「ホームレス状態の方とホームレス経験者によるダンスチーム」と聞いて、「どういうこと?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。

その上、彼らが「山形ビエンナーレ」など全国各地の芸術祭で踊ったり、アーティストのツアーに帯同して全国13箇所を巡ったり、ブラジル・リオ五輪の公式イベントに招かれて海外でパフォーマンスを行ったりしている・・・と聞くと、ますます困惑してしまいそうです。

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写真 Adam Isfendiyar




ダンスチーム「新人Hソケリッサ!」は、そんな、路上生活を経験した人、または現在ホームレス状態であるメンバーで構成されたコンテンポラリーダンスチームです。メンバーは、背が低かったり高かったり、痩せていたりお腹が出ていたりする、平均年齢52歳の「おじさん」達。彼らのダンスには、一糸乱れぬ振り付けや、アクロバティックな技は出てきません。それでも、これまでに公演を観たお客さんからは、「感動して自然と涙がでた」、「体温のような温かさを感じた」、といった感想が多く寄せられています。

2007年の初自主公演開催から10周年となる今年、それを記念して、2017年6月〜2018年9月末までの約1年をかけて東京近郊の路上や公園で踊るダンスツアープロジェクトを開始しました。現在、プロジェクト実施に向けたクラウドファンディングにも取り組んでいます。



ビッグイシューの活動とも関わりが深く、昨年はコニカミノルタソーシャルアワードでグランプリを受賞するなど、今、社会的にも注目を集めています。ソケリッサを主宰する、ダンサーで振付家のアオキ裕キさんに、この10年間の活動とツアーについての意気込みを聞きました。

出会った人や訪れた場所がつくってくれた、今の「ソケリッサ」という形

2007年の初自主公演から、この10年間で変わったことはたくさんありますが、ひとつは「ソケリッサ」という形の変化ですかね。10年前、「多くの人が気にも留めず、素通りされることが当たり前の路上生活のおじさんたちが、人前で自由に踊ったらどんなことが起こるんだろう、それを見てみたい」という気持ちでソケリッサを始めたのですが、当時は1年後とか3年後なんて全然考えていませんでした。そもそもメンバーを集めることが大変でしたからね。

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ソケリッサ!メンバーとアオキ裕キさん(左から4人目)

でも、ビッグイシューに協力してもらってメンバーを集めて、みんなで地道な練習を重ねていたら、不思議なことに3年経った頃に色んなところから声がかかるようになりました。そこから一気に活動の幅が広がった感じです。

シンガーソングライター寺尾紗穂さんの全国ツアーに帯同したり、各地の芸術祭に招いてもらったりしながら、ソケリッサの形が少しずつ変わっていったように思います。ツアーで出会うお客さんの声や応援だったり、踊る場所やお誘いいただくイベントの舞台だったりと、その時に出会った人や場所、環境が、ソケリッサというグループをつくってくれているような気がします。

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練習中の1コマ

周りからの評価もずいぶん変わりました。結成当時は、「路上生活の人なんて集められないよ」とか「素人が公演なんてできるはずがない」とか、とにかく否定的な声が多かった。メディアの取材も、「ホームレスの人」という部分に焦点を当てたものが多かったです。でも今は、ソケリッサの「ダンス」という本質の部分を取り上げてもらうことが増えました。それだけソケリッサが世の中に受け入れられてきたのかなと思うと、これまで一緒にやってきてくれたメンバーにやっと恩返しができた気がして、嬉しいです。

10年間で、メンバーも自分も大きく変わった

メンバーに対しても、「この人、変わったなあ」と思うことがあります。長年つき合っていく中で感じる変化というか。例えば、自分のことで精一杯だった人が、他のメンバーのことを心配したり気を遣ったりするようになったとか。他には、以前は言われるがまま公演に参加していた人が、「次はこういうところで踊りたい、こういう人に見てほしい」という発言をするようになったとか。

それぞれの変化の理由ははっきりとは分からないですが、心に余裕がでてきたということであったり、自分たちの踊りが受け入れられているという自信がでてきたということであったりするのかもしれませんね。

自分自身も大きく変わりました。それまで、自分にとっての「踊り」って形を音にはめ込んでいく作業みたいなものだったんですけど、おじさんたちにとってはそうではなかったんです。ダンスのテクニックを人に教わったわけではないおじさんたちは、踊るとき、自分の内側から出てくる、自分にしかない何かを形にしていくんですね。自分の内側にあるものを、身体全体で表現しているんです。そこに、生きることの本質がある気がしました。イトウさんの踊りとか衝撃でしたよ(笑)。(イトウさんについてはこちら)とにかくその時やりたいことをやっている感じ。それがいいなあ〜と思って、自分もシンプルに内側を表現したいと思うようになりましたね。ほんと、おじさんたちの踊りに気づかせてもらうことって多いです。

「路上生活のおじさんが踊ること」が当たり前の世の中に

今回の10周年記念路上ツアープロジェクトでは、約1年をかけて、東京近郊の路上や公園などで踊ります。

ステージの上ではなく路上でのツアーにした理由は、ソケリッサの活動をもっと展開させたいという想いからです。もっと多くの路上生活の人にソケリッサに参加してほしいんですよね。

ソケリッサの活動は、言葉を使えばいくつも表現できるんです。自己肯定感を高めるため、とか、社会の問題に関心をもってもらうため、とか。でもソケリッサの一番の本質は、「踊るのって面白い」ということを、おじさんたちに知ってもらうことなんです。

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金沢21世紀美術館による『AIR21:カナザワ・フリンジ』に参加したときの様子

踊ることって本当に面白いんです。自分の身体全体を使って、自分の中にある何かを形にするのって、すごくおもしろい。その面白さを、まだ出会えていない路上生活の人にも感じてほしいなと思って、路上でのプロジェクトを決めました。

1年間のプロジェクトにしたのも理由があります。1年間で何十回も東京の路上で踊るんですけど、それって結構しつこいですよね(笑)。でもそのしつこさが、今の世の中には必要かなと思うんです。いろんな制約があってルールに縛られている今の世の中で、路上生活のおじさんが踊ることを当たり前にする、自由に表現する事を当たり前にするには、しつこく繰り返すことが必要なんじゃないかと思いますね。

路上生活ではない方にも、ぜひソケリッサを見に来て欲しいです。見てくれる方にこういうことを伝えたい、というのは特になくて。純粋に娯楽として見てもらってもいいし、社会の問題とつながるきっかけにしてもらってもいい。それぞれの見方で、ソケリッサを感じてもらいたいと思っています。

自分たちの原点、東京の路上で、お待ちしています。

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。