(2011年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 171号より)
巷に雨の降るごとく、わが心にも涙ふる……。能天気な自分も年に一度くらいは、長雨に映る紫陽花をぼんやり見ながらアンニュイな気分になれる季節なのだが、今年ばかりはその気になれない。
爆発事故を起こした福島第一原発の1号機の循環冷却システムにアメリカ、フランスの技術を導入して鳴り物入りで設置した放射能除去装置が、わずか5時間で機能停止になった。
通常の原発では水の管理は厳密で、放射能で汚染されたといえどもそれは把握できている。しかし、処理しようとする水は放射能が混じった海水だ。不純物だらけのものを吸着材に通せば、セシウムより先に吸着されてしまうと危惧していたことが的中してしまった。
こうなると、設計し直しになるのだろうか? 1トン当たりの処理費用は21万円、1号機だけでも531億円になると予想されていた。これがのっけからつまずいてしまった。お粗末というしかない。
ここに梅雨の長雨が来たら、天然冷却などと喜んでばかりいられない。汚染水は薄まるかもしれないが量が増えてしまう。溢れでもしたら海の汚染がいっそう広まる。堤防を築くというが、時間がかかりそうだ。西で豪雨が報じられるたびに、ついつい余計な思いをめぐらせて、憂鬱より不安になってくる。
梅雨の次は台風の季節。地球温暖化によって気候の変動が激しくなり、台風も大型化が懸念されている。05年のハリケーンカトリーナはどんどん大きくなって甚大な被害をもたらした。台風も大きくなると地震に劣らず怖い。4号機の使用済み燃料プールには、使用中の燃料が定期検査のために一時的に全部移されていた。そこで起きた爆発。この衝撃でプールの健全性が危ぶまれている。雨でプールがいっぱいになってしまったら、壊れるかもしれない。そんなことにでもなれば、風と共に流れる放射能がまたまた心配になる。
現代科学の粋を集めた原発といわれるが、今や、台風よ、それてくれと神頼み。今年の梅雨時は、神の火(原子力)を制御できると思っている人間の業を考え直す時としたい。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)