寒さの厳しかった冬も終わり、いよいよ春がやってきました。入学や入社、転勤などの関係で新たに一人暮らしをはじめたり、引っ越しをされる方も多いかと思います。
そんな時、普段は意識しないアパート入居に伴う初期費用の高さに驚かれた方も少なくないのではないでしょうか?
ホームレス状態の方のなかには、ネットカフェなどで生活している方もいらっしゃいますが、そういった話を聞くと「一か月間のネットカフェ代を払えるのであればアパートの家賃も払えるのではないか?」という疑問を頂く方もいらっしゃるかと思います。
しかし、いざアパートに入居するとなると、月々の家賃とは別に敷金礼金、前家賃、火災保険料、不動産の仲介手数料などが必要となるため初期費用で20~30万円ほどかかってしまいます。また、路上生活状態だと住民票や保証人を確保できない場合も少なくありません。
そこでビッグイシュー基金では、ホームレス状態の方が初期費用や保証人を立てることなく利用できる「ステップハウス」を運営しています。このステップハウスは利用料の一部を積立金にできる仕組みとなっており、アパート入居といった次の目標を応援する事業でもあります。
東京では一般社団法人「つくろい東京ファンド」(代表理事・稲葉剛氏)と業務提携し、新宿区の物件内の2室をステップハウスとシェルターとして運用しています。今回、東京のステップハウスを2月いっぱいで卒業したAさんに、利用した感想を伺いました。
--------------------
【永井】:Aさんは2016年の2月から1年間ステップハウスを利用されたわけですが、利用することを決めた時の経緯や心境を教えていただけますか?
【Aさん】:路上生活をしていた時は、襲撃されるんじゃないか?朝起きたら死んでしまっているんじゃないか……と、とにかく不安で仕方なかったんです。
そこでビッグイシュー基金のスタッフに相談しました。ステップハウスを利用できるとなった時は「自分以外にもステップハウスを必要としている人はいるのに自分でいいのか?」「自分はチャンスをしっかり活かせるだろうか?」という気持ちもあったけど、「路上生活から抜け出したい!」「諦めたくない!」という気持ちのほうが強かったです。
【永井】:ステップハウスを利用するようになってから心境の変化は何かありましたか?
【Aさん】:一言でいうと、「解放感」。
雨とかを気にしなくていい、帰る場所ができた、という心の安定を感じました。
【永井】:ステップハウスを利用するようになってから健康面での変化を感じたことはありますか?
【Aさん】:やっぱり寒さを防げるわけだから、風邪をひく心配は少なくなりました。
【永井】:Aさんはステップハウスを利用するにあたって、その目標をスタッフと相談し「アパート入居の資金を貯める」としたそうですね。貯金に関する負担感はどのようなものでしたか?
【Aさん】:「貯金できるか」もそうですが、そもそもステップハウスの利用料を払えるのかという不安がありました。
【永井】:そんななかでも1年間しっかり利用料を払えたわけですよね?そのことについてAさん自身はどう自己評価していますか?
【Aさん】:今ふりかえると当たり前のことをしたという感じです。ステップハウスを出る時はきっちり利用料を払えたという達成感みたいなものを感じていたけど、今考えると一般の社会人の人たちはきっちり家賃を払って生活している人が多いわけで。当たり前のことだよなーって。
【永井】:そういう、「当たり前」のことをきっちりやるために何か意識していたことはありますか?
【Aさん】:ステップハウスでの利用料はすべて返ってこないものと思って払っていました。実際はそのうち一部は積み立てになるわけじゃないですか?だけど、利用料は積み立てを引いた額って考えてしまうと、「最低いくら払えばいい」って思ってしまうじゃないですか?だから、利用料の全額が最低払わないといけないものだっていう思いで生活したし、それは良い経験というか、一般的な金額としての家賃を払う良い練習になったなと思います。
【永井】:ステップハウスを利用してみての総合的な感想はどんなものですか?
【Aさん】:とにかく全てがプラスになったと思います。ステップハウス利用中に実家に帰って親と話ができたのも、「利用料を払っている」ということで後ろめたさみたいなのがなくなったことが大きいんですよ。家計簿もつけるようになったし、自分でごはん作ったりっていう、生活のコントロールができるようになりました。
それと、人に優しくできるようになったとも思います。路上生活の時はとにかく生きるのに精一杯で、「こんな生活絶対嫌だ」って思ってて。心に余裕がないというか。ステップハウスを利用してからは人の気持ちが少しわかるようになった気がする。
【永井】:ステップハウスのような事業がもっと社会的に広がっていってほしいとビッグイシュー基金のスタッフとしては思っているんですが……。
【Aさん】:自分は路上生活がどれだけきついか経験している。永井さん、分かる?分からないでしょ?
【永井】:はい。
【Aさん】:僕は、路上生活は誰にも経験してほしくない。見たくないですよ。誰にも路上で寝てほしくない。自分はステップハウスに入れて本当によかったと思いますよ。--------------------
Aさんの「帰る場所ができた」「うしろめたさがなくなった」といった言葉から、Aさんにとって住宅を確保するということは、雨露をしのぐといった物理的な面だけでなく、精神的な安定にとっても重要だったのだと感じました。
ビッグイシューは、これからも継続してAさんにとっての「自立」を応援していきたいと思っています。
(東京基金 永井)
――
ステップハウスの運営をはじめ、ビッグイシュー基金の活動は、寄付参加、ボランティア活動など、市民のみなさまのご参加・ご協力で成り立っております。活動に参加することを通じて、私たちと一緒に様々な人達の自立を応援してくださいませんか?
ビッグイシュー基金では、多くの方に気軽に参加していただくために、各種のご参加方法をご用意しております。
http://bigissue.or.jp/support_ind/index.html
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。