<2005年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN21号より>


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4〜5千万ウォンが相場、代理母志願者増える一方

さらに、有名不妊クリニックの掲示板などでは、「代理母必要な方」というタイトルで簡単に代理母に関する情報に触れることができる。管理が行き届いていない某大学病院の不妊クリニックの掲示板には、卵子提供や代理母の依頼と売買のための連絡先がずらりと書き込まれている。

「あなたの力になりたい」「よい縁を結びたい」「互いに支えあいましょう」という見出しの多くが、代理母の志願者のものである。

代理母となるのは、20代前半から30代の半ばまでの、未婚者や子持ちの女性である。人によっては「身長173㎝、体重57㎏、出産経験あり(娘2人11歳、15ヶ月)、血液型A型、京畿道○○居住、提供地域は選ばない」など志願者の詳細な情報を提供している例や、血液型を見出しに掲げているものも目につく。多くは、Eメールのアドレスや携帯番号で連絡が取れるようになっている。

インターネットを使えば、斡旋業者への支払いがなく依頼者と直接交渉できるため、代理母の志願者数は増える一方である。韓国はまだまだ経済不況が続いており、最初は1回限りの窮余の一策として考えていた志願者のなかには、2回以上続け、職業化していくケースもある。代理母の謝礼は、個人によって差があるが、生活費を含めて4〜5千万ウォンが相場といわれる。しかし代理母の志願者が増えて、志願者同士の価額競争も始まっており、3千万ウォンで至急やりたい、という者も現れている。

逆に、「力になってください」などと代理母を求める文章には、代理母に頼らないと子供を得られない苦境がせつせつと書き込まれ、妊娠10ヶ月間の居住や病院費用、産後の世話、謝礼などを明記している例が多い。

謝礼の額が少ない場合は、「中国の方でも構いません」という一行が添えられている場合があり、代理母の志願者は、韓国人ばかりか中国の女性もいることを暗示している。

中国吉林省の延辺朝鮮族自治州に多く住む朝鮮族の女性は経済格差のため、韓国内の女性より安い値段で請け負うことも多い。朝鮮族の女性は、不法滞在や一時滞在という、韓国内では不利で不安定な立場にあることがあり、秘密を厳守できると考えられ、相手として好まれている。

掲示板には、卵子提供や代理母の取引情報以外にも、代理母を依頼する側の悩み事の相談も目立つ。代理母契約の際、どのタイミングで謝礼すべきか、契約で決められた以外の時期に金を求められた場合どうすべきか、双子の場合の増額など、さまざまな質問に経験者からのアドバイスなどが書き込まれる。流産などの可能性を考えて、妊娠時と出産後に分割して渡すか、出産後に一括して謝礼するのが一般的である。具体的な金額を掲載することはタブーとされているようだ。


代理母契約のトラブル、求める人、志願する人の双方に負担

代理母契約にまつわるトラブルは、両者に深い傷と後悔の念を残すことになる。

04年11月23日に、韓国のテレビで放映された不妊治療のドキュメンタリー「不妊の影」で、代理母契約を介して子供を得た女性Aの例が紹介された。出産後に子供を失い、自分も子供を産めない状況になった時、知り合いの女性Bが無償で代理母になると名乗り出た。女性Aの卵子とその夫の精子を体外受精させ、その受精卵を女性Bの子宮に着床させた。

ところが、妊娠6ヶ月を過ぎたころから代理母となった女性Bの態度は一変し、子供の命を担保にお金を要求したという。結局、女性Aは、女性Bに数千万ウォンを謝礼金として支払い、女性Aの夫は破産宣告者となった。依頼した夫婦は大きな経済的負担を背負うことになったが、女性Aは後悔していないという。

また、法廷の離婚裁判で代理母の実態が明らかになったケースもある(ソウル家庭法院1996・11・20)。夫の姉の代理母となった女性Cは、1989年に子Dを出産したが、女性Cの夫婦仲が悪くなり、離婚した。その後、女性Cは、代理出産した子Dと同居し、代理出産を依頼した元夫の義兄Eは、実の子に会いに女性Cのところを訪れるうちに同居し始めてしまった。

そのため、Eの妻(代理母の依頼女性、女性Cの元夫の姉)は、二人を姦通罪で告訴し、離婚した。離婚後、女性Cと男性Eは、結婚したが、暴力と心理的葛藤で2年足らずで協議離婚となった。この事件は、姻戚間で代理母契約が行われたことで家族関係に心理的葛藤をもたらした末、二つの家庭が崩壊したケースである。

韓国での代理母契約をめぐるトラブルが裁判沙汰になったケースは、91年(大邱地方法院)、代理母の謝礼としてアパート1戸と1億ウォンの支払が契約不履行になったことに対して損害賠償金5000万ウォンを要求した例がある。この判決では、代理母契約は公序良俗に反するものとし却下された。代理母契約の法的な有効性に関する問題は、有効説と無効説とが対立しており、今後さらに議論が続くものと考えられている。

このケースのように、代理母契約が表に出ることはまずない。特に有償で行われる代理母の場合は、金銭的トラブルが発生したり、胎児に障害があったりすることが判明した場合には、妊娠時期にかかわらずただちに人工妊娠中絶が強行されることがある。経済的・社会的弱者であるが故に代理母になった女性のケースで、身体の危険を冒しながら成功に至らなかった場合、泣き寝入りするしかない。このような状況があるからこそ、妊娠・出産の成功の際には、胎児の命を担保に契約金の増額を要求する誘惑にかられるのだろう。

一方で不妊のカップルは、「子供を産めない不健常者」という社会的な偏見にさらされる恐怖から、その事実をとことん隠したがる。不妊女性の集まりにおいても、卵子提供や代理母を必要とする場合には、より閉された状況のなかで仲間同士のやりとりを行う方向に向かいがちである。そのため、何かトラブルが生じた場合には、依頼した側が代理母の要求に振り回され、窮地に追い込まれることがある。

一般の不妊カップルの場合は、子供を出産すると同時に不妊という苦悩から解放され、それまでの仲間との交流も絶つことが多い。しかし卵子提供や代理母を選択する場合は、子供を得た後も仲間同士の関係を維持し、将来起こるかもしれない未知の問題に備えることが多く、一生、不妊という枠から逃れられることはないらしい。


国境こえる代理母、必要な国際的合意とルール

近年、韓国社会も少子化という先進諸国共通の社会問題に直面している。03年の韓国統計庁の発表によると、合計特殊出生率は平均1・17人で、OECD加盟国のなかでも最低の水準である。政府の出産奨励政策に、不満を抱く不妊カップルは、不妊治療の補助金や保険適用の政策こそが、出生率の引き上げにつながると声を上げている。

つまり少子対策の一環として、不妊サービスの強化策が韓国では注目されているのだが、代理母の議論は少し異なる事情からも注目されている。

「生命倫理および安全に関する法律」が施行されたことをきっかけに、代理母をめぐる賛否の議論に再び火がつき始めている。この法律では、その制定過程で社会的合意が得られなかった、不妊治療目的での人工授精などの許容範囲や、代理母に関しての明文規定はない。代理母の是非に関して社会的合意が得られなかったのは、代理母を不妊女性の最後の選択肢として残しておきたい医師集団と、女性の身体の道具化・奴隷化だと批判する女性団体との対立が、平行線のままだったからである。

代理母禁止を強く求めてきた女性団体である「韓国民友会」は、04年11月12日に、人工授精と代理母に関する討論会を開き、代理母禁止の立法化を推し進める活動を再開した。このような動きを無視するわけにもいかず、保健福祉部(厚生省)は企画管理室に女性政策担当室を置き、立法化準備の一歩として、代理母の実態調査を始めたところである。

このままでは代理母の実態は、ますます水面下にもぐる恐れが大である。経済格差が厳とあり、人の行き来がますます自由化する以上、これを利用した代理母サービスは近隣諸国をまたいで広がってゆくであろう。

韓国社会は代理母の問題をどう方向づけ、とりあえずの着地点をどう見出すのか。問題は韓国が単独で対応できる段階を過ぎているようにみえる。東アジア諸国は協力して、生命倫理の問題で話し合いのためのテーブルを早急に設ける必要がある。その場で互いの国内事情を正確に認識しあった上で、まずは、調和のとれた対策をとるための原則で国際的合意をとりつける必要があるだろう。

 (洪 賢秀)


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