新型コロナウイルス感染症の流行が影響を及ぼしているのは、私たちの日常生活だけではない。故人の弔い方をも劇変させている。

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オーストラリアでは、コロナ感染拡大を抑えるため葬儀に参加できるのは最大10名までとモリソン首相が発表した(3月24日)。しかし、州によってはあと1人か2人は増やすことができる可能性がある。
葬儀社が懸念しているのは、マスク・手の除菌用ローション・遺体収納袋といった必須消耗品を十分に確保できるかどうかだ。
イタリアでは、新型コロナウイルス感染症にかかると “死に直面”すると言われるほどの状況が続いている。緩和ケアは極限に達し、遺体安置所は棺であふれ返っている。葬儀は延期され、多くの死者が火葬も埋葬もされない状態だ。
イランでは、塹壕を掘って大量埋葬していることが人工衛星写真から分かった。
オーストラリアでも感染状況がヤマを迎えているが、パンデミック対策の一環として「故人の弔い方」をしっかり検討しなければならないことを他国の例が示している。
新型コロナウイルスによる死者がどこまで増えるのかを予測するのは非常に難しい。オーストラリア国内では3千〜40万人と予測によって大きな幅がある*。
*4月11日時点でオーストラリア国内の感染者6303名、死者60名。
https://www.theguardian.com/australia-news/datablog/ng-interactive/2020/apr/08/coronavirus-cases-australia-numbers-new-stats-graph-map-by-postcode-covid-19-death-toll
遺体安置所、葬儀場、火葬場、墓地の処理能力は間違いなく限界に達するだろう。家族も故人も、思い描いてたものとはずいぶん違うかたちの葬儀に参列することになるかもしれない。葬儀業界(葬儀社、遺体安置所、火葬場、墓地など)は、前途に立ちはだかる課題を踏まえ、故人の取り扱い方を見直していく必要がある。

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最愛の人に“さよならのキス” はできる?
パンデミック下においては、故人へのキスやハグ、最後のおめかしといった従来の慣習はあきらめるか、大きくやり方を変えなければならない。エボラ出血熱が大流行した2013〜2016年、各国政府は瀕死の人や死者をコミュニティから切り離し、葬儀では故人と直接接触しない方法を強いる必要があったため、喪に服するかたちが変わった。 オーストラリア連邦政府による葬儀社へのガイドライン*(3月25日更新の最新版)では、「故人にキスをしてはならない」と勧告されている。しかし、すぐに手を洗うかアルコール消毒できるならば遺体に触ることは良しとされている。(ほとんどの場合、遺族は手袋を使う必要もないという。)
*Advice for funeral directors (COVID-19)
葬儀はどう変わっていく?
渡航禁止令(入国者には14日間の隔離が義務づけられる)や自粛生活が強制されている状況では、葬儀の手配にも遅れが出る。また葬儀を行えば、遠方に住んでいる人たちが近くに集まることとなり、重症化リスクの高い人たちが含まれることも多いため、間違いなく健康リスクが高まる。
スペイン北部の街アーロでは、新型コロナウイルス感染症の陽性者60人以上が、ある葬儀の参列者であることが判明した。
オーストラリアでは葬儀の規模を制限しているまでだが、諸外国では葬儀への参列自体を暫定的に禁じる措置を取っている。
メルボルンの葬儀社「The Greater Metropolitan Cemeteries Trust」の代表デブ・ガンダートンは言う。「一人ひとりの思想を尊重した葬儀や埋葬サービスを期待する権利はすべての人にあります。遺族や、友人、大切な人にとって、故人の最後をどう弔うかは深い悲しみを受け入れていく上でとても大切な部分であり、喪失感を乗り越える手助けにもなります」
よって、こうした権利を守りつつ公衆衛生も守れる方法を試行しながら見出していく必要がある。
増える葬儀や追悼式のオンライン化
感染拡大を抑えるため、多くの国々で葬儀の規模縮小・延期がなされるなか、オンライン葬儀サービスの導入事例が増えつつある。「DeathTech Research Team」では、葬儀や追悼式がストリーミング配信化される動きを追ってきた*。ロボットを遠隔操作することで、その場に立ち会えない人たちでも葬儀に参列できるようにする技術もある。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今後数ヶ月で、さらなる革新的テクノロジーの活用方法が登場するだろうと予測している。
*『Death and Digital Media』(2017年11月発売)として書籍化されている。
葬儀に直接出席できない場合は特に、故人の思い出をシェアする、哀悼の意を表明するのにソーシャルメディアなどのデジタル技術を用いる人がますます増えていくだろう。

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弔いの舞台裏で起きていること
新型コロナウイルスの襲来は、さまざまな意味で葬儀業界に挑戦を突きつけている。アイルランド保健サーベイランスセンターによる葬儀社向けガイドライン*ならびにニューサウスウェールズ州政府*のガイドラインでは、ウイルスに感染して死亡した人から新型コロナウイルスに感染する可能性は低いと述べられている。だが、どちらのガイドラインともに感染対策手順の詳細が定められており、それを遵守した上での話だ。
*「National Interim Guidelines for Funeral Directors on Managing Infection Risks when handling deceased individuals with confirmed COVID-19」
*「COVID-19 – Handling of bodies by funeral directors」
オーストラリア葬儀社協会(AFDA)の上級副理事アドリアン・バレットは言う。
死亡者や葬儀に関する助言が連邦政府と州政府のあいだで一貫していないことも多々あります(中略)新型コロナウイルスに関する助言には矛盾も起こりえます。ガイドラインを慎重めに設定し、できるかぎりのことはやっているとした方が良いでしょう。
それに人材確保の問題もある。「隔離」や「一時休業」などの策を取れる他の業種と違って、“不可欠なサービス” を提供する葬儀、火葬場、霊園に従事する者たちは、自宅でリモートワーク、というわけにはいかない。
死者を取り扱う者たちの心情を考えることなどめったにないのではないだろうか。深い悲しみを前にして不当なまでに儲けていると型にはまった見方をされること、この仕事にまつわるタブーが偏見を生んでいることもよくある。
しかし、この専門的な業界には、深いサービス精神と思いやりの心が行き渡っている。
この業界における安全な労働条件というのは、個人を守る装備の供給を確保することである。しかしバレットいわく、オーストラリア国内の葬儀社はマスクなどの備品確保に苦戦している、価格を吊り上げてボロ儲けしようとする供給業者との問題にぶつかっているとも。
葬儀業界で働く者たちー 遺体を安全に処理し、大切な人を亡くした遺族の人たちに向き合っている人たちー に関心を持ち、気遣うべきであることを世間一般の人々に広く伝えていくべきである。新型コロナウイルスがあっという間に私たちの日常生活のあり方を変えるとともに、生きることの脆さを思い知らせてもいる。
※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年3月26日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
執筆者:
Tamara Kohn (Professor of Anthropology, University of Melbourne)
Hannah Gould (ARC Research Fellow, University of Melbourne)
協力者:
Bjorn Nansen(Lecturer, Media and Communications program, University of Melbourne)
Fraser Allison(ARC Research Fellow, University of Melbourne)
Martin Gibbs(Associate professor in Computing and Information Systems, University of Melbourne)

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