貧困、虐待、性搾取、国籍、介護など、さまざまな背景をもつ若者の困難や社会に足りないもの、共通する課題や連携の可能性などを、若者を支援する団体を立ち上げた4人に聞いた。
座談会参加者
今回の座談会では、2015年に始まり、5年目の19年度いっぱいで区切りを迎える「中央ろうきん若者応援ファンド」で今年度に2度目の助成を受けた4団体の代表が集まった。
石井 ナナヱさん/認定NPO法人 ふじみの国際交流センター理事長
高木 実有さん/一般社団法人慈有塾代表
仁藤 夢乃さん/一般社団法人Colabo代表
牧野 史子さん/NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン理事長
貧困、虐待、介護、外国籍……
さまざまな背景をもつ若者の学習、生活、就労を支援
仁藤 高校時代に暴力と暴言が飛び交う家を出て渋谷をさまよっていた時に声をかけてくる大人は性搾取(※1)を目的とする人ばかりだった経験から、夜の街で主に10代後半の少女に声をかける活動を始めました。児童相談所や生活保護の申請にも同行します。※1 買春や性風俗産業従事・AV出演を強要するなどし、心身の尊厳をおとしめ、脅かすこと
昨年10月からは、若者応援ファンドで17年に助成を受けた支援者養成講座の修了生もアウトリーチ(※2)に加わり、無料のバスカフェ(※3)でごはんや洋服、妊娠検査薬などを提供しています。中長期滞在型シェルターも3物件運営していて、そこで暮らす10代の少女も活動に参加しています。19年は助成金を活用し、2物件増やす予定です。
※2 援助が必要ながら届いていない人々に対し、積極的に働きかけ具体的な支援を提供すること
※3 バスで巡回する移動型カフェ
10代の女性が毎回20~40人ほど利用するバスカフェ(Colabo)
高木 私も10代後半はいろいろありましたが、大学で違う世界を知り、後輩に勉強を教えるようになりました。中卒や高校中退の若者に無料で学習支援する無料塾を立ち上げ、今は25~30人が平均2年在塾。
99%が高校進学する日本で残りの1%の中卒の子たちに最低限必要な高卒認定試験や大学、専門学校の受験勉強を個別指導しています。助成を受けた18年は就職を視野に入れた資格取得や面接対策にも力を入れ、人間関係の構築が困難な若者の採用に理解のある企業も開拓してきました。助成2年目の19年は、塾の卒業生が事務局の職員を経て企業に就職。ここから巣立つ若者が増える循環を今後も創っていきたいです。
牧野 95年の阪神・淡路大震災の時、仮設住宅を訪問し心のケアをする活動をしていました。その際、孤立した家族介護者(ケアラー)の存在に気づき、01年に団体を立ち上げました。10年ほど前から20代・30代の若者ケアラーからの相談が増え、同世代の介護者が出会えるサロンを始めました。認知症などで家族のケアが必要となった時、家庭内で収入の低い若者が介護を担いがちになるのですが、その場合、彼・彼女らは自らのキャリアや経験を積む機会を失います。そこで、18年に助成を受けて、仕事につながりそうなパソコン操作や農業を学ぶ「ジョブ倶楽部」を始めました。
ジョブ倶楽部(アラジン)
19年は新規開業する福祉用具のレンタル会社から元ケアラーを雇用したいとの話があり、彼らがシェアハウスで共同生活し、働きながら、福祉の資格を取るという試みを始めました。これをモデルケースとしたいと思って、助成をいただいています。
石井 私は、子どもが海外で親切にしてもらった恩返しに、公民館で外国人に日本語を教えるようになりました。DVや子育てなどさまざまな相談を受けて奔走するうちに活動の幅が広がり、97年から一軒家を借りて団体を立ち上げました。日本語を教えたり、子どもに勉強を教えたり、生活相談に乗ったり、多言語で情報を提供したりしています。
日本語教室で書き初めをするウズベキスタンの母子(ふじみの国際交流センター)
17年には東武東上線沿線の外国ルーツの子どもへのアウトリーチと学習支援で助成を受けましたが、日本語ができない親がビザの書き換えや病院に子どもを休学させて連れて行く現状があります。19年の助成では子どもの学習権を守るために、無料同行通訳と家庭調査を実施することにしました。
仁藤 私たちも活動の中で、海外にルーツをもつ少女とよく出会います。日本語ができないフィリピン人の母親と母親の母国語がわからない女の子との間には言葉の壁があり、母親から虐待されて逃げてきた。その子は、思春期になっても相談相手もいませんでした。外国にルーツをもつ女の子たちは他で就労がしにくいこともあって、日本語ができない場合は特に性搾取の業者に取り込まれやすい。また、シェルターで受け入れた難民の姉妹は、高校の卒業を目前に強制送還されそうになり、最高裁まで争ってなんとか卒業まで時間を稼ぎました。
石井 今年4月から始まった在留資格「特定技能(1号)」は介護など14分野で海外から労働者の受け入れを行う制度です。日本語能力試験の受験は必要ですが、一度帰国して、このビザで入国する方法もあります。一方で、日本で育ち日本のことをよく知り、暮らしたいと思っている外国ルーツの若者が働きやすいようにビザの仕組みを変えてほしいとも思っていて、国にも働きかけていくつもりです。
石井 ナナヱさん
信頼できる大人とつながる
ほっとできる場所、中間就労……法の整備も急務
高木 慈有塾に来る若者はさんざん苦労して、一周遅れで「勉強をがんばろう」と前向きになっている子が多いんです。ですが、その段階まで来ないとつながれない現状があるので、Colaboさんのようにアウトリーチする必要性は感じています。私も10代の頃にバスカフェがあれば行きたかった。信頼できる大人とつながれる場所を知ってもらうことは重要だと思います。仁藤 当事者が声をあげた時の反応は国内外で全然違います。先日、台湾で開催された世界女性シェルター会議で、私が出会った女の子たちの声を伝えると「ずっと声を上げ続けて」「あなたはその存在だけで価値がある」という言葉をかけられたけれど、日本で当事者の声を伝えると「知らないことを知れた」「応援しています」「自分たちに何ができますか」という声が多くて、自分ごとになっていないように感じます。解決策を当事者や被害者に求めてくるところがあります。
石井 外国ルーツの若者に関して言うと、好きで日本に来た外国人をなぜサポートするのかという反発がまず強い。
学校では子どもが授業内容を理解できずに月に1度くらいしか通わなくなっても卒業させてしまうので、そうして卒業した若者は挨拶程度の日本語しかできないまま、外国人だけの職場で将来の夢も持てずに働いています。日本には第二言語としての日本語を教える制度がないため、大人も子どもも日本語を学ぶ権利が保障されればと思います。
牧野 ヤングケアラーといわれる18歳未満の問題は深刻で、日本の高校生の20人に1人が家族の介護をしているという調査結果もありますが、多くは発見されずにいます。英国ではケアラー支援法があることで、スクールソーシャルワーカーが学校でアウトリーチをしています。子どもや若者は特に、学校などでのアウトリーチを支える法律がないと発見しづらい。日本ケアラー連盟がロビー活動を進めてきて、教育問題として条例に組み込もうとする自治体も出てきています。
高木 高等教育無償化法が成立して一歩前進だとは思っているのですが、条件に当てはまらない子もいて、学費の面で高校進学を挫折する若者もまだまだ多い。行政は少しでも必要なところに手が届く支援をしてほしいし、埋められない穴は私たちが必死に埋めていきたいと思っています。
高木 実有さん
石井 行政といえば、たとえば外国人を雇用する企業が多い岐阜県可児市では、外国ルーツの子どもや大人に日本語を教えてから学校や企業に送り出していますが、市が外国人との共生関連事業に年間7000万円ほどの予算を組んでいます。それぞれの地域が責任もって市民を育てることが大事だと思います。各市町村に一ヵ所でも、ほっとできる場所があるといいですよね。
牧野 介護をしているうちに、それが仕事のようになって自分のアイデンティティを見いだせなくなり、心も身体も病んでいく人や、たとえ介護を終えても、すぐにハローワークに行けない人がたくさんいます。そのような状況の若者は、共感をもって話を聞いてもらえる居場所で、同じ世代・立場の仲間を得ることで、やっと話を深め、自分を客観的に見られるようになります。そういう方々の最初の一歩として、「中間就労支援」も受けられる居場所が必要だと考えています。
牧野 史子さん
シェルター、就労支援、アウトリーチ
他団体・企業と意識や情報を共有、若者の道を開く活動を続けていく
牧野 かかわっている当事者はそれぞれ一見違うように見えますが、シェルターや就労支援、アウトリーチなど、必要としているものは似ている気がしました。若者がさまざまな団体を行き来できるプラットフォーム的な場があるといいですね。あとは、企業の中にケアラーが安心して悩みを相談できるスペースがあれば、介護離職も防げると思うんです。将来的には若者の資格取得などを支援する「ケアラー基金」ほかを立ち上げ、私たち自身が「ケアラーのハローワーク」になれればと思っています。石井 まだまだ社会の理解を得られていないことが多いですね。だからどの団体も資金も人も不足している。企業には助成もですが、他団体の活動を知ったり交流する機会もつくってほしい。長く活動していると、外国人と触れ合いたいという動機で日本語を教えるボランティアを始めた子が日本語教師の資格を取ったりとか、サポートしながらサポートする側が育っていくのを見るのも喜びです。
仁藤 私たちの活動は問題解決型ではなく、一緒に道を開いていくところが共通していると思いました。性搾取に遭った女の子たちも社会からの理解が得られなくて、「お金もらったんでしょう?」と被害者が責められる。明らかに支配と暴力の関係なのに、何が暴力で何が人権侵害か誰も教えてくれない。女子高生にJKビジネスをしてはいけないとチラシを配って教育する前に、社員や職員に買春しない教育をしてほしいです。性搾取された子に理解のある団体も少ないので、学習支援は慈有塾さんにお願いしています。
仁藤 夢乃さん
高木 私もColaboさんには相談に乗ってもらっています。若者はもう十分がんばって生きているのに、世の中には、その環境から抜ける努力を重ねた人だけが支援を受ける資格があると考える人もいます。意識や情報を共有できる団体や企業と信頼関係を築いていきたい。そして、困難を抱える若者の学習支援を頼まれた時、いつでも「はい」と言えるように細く長く続けていくのが目標です。
(団体プロフィール)
活動へのご参加・ご寄付などは左記の連絡先まで
認定NPO法人 ふじみの国際交流センター(FICEC=ファイセック)
1997年設立。埼玉県ふじみ野市、富士見市、三芳町を中心に、地域の外国人への生活支援、日本語指導など、多文化共生の街づくりを目的に活動している。
http://www.ficec.jp/
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一般社団法人 慈有塾
貧困等さまざまな理由で学習機会を逃した若者を中心に、学習機会やセカンドキャリアを一緒に考える時間を提供する非営利の無料塾。主に高認・大学受験を目標とし、負担は各種試験の受験料・塾までの交通費のみ。授業料・教材費は無料。
http://jiyujuku.net/
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学習機会を失ったまま大人になった若者に“無料塾”。高認や資格取得で、セカンドキャリアにつなげる— 一般社団法人 慈有塾
一般社団法人 Colabo
すべての少女が「衣食住」と「関係性」をもち、困難を抱える少女が搾取や暴力に行き着かなくてよい社会を目指して活動。夜間巡回・相談、同行支援、一時・中長期シェルターの運営、10代の女性たちによる活動、講演・啓発活動の支援などを行う。
https://colabo-official.net/
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「家出少女」を体験する研修。夜の街をさまよう少女たちに寄り添う「支援者養成講座」がスタート:一般社団法人 Colabo
NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン
介護者が地域で孤立しない、仕事や人生をあきらめなくてもいい社会の実現を目指し、介護者のための電話相談・訪問相談、地域で介護者が集う場の創設と運営及び運営の支援、介護者に寄り添う人材の育成、地域の社会資源を巻き込んだネットワークづくり、介護者の会や介護者支援団体の全国組織化に取り組む。
http://arajin-care.net/
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介護しながら仕事ができる「ジョブ倶楽部」やプチ起業。介護に備えて、30~40代向けの勉強会「夜活」も/NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン
(ろうきんプロフィール)
中央労働金庫
「中央ろうきん若者応援ファンド」は、2015年から5年間、社会的不利・困難を抱える若者の“はたらく”を応援し、延べ41団体へ総額5,843万円を助成しました。 http://chuo.rokin.com/about/csr/assistance/youth_support/organization_introduction/ 2019年度より新たに、「中央ろうきん助成制度“カナエルチカラ”~生きるたのしみ、働くよろこび~」が始まりました。
中央ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関として、助成制度を通じて、引き続き多様な人々の“はたらく”を応援してまいります。
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上記記事掲載号
THE BIG ISSUE JAPAN375号https://www.bigissue.jp/backnumber/375/
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