大学生にとって月曜の朝というのはなかなか起きづらいものだ。しかしドイツ北部の都市キールの大学に通う3人の若者 ーディーチュ、エスバイン、ハンセンーは、朝8時には市内周辺の民家の庭先で果物集めに忙しい。
 「このためなら早起きも苦になりません。収穫がはっきり目に見えますから」とエスバインが言う。 
自分たちのことを「もったいない騎士団(Knights of Waste)」と呼ぶ彼らは、捨てられるはずだった果物や野菜を集めて、ジャムづくりをしているのだ。



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Resteritter Oke Hansen (li.) schleppt leere Marmeladen-Gläser, Resteritter Nick Eßwein (re.) Äpfel aus ihrem Auto in die Küche der Kieler Arbeiterwohlfahrt (AWO)

木から落ちたリンゴ、見た目が悪くて売り物にならないオレンジ、青果店でデコレーションにされていたカボチャなどを原材料にしてジャムを作り、販売。売上金から一瓶あたり1ユーロを、温かい学校給食を提供する慈善活動「Mach Mittag」に寄付している。

ジャム作りを始めた男子学生たちを支える賛同者たち

午前10時。3人は集めた果物を小型トラックで就労支援センターのキッチンに運び込む。

「これから果物をカットしていきます」とディーチュが言う。 3人ともエプロン姿だ。

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Die Resteritter Nick Eßwein (li.) und Oke Hansen (re.) in der Küche der Kieler Arbeiterwohlfahrt (AWO)

“騎士”たちは週に2回、このキッチンでジャムを作る。 「ここは設備も整っているし、保健省の認可も下りています」

ラジオからの音楽をBGMに、ディーチュが生姜をスライスする。今朝まで木の下に転がっていたリンゴを手に取ったハンセンが皮をむき芯を取ると、エスバインが細かくカットし、大きな鍋に入れる。砂糖を入れて煮る。 最後にシナモンで味を整えたら、おたまで瓶に注いでいく。 3人とも手慣れたもので、作業はテンポよく進む。


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Detailfoto: Die Gläser werden mit einer Kelle befüllt

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Detailfoto: Befüllte und etikettierte Marmeladen-Gläser der Resteritter

瓶にラベルを張ったら、市内の店舗に届ける準備完了だ。

果物拾いから店頭での陳列まで大方のことは自分たちでやるが、全てとはいかない。
「ありがたいことに、僕らの活動に賛同し、サポートしてくれる人たちがいるんです」と微笑むディーチュ。 売れ残りの果物を譲ってくれる青果店、キッチンを貸してくれる就労支援センター、ジャムのラベルを考えてくれたデザイナー等...。

ジャムのレシピは毎回アレンジする。 「その日の収穫から組み合わせを決めるんです」とハンセン。 「リンゴと生姜は相性がいいです。オレンジとバナナもね。 でも僕のお気に入りは梨とホワイトチョコの組み合わせかな」

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Resteritter Nick Eßwein (li.) schleppt Äpfel, Resteritter Oke Hansen (re.) leere Marmeladen-Gläser aus ihrem Auto in die Küche der Kieler Arbeiterwohlfahrt (AWO)


砂糖やシナモン、チョコレートといった調味料は購入するが 「果物は一切買いません。僕らがこうしてジャムにしなかったら、誰の口にも入らなかった食材です」

環境保護をテーマにしたゼミの課題がきっかけで活動開始

3人はキール大学で地理学を専攻している同級生。ゼミで、環境保護の観点から持続可能なアイデアを考える課題が出た。 「食べ物を捨てる人がいる一方で、お腹いっぱい食べられない子どもたちが大勢いる。この二つのギャップをつなぐアイデアを提案しました」とハンセンが説明する。

そこから「もったいない騎士団」が誕生した。 当初は大学内のプロジェクトどまりだったが、「いろんな人に話すと絶賛してくれたので、活動を広げることにしたんです」

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Der Resteritter Moritz Dietzsch mit einer Kiste voller Marmeladen-Gläser vor dem Gebäude der Kieler Arbeiterwohlfahrt (AWO)

地理学専攻だからといって、単に地図を読むだけではないだろうとは思っていたが、まさか授業がきっかけでジャム作りに精を出すことになろうとは思ってもみなかった。

「ジャムづくりが生活の中心になるなんて、信じられないよ!」と笑うハンセン。「僕たちがやっているのは難しいことなんかではありません。でも意味のあること、心からそう思えています」とディーチュ。 「だからこそ楽しいんです!」

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Detailfoto: Äpfel müssen zunächst geschält und entkernt werden

ディーチュとエスバインは以前にもギャップイヤーの間*に「みんなにジャムを」というキャンペーンでジャム作りをしたことがあったが、ハンセンにとってはすべてが初めての経験だった。

* ギャップイヤー:進学や就労前に社会奉仕活動などをして自由に過ごす期間のこと。 欧米ではかなり浸透している。

「ジャムはもちろんのこと、そもそも食べ物にあまり興味がなくて…」と打ち明ける。 しかし次第に気持ちが入るようになった。 「普段は社会派プロジェクトに慎重ですが、この活動にはすごく意義を感じます。マイナス要素がひとつもありません」

ジャムをきっかけに食べ物や廃棄食材への意識を高めたい

3人が作るジャムには、食べ物の大切さへの意識を高める狙いがある。 「店では大量の食物が廃棄されていますが、一般家庭でも同じようなものです」とハンセン。今とは違うやり方があるはずだ。

「ジャムやソースを作るときに、リンゴに茶色い斑点があっても大したことではありません」とエスバイン。 少しでも食べ物の廃棄を防ごうと、持て余している果物があれば連絡してくださいと呼びかけており、要請があれば小型トラックで駆けつける。 「年配の方に代わって僕らが高い木に登って果物を取ることもあります」とディーチュが言う。

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Die Resteritter Oke Hansen, Nick Eßwein und Moritz Dietzsch (v.l.n.r.) in der Küche der Kieler Arbeiterwohlfahrt (AWO)

3人は学業やアルバイトのかたわら、この活動をボランティアで行っている。 「いずれはこの活動から少しでも収入を得られればと思っています」とハンセン。

「これからもこの活動を続けていきたいですし、他にもいろいろと計画してるんです」と言う。 その一つは、廃棄食材を使ってスパイス調味料を作ることだ。

By Georg Meggers
Translated from German by Sean Morris
Courtesy of Hempels / INSP.ngo
写真:Photos by Heidi Krautwald 

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