ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、教育機関や団体などで出張講義をさせていただくことがあります。

今回、スタッフの吉田が向かったのは鳥取県米子市。県立米子ハローワークから職員向けの“人権研修”のご依頼をいただいたのです。
なぜ、ハローワークで人権研修を、そしてなぜ人権を学ぶのにビッグイシューを招こうと思われたのでしょうか。
 

入口写真


「ビッグイシューは以前大阪に行ったときに知りました」という今回の企画者の由本(ゆもと)さん。

「ハローワークでは就職支援をしていますが、職員は支援のために相談者の方々の背景に触れる必要があります。ただ、背景を見誤ってお仕事をご案内してしまうと、貧困の連鎖から抜け切れず、仕事が続けられなくなってしまわれるおそれもあります。苦しい境遇の方でもご案内できる仕事があれば…と以前から思っていました」

そんな経験の中で、「仕事」に対して特別な思いが由本さんにはあったようです。

「仕事は、人が生きていくうえでただお金を稼ぐだけでなく、“同じ社会に生きている”、“自分は受け入れられている”と思える、大切なものだと思います。「就職支援」というと、世帯の状況や本人の希望を把握し、それに沿ったメニューを作成、計画的にサポート・・・という形をとりがちですが、ビッグイシューは、“仕事”をダイレクトに提供していることに魅力を感じていて、いつかお話を聞いてみたいと思っていました。それが今回叶いました」


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左が由本さん、中央が馬田(まだ)所長、右が住田(すみだ)主任就業支援員

鳥取県の路上生活者は、4人―

研修では「ホームレス状態の人を見たことがありますか?」と参加者の皆さんにお伺い。
何人かの手は上がりましたが、見かけた場所は大阪や東京であり、米子で路上生活している人を見かけたことがある人はいません。

それもそのはず、厚労省の路上生活者調査によると2018年時点で鳥取県に4人のみ・・・。吉田は、路上生活の人たちは流動的なので、大阪や東京など、ホームレスの人が多く支援の施策を充実させればさせるほど、他のエリアからも頼られてしまうというジレンマがあることを語りました。

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見えづらい「車中泊」の路上生活者たち

参加者からは、「路上にいるホームレスの人は、ほとんど見たことがない」としつつも、車中泊を続けている人には心当たりがあるという人もいました。住所もなく、頼れる人もいないのですが、生活保護の申請にも来られないこと、また、米子にはビッグイシューのようなホームレス支援の団体があるわけでもないので、とても支援が難しかったという声も上がりました。

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「ホームレス」という人はいない

ビッグイシューの仕組みや理念のお話をし、「今月の人」で登場された販売者を紹介しながら、「ホームレス」という人間はおらず、家がないという状態をあらわす言葉に過ぎないことを説明。 特に人権にかかわることとしては、「状態」に過ぎないはずなのに、あたかもその言葉がその人の「人格」を表すように思われがちであることを力説しました。

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就職支援のプロたちからの、ビッグイシューへの素朴な疑問の数々

説明が終わると質疑応答の時間です。さすが普段様々な方々の就職支援をされているだけあって、他の場所ではあまりない質問をたくさんいただきました。

Q:保証人のサポートはしないのですか?

A:家を借りるときや就職の際に必要になることが多い保証人。頼れる人がいないから路上生活になってしまったホームレスの人たちにとって、保証人がいないことは路上脱出の大きなハードルになっています。

保証人のあっせんなどのサポートの重要性は痛感しながらも、現実には保証する額の上限がなくビッグイシューのような中小企業や団体で担うのは難しく、現状カバーできていません。大変に難しい問題です。

Q:雑誌販売以外の仕事は提供していないのですか?

A:ビッグイシュー日本では、雑誌販売の仕事がメインですが、最近はホームレス当事者や経験者にこのような講義の場に登壇してもらい、それに対していただいた謝金をお渡しする活動を広げています。
たまたま今回はできませんでしたが、遠方の場合はサテライトと言った形で、東京や大阪にいる販売者とオンラインでつないで話してもらう機会も増やしていければと思っています。

参加者からの感想

今回は90分を2グループに分けての研修でしたが、あっという間に時間が過ぎました。ホームレスの人がほとんどいない米子での開催でしたが、参加者からは普段の支援の参考になったという声を多くいただきました。

「自己肯定感やセルフヘルプは、ハローワークでも大切」「障害者支援にも通じる」

普段就職支援をしている方からは「選択肢を提示して、自分で選んでもらう、というサポートは、このハローワークでもやっているので、自己肯定感やセルフヘルプといった考え方にとても共感できました。ただ、若い方の中には自分でも選ぶことができない方もおられ、その時は忍耐強くサポートするしかありません。」、障がい者の就職支援をされている参加者からは、「ホームレス支援と聞いていたので、障がい者支援と交わらないと思っていましたが、実はつながることも多く、勉強になりました。」との声も上がりました。

また、「人権研修と聞けば理解出来ている事と受け止めがちだが、新しい発見のある研修でした」との声もいただきました。

企画者の由本さんの感想「ホームレスの人が特別なのではない」

講義が終わり、由本さんと所長に改めてお話を伺いました。
県立ハローワークの職員は、仕事がなく相談に来られた方の背景を知る必要があります。そのため、ホームレス支援をしているビッグイシューさんからお話を聞き、ホームレス状態の方も、ハローワークに来られる相談者の方も、『仕事がなくて困っている』という点においては大きな違いはないことを知ってもらいたいと思っていました。

そのうえで、ビッグイシューさんがしている支援で、私たちの支援にも学ぶところがあれば、と思っていました。

県外から来ていただいたことも刺激になり、今回の目標は、達成されたと思います。

所長の馬田さんより:
ビッグイシューさんをお招きするにあたり、ホームレス支援のお話だけかと思っていましたが、貧困や人権など幅広い知識からお話しいただいので、私も含め皆学びがあったと思います。ありがとうございました。



格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。