草郷さんの講義から(3)を読む

愛知県長久手市は、「住みよさランキング2017」全国第3位のまち。にもかかわらず、「住みよさ」だけに満足することなく、「大切なのは利便性や快適度ではない。面倒くさいことをやらなくなったら町はダメになる」と市長が主導し、よりよいまちづくりに取り組み続けているそうです。長久手のまちづくりについて、関西大学社会学部教授の草郷孝好さんの講義を訪ねました。



 *この記事は、地域の課題解決を担う人材を育成することにより地域の魅力を高め、地域の未来を創造していくことをめざした「とよなか地域創生塾」の公開講座の2回目「幸せな地域社会をめざすアクション・リサーチの試み~市民協働と信頼構築のカギは何か」の講義をもとにしています。

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長久手市は、「日本一の福祉のまち」=幸福度の高いまちの実現を目標とし、2050年のビジョンとして掲げ、市民と行政の協働活動により、地方自治体行政の新しい形を目指しています。
「日本一の福祉のまち」とは、生活の質と幸福感の高い持続的なまちを住民主導で作るということです。
「市民中心の市にするには、市民と向き合う行政でなければならない」との考えのもと、行政職員も市役所としての仕事の先に市民がいることを意識しているそう。


「経済成長」にかわる発展のモノサシを地域独自のものを開発することにより、市民の生活や地域社会の状況を多面的に評価し、地域や市民の暮らしの改善に継続的に取り組んでいます。

ここでのポイントは「こう生きると幸せになるということを評価し合うモノサシ」を住民が提案して作るということです。


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長久手での「アクション・リサーチ」の取り組み、「幸せのモノサシづくり」

「今の長久手の生活の幸せを測ろう」という動きとして、「ながくて幸せ実感調査隊」が発足しました。幸せの実感調査として市民生活と地域の状況を確認する「ながくて幸せ実感アンケート」制作・実施・報告する人を公募し、有志の市民11人と、若手職員10人の21人がチームを組んで取り組んだのです。
分析、調査活用提案、報告書作成に全員が参画しました。

まず、第一段階として、さまざまな幸福度に関する研究の知見を参考にして、長久手市民の幸せに欠かせない要素を8つのグループにわけ、意見交換を重ねながらながくて幸せ実感調査票を作成しました。

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第2段階は、実感調査の実施をしました。

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第3段階は分析とその発信です。集計・分析もメンバーでやることで、結果を見てもっと知りたいことはあるか」ということや「気づくことは何か」ということをポストイットに書いていってもらうなどして、分析を深めていきました。
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調査を出発点として、幸福度をさらに高めるには地域活動を高めればよいということの気づきが生まれました。そして、将来2050年にこういう街でありたい、ということを議論していくなかで、「もしかしたらすでにおもしろいことをしている人がいるかもしれないし、それを知ることで参加したい人もいるかもしれない」という意見が出て、「ながくて幸せ実感広め隊」という取材チームがたちあがり、面白い人々を発掘し、取り上げ、発信いくことでさらに幸せなまち長久手にしていきたいそうです。

この報告書には長久手市が目指す「幸福度の高いまち」へのヒントや長久手市の魅力、あるいは克服すべき点が盛り込まれ、日常生活や市民活動の中で、幸せにつながる知恵や工夫の輪を広がることが期待されています。

編集部補足:
ながくて幸せ実感調査 調査票や報告書は長久手市ホームページで公開されています。
他の市でも展開できるよう配慮されています。

長久手からの学びは下記のとおりです。
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従来の市民は行政サービスのお客さんという関係から、行政と市民が知恵を出し合って、住みやすいまちづくりを目指して協働する、という新しい関係に変えていく試みであり、市民ひとりひとりが主体的に能動的に動くこと(動けること)が大切なのです。

ちなみに、長久手市には、現市長の吉田一平さんが立ち上げた「ゴジカラ村」という面白い空間があります。ここでは、雑木林の中に老人介護施設や幼稚園などを意図的にくっつけて作り、運営しています。とても面白い場所ですが、長久手らしさが出ていると思います。

編集部補足:
長久手市の「ゴジカラ村」は、ビッグイシュー254号の特集「市民がつくる希望の経済 ― シビックエコノミー」でも「人の雑木林、都会の多世代共生ユートピア」として取材させていただきました。
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 https://www.bigissue.jp/backnumber/bn254.html



草郷孝好(くさごう たかよし)
東京大学経済学部卒業、学生時代から住民参画型の社会経済開発と持続的発展に興味を持つ。関西大学社会学部社会システムデザイン専攻教授。(人間開発論)

※草郷さんは、大学の授業でビッグイシューのお話をさせていただいたご縁があります。
  関西大学・社会学部へ出前授業!-学生から見たビッグイシューの疑問







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