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残像、心のスペース、そして寄付、ボランティア活動も


一方、さんざん悩み思いをこめた贈り物のエピソードも。

Gさん(20代女性)は大失恋した友達を励ますため、彼女の家のポストに、読んでほしい本やリラックスできそうなお茶、バスソルトなど、小さなギフトを2ヵ月間、毎日入れ続けた。「今日で終わりじゃないんだよ、明日があるよ」ということを伝えたかった。もちろん彼女は徐々に元気を取り戻した。

Jさん(20代女性)は、長くつき合った彼氏と別れる時、感謝と憎しみを綴った長編大作の手紙を贈った。「今となっては、どうかシュレッダーにかけていてほしい」と願っている。

では、そんな贈り物とは一体何なのだろうか? 次のような答えたちが並んだ。

「贈られた人よりも、贈った人の心を豊かにしたり、満足させるもの」(40代女性)

「贈った人と贈られた人の共感または乖離感の指標」(50代男性)

「人に対する親愛の気持ちを形にしたもの。無形の贈り物があるとするなら、その最たるものは命、自然だろうと思う。寄付行為、ボランティア活動も大きな意味で贈り物」(50代男性)

「抽象的でよければ、殺し合っている人々に戦争のない世界を/忙しい人に、のんびりした時間を/おびえている人に、安心を/未来の人に豊かな森と生き物。具体的には、自分で見つけたおいしい酒を本当の酒好きの人に。自分で作った料理や釣った魚を、味のわかる人に贈りたい。手間を惜しまず走るご馳走です」(60代男性)

「その人のために、あけた自分の心の中のスペースを形や言葉にしたもの」(50代男性)

「あなたのことが大切ですよ、という結晶」(20代女性)

「残像。いつまでも残って、思い出せば、その時に戻れるもの」(30代男性)

「ほこほこフワフワした気分の交換かな。大事に思っているよ、ずーっとずっと大好きだよ、という気持ちをこめているから」(40代女性)

そして今、こんな贈り物を考えているのは、Kさん(60代女性)。

「高校時代からの親友と会うたびに『生前葬』と思って、ささやかなるちょっとしたものを贈りたい。たとえば、一緒に美術館に行けなかったら『絵はがき』とか、頂きものの『おすそわけ』とか、もらって負担にならないが、『私の心にあなたのスペースをあけているよ』と、伝えたい」

贈り物論をいきいきと語る男性に対して、実際の贈り物が上手なのは女性だろうか? 普段はクールな人も、近寄りがたい強面の人も、老いも若きも、贈り物については驚くほど、誠実で素直だった。

(香月真理子、中島さなえ、野村玲子、松岡理恵、稗田和博)