どもが減り続けている。また、この昔の規範と低賃金が若者をホームレスに追いやる遠因ともなっている。





男が一家全員分の生活費を稼ぐ考え方を「男性片働きモデル」という。これを支えていたのが「終身雇用、年功型賃金、企業内組合」の「日本型雇用」。このモデルでは、50歳前後に賃金がピークになる。20 代後半で結婚し、30 代前半で子どもをつくると、このころ、子どもは一番金がかかる年頃になる。賃金(収入)もピークになるが、教育費などの生活費(支出)もピークに達するという「高収入・高支出」構造だ。それが、この十数年で壊れた。

高収入が中・低収入になるなら、高支出も中・低支出にならないと、家計は回らない。だから、家計支出の大部分を占める子育て・教育・住宅費用は、今より安くすべきだ。目指すべきは、夫婦共働きで年間250万円ずつ稼げれば、子ども2人を育て、大学にも行かせられる支出構造だ。夢のような話に聞こえるかもしれないが、結婚や出産が夢になってしまうくらいなら、追求する価値はある、と私は思う。




男性一人が死ぬほど働いて年間700万円を稼ぎ、その代わり子育て・教育・住宅費用がやたら高くつく世の中と、夫婦共働きで 250万円ずつ稼ぎ、子どもを人並みに育てられるような支出構造の世の中と、みなさんはどちらがいいだろうか。そのみなさんの価値観と選択が、みなさんの働き方、社会のあり方を決めていく。




湯浅 誠(反貧困ネットワーク事務局長)




NPO法人ビッグイシュー基金を応援する
・「若者ホームレス白書」を読む



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