もしも同じ地域に住む外国人市民が「寂しい」「言葉がわからない」という相談をしてきたとしたら、あなたが住んでいる地域ではどのように解決をはかっているだろうか。
その国の言葉がわかる相談員を置く?同じ国出身の外国人を集める?
ほかの市民と交流してもらおうにも、あまりなじみのない言語の場合は、交流どころか人を集めることすら難しいだろう。








3月15日発売のビッグイシュー307号の特集「どこにもない食堂―誰もがふさわしい場」で紹介されている4つの食堂・カフェのひとつ、「Comm cafe(コムカフェ)」(大阪府箕面市)は、孤独な外国人の市民を減らすことに成功しているだけでなく、「市民の国際感覚向上」や「子育て世帯の居場所・癒し提供」を同時に成立させている「自分の近所にもぜひ欲しい」と思えるカフェだ。


IMG_3245

 閑静な住宅地に近い場所で「Comm cafe」は2013年に誕生した。ここでは、近所の外国人のシェフ(おもに主婦たち)が日替わりで登場し、それぞれの国の家庭料理を提供するスタイルがとられている。

日替わりメニューはじつに国際色豊かで、「中国」や「韓国」といった、比較的日本人になじみの深い国の料理はもちろん、「モロッコ」「スウェーデン」「イエメン」などの珍しい国の料理も楽しめる。

オンライン編集部が訪問したときは、ベトナム出身のティさんがシェフをつとめる日。
カフェの入り口に、「本日のシェフ」の出身地などのプロフィールやメッセージが紹介されており、利用者は、「遠い異国から来た外国人シェフたちも、同じ地域で生活を営む市民、隣人である」ということを感じることができる。

IMG_3271
 

この日のランチメニューは3種類が提供され、デザートもついていずれも850円。
カフェタイムはドリンクが200円からとリーズナブルだ。

IMG_3262
*フーティウ(ベトナム風豚骨ラーメン)、揚げ春巻き、チェー(緑豆のデザート)のBセットを注文。ほんわりと優しい味付けで、美味しくいただいた。

食事の際に、シェフやスタッフと出身国やその日の料理の話をしてもよいし、話しかけることができなかった場合も、レジの近くの掲示板にシェフやスタッフへのメッセージを残すことができる。

 IMG_3270

遠い異国の地で、母国の料理をふるまった感想をもらえることは日替わりシェフたちにとって、アイデンティティの再確認となり、また、心温まる体験になることだろう。

IMG_3268

同じ掲示板には世界地図と、「Comm cafe」の登録シェフたちの写真が掲示されている。利用者には世界各国から来た人々が、自分の隣人であることを感じられ、また次回来訪の楽しみともなる。

この日の厨房・ホールのスタッフでは、ティさんだけがベトナム人で、その他のスタッフはまた別の国から来た人々だったが、出身国や年齢層、母国語は違えど、「おもてなし料理の提供」を共通言語に、イキイキと連携して働いていた。

スタッフとして働いていた青年に話しかけると、「韓国から来た留学生です。インターンとしてここで働かせてもらっています」と満面の笑みで教えてくれた。
インターン終了後、彼はここでの経験をもとに、さらにおもしろい取り組みが展開するのかもしれないと思うとワクワクする。

ちなみに編集部が訪問したのは土曜日のランチタイム。
開店早々に9組の客が訪れ、その7割は子連れだった。(平日はもう少しゆったりしているそう)。子連れが集まりやすい理由はその立地にもある。
 
IMG_3267

「Comm cafe」が入っているのは市が運営する「箕面市立多文化交流センター」の一角なのだが、同じ建物内のすぐ横に市の図書館がある。

子育て家庭の近場のレジャー・居場所としての図書館。そこへ行った際に寄り道しやすい場所なのだ。(ベビーカーでも入りやすいスロープ、授乳やおむつ替えできる個室「赤ちゃんの駅」、広々としたキッズスペースなど、子育て家庭にうれしい設備も同じ施設の中に設置されている。)

子育て中の世帯がよく利用する施設への動線上に「Comm cafe」があるため、子どもたちは幼いころから、通常では接点を持ちにくい「隣人としての外国人」に親しむことができるのだ。

また、「Comm cafe」を出たエントランスには、「スカイプ交流の窓」と呼ばれる大型モニターが設置されている。
そこでは、箕面市が提携するニュージーランド・タット市の学校に集まった有志と、建物2階の会議室に集まった英語を学ぶ学生たちやシニア層など幅広い年齢層が、英語でのリアルタイムコミュニケーションにチャレンジする様子が中継されている。

(このSkypeによるオンライン交流は無料かつ予約なしで利用できるため、英語力を鍛えたい市民にはうってつけのスペースなのだ。)

編集部が訪問したときも、「Comm cafe」横のエントランスに設置された中継モニターを4歳児と2歳児が興味深く覗きこんでいた。初対面のニュージーランド人を相手に臆することなく「ハロー!」と元気に呼びかけていた。
「僕、サンキューって言えるねん!」と満面の笑み。

IMG_3246
 
小さな子どものうちから、「食」を通して外国人との接点を持つことで、日替わりシェフやスタッフたちはもちろん、自分の暮らす町に住む外国人たちと接する際のハードルも大きく下がるのではないだろうか。
もしかしたら、外国人市民の「寂しい」「言葉がわからない」という相談に、ここを利用した市民なら直接こたえることができることもできるかもしれない…という想像が膨らんだ。

「寂しい」「言葉がわからない」と悩みがちな外国人たちが、素の自分でいることができ、仲間ができる居場所。そして、利用市民の国際感覚を育て、子育て世帯の居場所でもある「Comm cafe」。

このカフェがあることで、人が集まり、人を癒し、人々の意識をつなげることができる。
地域の問題に対し、行政だけに依存するのではなく、市民同士がしっかり支え合っていることが感じられる場所なのだ。

このユニークなカフェの誕生秘話、運営の仕組みなどの詳しいインタビューは3月15日発売のビッグイシュー307号の特集で紹介しているのでぜひご覧いただきたい。

unnamed
 

特集ではそのほか、東京・神保町の「タダメシを食べさせているのに黒字の食堂」の「未来食堂」を経営している小林せかいさん(日本IBM・クックパッドに勤務経験のある元エンジニアだそう!)、東京・渋谷区のLGBTのコミュニティスペースとして誕生したアジアンビストロ「irodori」のオーナー杉山文野さん、東京・本郷三丁目にある「手話が公用語」のスープカフェ「サイン・ウィズ・ミー」のオーナー柳匡裕さんにインタビュー。

 
IMG_3274
※実際のビッグイシューの誌面はカラーです。

「お腹を満たしに行くだけではもったいない食堂・カフェ」たちのユニークなシステム、オーナーの想いなどをご覧いただけると幸いだ。(今回掲載されていないお店の情報もこちらまでお寄せください)
Comm café-コムカフェ
大阪府箕面市小野原西5丁目2−36
TEL&FAX:072-734-6255
座席数:約60席(オープンデッキを含む)
営業時間:火曜日~土曜日 午前10時~午後5時(ランチは11:30~14:00)

▼食に関する関連記事

義務化する食事?ー20代若者男女55人の「きのう食べたご飯」
バリスタを養成し路上のコーヒーショップを展開。英国ビッグイシューの「チェンジ・プリーズ」コーヒープロジェクト始動。

「食」や「地域」に関心のある方にオススメのビッグイシューバックナンバー


pic_cover265
265号:特集「ハンディこえた希望 シビックエコノミー2」
地元の野菜を使った「六丁目農園」の渡部哲也さんのインタビューを掲載。


pic_cover276
276号:特集<子どもの貧困  生まれる「子ども食堂」>
貧困状態の子どもたちへの市民的サポートの一つとして各地の「子ども食堂」の現場を取材。


pic_cover304
304号:スペシャルインタビュー:ジョン・ボン・ジョヴィ
Jon Bon Jovi SoulFoundationというNPO法人が運営する、「値段のない」コミュニティレストランの話も。

ビッグイシュー日本版はバックナンバー3冊以上なら通信販売がご利用いただけます。










過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。