こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部です。「『若者の住宅問題』―住宅政策提案書調査編―」の発表に合わせて行われた記者会見の内容を、書き起こし形式でお伝えします。
会見では「つくろい東京ファンド」などの活動に取り組む稲葉剛さんがお話くださいました。現代のホームレス問題、貧困問題の現状に深く切り込んだ内容となっておりますので、調査のPDFと合わせてどうぞご一読ください。
親元から出られない若者が増えている
稲葉:私は認定NPO法人「自立サポートセンターもやい」で生活困窮者の相談支援活動を行っています。
「もやい」の事務所には年間700世帯から900世帯の方の相談を行っています。実際来られている方の約3割が20代、30代の方で、その傾向は2003年頃からあります。
親との同居が4分の3を占めているということについては、一時期「パラサイトシングル」という言葉が流行ったように、いわゆる自己責任的な見方をする人も出てくるでしょう。しかし、生活困窮者の支援を行っているNPOの立場から考えると、親元から出られない若者が増えているという風に見えます。
今回の調査において、どういった項目からそれがわかるかといいますと、親と同居しているグループと、別居しているグループの比較というところからわかると思います。たとえば、住宅安定確保にまつわる問題の経験についてです。
賃貸契約に必要な保証人が見つからなかった、アパートの初期費用を用意できなかった、あるいは家賃を滞納した、など自分で家を確保するにはさまざまな困難があります。親の同居・別居で見ると、同居では問題の経験が少ない一方で、別居では問題経験者が28.6%に上っています。
また、いわゆるホームレス状態、ここでいう「ホームレス」というのは路上生活だけでなくて、ネットカフェ、友だちの家、カプセルホテルなど、広い意味でのホームレスということを指します。そういったホームレス状態を経験したことがあるかどうかに関しては、親同居グループでは4.6%に対して、親別居グループは13.5%と非常に高い数値を出しています。
今の低所得の若者にとって、1人で部屋を借りる、独立した住まいを確保するということが難しく、ホームレス化をしてしまう率が高いということが言えます。ですから、そう言ったリスクを回避するためにも、頼れる人は親に頼らざるをえない、そして親の家から出られない人が増えているのではないかと思います。
こういった状況は、私たち民間のNPOの相談支援の現場からは直接に見えてこなかった問題です。というのも、私たちのNPOに相談にくる若者たちというのは児童養護施設の出身者など、多くが親との関係が切れてしまっている、あるいは元々親がいないような子どもたちが中心です。
ある意味で、親との関係が切れている人は、若者の中ではマイノリティです。親との関係が継続しているマジョリティの人たちの状況というのは、今までの相談現場からなかなか見えてこなかった。今回の調査では、そういった若者たちが「親元から出られない」という状況が見えてきたと思います。
社会における「時限爆弾」
「親元にいるからいいじゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、将来的な観点から言うと、ある意味で、社会のなかに埋め込まれた「時限爆弾」のようなものであって、私たちの社会の持続可能性というものを大きく損ないかねないものだろうと感じています。
今のところ親の所にいて、当面の生活はできるかもしれませんが、いずれは親も高齢になっていきますし、そうなれば親からの援助も途絶えてしまう可能性があります。一方では、家が老朽化していくといった問題もあります。
また、20代のうちはまだ親元に居ても何も言われなかったけど、それが30代、40代になってくると徐々に親子間の関係も悪化してくるということもよくあります。私たちのところにも、親元に居るけれども、刺すか刺されるかの関係にまで関係が悪化している方からの相談の電話が来ることがあります。そうした時に居られなくなって、ホームレス化してしまうリスクがあります。
将来にわたって日本社会が抱えるリスクは、ここにあるのではないかと思います。
大卒でも「ブラック企業」で長時間労働、人間関係トラブル、リストラ・倒産→仕事の困難から貧困になる
もう一点、大卒で貧困状態に陥っている人が数多くいるということも、私から伝えたいことです。
私たちの団体に相談をする方々のなかにも、大学を卒業して正社員として働いてきた経験がある若者が増えてきています。その背景には、近年大きな社会問題になっている「ブラック企業」の問題があります。
今回の調査結果で直接的には触れていませんが、仕事に関する困難という点で、リストラ、倒産、長時間労働、人間関係トラブルなどを経験している方が多くいらっしゃいます。
こうした仕事上の問題は、生活困窮の要因になっていると考えられます。住宅の問題、雇用、学校現場での出来事などが複雑に絡みあって、なかなか親元から抜け出せない、あるいは一人で部屋を借りてもなかなか安定しない、といった状況があるのではないかと思っています。
こうした人たちに対する支援策はどうあるべきか、という点についてですが、昨年生活困窮者自立支援法が改定され、来年度から本格施行される予定となっています。これについても様々な議論はありますが、私はこの生活困窮者支援法のなかで住宅支援、居住支援という非常に弱いのではないか、という点を指摘しています。
住宅政策の分野では、今の日本社会にあるセーフティーネットはたいへん使いづらい制度しかありません。来年度からは生活困窮者自立支援法の一つのメニューとして、住居確保給付という支援策が恒久化されることに決まっています。ですが、その中身は住宅支援、居住の支援というよりも「再就職までの間、一時的に支援します」という趣旨となっており、実際に困っている方には非常に使いづらい制度となっています。
こうした制度の改善を私たちで一緒に考えていきましょう。「住宅政策提案書」にもハウジングファーストという言葉を載せていますが、まずは居住の安定を図る、住まいを提供するというところから始まる支援、それが必要なのではないかと考えています。
もっと詳しく:関連サイト
- 若者の住宅問題(調査PDF)
- 若者の自立・家族形成の保障は住宅政策から(川田菜穂子) : BIG ISSUE ONLINE
- ホームレス化しない「絆原理主義の国」の若者たち(稲葉 剛) : BIG ISSUE ONLINE
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。