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ディスカッション:中退は自己責任なのか?

岩切:ではディスカッションを始めたいと思います。今回のイベントは「本人の問題なんですか?」というタイトルにさせていただきました。二人に聞くと「そうじゃない」で終わると思いますが、世論的に言えば、「決めたのはお前じゃないか」というのが実際だと思います。また、お二人のなかでも、自己責任の部分はゼロではないと思います。

どれくらい個人の責任で、どれくらいが社会環境に責任があるのか。白か黒かではなく、責任の割合はどれくらいだと思うのかを教えてください。

今井:僕の場合は通信制高校に関わっているので、そこに関してだけ言うと、正直彼らは悪くはないと思います。仕組みが8割、本人が2割くらい、でしょうか。通信制高校は先生も頑張っている方が多いんですが、仕組みとして、生徒と関わる機会が少ないんですよね。生徒と担任の割合が80対1、なんて場合もあります。しかも学校に通うわけでもない。これでは生徒へ丁寧なフォローをすることは難しいです。仕組みに問題がありますよね。

進学・就職だけではなく、生徒が次のステップにいけるきっかけがないんですよね。先生、親以外の存在や居場所がない。仕組みの方が問題だと思っているので、網のように色々な人を配置して掬い上げるようにしています。

岩切:自分も子どもを見てきましたが、80対1は「無理ゲー」ですね。

今井:相当しんどいと思います。

岩切:仕組みにそもそも無理があるんじゃないかな、ということですね。

今井:ネガティブなことを語っていますが、通信制高校はある種、新しい可能性があるとも思っているんです。学校に通わないでいいので、様々な体験ができるんですよ。しかし、潜在的にニートになる層が多いので、そこは危機感があります。

岩切:インターンするまでは、学校に行かない時間は家にいるんですか?スポーツや芸能活動に打ち込む子は少ないですか?

今井:少ないですね。通信だと1〜2%はスーパーマンがいるんですよ。サッカーの香川さんみたいな。彼は通信なんですね。あとはスノーボードの角野さんも通信制高校です。でも、ほとんどはしんどい子で、ほとんど何もしていない子が大半ですね。

高校生に見せられない授業をする大学

岩切:川原さんの場合は、自己責任についてどうでしょう。一般的には「自分で決めたんだろう」ということが多いと思いますが。

川原:本人の理由は3割くらいだと思いますね。大学選ぶときに考えておくという点で。2割は周りの大人、保護者や高校の先生。大人がちゃんと考えさせて欲しいです。

5割は大学の問題だと見ていて思います。大学は研究機関であって、教授は研究者である、とお考えの方も多いですし、教育機関としてどうかという見方をしていないです。ひどい授業、ひどい先生、ひどい大学もあるんですよね。

<会場笑>

もちろん、ちゃんと教育に力を入れて熱心にやっている大学もありますが、学費に見合う教育効果が得られる学校が日本にどのくらいあるのかと考えると…大学が半分以上悪いなと思いますね。

岩切:奨学金の話が話題になっています。ローンを組んで、川原さんの指摘するような質の悪い大学にいくのはしんどい状況ですよね。

川原:WEEKDAY CAMPUS VISITを大学さんにお願いすると「授業を見せられない」と言われて断られることもあります。

AO入試も話題になりますが、入試の段階で問われない学力を授業で問われることがあります。教師が目の前の学生を見て授業が出来ていないのなら、本人の問題だけではないなと思います。

先生向けの研修もやっていますが、授業を観に行っても、生徒たちがみんな寝ているか喋っているかで、マイクでがんがん大きい声で話さないと届かないような授業もあった、という話も聞きます。

岩切:今まで、大学では、教員向けの研修はされていないことが当たり前だったんでしょうか。

川原:教員向けの研修自体は2008年から文科省で義務化されたのですが、形骸化している大学も少なくありません。

岩切:ちゃんとやっているのはどのくらいの割合でしょうか?

川原:感覚的には数%かと思います。ただ、フォローしますと、良い教育をやっていても学生が集まらないマーケットだったんですね。予算を駅近、都心のキャンパスにすることに割いて受験生を集めていました。先生たちの教育研修に予算を割いても生徒が集まらなかった、という背景もあります。

岩切:進路を決定するためのモノサシをつくるために何が足りないですかね?

川原:何かに熱中した経験かな、と思います。何をやりたいか、将来どうしたいか、自分は何が好きで何が嫌いで何が得意で何が不得意か、というのは何かに熱中した経験がないと見えてこないので、それは前段階で踏んでいかないと難しいと思います。

学校教員だけではなく、多層的に生徒を支える仕組みが必要

今井:そもそも高校段階でそういった経験が作られていないんですよね。学校に仕組みがないんです。ただ、学校だけが悪いのではなく、僕らが求めすぎているというのもあると思います。

教員の問題をいうときによく「先生が悪い」という論調がありますが、学校の先生にすべてを期待し過ぎだと思いますDxPが社会人を投入しているのは、多層的に生徒を支える仕組みが必要だと考えているからなんです。先生にしかできないことも多くあると思いますし、多くの生徒は先生によって救われるかもしれません、ただ、一部の生徒で先生と合わない生徒っていますよね

たとえば、僕ってどういう生徒から嫌われると思います?

僕はうるさいから、静かなタイプの女の子から嫌われます。うちが生徒10対先生8にしているのは、それだけいれば誰かひとりの大人とは趣味があって話があう、という状況をつくるためです。

定時制とかだと学校の先生と彼らの体験がずれまくりで合わない、というのが多いです。生徒との共通の体験がないので。コンポーザーがなぜ教えられるかと言うと、ひきこもり、不登校という体験があるからなんです。生徒層によっては仕組みが必要だと思います。

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