さまざまな人が「協働」する際のコミュニケーションのコツについて、大阪大学産学共創本部特任研究員の森本誠一さんの講義がありました。そのエッセンスをビッグイシュー・オンライン編集部員がご報告します。
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*この講義は、地域の課題解決を担う人材を育成することにより、地域の魅力を高め、地域の未来を創造していくことをめざした「とよなか地域創生塾」の公開講座の1回目です。

コミュニケーションの基本とは

自分の認識は万国共通ではないことを意識する

「まずは世界地図を描いてみましょう」と先生。
それぞれの受講生が、地理に詳しい人は詳細に、自信のない人は大雑把に地図を描いていきます。いくつか大陸ごとなかったりする地図の方もいましたが、ほぼ全員が、日本が中心にある図を描きました。
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森本先生
 世界地図で検索すると、ヨーロッパが真ん中にある地図が多く出てきます。  海外から来た人と話すと、それぞれの母国が中心になった地図をイメージしているのが  わかります。日本が中心の世界地図をイメージするのは日本人だけなのです。  いろんな人と話さないと、その「スタンダードとする認識の違い」はわからないものです。
どのような場面においても、<同じ単語を聞いていても、頭の中に浮かべるイメージは人それぞれである>ということを「意識する」ということが大切です。

コミュニケーションの手段は言葉だけではない

「コミュニケーション能力」というと、「話が得意であること」「話すネタの引き出しが豊富」「スピーチのスキル」「聴衆を笑わせるスキル」などと思うかもしれません。

しかし「コミュニケーションの手段は言葉だけではありません」と森本先生。
たとえば
・視線
・表情
・ジェスチャー
・姿勢
・距離
・位置(テーブルに対面で座るのか、斜めに座るのか、隣なのかなど)
・その他身体行動

なども「コミュニケーション」に含まれます。
こういうことを知ったうえで、まずは自分がコミュニケーションしていて心地いい人を分析してみましょう、と先生。

編集部メモ:

同じ「ふーん」という相槌であっても、話し手に対して前のめりなのと、椅子の背もたれに背をつけたまま、視線が違うところにあるのとでは相手が受ける印象は全く異なります。また、目をキラキラさせて話を聞いてくれる人には安心していろいろな話をしたくなるものです。
確かに森本先生も、発言する参加者のことをしっかり見つめて、前のめりでお話を聞いておられました。


「心地よいコミュニケーションのあり方」は、人により異なる

同時に「心地よいコミュニケーションのあり方」は、人により異なることも覚えておかなければなりません。これには、普段の行動でお互いに探り合い、心地よいイメージを共有できる力を身につけることが大切になります。「親密になる」ということは、お互いに心地よいイメージを共有しながら中間領域で詰めていく作業となのです。

協働の際には「越境」が生まれる

地域や年齢・育ってきた環境などが違う人々とコミュニケーションせざるを得ない時、様々な「越境」を必要とします。
森本先生:
普通に学校に通い、社会に出て働いている人というのは、「同質の人としか喋ったことがない」という人が多いんです。「他の世間を知らない」という人が多い社会であることを理解することが必要です。 そのうえで、「越境」するコミュニケーションを意識してください。

越境の例として以下のようなものがあります。

年齢の越境:

現在の世の人々は、同じ学校・塾の上下2,3学年違いまでのコミュニケーション経験しかないことが多々あります。
さらに受験により偏差値で区切られた環境にくわえ、文系、理系の同質の環境で育っています。
「幼稚園から定年くらいまで、周りの人がみんな同級生しかいない」…という人もいます。

この年代・環境の人たちは、他の年代と話したことがほとんどないため、「世代による環境・考えの違い」が存在することにすら気づいていない、存在を知っていても「知識レベル」に過ぎないため、いざコミュニケーションすると全くかみ合わないことがあります。
森本先生:
親になり、子が学校に通い始めたらPTAという協働が必要になります。その際、10代の親と40代の親がコミュニケーションしなければならないシーンが出てきますが、10代後半で親になる人と40代くらいで親になる人では社会的経験、考え方の違いは顕著なので、保護者どうしをアイスブレイクさせる方法、など「どううまくつなぐか」ということから考えないと今まで通りの組織の回し方ではうまく回りません。

性別の越境:

男女のものの感じ方、表現のしかたは往々にして異なるということを前提として考えるのも大切です。
例として「コロラド大学の男女ペアの学生に、リレー小説を書くように指示をしたら…」というエピソードを紹介。
話の中ではカモミールティーを淹れて、大切な人を想う女性の話を女学生が書いた後、男子学生は宇宙戦争に展開させようとします。それを引き戻そうとする女学生に対し、男子学生はアルマゲドンを引き起こし、二人のリレー小説は決裂…。
男女の差の典型とばかりに、受講生から大きな笑いが起こりました。(興味のある方は検索してみてください)

そもそも、もしかしたら「同質」と思っているグループの中でもたくさんの「異質」があるかもしれません。自分と自分以外の人には「違いがある」ということを前提にしていないと、思わぬコミュニケーションロスや摩擦が起こり得ます。

発達の特性:

近年の調査では15人に1人が「発達障害」と診断されていると先生。
様々な発達の特性がありますが、たとえば「比喩、たとえ話、婉曲的な表現」の理解を苦手とする人がいたりしますが、その特性を知ることで、「社会の側の障害」を取り除けないか考えてみることが大切です。
たとえば「明日の4時に待ち合わせ」と言って、朝4時なのか、夕方4時なのかを判別しづらい人もいる、ということを知っておくことで、「16時」「夕方4時」など、間違いの起こりにくい言い方に気を付けるだけで済む、というケースもあります。
同じ説明をいろんな表現で2つ3つ説明するなどの工夫を心がけるなど、何か特性がある人とコミュニケーションするならば、できる側がそれなりの対応をすればよいんですよ、というアドバイスがありました。
大小の差はあれど、みんな何か特性を持っている。理解しあうためにお互いが工夫するということでしょうか。

編集部メモ:

「みんな特性はある」ということは知識として持っていても、「同じキーワードでこう受け取る人がいる」ということについて事例をもとに説明されるものはなかなかないのではないでしょうか。

ビッグイシューで連載をしていた自閉症で作家の東田直樹さんと、精神科医の山登敬之の対話を収めた本『社会の中で居場所をつくるー自閉症の僕が生きていく風景(対話編)』も、「特性による受け止め方の違い」を興味深く解説されており、おススメしたい本です。


協働のためのコミュニケーションのコツ

「BUT」ではなく「YES,and…」を心がける

否定的なことを言うと議論や会話は続きづらいものです。会議や打ち合わせ、ネットを介したやり取りをするときに、「相手の発言を否定しない」というルールを作ってみましょう。

「いいですね、だったらこうしましょう」と言ってみるなど、肯定から始めるとよいです。

また、出てきた発言はすべて尊重し、さらりと「いいですねー。さて…」などと聞き流したりせず、きちんと記録に残すなり、その発言を次に生かしていくことが重要だそうです。

編集部メモ:

この話を聞いて、筆者の元上司を思い出しました。
元上司は、部下がトラブルの報告をしにいくと「それはちょうどよかった!」と必ず言ってくれる人でした。
「部下に『どんなトラブルでも上司は受け止めてくれる』と思ってもらうことが肝心だから、うわっ!と思うような報告でもとにかく第一声を『それはちょうどよかった!』にすることに決めていた。そう口にすることで、自分の頭の中もポジティブモードになり、『これの何がちょうどよかったのか』を自分の頭が自動的に探り始めてくれる。そうすると続く言葉が『早めにわかってよかったね!』だったり『これはみんなで話し合ういい機会だね』など、次の言葉もポジティブになるから」というのが理由とのこと。
「Yes,But…」をさらに進化させた「Yes,and…」のコミュニケーションのおかげで、新人もベテランも、自由闊達に意見の言える居心地のいいチームでした。
まさに「話しやすい雰囲気づくり」を実践していたのだと思い出しました。


「違いに配慮する」

自分の都合の良い話し方ではなく、相手により話す速度、文の区切り方、息継ぎのポイント、使用する単語や表現を使い分けることを意識しましょう。
「このくらいのことがわからないなんて…、このテーマの話をするなら知っておいてもらわないと…」という考えでは、なかなか理解が進まないこともあります。

「相手の立場に立って考え、歩み寄る」

個性や生い立ちにより、ものの感じ方、発し方は人により異なるということを胸に、自分ができることを他人もできる前提で要求するのではなく、「歩み寄れる側が歩み寄る」ことを意識しましょう。

「あなたのコミュニケーション手段を押し付けない」

コミュニケーションには様々な手段があるということを最初に確認しましたが、インターネットが苦手な人もいます。
「自分の普段通りのチャンネル以外を開かない、というのでは越境はできません」と先生。

編集部メモ:

年齢・立場・個性・文化の異なる人々と協働する。なんだか面倒そう…と感じる人もいるかもしれませんが、ちょっとした歩み寄りで結果は全く変わって来るものです。親になった時に、PTAで。仕事をリタイアしたときに、地域で。災害時に、避難所で。より多くの人の感じ方、コミュニケーションのあり方を知り、自分の引き出しに入れておくことは、より多くの人とスムーズにコミュニケーションできることにつながります。そして、お互いの違いをみとめ「越境」を楽しむことができる人がたくさんいる社会はとてもクリエイティブでワクワクする場所だと思うのです。

   

次回の公開講座【第2回】のテーマは「幸せな地域社会をめざすアクション・リサーチの試み~市民協働と信頼構築のカギは何か?~」、講師は草郷孝好さん(関西大学社会学部教授)。


※次回の草郷先生は、大学の授業でビッグイシューのお話をさせていただいたご縁があります。
< 過去の記事>
 関西大学・社会学部へ出前授業!-学生から見たビッグイシューの疑問






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