<2008年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第108号より>


贈り物。それは自発的に、他人に「自分の何か」を差し出す瞬間



人生をふりかえれば、誰にでもいつまでも心に残る贈り物があるのではないだろうか?
20〜60代の老若男女50人にアンケートをして、「忘れられない贈り物」を聞いた。
あなたにも心に残る贈り物はありますか?


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贈り物の風景、そして原体験



「私の向かいに若いカップルが座っていました。電車はすいていました。男性が女性に紙袋を渡しました。女性はけげんな顔でそれを受け取り、袋をのぞき込んで息をのんだような表情をしました。そのうち彼女の眼から涙がほろほろこぼれて、私は目をそらし、でも気になって見ずにはいられませんでした。袋に入っていたのは、なにか画集のようなもののようで、会話の断片から高くて買えなかったというように聞こえました。男性は、照れてそっぽを向いていました」

Aさん(60代女性)が電車の中で見た風景。オー・ヘンリーの短編のようだ。

こんなにも感動的でなくても、アンケートの回答には贈った人、贈られた人の気持ちがあふれるエピソードが寄せられた。

まずは人生が始まったばかりの、子どもの頃の鮮明な贈り物の記憶。 「7歳の時。病気になった時、隣のタダシくんとおばちゃんが折ってくれた千羽鶴。千羽鶴を折るのは大変な労力です。子ども心ながら、単なるお見舞いの気持ちではできないことだと感動した」(40代女性)

「5歳くらいの時、クリスマスにサンタクロースにもらったウクレレ。ほんとにサンタクロースはいてた!という驚きとうれしい気持ち」(40代女性)

逆に初めて人に贈り物をした思い出が、「今思うと、人生初の『自発的に他人に自分の何かを差し出す』瞬間」と言うBさん(20代女性)。「小1の時、放課後、友達と遊んでいてルマンド(お菓子)をあげた。私が持ってきたルマンド5個に対し、集まった友人は私を含めて6人。身を切る思いで大好物のルマンドを最後の1人に差し出した」

人は物心つく頃から、心のこもった贈り物を喜び、一方で心を悩ましてきたのではないだろうか?

30年間、今も考え続けている贈り物のこと



そうして、人は大人になって日常的に贈り物を贈り合う。

1977(昭和52)年の冬のある日、金沢は豪雪だった。Bさん(60代男性)は公共交通機関が遮断される中、長い距離を家まで歩いた。帰宅したのは深夜。郵便受けを見ると、バレンタインチョコが入っていた。送り主の女性は、現在の妻。「車でも2時間はかかる私の家に、どうやってチョコを届けたのか。いまだに謎です」

バイトや職場を辞める時、同僚からもらった花束や寄せ書き。海外の旅先やホームステイ先で、気持ちのこもった手づくりの贈り物に思わず涙したという人もいた。30代、40代の女性は、結婚指輪やプロポーズの言葉をあげる人が多かった。

その他、「ぐっと大人になったような気がした洒落たジャズのCD」(20代男性)、「10代で入院した時にもらった尾崎豊の本に励まされた」(30代男性)など、それぞれの人生が浮かび上がるようなエピソードだ。

だが一方で、贈り物は、贈られた人の心に波紋を投げかけることもある。

Cさん(50代男性)が新宿のフーテン族だった若い頃、友人から贈られた誕生日プレゼントは『聖書』。「まともに生きろ」という意味なのかと考えさせられた。「なにしろ贈った友人も、まともに生きていなかったので、どういう意味だったのか、いまだに考えている」

Dさん(20代女性)は高校生の誕生日、家に新巻鮭が届いた。差出人は、元カレ。ギターしかとりえがなかった無職の旅人。別れてから数ヵ月消息を絶っていたが、伝票には北海道の羅臼と書いてあった。「ちゃんと仕事を見つけたって安心させたかったんだと思う。うれしかったけど、なんで羅臼だったの?」
 

「だいじょうぶ循環」という贈り物



反対に、形のない贈り物が心に残っている人も多い。

「久しぶりに会った人が、人前で思い切りハグしてくれました。こちらも会いたかったけれど、むこうの会いたかったという気持ちも伝わってきて、当分、幸せな気持ちでいられると思った」(40代女性)

「死にたくなるくらい気持ちがどん底だった時に、ある舞台俳優さんに力いっぱい頭を撫でてもらい元気をもらった。掌を通して温かさを感じた時、まるで生き返ったような気持ちだった」(20代女性)

「生演奏。歓迎パーティで、知ってる歌やら知らない歌やらをギターやウクレレで演奏してもらった。本当に楽しい気分で音楽ってすてき!って思った」(20代女性)

「『くたびれちゃった。もうダメかもしれない……』と言うと、友達が『だいじょうぶだよ、なんとかなるよ』と言ってくれる。『そっかなー、なんとかなるかなー』『なんとかなるよー』と言って笑い合う。心がやわらかくなってくる。それを私たちは『だいじょうぶ循環』と呼んでいる。そしてご飯を作って一緒に食べる。あんなことこんなことを話しながら食べているうちに笑顔になっている」(40代女性)

そして究極は、20代の女性、EさんとFさんがそれぞれ親友に贈った誕生日のサプライズパーティだ。

Eさんはウソの理由で呼び出し、自宅の自室を飾り「とにかくビックリさせてやりたかった!」と、親友が喜びそうなサプライズを部屋のあちこちに隠した。

「あの時の彼女が部屋に入ってきた瞬間目が点になってすぐの泣きそうな笑顔は、今でも思い出すたびにこっちが幸せになります」。Fさんは、「どこに行くか言わずに、いきなり船に乗せて、和歌山の友が島まで連れて行って、2人だけのサプライズパーティ。水着もサンダルもぜんぶ私が用意。驚かせると同時に、ステキな日にしてあげたかった」

20代の女性は個性的な贈り物が得意だ。

後編に続く