原始時代からタイムスリップ。批判、駆け引き、競争が苦手

「あの人変だよね」

 この言葉を聞くたび、私は泣きたい気持ちになるのです。他の人からの刺すような視線に耐えられず、その場から逃げ出したいと、いつも思っています。





 街中で、わけのわからないひとり言をつぶやく、おかしな動きを繰り返す、ピョンピョン跳びはねる、そんな人を見かけたことはありませんか?

 見かけても、かかわりたくないと避けたり、顔をしかめたりされた方もいることでしょう。

 身体のどこも悪そうに見えないのに、言葉が通じない。意味のない行動ばかりやりたがる。普通の人から見れば自閉症は、わからないことだらけの障害だと思います。

 話せないから、心がないのでしょうか。

 みんなと違うから、異星人なのでしょうか。

 私は、自閉症とは、自分で自分のことをうまくコントロールできない障害だと考えています。

 なぜなら、自分はまるで、壊れたロボットの中にいるようだと感じているからです。

 たとえば、先生から指示が出されたとします。みんなはすぐにその指示に従うことができますが、私は話の内容は理解しているのに、どうすればみんなのように、言われた通りに行動できるのかが、わかりません。

 みんなと同じことができない。

 自分勝手に動き回り、先生やみんなに迷惑をかけ、怒られてばかりの私は、人の役に立ついい子になりたいと、心から願いました。しかし、話そうとしても頭の中が真っ白になるので、弁解どころか、人に謝ることさえできません。こんな毎日が、つらくてつらくて仕方ありませんでした。

「何のために生まれてきたのだろう」

 動物のように奇声を上げ、人の言うことを聞かず、自分のペースで生きようとする。自閉症の私が、この社会で存在する意味を知りたいと思うようになりました。

 本当の私は、誰からも制約を受けることなく、時間の枠を超え、ただひたすら声の限りに叫び、大地をかけていたいのです。あるいは、音も言葉もない静寂な水の中で、じっと息を殺し、永遠に続く宇宙の鼓動を感じ続けていたいのです。

 それこそが、私の憧れる世界であり、生命の輝きを感じる瞬間です。

 けれども、この社会では、そんな自由は許されません。生きるためにやらなければいけないことが、たくさんあるからです。自立のために、私も少しずつですが、自分でできることを増やしています。

 お日様を見れば、光の分子に心を奪われ、砂をさわればその感触に全神経を集中させてしまう私たちですが、決して人が嫌いなわけではありません。声をかけられても知らん顔をするのは、近くにいても気づかなかったり、どう答えていいのかわからなかったりするためです。

 人は誰でも、ひとりで生きられないことを知っていると思います。自閉症者は、普通の人が考えている以上に、自分のことをわかっています。

 常に成長しなければならない現在の社会では、自閉症者は、じゃま者でしょうか。

 自閉症者の中には、こだわりなどの特徴を生かして、社会で立派に働いている人もいますが、目立たないように、ひっそり暮らしている人も多く存在しています。

 自閉症は、近年増えてきているそうです。

 その理由を、世の中の人にも、考えてほしいと思っています。

 まるで、原始時代からタイムスリップしてきたような自閉症者たち。人を批判することも、駆け引きをすることも、競争することも苦手な人間。

 私たちを見て、あなたは、何を感じますか?


ひがしだ・なおき

1992年、千葉県生まれ。作家。第4回・第5回「グリム童話賞」(中学生以下の部大賞受賞)をはじめ、受賞歴多数。『自閉症の僕が跳びはねる理由』『あるがままに自閉症です』(エスコアール)ほか、童話、詩、絵本、エッセイなど、これまで17冊出版。近著に『風になる─自閉症の僕が生きていく風景』(ビッグイシュー日本)、『跳びはねる思考』(イースト・プレス)。『自閉症の僕が跳びはねる理由』の翻訳本『THE REASON I JUMP』が英国、米国、カナダで発売され、ベストセラー入りを果たす。

BIG ISSUEから東田直樹さんの本が2冊出ています。

BOOKS

社会の中で居場所をつくる 自閉症の僕が生きていく風景(対話編・往復書簡)

東田直樹・山登敬之 著

作家であり重度の自閉症者の東田直樹さんと、精神科医・山登敬之さんの立場をこえた率直な往復書簡。「記憶」「自閉症者の秘めた理性」「純粋さ」「嘘」「自己愛」「自分らしさ」など、根源的な問いが交わされる。

2015 年12 月発売

定価1600 円(税込)

B5判変型

(800 円が販売者の収入になります)

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風になる  自閉症の僕が生きていく風景(増補版)

東田直樹 著

発話できない著者が文字盤で思いを伝えられるようになるまでの日常や、ありのままの自分を率直に語る。連載エッセイ74 編、宮本亜門さんとの対談も収録の増補版。路上で一万冊突破。

2015 年9月発売

定価1600 円(税込)

四六判

(800 円が販売者の収入になります)


2016/10/14よりクレジット決済が可能になりました。


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加入者名:有限会社ビッグイシュー日本

TEL:06-6344-2260  E-mail:info@bigissue.jp


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(2009年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 130号より、東田直樹さんのエッセイを転載)



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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。


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