ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで出張授業をさせていただくことがあります。
 
今回、ビッグイシュースタッフと販売者の中本さんが訪れたのは、大阪商業大学堺高等学校の「人権」の授業。同校では人権教育に力を入れており、各学期に1~2回、様々なテーマで講演者を招いての授業が開催されています。


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今回の授業の対象はなんと約500人の高校3年生。
50分の授業では時間が足りないため、事前にホームルームでDVDを見ていただき、その際集めた質問をもとに授業を進める形を取りました。

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スタッフからホームレス問題や、ビッグイシューの事業の説明をした後に、なかもず駅前販売者・中本さんが話し始めると、多くの高校生の視線がぎゅっと集まりました。

何不自由なく過ごしていたが、介護離職をきっかけにホームレスに

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中本さんは、かつては不動産関係の会社で営業職として活躍。支店長代理まで務めた立場にあり、金銭的にも健康的にも特に不自由のない生活を送っていました。
しかし46歳の仕事盛りの時に父親が倒れ、「親を介護するために仕事を辞めるか、親を見捨てるか」の選択を迫られます。

入居できる施設もなく、ひとりっ子で頼れる人もいなかった中本さんは断腸の思いで会社を辞め、実家で介護を開始。父親が亡くなった後は寝たきりの母親の介護が必要となり、トータル10年もの間、孤独な介護生活を送ることに。

母親が亡くなってから求職活動をするも、元の仕事には戻ることはできませんでした。さらに55歳の年齢では雇ってくれるところもなく、あえなくお金が尽きて住むところを失います。「これからどうなるのか、この年で家を失ってしまって、これから先はあるのか?」と不安に襲われる暮らしに陥ることになりました。

だからといって死ぬ勇気もない。でも生き抜くノウハウがないまま、日々が過ぎて行く。どこにも行き場がなくなった夜、大阪駅の高速バス乗り場に辿りついてそこで座って目をつぶりました。でも怖くて眠れませんでした…。
静かに、しかし明瞭に中本さんはこう話しました。
みなさん、ホームレスと言うと、とんでもないダメな人と思ってしまいがちかもしれません。でも、ホームレスになってしまう最初のきっかけは、私のように介護離職だったり、リストラだったり、倒産だったりと、“誰にでも起こりうること”である人が多いと思っています。

それをきっかけに、借金せざるを得なくなって首が回らなくなったり、ヤケになってしまってアルコールやギャンブルにハマって抜け出せなくなる、という人もいるだけで、一番初めは、いわゆる“フツウ”の人だったんだと僕は思っています。

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かつては朝礼などで部下に話をする経験も豊富だった中本さんのお話は、穏やかでわかりやすく、多くの高校生たちがひき込まれている様子でした。

高校生からの素朴な質問の数々

Q:「頼れる人はいなかったのですか?」

A:ずっと以前に離婚して妻はいない、子どももいない、そしてきょうだいもいない。 「何かあれば言ってよ」と言ってくれた遠い親戚もいるにはいましたが、実際に頼れるかというと、難色を示されたりして僕の場合は無理でした。

Q:「どうしてビッグイシュー販売者に?生活保護は受けないの?」

A:ホームレスでもできる仕事といえば、ビッグイシュー販売くらいしかなかったからです。
でも、続けてみると、少しずつ常連になってくれる人が増えてきて、少しずつお話しできる人も増えて来る。そういう人との触れ合いは、やりがいに繋がっていますね。

生活保護は、ケースワーカーとの折り合いが悪かったのと、「まだ自分でやれるところまでやりたい」と思ったこともあり、今は受けていません。

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Q:「世間や行政を恨んだり憎んだりしていますか」

A:うーん…自分で選んだ状況ではあるので恨んだり憎んだりということはありません。

でも、介護に関しては改善してほしいことは山のようにありますね。
日本中に介護で大変な思いをしている人、仕事を辞めなければならない人はたくさんいる。
そんな人がたくさんいることはわかっているのに、どうにかできないのかな、という気持ちはします。

Q:「何か高校生にメッセージはありますか」

A:そうですね、遊びでも、趣味でも、なんでもよいのですが、若いうちに何か少しでも目標をもったほうがいいかなと思います。
ぼやっと過ごしていると、あとに残るものがありませんから。

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500人の高校生たちにとってはおそらく人生初の「ホームレス経験者の講演」。大きな拍手をもって約50分の出張講義を終えました。

講義を終えて~ビッグイシューから大阪商業大学堺高等学校の先生に質問~

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左から教諭の吉川先生、門口先生、奥田先生


学年人権担当の吉川先生いわく、「ホームレス問題というと、高校生には遠すぎてもっと無関心なのかな?」と心配していたのとは裏腹に、いつになく真剣に画面に見入り、質問票にもたくさん記入があったとのこと。
さらに、出張講義の当日の朝に生徒から「今日は、ビッグイシューの人が来てくれはるんやろ?」と確認されたそうで、「そんなことは初めてでした」と話されました。

Q:「なぜビッグイシューの出張講義を企画されたのですか?」

奥田先生:以前、大学の恩師とビッグイシューの販売者さんとご飯を一緒に食べる機会がありました。その販売者さんがホームレスになったきっかけは離婚だったんです。その離婚の原因は、お連れ合いの方が借金をしてしまったことでした。そして他に頼れる家族はいなかったとお話されました。自分自身、ホームレスになるということは、その人の責任ではないのではないかということから「貧困問題」に関心があり企画したところ、学校の理解もあって実現することができました。Webサイトに出張講義の案内があったので、「これだ!」と思って決めました。

Q:「ビッグイシューの主張講義のいいところはどんなところですか」

門口先生:なんといっても、ホームレス当事者の方がいらしてお話してくださることです。
人権学習と言うと、印刷物やビデオでの学習は多いと思いますが、それでは高校生の心に届ききらない。今の高校生たちは、スマホでの情報収集が普通で、「ホームレスの人は自己責任だ」という論調に触れても「そんなものだ」と受け止めてしまいがちです。でも、実際に生身の人に来ていただくと、刺さるものが違います。事前授業のDVDも、今回の中本さんの話も、生徒たちにとって非常に得るものがあったようです。

Q:「当事者を招く講義に予算を割くような文化はどうやって作るのですか」

門口先生:なんとかやってみることだと思います。
当事者を招くと、やっぱり高校生たちの反応が違う。その様子を見ると、やっぱりお招きしたほうが良いね、ということがわかってきますから。

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企画いただいた大阪商業大学堺高等学校の先生、生徒の皆さん、ありがとうございました!


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人権・道徳・格差・貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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