ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は尼崎市人権啓発推進リーダーの方々が参加する研修。リーダーの方々は、同市の人権学習グループ(小集団学習)の助言などを行っておられ、ホームレス問題に関心を持ってお招きいただきました。
とはいえ尼崎には販売者がいないこともあり、参加者のビッグイシューの認知度は低め。実際にビッグイシューを購入したことがある方は2名というなか、ビッグイシューのスタッフと販売者がホームレス問題とビッグイシューの取り組みについての講演を実施しました。
「“ホームレス”という人はいない」
ビッグイシューのスタッフは「参加者の皆さんに一番お伝えしたかったことは『ホームレスというのは“家がない”という状態を表すものであり、だれかの人格を表す言葉ではない』ということです。」ということから話し始めました。多くのホームレス状態の人たちと接してきた経験から、どの方も違う個性を持っており、一概に「ホームレス状態にある人とはこういう人」と言うことはできないと言います。
しかし、世間ではホームレス状態があたかもその人の人格や性格のように捉えられてしまい、それによって彼らが社会の中で生きていく上で不利に働くことがあります。
このような「思い込み」や「ステレオタイプ」は性別や人種、障害などにおいても同様で、人権に関わる問題です。
一度ホームレス状態になると、働きたくても働けない意外な理由
また昨今ではさまざまな場面において「自己責任」という言葉が強調され、ホームレス状態にある人に対しても「選り好みしなければコンビニのアルバイトや飲食などで働けるはず」「ホームレス状態から抜け出せないのは本人の努力不足」などという言葉を耳にすることは少なくありません。しかし、一度ホームレス状態になってしまうと、履歴書に住所を書くことができなくなるため、アルバイトであっても採用されることは困難なことです。
また年齢制限や保証人を求められることがあることに加えて、給料の後払いによって万が一、ホームレス状態にある人たちが就職することが出来ても、給料が振り込まれるまで自立した生活を送ることは難しく、社会構造的な壁があります。
さらにホームレス状態になるのは「怠けていたからだ」「自分が好きで選んだ道だ」と思われがちですが、たとえば病気・ケガ、災害、親のための介護離職など、本人の努力では避けきれない様々なきっかけにより、運とタイミングが悪くホームレス状態に陥った人も多くいます。現在家や仕事がある人の中にも、運やタイミングが悪ければ、ホームレス状態になるリスクが高い人たちがこの国には実はたくさんいるのです。
セルフヘルプによって自己肯定感を
ホームレス状態から抜け出すには「住所や保証人、給与振り込みのタイミング」といった社会構造的な壁だけでなく、その壁を乗り越えようと思う気持ち、自分ならできるという自己肯定感も必要ですが、ホームレス状態になるまで少しずついろんなものを失ってきたうえに、ホームレスであるがゆえに「不可視化」されたり、否定される日々が続くことで、さらに自己肯定感が低下していきがちです。そのためビッグイシューでは「セルフヘルプ」を大切に販売者をサポートしています。たとえば新人の販売者が販売を始める前にスタッフから「ここに立ってください」などという指示をするのではなく、「どの売り場に立ちたいですか?」と確認して本人が決めたり、毎回の仕入れはどの号をどれだけ仕入れるかということを販売者が主体的に選択したりすることによって自己肯定感を取り戻していくように努めています。
もちろん販売者に全て丸投げではなく、ビッグイシューとしてサポートできることがあれば販売者の意向に沿って、彼らを「救済の対象者」ではなく、あくまで「対等な関係であるビジネスパートナー」として支援をおこないます。
ある販売者の目標は「社会への恩返し」
参加者を前に自分自身の経験を語ってくれたのは、大阪、阪急百貨店前で販売をしている羽根さん。※羽根さんのエピソードはこちらでも紹介しています。
・どん底から1年。路上で実感した“つながり”の回復、自立への決意
・大阪大学の授業「平和の探求」にビッグイシューが登場。格差と平和と熱力学の関係とは
羽根さんは最近嬉しかったこととして、ビッグイシューの新刊「クッキングと人生相談」を料理研究家の枝元なほみさんと一緒に4時間販売したことが嬉しかったと語りました。
昨日は、10時半から2時半まで大阪梅田阪急前でビッグイシュー&(クッキング と 人生相談) を売っていた。大変なんだよな。声をあげて売っている販売者Hさんが、こんな風にたくさんの人が行き交う中で売れないと、透明人間になったみたいな気がする、と言っていて、その言葉が今もシーンと心の中にある
— 枝元なほみ(脱原発に一票) (@eda_neko) 2018年12月23日
そんな羽根さんの今後の目標はホームレス問題だけでなく、途上国で起きる貧困の問題や日本社会で生きづらさを抱える人たちへ何らかの形で手助けをすることで、「ホームレス状態にある人でも社会に恩返しをできるということを示したい」と言います。
また講演の最後に羽根さんは参加者の方に向けて、「貧困問題を解決するために難しく考えずに、まずは様々な団体を知って、活動に賛同できそうなところがあれば、関わってみてほしい」「もしよかったら、周りの人にもビッグイシューの活動を伝えてほしい」という言葉で締めくくりました。
「内容の濃さに驚いた」6分間リーディングのワークショップ
今回の講演では参加者が好きな号を選び、6分間でそれぞれが雑誌を読んだあとに参加者同士で感想を共有する「6分間リーディング」というワークショップをおこないました。「求人雑誌かと思っていたが、読んでみると確かに面白い」
「羽根さんオススメのブラジルの女性議員についてのコラムが面白かった(347号掲載)」
「武田砂鉄さんという方が話している内容は的を得ていてとても勉強になった(348号掲載)」
ビッグイシューに目を通したことがある人は少数でしたが、多くの方がその内容の濃さに驚かれていました。
「自分一人だけでなく、周りの人にも興味を持って欲しい」と今回の講演を企画
講演終了後、今回の講演の企画者であり、前回の講演で羽根さんのファンになったという人権啓発推進リーダーのAさん。「羽根さんが昨年よりもパワーアップされていて、さらに応援したいという気持ちが増しました」長い間、釜ヶ崎で炊き出しなどを行う団体への寄付を行ってきたAさんは「自分一人だけでなく、周りの人にも羽根さんのことやホームレス問題に関心を持ってほしい」「自分たちの身の回りだけでなく、そこから一歩でも外に出て行く人が増えてほしい」という思いから、昨年に引き続き、ビッグイシューに講演を依頼。
今後もAさんが活動する人権学習グループの仲間たちにも興味を持ってもらえるように、またビッグイシューに講演をお願いしたいと語りました。
講演後のアンケートには
「現状を知らないということは、無知以外の何物でもないが、現実社会のあり方を知って、自分が幸せであると再度感じた。」
「ホームレスへの思いやイメージが変わりました。熱い思いを語っていただき、胸に沁みました」 という、羽根さんの言葉に感動したというお声をいただきました。
「ホームレス問題の原因となる社会的排除、人権について関心と理解を深めることができた」
講演後、主催者である尼崎市教育委員会社会教育課の担当者はこう話しました。「ビッグイシューの活動を通じて、ホームレス問題の現状とその原因となる社会的排除などについてお話を聞き、ホームレス支援からみた人権や、すべての人が生きやすい社会について考える機会とすることを目的にしました。
当事者の方の体験談やその経験から見えてきた言葉は参加者の心に届き、ビッグイシューの活動を通じて、ホームレス問題について関心と理解を深めることができたと思います」
(取材協力 中嶋祥起)
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
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より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。