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(Photos:中西真誠)
理不尽を正すレフェリーはいない。だから、ちゃんと怒る
では、逆に怒りをちゃんと表現している人は、どんな基準で、どのように怒っているのだろうか?
会社員のユカさんは(22歳)は、仲のいい友人でも、会社でも、自分が馬鹿にされた時や会社の運営上よくないと判断した時は、きっちり怒る。「この前も、友人が『あとで連絡する』と言って連絡してこないことがたびたびあったので怒りました。すぐに怒るわけではないけど、約束を反故にするような行為や、お互いが本気でいるべき時に相手が適当な時は怒る。あまり怒りはためない」という。
仕事でもプライベートでも、怒りっぽいというコウジさん(会社員、32歳)は”怒る“と”叱る“の区別を意識するように努めている。「学生時代の部活で、先輩から『後輩から好かれようと思って、怒らないのはアカン、上手くならん』と言われてきたので、ちょっと怒りっぽいんです。怒るのは感情的なもの。叱るのは、相手の欠点を指摘すること」と言う。ただ、怒ることは、自分にも厳しくし、相手との関係を継続させるためのものという思いもある。「実際、学生時代に怒った後輩たちとは今でもよく集まるし、結束が固くなっていますから」
また、約束を破りがちな友人のルーズさ、上司の理不尽な言動には、怒りでもって反撃する、というコウイチさん(35歳)も、怒ることは大事な感情表現と位置づける。「ある時点で、ちゃんと怒らないと、相手は平気で何度でも同じことをする。だから、『嫌だからやめてくれ』と、ちゃんと伝えるんです」
「サッカーの試合で、欧州や南米の選手とかが相手のファウルに対して、実際の痛み以上に大きな身振り手振りで訴えますよね。あれぐらいの表現が必要だと思う。まして、一般の社会はスポーツの世界と違って、理不尽な行為や言動を公平に判断して警告を与えるレフェリーがいないわけだから」
あなたは、何に怒ってる?
個人的怒り派(家族、友人、会社などの人間関係の中での怒り)
「社会的地位の高い人が理不尽なことをするのが許せない。今、脱退したいと言い出したバンドメンバーに腹立ってる」(ダイキさん/フリーター、28歳)
「自分の進路にイチイチ口を出す母親にカチンときてる。どうしようもないことを注意する会社の先輩にもムカっとくる」(サオリさん/会社員、22歳)
日常的怒り派(電車の中、コンビニ、レストランなど公共の場でのマナー、接客への怒り)
「運転中、バイクの無謀運転に、『殺す気かボケ!』と叫んだ」(ヨシオさん/自営業、32歳)
「初めて会社に来た営業マンの態度が、友達のように馴れ馴れしくて、怒りを覚えた」(タツヤさん/会社員、28歳)
「背景を見ないで、個人バッシングする人が多い。マナーや、他人への無関心さに腹が立つ」(キョウスケさん/飲食業、38歳)
「店のレジなどでの学生のマナーの悪さ。道端でもよけずに平気で身体がぶつかる若者の距離感のなさ」(ヒトミさん/主婦、35歳)
社会悪への怒り派(政治・経済・社会などへの怒り。政治家の発言、汚職、差別など)
「自分の家族を傷つけるこの社会の風潮が許せない」(カズミさん/主婦、31歳)
「テレビが殺人事件や子どもによる事件などネガティブなものばかり取り上げすぎ。子供に悪い影響を与える」(マサアキさん/アルバイト、34歳)
(稗田和博/清水直子/野村玲子/中島さなえ)
(2006年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 52号より)