ケニア、ナイロビ大学で野生動物獣の医師免許を取得し、マサイマラ保護区(※1)でゾウ密猟対策活動などを続けながら、2017年にはケニアで外国人として初めて野生動物の治療ができる許可を得た滝田明日香さん。だが、その直後に、腰を痛めて車の運転ができなくなったことから、小型飛行機のライセンスを取得し、現在も野生動物の保護に奔走する毎日を送っている。













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絶滅危惧種クロサイの突然死
密猟者逮捕の証拠保全など法医学のワークショップ開催

昨年末から、いろいろなハプニングが続く毎日だった。11月は絶滅危惧種クロサイ3頭が5日間のうちに突然死し、マサイマラ全域のレンジャーたち、ケニア野生動物公社獣医とともに、マサイマラ中を陸から空から駆け回っていた。クロサイは1頭死んでも大統領に報告される絶滅危惧種なので、それが3頭も突然死したのは大事件だった。

密漁や毒殺ではなかったものの、この件については政府が公表するまでは結果を口にすることはできないことになっていて、詳しいことは書けないのだが、レンジャーたちと寝る間を惜しんでサバンナを駆け回る日々が数週間続いていた。その後も何頭ものゾウの突然死の検視が続いたり、怪我をしたライオンの治療やハイエナをワイヤー罠から外したり、怒涛の日々だった。

一方、サイの突然死問題のせいで延期になっていたが、野生動物違法取引について裁判が行われる場合にレンジャーたちが心得ておくべき野生動物法学や法医学についてのワークショップを開催した。ケニアで密猟が起こって、現場にレンジャーと駆けつけて密猟者を逮捕しても、裁判の証拠を提出する過程で成功しないことが続いている。せっかく逮捕した密猟者が証拠不十分で釈放されるなどの残念な結果に終わった裁判が続き、レンジャーたちに正式な法医学のワークショップが必要なことがよくわかった。いくら現場でがんばっても、密猟者が裁判で釈放されては何の意味もない。

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レンジャーの法医学ワークショップ

ワークショップではレンジャーたちに、犯罪現場のコントロール、証拠品の回収の仕方、DNAについての知識などから、ナイロビのケニア野生動物公社への証拠品の送り方まで詳しく教えた。ワークショップはマサイマラだけでも2ヵ所で開催。そして、ケニア中の他の国立公園のレンジャーを対象にも開いた。このワークショップが今後の密猟ケースの裁判に役に立つことを祈っている。


小型飛行機バットホーク
アフリカ6ヵ国の上空を飛んでナイロビに着地

そして、やっとのことで、マラソラ・プロジェクトの小型飛行機バットホークは、製造地の南アフリカを出国した。飛行ルートは、南アフリカ、ジンバブエ、モザンビーク、マラウイ、タンザニア、ケニアと、アフリカ6ヵ国の上空を飛んでやってきた。
パイロットはバットホークのインストラクターでもある、南アフリカ人のルイスおじさんだった。最初の飛行ルート計画と飛行許可書を取るのにものすごい時間がかかり、出発はいつになるのかわからなかった。そして許可書を待っている間に、南アフリカでは雨期の嵐の季節が近づき、ケニアの雨期も迫ってきたことから、この季節を逃したら出発が年明けに延期になるのではないかとヒヤヒヤした。
そんなハプニングだらけの輸送フライトだったが、昨年10月末に雨期の雨雲が南アフリカの空を包み込んでしまう直前に出発することができた。二人乗りのバットホークの助手席に60ℓの輸送用給油タンクを乗せて、ルイスはたった一人で4日間の単独フライトに出た。輸送給油タンクと合わせて一回の給油で可能な飛行時間は約10時間。ほぼ毎日9時間、アフリカの大空を一人で飛んだルイス。途中で着陸する許可もなかったので9時間トイレに行かずに水も食べ物も朝と晩しか取らなかったというから強者である。やっとのことで4日目にナイロビのウィルソン空港に着地した時は、空腹と疲労でヘロヘロになっていた。
せっかくケニアに着陸したバットホークだったが、残念なことに年末の政府機関は12月に入った時点でクリスマス気分。1月中旬までほとんど許可証関係は動かず、おまけに書類が行方不明になるなど、許可証が出たかどうかを調べるために何度空港に通ったのかわからなくなるほどだった。
1月末にようやく、ナイロビからマサイマラに正式に小型飛行機を移動することに成功! 空からの活躍を次回のケニア便りでお伝えできると思う。

ハンコの印材として使う日本
アフリカゾウ連合国29ヵ国、日本の象牙販売禁止を求める

今年はアフリカ開発会議、G20、ラグビーW杯、そして来年はいよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会と、世界の視線が日本に集まる一方、環境問題ではグローバルスタンダードから程遠い日本。象牙の問題もそのひとつだ。

米国はオバマ政権の時からアフリカゾウの問題に注目してきた。テロの軍資金にもなっている象牙の違法取引は、ゾウの保全問題を超え、人間の安全保障にかかわる問題として、米国は早急に象牙の国内販売を禁止することを発表した。そしてアジアのリーダーとして即座にパートナーとして並んだのが、残念ながら日本ではなく中国だった。2016年に中国も象牙の国内販売を2年以内に計画的にやめることを発表し、18年1月1日より象牙の国内販売を全面禁止。3000年ものあいだ象牙を使い続け世界一象牙を消費していた中国の姿勢に国際社会は驚いたが、それだけ事態は深刻である。フランス、オランダ、英国も象牙の販売をやめ、香港、台湾、シンガポールとアジアの象牙消費国も次々に中国に続いて禁止している。

つい先日、ケニアの首都ナイロビで再び、イスラム過激派テロ組織アルシャバブによる襲撃があったばかりだ。彼らの軍資金の4割は象牙や犀角などを含む違法取引から得られていると言われている。象牙がどこかで販売される限り、生きたゾウの牙には金銭価値がついて回るため、象牙の販売をやめて人間の安全保障とアフリカゾウの保全に向けて世界が一丸となろうとしている。

このままでは日本が唯一の象牙販売国になるのも時間の問題だ。日本では主にハンコの印材として何気なく使われている。5月に行われるワシントン条約締約国会議に向けて、アフリカゾウ連合国29ヵ国が日本の象牙販売禁止を求める提案を提出した。

オリンピック開催国として、そしてSDGs(※2)に取り組んでいる先進国として、一刻も早くグローバルスタンダードに追いついてほしいと思う。そんな思いのもと、私たちは日本でのこの問題に対する理解を広めるため、「WildAid」とタッグを組んで「#私は象牙を選ばない キャンペーン」(※3)を始めた。消費する時に“選ばない”という小さなことを意識するだけで、アフリカゾウの行方が変わる、そのことを知ってもらうためのキャンペーンだ。

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(文と写真 滝田明日香・アフリカゾウの涙)

※1 ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系を一にする
※2 2015年に国連で全会一致で採択された「持続可能な開発目標」
※3 ハンコを買う時、「#私は象牙を選ばない」という小さな行動が、全世界で広まるアフリカゾウ保全運動に貢献することを伝える。

(文と写真 滝田明日香)

▼マラソラ・プロジェクトへの寄付のお礼とご報告▼
マラソラ・プロジェクトには多くの方から寄付が寄せられました。2019年3月現在の寄付額は586万5647円。資金がまだ不足しているため継続して寄付を募っています。寄付いただいた方はお手数ですが、メールでinfo@taelephants.org(アフリカゾウの涙)まで、その旨お知らせください。

MARA SORA PROJECT支援金振込
口座名:MARA SORA
ゆうちょ銀行から振込の場合
口座番号 10130-79020661

*その他の銀行から振り込む場合
店名:〇一八
店番:018
普通預金 口座番号 7902066


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以上、ビッグイシュー日本版357号より「滝田明日香のケニア便りvol.12編」を転載。

たきた・あすか

1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。 現在、ケニアのマサイマラ国立保護区で動物の管理をしながら、追跡犬・探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともに「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、2015年6月、NPO法人に。 https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。


316号(SOLD OUTにつきPDFで販売中)
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