ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで出張授業をさせていただくことがあります。

今回の訪問先は、京都府にある中高一貫の男子校、洛星高校。年間を通してさまざまに機会に、「SNS利用時のリスクヘッジ」や「薬物依存症について」「犯罪被害者の声」など様々な企画を立て、教科の授業ではカバーできないことについて外部講師を招いて実施しているそう。その一環でビッグイシュー日本のスタッフと、大阪なかもずの販売者・中本さんが講師として伺いました。
 

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「ホームレス状態になるのは努力不足、自己責任」?

今回は50分という限られた時間のため、事前に生徒の皆さんがホームレス問題についてどう考えているかのアンケートを取っていただきました。
任意のアンケートのため、回収率は1/3ほどですが、半数以上の生徒が「ホームレスの人は、もっと努力ができたのではないか」と考えていることが伺えます。

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私立の進学校で、日々努力している友人たちに囲まれて過ごしていると「努力するのが難しい環境」を想像するのは難しいものです。

そこでスタッフからは

・「リストラ」「人間関係」「介護離職」「災害」など、本人の努力とは関係の薄い理由をきっかけにホームレスに至ることがある

・ホームレス状態になるリスクが高い人たちが日本には多くいる

・日本では一度ホームレス状態になると、這い上がるのが難しい

・そういった人たちを「自己責任」と切り捨ててしまうことで、税金を支払う人が減り、税金を支払う人の負担が増える

・行き過ぎた格差社会は、どの層も生きづらく社会全体に悪影響を及ぼす

といった話を、時にシリアスに、時に明るく解説していきました。

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参考動画:ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会

「親が倒れ、施設を探すも200人待ち。きょうだいもなく、介護離職するしかなかった」

次に、販売者の中本さんからの体験談。

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40代までバリバリの営業職で、もうすぐ支店長になる…というタイミングで親の介護のため離職をせざるを得なかったこと、介護が終わり、転職した会社が計画倒産したことなどを話しました。 生徒たちにとっては、学校と家と塾を行き来する普段の生活ではおよそ接点のない、ホームレス経験のある人から聞く話。200人以上いる大教室の後ろの端の生徒まで、興味深く聞いている様子でした。

※なかもずの販売者、中本さんのストーリー
介護離職をきっかけにホームレスになった販売者に、高校生から重い質問/大阪商業大学堺高等学校への出張授業


「僕らがホームレスになることはあると思いますか?」高校生からの素朴な質問の数々

明るいテンポでレクチャーをしたおかげか、生徒の皆さんからの質問は忌憚なく、そして途切れることなく寄せられました。

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Q:ビッグイシューをやっていて何かいいことはあるのですか?

中本さん:そうですね、ビッグイシューをきっかけに路上生活からステップハウス(※)を経て、アパートに入れました。
私はビッグイシューには助けてもらったと思っているので、なんとかビッグイシュー一本で、自立できるという道筋を示せたらと思っています。

編集部注:
ステップハウスとは、NPO法人ビッグイシュー基金が他の団体や家主と連携して運営する住居。東京で2室、大阪で5室あり、低廉な利用料(1万5000円~)で、初期費用、保証人なしで一定期間(6か月~)利用でき、利用料の一部が利用者本人の積立金となる。この積立金を元手に、アパートへの入居や就職活動など次への「ステップ」を応援している。また、東西で1室ずつは、災害時などの緊急用シェルターとしても運営。
https://bigissue.or.jp/action/stephouse/


Q:介護離職というリスクに対し、何が備えになると思いますか?


中本さん:私のいた地方には、介護施設が圧倒的に足りず、入所希望を出しても200人待ちという状態でした。他人が家に出入りしてほしくないと親が外部のサポートを拒んだことも、自分が家で介護をしなければならなかった理由のひとつです。

もし介護離職をするとわかっていたならば、介護で仕事を離れる間も暮らしていけるお金を貯めていたらよかったかな。あとは、あらかじめ、親に合いそうな施設をしっかり探すということもできていたかもしれませんね。

Q:介護を取るか、仕事を取るか。人生巻き戻せるとしたら?

中本さん:人生を父親が倒れた時に巻き戻して「介護を取るか、仕事を取るか」と言われたら…。一人っ子の私はまた、介護する道を取らざるを得ないでしょうね。だって、施設に入れなくて、頼れる人がいないのだもの。親を見殺しにはできないから、しょうがないよね。

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大変な路上生活にもかかわらず、人生をやり直せたとしても親を見捨てることはできない…と回答した中本さんの言葉に、生徒の皆さんは息をのんだ様子でした。


参考記事:
介護しながら仕事ができる「ジョブ倶楽部」やプチ起業。介護に備えて、30~40代向けの勉強会「夜活」も/NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン

認知症介護は長期戦。家族の介護体験、家族交流会は貴重な社会資源。独自のプログラムで介護家族を支援:NPO法人HEART TO HEART


Q:親に余裕があり、進学校に通う僕たちが将来ホームレスになるリスクはあると思いますか?


中本さん:少ないとは思いますが、絶対にないとも言えないと思います。
必ずしも皆さん方がホームレスになるよ、という話ではないのですが、ごく一部の人にはホームレスになるリスクというものがあるんだ、ということをほんの少し頭のどこかにとどめておいてくれるといいのかなと思います。

編集部注釈: 英国では子ども時代の貧困が大きく影響するという研究結果があるなど、「ホームレス状態になるリスク」は、回避できる問題と捉えて、具体的な防止策を取るべきという考えもあります。「自分はホームレスにならないからそれでいい」という考えではなく、「ホームレス状態にならない社会づくりに、自分ができることはあるか」と考えられる社会を目指しています。

参考記事:
英国のホームレス化最大要因は子ども時代の貧困。リスク要因を突き止め、阻止できる問題として向き合おう


授業アンケートより

出張講義の後、生徒の皆さんからは

「ホームレスは状態であり、また突然ホームレスになってしまった人がいたり、後に社会復帰を成し遂げた人もいて、決して人生を諦めた人たちではないので、一時的に家を失っているだけの普通の人、という認識を持ち続けることが重要であると思った。」 「みな努力しているのだということ。周りの人の助けが得られなかったの『仕方ない』のではなく、何か変えられるのではないか、と思った。」

「人は危機的な状況に陥ると正常な判断ができなくなってますます自分を追い込んでしまうことが少なくないので、周りに経済的に苦しい状況に困っていそうな友だちがいたらすぐに相談にのってあげる。」

「ホームレスや貧困問題について考えてみること。貧困問題についての本を読んで理解を深め考える。自分たちが適切で正しい理解をすること。まだ分からないが、その存在を覚えておくことだけは忘れないようにしたい。」

といった、これからのアクションにつながる前向きな声が多く見られました。

校長先生の想い「みんな一緒に生きて行ける社会に」

洛星高校の阿南校長は、普段からご自身もホームレスの人々に心を寄せ、夜回りなどの支援活動をされています。今回の講義を生徒の後ろから聴講した感想を話してくださいました。

校長先生


「障害者やお年寄りの人たちが住みやすい街は、他のみんなにとっても住みやすいと思っています。生きづらい人を“遠くのシェルターのような場所に閉じ込める”のではなく、一緒に生きて行く存在だ、ということを生徒たちに伝えていけたらと思っています。

ですが生徒たちは普段接しない人たちを「自分ごと」として考えにくい。その意味で、実際にホームレス経験をされた方が来て、生徒に話をしてくださったのはたいへん説得力があり、貴重だったと思います。

“介護離職”という単語ひとつにとっても、教科書で読むのとは違う、忘れがたい重みがあり、身近に感じられたのではないかと思います。

統計で、何人が○○、という数を知っても仕方がないですからね」

「体験した人の話は心に残る」企画担当された富山先生のお話

今回、この講義をアレンジしてくださったのは富山先生。

「普段は勉強で得る科目の知識に偏りがちなのですが、これからの社会は学力だけではなく、人との間で“正解のない課題を解決していく”ことが必要です。
生徒の目に見える世界を広げたい、自分も周りの人も大切にできる人になってほしいと思い、今回お願いさせてもらいました。

お話を聞いて、やはり“自分のこと“として話す人から聞くのは説得力が違うと感じました。
一方的な講義でなかなか生徒の心に届きにくいのですが、生徒たち自身が積極的に疑問や意見を発したのはとてもよい学び合いになったのではないかと思います。
そのあたりは、ぐっと静かに聞き入ってしまうシーンもありながら、笑いもあり、質問しやすい雰囲気を作っていただいたのがよかったですね。いつもより質問が多く出ていたように思います。」 と語ってくださいました。

講義企画実現までの経緯は、図書館教員から

職員の方が個人的に買っていたビッグイシューを、学校の図書室に寄付していたのをきっかけに、学校図書館として定期購読をしていただき、さらに理解を深めるために宗教科の先生が学年主任に相談して今回の講義が実現したそう。

講義に合わせて興味のある生徒はより深く学べるよう、図書館入口入ってすぐの目立つブースに「ビッグイシュー」関連コーナーが設けられていました。

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アンケートでは「支援とか抜きにしても、面白い内容盛り沢山の良質雑誌だと思う」という生徒さんからの声も

2019年夏 追記
中本さんは無事に仕事が見つかり、ビッグイシューの販売者を卒業することができました。


まずは学校でビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 ※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
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格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。