社会的不利・困難を抱える若者の問題が注目されて20年。この間、彼らを取り巻く状況は変わり、支援の選択肢は増えたのか? 2015年から始まった「若者応援ファンド」が果たしてきた役割は何なのか? 選考委員の皆さんに聞いた。

※この座談会は2019年1月に実施しました。プロフィール等は当時のものです。

*中央ろうきん若者応援ファンドとは
「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの諸事情による社会的な不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者を応援する、<中央ろうきん>の市民活動助成制度です。※新規募集は終了しました。


メンバー
右から横田氏、雨宮氏、湯浅氏、宮本氏、黒河氏


選考委員プロフィール
選考委員長:湯浅 誠氏(社会活動家・東京大学特任教授)
選考委員:雨宮 処凛氏(作家・活動家)、黒河 悟氏(労働者福祉中央協議会副会長)、宮本みち子氏(放送大学客員教授・千葉大学名誉教授)、横田 能洋氏(特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ 代表理事)
※プロフィール詳細は記事末尾にて

バブル崩壊後の就職氷河期に注目された「はたらけない」若者たち。
状況は変わったのか?


雨宮
2000年代半ば、政府はニートやひきこもりの若者を対象に、「若者の人間力を高めるための国民運動」を進めました。雇用状況の悪化のせいで若者が非正規化されてきたのに、人間力が足りないという話にすり替えた。若者自立塾などで鍛え直せば何とかなると精神論で語られていた頃に比べると、細やかな支援も増え、世の中の理解は進んだと思います。


宮本 私自身も、若者自立塾(注1)にずっと関わってはいましたが、根性論でやったわけではなかったんですよ。1年以上もひきこもっていた若者にどうやって参加を促したらよいのか、どう支援すればいいか、ノウハウもない手探り状態の中から、現場で支援の原型のようなものが芽生えていったんです。

注1:05年に開始した、未婚者を対象とする厚生労働省の若者支援施策。一年以上仕事や求職活動の実績がなく、学校や職業訓練に通っていない35歳未満(のちに40歳未満に引き上げ)の若者が対象。09年に廃止。

会


黒河
  同じ頃、私は労働組合にいました。ちょうど地域若者サポートステーション(注2)が始まる頃で、厚生労働省から委託を受けた若者支援の団体から「一緒に支援してほしい」という相談を受けていました。そういうコラボの延長で、フードバンクや子ども食堂ともつながってきました。思えば貧困もまだ可視化されていなかった、あの20年くらい前が分岐点で、支援する側も若者と仕事をしたり、一緒に生活したり、試行錯誤しながら活動の幅を広げていったのだと思います。

注2:各種団体を厚生労働省が認定して事業を委託し実施されている若者無業者の自立支援機関。06年に開始。

湯浅
 振り返れば、就職氷河期に代表される問題が2000年前後に注目され、06年から地域若者サポートステーションが始まりました。当時は若い男性の正社員化を目指すのが若者就労支援という認識でしたが、フリーター第1世代はもう50代で若くもない。要因を生育歴までさかのぼれば子ども世代から関わらないといけないし、就労の前段階の中間的就労や居場所づくりも必要。社会的不利・困難の複合性や、そこに至る過程の複雑さに目が開かれ、活動が多様化していったことを考えれば支援は成熟してきたともいえます。

写真_湯浅


今、求められる支援者支援のしくみ。
新しい生き方や働き方の提案が出てきてもいい

宮本 
今は対象者がひきこもりでも、少年院の出所者でも、障害をもった人でも、支援する上で何をはずしてはいけないか、多くの団体がつかんでいますが、それまでに20年が必要だったのかもしれません。

 一方で、メニューが出そろったといえば聞こえはいいけど、毎年助成金を取らないと継続できない小さな団体がほとんど。事業としての安定性・継続性が約束されていないなかで、そこにうまく出合った人は、とりあえず1年は何とか支援サービスを得ることができるといった状態なんですね。ですから次の段階としては、ばらばらに活動している団体が大同団結して、支援を安定的にするにはどうしたらいいかを考える必要があります。

写真_宮木



湯浅
これだけ人手不足といわれて失業率が下がれば、若者支援はもういいんじゃない?という空気が世の中に漂いますよね。そういう意味では、今は若者支援に光が当たっているとはとても言えない状況です。若者にしてみれば、一つひとつの活動が細分化されて、どこへ行けばいいのかわからなくなった面もあるかもしれませんね。

雨宮
メニューは増えたけど、どこかに勤めて経済的に自立するのが出口という発想は20年前と変わっていない。これだけ雇用や格差の問題が議論され、ベーシック・インカムやAI、在宅ワークの話も出てきている中で、若者支援の文脈から新しい生き方や働き方がそろそろ出てきてもいい気がします。

宮本
若者支援の出口問題は行き詰まっています。たとえば助成した事業が成果を上げて、困難を抱えた若者がある程度の収入を得ながら、社会保障の給付と組み合わせて生活できるようになった、というような光が見えてくるといいんですけどね。

横田
支援の現場を担うスタッフはケースワーク的な力をつけることも大事ですが、時には皆さんで集まって、海外にはこんな社会保障もあるとか、広い視野をもつ機会も必要だと思う。たとえば単身の若者は公営住宅に入りにくいとか、日本の低所得者向け住宅制度には明らかに欠陥がありますよね? 空き家はたくさんあるわけだから、住宅業界も巻き込んで、ケアつきの若者向け住宅を制度的につくるとか。そうすれば人も育つし、根本的な問題解決に近づくんじゃないでしょうか。

黒河
私も、団体の横への広がりはすごく大事だと思う。若者支援は、支援者を支援する取り組みが必要な時期に来ています。このプログラムも、もう少し長い目で見て、支援者を支援する仕組みにすれば、さらに発展する気がします。

写真_黒川

介護のヤングケアラー、海外にルーツを持つ若者、すそ野が広がる支援

湯浅
「若者応援ファンド」が始まった当初は、アニマルセラピーとひきこもり支援という異質な要素を掛け合わせた「キドックス」などが印象的でしたが、介護のヤングケアラー問題に取り組む「アラジン」や、難民の人たちのスキルを生かす「WELgee」など、人々がイメージする土俵に乗っていないような活動が増えてきた。いろいろなカテゴリーの人たちにカスタマイズした取り組みが生まれ、活動のすそ野は広がっていると思います。

参考:
「殺処分をされる犬たちが減り、若者の社会復帰も助ける」WIN-WINのプログラムを全国に」/キドックス
介護しながら仕事ができる「ジョブ倶楽部」やプチ起業。介護に備えて、30~40代向けの勉強会「夜活」も/NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン
難民認定率0.2%の日本。共に生きるために、対話・生活・就労の場をつくる取り組み-NPO法人 WELgee(ウェルジー)



雨宮
初年度に助成を受けた「アフターケア相談所ゆずりは」と「ふじみの国際交流センター」には個人的に取材にも行き、本の中で紹介させてもらいました。これまで若者支援の枠にくくられてこなかった、性風俗に従事する女性のセカンドキャリアを応援する「Grow As People」の存在も心強く思いましたし、女子中高生を支援する「Colabo」もアウトリーチ活動のさらなる展開が楽しみな団体です。地道だけど重要な活動をずっと続けている団体も応援したいものです。

参考:
児童養護施設退所者が直面する孤立と困難。年間相談件数1万超をサポート:「アフターケア相談所ゆずりは」
日本語がわからず心閉ざす子どもたちが、普通に働ける社会に。ふじみの国際交流センターの取り組み
「人に言えない仕事」「履歴書、空白期間が悩み」…性風俗産業で働く女性に、相談場所とセカンドキャリア支援を:一般社団法人 Grow As People
「家出少女」を体験する研修。夜の街をさまよう少女たちに寄り添う「支援者養成講座」がスタート:一般社団法人 Colabo

写真_雨宮


黒河
若者応援ファンドはまとまった額の助成金で、思い切ったことができるように支援するプログラムだと思うんです。最近も、たまたまテレビを見ていたら、助成をした「アフタースクール」のニートの若者への放課後児童支援員の研修や、「WELgee」の活動が取り上げられていて、社会で求められているものを的確に受け止め、実践している活動であることを改めて認識させられました。

参考:
「学童保育の人手不足」×「ニートの若者の就労支援」=ニートの若者に「放課後児童支援員」のトライアル研修:NPO法人 アフタースクール


宮本
 公的な助成金は路線を決めてから募集しますが、この助成は「社会的不利・困難を抱える若者の就労支援」というキーワードだけで募集したので、多くの人々や公的機関が気づいていない問題を掘り起こすことができました。男性のイメージが強かった若者支援の中で、若い女の子の問題は今や一つの大きな流れになりつつあるし、別世界に思われていた、海外にルーツをもつ若者の問題も合わせて議論されるようになった。当初から出ていた社会的養護の問題も年々重要さを増しています。

 傾向としては教育、労働、住まい、ケアという4つの要素をセットにして支援している団体が増えている気がします。行政組織ではこれらを別々の部署が担当しますが、総合的に取り組まない限り効果は上がらないことが、民間の活動の中から見えてきたのではないでしょうか。

横田
 応募団体を通して、ユニークな活動を知ることができたのは新鮮な体験でした。従来の支援の枠からはずれて居場所がなく、相談窓口にもたどり着けない若者が来やすいように、どの団体も工夫をこらし、その人件費や家賃を柔軟に支援できるのが、このプログラムの特徴でした。国が休眠預金を活用する公益活動のテーマにも若者支援が入っています。大きな額の助成金が出ることになる可能性があるが、数字での評価を求められるでしょう。でも、数字で成果を出すことばかりに気を取られ、当事者不在になったりしない。そんな活動の芽をつくれたんじゃないかと自負しています。



自立に立ちはだかる住宅コスト。
地方で深刻化する空き家や人口減。
新しい道は開けるか?


雨宮
 人手不足といっても、激安で働かせる職場は人手をほしがっていますが、自立して生活できるくらいの給料をもらえる仕事の有効求人倍率はそう高くない。

宮本
 私が関わっているNPOで、養護施設を出た18歳の女性が自立するための生活費を支援することになったんですが、正社員として就職が決まった印刷会社の給料は月16万円で、ボーナスも出ない。高卒市場はそういう水準で、親元を離れ、自立して一人暮らしをするモデルが示せないんです。その一方で、中間的就労とか社会的企業に解決のカギがあるんじゃないかと、いろいろな分野の人が注目しています。そういう意味でも、介護者の支援から入り、中間的就労を通してヤングケアラーの生計を成り立たせる支援に行き着いた「アラジン」の活動は興味深いと思いました。とはいえ、生計を立てられる収入を得ることは難しいですね。

ろうきんイラスト


湯浅 
それ難しいですよね。簡単には示せないと思います。じゃあ自分たちで起業しようといっても、月20万円稼ぐのは簡単なことじゃない。上がっていく年功賃金で必要なものを買うというのが日本型モデルで、その象徴が子育てと教育、住宅だった。少子化の流れで、保育や教育は国も無償化に動き、改めて住宅コストの問題に光が当たり始めましたが、住宅はまだ稼いだ金で買うものというイメージはほぼ壊れていない。一方で、空き家や人口減は地方では本当に深刻です。トータルで暮らしが成り立つ低コスト生活のモデルは、案外、地方から生まれてくるのかもしれませんね。


黒河
 若い人から話を聞くと、新しくできた民間の企業は退職金もない上に、住宅手当も出ないところが多いようです。ある程度の賃金をもらえても、東京で部屋を借りると、それだけで10万円近くかかる。空き家率日本一の山梨のある市では、その空き家を活用した若者の移住支援に積極的に乗り出しています。こういう若者を意識的に雇用に結びつければ、新しい道が開ける気もしますが、こういうことを熱心に推進しているNPOはまだ少ないのかもしれませんね。


若者応援ファンドの価値、若者支援が目指すべき方向は?

横田
 個々の支援事業も大切ですが、若者が弾かれてしまった職場環境を変えない限り状況は変わりません。若い人自身が、働きやすい職場環境をつくっていける社会にしないといけない。そういう意味では、ファンドの応募書類の中に人権や権利という言葉がほとんど見当たらなかったのが気になりました。制度の外で活動している人こそ運動の種をもっているはずなので、それを大事に育ててほしいと思います。

写真_横田



宮本 
 今、若者支援の現状がどのように動いているのか、応募団体を通して把握することができ、研究者としていい機会をいただいたと思っています。こういう世界は一般の人には見えにくいものです。若者応援ファンドの記録を大切にし、もう一段深めて分析し、ここから何が得られたのか、何が足りないのか、ファンドがどんな役割を果たしてきたのかを発信していただきたいと思います。


黒河
私が所属している中央労福協は2019年、結成70年を迎えました。社会運動を進めてきた労働組合やNPOといった団体がたくさんできることが、社会を強くすると思うんです。そこを応援してきたのがこのファンドで、助成団体からは「社会的信用をいただいたおかげで、みんなから応援してもらえるようになった」との声も聞かれました。お金だけではない意義もあることをもう一度とらえ直し、新しいプログラムづくりに生かしてほしいと思います。

雨宮
 ロスジェネ世代の私は自己責任論が横行した20年前、20代のフリーターで追い詰められて心を病み、周りには自殺した人もたくさんいました。同世代の人たちは右往左往した結果、家族形成も資産形成もできないままアラフォーになりましたが、若者じゃなくなった貧困層に社会は冷たい。若者であるうちに、できることは全部やったほうがいい。このプログラムには考えていくべき課題が詰まっています。また、そういうところを支援する団体の中から、必要に迫られて新しい生き方や働き方が出てくるのではないかと期待しています。

湯浅
 ある研究調査によれば、35~44歳で親と同居している未婚の男女は約300万人。この層がまさに就職氷河期に当たった若者支援ど真ん中の人たちで、これによって第3次ベビーブームは起こらなかった。若者支援は、社会の持続可能性という大きな視点で考えていくべき問題です。

 この20年で多様なセーフティネットは生まれましたが、景気変動に強い社会になったかといえば、まだ途上。助成金には活動形成機能や、活動をまとめて見せることで集約して社会化する機能がある。中でも若者応援ファンドは、より光が当たりにくい活動に目を向けてきた。そこでの教訓のもと、さらにブラッシュアップされたプログラムになることを期待しています。

報告書

これまでの助成団体についてはこちらをご覧ください。



 〈選考委員プロフィール〉

選考委員長
湯浅 誠氏(ゆあさ・まこと)
湯浅誠さんイラスト
社会活動家・東京大学特任教授
1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。90年代よりホームレス支援等に従事し、09年内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前へ進めるには民主主義の成熟が重要と痛感する。著書に『反貧困』(岩波新書)など多数。


選考委員
雨宮 処凛氏(あまみや・かりん)
雨宮さん
作家・活動家
北海道生まれ。フリーターを経て、00年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。以来、若者の「生きづらさ」についての著作を発表する一方、06年から格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、運動中。著作に『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル)、『女子と貧困』(かもがわ出版)など多数。 

黒河 悟氏(くろかわ・さとる)
黒川悟氏
労働者福祉中央協議会副会長
1974年、千葉市役所に入職後、組合活動に参画。自治労千葉県本部委員長を経て、99年より連合千葉事務局長、03年から会長を歴任。13年から(一社)千葉県労働者福祉協議会会長。現在は中央労福協副会長.奨学金問題や生活困窮者自立支援をはじめとした労働者福祉運動に取り組む。


宮本みち子氏(みやもと・みちこ)
宮本みち子さん
放送大学客員教授・千葉大学名誉教授
千葉大学教授、放送大学副学長・教授を経て、18年より現職、社会学博士。専門は若者の社会学、家族社会学。著書に『すべての若者が生きられる未来を―家族・教育・仕事からの排除に抗して』(岩波書店)、『若者が無縁化する―仕事・福祉・コミュニティでつなぐ』(筑摩書房)、『下層化する女性たち―労働と家庭からの排除と貧困』(勁草書房)など多数。


横田 能洋氏(よこた・よしひろ)
横田能洋氏
特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ 代表理事
1991年、茨城県経営者協会に入り、企業の社会貢献推進などを担当。96年より茨城NPO研究会を立ち上げ、98年に同会を母体に設立された特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズに転職。NPO法人の設立・運営に関する相談や研修業務を行う。10年4月より、流通経済大学大学院の講師も務める。


ろうきんは、働く人の夢と共感を創造する協同組織の福祉金融機関です。
  〈ろうきん〉は、労働組合や生協などのはたらくなかまがお互いを助け合うために資金を出し合ってつくった、協同組織の金融機関です。 
 全国に13の〈ろうきん〉があり、〈中央ろうきん〉は、茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の関東1都7県を営業エリアにしています。


 「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの諸事情による社会的な不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者を応援する、<中央ろうきん>の市民活動助成制度です。
※新規募集は終了しました。






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