(2013年9月30日掲載、著・ロジャー・ラットクリフ / ©street-paper.org)

イギリスのフードバンク:国家の恥



イギリスで緊縮財政の衝撃的な象徴となってしまった「フードバンク」。現在、政府の支出削減と生活費の急上昇の影響で、数万に及ぶ人が食に困っている。世界で7番目に豊かな国家とはいえ、今年だけで約35万人が緊急食糧援助を求めた。4年前までは2万6000人だったが、導入後、既に多くの人々の生活に苦難を招いている新たな社会福祉制度により、状況はこれからも悪化する見込みだ。北イギリスのビッグイシュー所属のロジャー・ラットクリフが、フードバンクを初めて利用する人たちと、食糧支援を行っているチャリティー団体の話を聞いた。


北東ブラッドフォードのグリーンゲートエリアにあるセインズベリーズ・スーパーを、ある夏の昼下がりに訪ねてみた。ひとりの女性客が支払いを終え、レジカウンターを通り抜け、出口に向かう途中、タバコの売店付近に置かれている緑色の大きなキャスター付き容器の横で立ち止まった。彼女は自分のショッピングカートの中のオレンジ色のレジ袋に手を伸ばし、スーパーの自家ブランドのペンネパスタを500グラム分とツナ缶をひとつずつ取り出し、容器の中に入れた。

その容器の中には、朝食のシリアルとフルーツジュースが数箱と、大きなコーンビーフ缶が一つ、インスタントのマッシュポテトなど既に食料品が少し入っている。数日経てば、この容器は一杯になり、ブラッドフォードのフードバンクに運ばれる。そこで、食料品は一人三日分の食事を賄う量にビニール袋で小分けにされる。

イギリスのスーパーでは、こういった食料寄付のためのキャスター付き容器や入れ物の設置が一般的な光景になっている。イギリスの大手スーパーチェーンであるセインズベリーズ・スーパーでパスタとツナ缶を寄付した女性を含め、寄付者はそのことをあまり公にしたがらないが、寄付されたパスタとツナ缶をフードバンクで受け取った女性は取材に応じてくれた。

「こういった状況は初めてです」37歳のヴァネッサ・フィッツジェラルドさんは言った。「今まで、無条件でモノを求めたことがなかったので、ここ(フードバンク)に来ることに対して抵抗がありました。でも、本当に必死だったのです。正直、10代の娘がいなければ、このまま飢えに耐え続けていたと思います」。

フィッツジェラルドさんは、同市の大聖堂の横の旧小学校の建物内にあるブラッドフォード・フードバンクにある朝、顔を出した20人の新クライアントのうちの一人である。

ここでは昨年、男女、子どもを含め1824人に食糧が配給された。だが、2013年に入り、たった8ヶ月間で利用者の人数は2500人に上回った。国家規模での人数を見てみると、実に悲惨である。

最低3日分の緊急用食糧の配給を受けた人は2011~12年の12万8697人と比べ、2012~13年は、34万6992人。さらにいうと、たった4年前まで、イギリス全土での利用者総数は2万6000人だった。

2000年にブルガリアの孤児援助のため設立されたクリスチャンのチャリティー団体、トラッセル・トラスト(Trussell Trust)は現在、緊急食糧援助の需要の拡大に対処するため、一ヶ月?に3件の新しいフードバンクを設置している。「経済的に食生活が賄えなく、フードバンクの援助を求めている人口の衝撃的な数は、貧困問題にこれ以上目をそらすことができないという国家への警報です」と経営責任者のクリス・モウルドさんは言う。

一方で政治界からは 今年、フードバンクを非難する意見が発表された。福祉改革担当大臣である フロイト卿は7月、社会手当ての緊縮が援助の需要を拡大しているのではなく、そもそもフードバンクの数が増えているからにすぎないと発言。イギリスの保守党所属の政治家 マイケル・ゴーヴ氏曰く、フードバンクを使う人は大体「自分の財政をうまく管理できない人」である。

しかし、モウルドさんの意見は違う。「あらゆる政治分野のあらゆる政治家は、現在イギリスが直面している食物貧困の実態を至急に認識すべきであり、。この状況は、福祉国家にかつてない規模の大改革が実行されはじめたことによる(負の)副作用であり、深刻に受け止めるべきだ」。

フードバンクの利用者の4%はホームレスであり、そして、5分の1は低所得者である。その他、家庭内暴力や病気、借金などの悩みを抱えている人などが中心に利用している。しかし、援助を求める人の45%を占める一番大きな理由はやはり福祉制度の欠陥である。

ブラッドフォード・フードバンクを訪れたある朝、そこに集まっていた人たちが皆、社会手当ての拒絶や対応遅れを理由に来ていた。離婚をして、10代の娘がいる49歳の男性、クリス・ナイリーさんは社会手当てを一時的に止められてしまったのだ。引越し後の新しい住所がパソコンのシステム上でまだ確認されていなかったからだ。

「ここに来ることがとても恥ずかしい。僕は失業中のパン職人ですが、ひどい皮膚炎になってしまったうえ、元職場だった会社が廃業してしまったので推薦状の用意もできず、なかなか新しい仕事を見つけることができません。今までなんとか生活をして来たけど、報告もなしに社会手当てが止められたのは本当にショックでした」

29歳のアンジェラ・ウィッティンガムさんも似た状況について語る。「就職活動を証明するEメールを持参し忘れてしまい、社会手当てを一ヶ月間止められてしまいました。自分の食事すら賄えないことが本当に恥ずかしいです。」

フードバンクから援助を受けるためにはまず、教会やチャリティー団体、就職支援センターなど、外部の団体から推薦をしてもらう必要がある。利用者は3日分の食糧引換え券をもらい、その後さらに2回、食糧援助の申請をすることができる。期間として、6ヶ月の間に合計9日分の食料品をもらうことができる。フードバンクは緊急な状況を対処するためにあるから、こういった制約は利用者が無料の食糧配給に依存してしまわないよう課されている。

ブラッドフォード・フードバンクでは、訪れるクライアントにまず紅茶かコーヒーを出し、各クライアントの具体的なニーズを知るため面接を行う。ボランティアのアリソン・クレイグさんによると、ほとんどの人はかなり追い詰められた状態でフードバンクに来る。「予約に10分遅刻しただけで社会手当が廃止される人もいる程システムは厳酷です。病院の診察が長引いてしまったり、バスが遅れていたことが理由でも、社会福祉事務所からの同情はまったく得られない。彼らの社会手当は即行に廃止され、それっきり。多くの場合、管理上の不備が原因です。ここではそういった欠陥の『穴埋め』をしています」

社会福祉制度改革の一環として新しく導入される社会保障給付制度「ユニバーサル・クレジット」により問題は悪化しそうだ。イギリスでは福祉手当の種類が数十を超え、混乱を招いてしまっているため福祉手当の大半を「ユニバーサル・クレジット」として統合し、複雑になりすぎた福祉制度を単純化するのが目的である。この新たな福祉制度の担当者ハワード・シップリーさん曰く、当システムは技術面と官僚面ですでに問題が発生している。

一方、ブラッドフォード・フードバンクのプロジェクトリーダーのベン・ハルデンさんは、食糧を求める人の増加に伴い、食糧の寄付が追い付いていないという心配を抱える。夏の需要に合わせてスーパーから食料品を集めることはできたが、来月から冬用の食料品を確保することが大きなな課題になる、と彼は言う。

フードバンクのメニュー


個人用の食料品セットには3日分、平均値段13.60ポンドと重さ約8.5キロ(レジ袋2,3個分程度)の食料品が入っている。子ども二人と大人二人分の食料品が含まれているファミリーセットは大体20キロの重さになる。

保管が難しいため、冷凍食品や新鮮な食材の配給はしていない。一般の食料品セットには、朝食用シリアル、紅茶やコーヒー、パスタ、パスタソースと、缶詰めの肉や魚が含まれている。トイレットペーパー、使い捨て剃刀、女性用衛生製品や、家庭掃除用品なども申請をすれば配給が受けられる。

イギリスで350軒のフードバンクを運営しているトラッセル・トラストは、危機に直面している人たちのため、以下の非生鮮食品を求めている。

牛乳(1か2リットル・粉末もしくは超高熱処理をしたもの)
砂糖(500グラム・1キロ)
ティーバッグ(40,80、120バッグ入り)
インスタントコーヒー (小さい瓶)
フルーツジュース(長持ちするもの)
シリアル
スープ
缶詰の肉か魚
缶詰の野菜や豆
ベークドビーンズ
インスタントマッシュポテト
米かパスタ(500グラム・1キロ)
パスタソース(瓶・パック)
缶詰の米プリン(ライスプディング)
缶詰のスポンジプリン
缶詰の果物
ジャム
ビスケットやスナック菓子