ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。
今回は大阪府立豊島高校の2年生の人権学習の時間に、ビッグイシュー日本のスタッフ、そして販売者の吉富さんがお邪魔しました。
人権学習の一環として「ホームレス問題」を考える授業
高校のカリキュラムはかなりタイトで、十分な「人権学習」ができる「時間枠」が物理的に取れないそう。そのため、こちらの高校ではいくつかのテーマのなかから自分で興味のあるものを選び、「当事者の思い・生き様」を学んで「自分がこれからどんな生き方をするのか」「何を大切にするのか」という事などを考える一助とするそうです。
校長からは、「今の時代の高校生は、ネットで自分の興味・関心を検索します。その際、『確証バイアス*』がかかり、自分の意見が正しいということを確認するための検索になりがちです。だから、その思い込みを壊すような、”当事者・当事者支援者ならでは”の声をぶつけてくださいね!」と激励をいただきました。
*確証バイアス=仮説などを検証する際に、自分の仮説を裏付ける情報を収集し、そうでない情報を無視または収集しない傾向のことを指す
ちなみに、今回のテーマは戦争と平和、発展途上国の子供たち、車いす生活、デートDV、部落差別、高齢者問題、LGBTQ、そしてホームレス問題の8つ。
どれも大切な問題で、スタッフも講義を聞きに行きたいと思えるものばかり。そのなかで、ホームレス問題に興味を持ってくれる高校生が何人いるのか、ドキドキです!
教室移動してみた結果、ビッグイシューの講義には、40人の生徒さんが参加してくれました。(ホッ…)
講義の中では、まずスタッフが<ホームレス状態に陥ってしまうと、住所、保証人、貯金などがない人はアルバイトに採用されることすら難しい>という例を話し、自分の力ではどうしようもない理由で這い上がることが難しいこと、ホームレスとは「状態」を表す言葉で、その人の「人格」を表す言葉ではないということ、そしてビッグイシューの事業の内容を説明。
そして、ビッグイシューの販売者で、現在は「ステップハウス」に入居している吉富さんが、高校時代の話や、社会人になってからホームレスになるまでの経緯の体験談を話しました。
▼販売者になった経緯や販売スタイルなど
▼「ステップハウス」に入居したお話
ホームレス経験のある吉富さんが、高校生に伝えたいこと
ホームレス経験のある人が話すのを聞くのは初めての生徒さんが多かったのでしょう、みなさん集中して話を聞いてくれていました。吉富さんのパートの最後には、高校生の皆さんへのメッセージ。
僕の時代にはネット環境がありませんでした。何人の高校生に伝わったかわかりませんが、「ホームレス」は「つながりレス」問題でもあります。心のうちをさらけ出せる、助けてと言える関係を今から培ってほしいというメッセージを送りました。実際、吉富さんもホームレス状態になった時、人とのつながりでかなり助けられたそうです。
今はネットがあって便利だけれど、それに頼りすぎることなく 「人と親密な付き合いをすること」が、いい人生を送ることに必要なことだと思います。
"本当の友人"を持ってください。
今はお父さんやお母さんが守ってくれていますが、 社会に出た時に、相談できるような相手を一人でも多く作ってください。
ホームレスになったのは誰のせい?高校生からの質問
最後の質疑応答で、あらかじめ寄せられていた質問のなかからいくつか回答しました。そのなかには、「ホームレス状態になったのは誰のせい?」というものも。鋭い質問に、吉富さんも言葉を選びながら回答しました。
吉富さんは「ホームレスになった理由・・・。
自分のせいでもあり、社会のしくみのせいでもあり、自分だけのせいでもないし、誰かのせいだけということもないと思います」と回答。
何人かの生徒さんが「社会のしくみ・・・?」という表情をしていたのでスタッフからはこう補足をしました。
高校生の皆さんに、「社会のせい」といっても、ピンと来ないかもしれません。ホームレスは自己責任、と言われることが多いのですが、リストラ・倒産、介護離職などがあれば、職を失うということは誰にでも起こりうる問題です。さらにいろいろなめぐりあわせがあってホームレス状態になってしまうのですが、当事者の多くが「まさか自分が路上生活になるとは思わなかった」と言います。
ホームレス状態に陥る人は、努力不足、自己責任、と言われることもあります。
でも、路上生活をする人の数は時代や国によって違います。
たとえば、リーマンショックの直後は、日本に3万人以上の路上生活者がいました。
いまは5000人ちょっとと言われています。
では、この差の25,000人の人たちは、リーマンショック直後に「努力をしなかった」人たちなのでしょうか?
違いますよね。みんなそれぞれの場所で一生懸命頑張っていました。
でも、何かのきっかけでホームレス状態になってしまう。
それはなぜでしょうか?
国によってもホームレスの数は異なります。他国では日本よりホームレスの数が少なかったり、多かったりします。それは、日本より頑張る人が多かったり、少なかったりするということでしょうか? 一概には言えないですよね。国の政策もあるし、家族などのコミュニティのつながりの強さもあるし、景気や雇用も関係します。
ホームレス=努力不足 とだけ捉えるのではなく、そういった要因のことにも興味を持ってもらえるといいのかなと思います。
「自己責任」だけでホームレス状態になるのではない、ということを生徒さんたちにお伝えしました。
講義後のアンケートより
生徒さんから様々な声をいただきましたが、多くの生徒がホームレス経験のある販売者の生の声に刺激を受けたようです。「街の中で、路上で行われているものに全く興味がなかったけど、これを機にもっと周囲に目を向けていこうと思った」
「今回の話で一番印象に残ったのは、販売者の方の最後のメッセージです。私も人とのつながりを大切にし、社会で活躍できる人間になろうと思いました。」
「ホームレスになる原因はその人にあると思っていたが、会社が倒産したり、病気になったり、と本人はまったく悪くなくてもホームレスになってしまうことがあるとわかりました」
「今回の講習を受けて"ホームレス"へのイメージが180°変わりました。"ホームレスは状態を表す言葉である"という言葉を聞いて、よく考えれば確かにそうであり、ホームレス以外にも地位や立場を人格として捉えるのは大きな間違いだと深く共感しました」
心に残った言葉はそれぞれ違いますが、今後の人生で何かの折に思い出してもらえるようなことをお話しできたらと思って講義させていただきました。
高校の人権・道徳の授業、大学での貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします
ビッグイシューでは、高校・大学その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。