新型コロナウイルス感染症に対する各国の対応を見ていると、世界中、とりわけアフリカに対して深く根付いた先入観が打ち砕かれていくようだ。ヨハネスブルク大学政治学教授スティーブン・フリードマンが解説する。


「第一世界」(先進国、要は西欧諸国と北米を指す)は「第三世界」(途上国)の国々よりも豊かで、政治や経済、そして医療も優れている。国民に“良い生活”を提供する上では段違いに優れていると考えられてきた。

もちろん、他の国々を食い物にしてそうなっただとか、だからといって道徳的・文化的にも優れているわけではないと批判的立場を取る人たちもいるだろう。しかし概して言えば、第三世界で暮らす人たちは第一世界のようになることを望んでいる、なぜならそれが “より良い人生” を意味するからとの見方が大勢だった。

しかし新型コロナウイルス対策においては、その真逆の事態が起こっている。

初動の遅さが痛手となった英国と米国

「第一世界」は、多くの場合、ヨーロッパ人またはヨーロッパ系の子孫たちが動かしている国々を指す。しかし、コロナ禍において世界でも有数のダメージを食らった国には、第一世界の国々も含まれている。

英語を話すアフリカ人(Anglophone Africans)にとってなおいっそう興味深い事実となったのは、コロナ対応で大失敗をやらかしたのが、元支配国の英国と、英語圏の超大国・米国であったことだ。

英国・米国の両政府は、コロナ対応において考えられる限りの間違いを犯した。

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「店舗閉鎖」robertoleecortes /Pixabay 

両政府とも、当初のウイルスの脅威に目を背け*、ついにアクションを取らざるを得なくなった時には、発信した情報があいまいだったため、多くの人が感染拡大につながる行為を取ってしまった。両政府ともに必要な検査を実施しようとせず、病院や医療従事者に十分な医療器具が供給できず、避けられたはずの死者を数多く出した。

*米国で最初に陽性者が確認されたのは1月20日だがトランプ政権はこれを軽視。1ヶ月以上まともな対応を取らなかった。2月27日には「じきに奇跡的に消えるだろう」と発言、3月17日になって「これは本物のパンデミックだと分かっていた」と発言。英国では、介護施設などでの感染見込みが政府予測をはるかに上回るレベルで進行した。参照:U.S., UK first ignored corona; now they are failing to contain it


政治的な失敗だった。米国は、豊かな国の中で唯一、国民皆保険制度がない。オバマ前大統領が推し進めた医療保険制度改革(通称、オバマケア)は右翼の抵抗に遭って骨抜きにされ、トランプ大統領率いる共和党によって完全に潰された。英国で好評を得てきた国民保険サービス(NHS)は、支出削減によって弱体化させられてきた*。両政府がウイルスとの闘いに迅速に対応できなかったのは、他の事項を優先してきたから。

*公衆衛生サービスの予算が、2021年度までに実質ベースで2015-16年度より25%減となり、一番影響を受けるのは困窮エリアとされている。参照:FUND OUR NHS - Cuts to frontline services

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1662222 / Pixabay 

それでもなお、英国の政権支持率は高い*。米大統領は、世論調査では対立候補に劣っているものの、再選される可能性もまだ十分に残っている*。 何千人もの命を奪った対応しか取れなかった政府を支持する国民たち......これより “第三世界的” なことなどあるだろうか。

* 英国政府支持率 (5月以降は支持率が急降下しているが...)
Trump vs Biden: who is leading the 2020 US election polls?


スペインやイタリア、アフリカ諸国の元支配者フランスなど西欧諸国も、ウイルス封じ込めに苦闘した。ニュージーランドやオーストラリアなど、ヨーロッパ系子孫たちが動かしている国々では、かなり上手く対処したところもある。しかし、歴史的に「第一世界」とされてきた国々の中に“スター級の役者”は見当たらない。

東アジアの効果的対策。インド・ケララ州は積極的市民参加が決め手に

最も効果的な対応を取ったのは韓国をはじめとする東アジアの国々及び地域だったと言えよう。過去にコロナウイルスの流行(SARSやMARS)を経験し、学んでいたこともあるだろう。 韓国の勝因は「効果的な検査実施」と「感染者の追跡」にある。いかなる理由にせよ、いわゆる「第一世界」に期待されていたことを実施したのは、西側諸国ではなく東アジアだった。

今や東アジアが「第一世界」なのだと主張する人もいる。しかしそれなら、依然、第一世界は “優位”なもので、中身が変わっただけ。これについては、まだ議論の余地がある。たとえこの見方が受け入れられたとしても、いわゆる「第三世界」的条件下でウイルス封じ込めを成し遂げたところがある。

インドのケララ州は、国内初のウイルス感染者が確認された州で(2月3日、武漢在住のインド人学生が春節で帰国時に陽性確認)、その後、感染者が急増した。しかし、ケララにはしっかりした医療制度があり、長年にわたり高い識字率を達成してきた。過去の伝染病対策からの学びもあった。さらに成功のカギとなったのは「市民参加」だ。 自警団や市民ボランティアと協力して感染者の接触状況を追跡。PCR検査用の簡易ブース建設には学生を採用。 学校が休校となった子どもたち全員に、給食を届けることもやりきった。非政府組織が責任を持って、政府と市民間の協力関係を取り持った。ケララの実績は “まぐれ” ではないのだ*。

*その後、ケララ州の感染者数は5,429人にまで増えたが死亡者数は25人にとどまっている。一方、東京の感染者数は6,775名で死亡者数325名(数字はいずれも7月6日現在/ジョン・ホプキンス大学発表)。参照:How the Indian state of Kerala flattened the coronavirus curve

予想を覆すアフリカの迅速なコロナ対応

同じく第三世界とされてきたアフリカが、実際にどうウイルス対策を進めてきたかご存知だろうか。

新型コロナが広まり始めた当初は、ほぼ毎日のように、「医療制度がままならないアフリカは死に飲み込まれるだろう」との論調がメディアでは繰り返された。ビル・ゲイツ財団を率いるメリンダ・ゲイツもそのような発言をしていた。結局、新型コロナの惨劇は第三世界、とりわけアフリカで起こるだろうと。

だが現時点で、そんな事態にまでは至っていない。これから起きるのかもしれないが、もしそうなっても、予想されていた悲惨な状況よりもうまく(そしておそらく、第一世界よりもうまく)事態に対処する国々がありそうだ。

中でも際立っているのがセネガルだ。1ドルの検査キットの開発*、3Dプリンターで市価よりはるかに安い値段で人工呼吸器を製造するなどした。アフリカもエボラ出血熱などの感染症から貴重な教訓を学んでいたのだ。

*参考:Senegal's $1 COVID-19 test kit and the race for a vaccine

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Visiter Bordeaux / Pixabay

【オンライン編集部追記】
アフリカ大陸では陽性者が確認されていない段階からロックダウンや非常事態宣言をおこなうなど積極的な対策を取った国が多く、それが良い結果につながったことを示すエビデンスも出ている。

以下に例を挙げる。
ルワンダ:最初の感染者確認から5日後に旅客便を停止。その2日後にロックダウン。4月末までに2万人のPCR検査を実施。

ウガンダ:最初の感染者確認から接触者追跡と隔離。5月初めには最初の迅速評価調査として2万人を対象としたランダムサンプリングを実施。陽性者は2人のみだった。

エチオピア:首都アジスアベバにて戸別訪問調査をたったの3週間で完了。500万人の症状と渡航歴を文書化、リスクの高い人すべてに検査を実施。
エボラ出血熱を経験した各国にはすでに緊急対応チームがおり、接触追跡の訓練を受けている人員がいるなど、公衆衛生のツールやプロトコルが確立されており、すぐにコロナに応用することができたことも強みとなったのではとも評価されている。

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Portraitor / Pixabay 

7月7日時点で、アフリカ大陸全体(総人口約13億4千万)で11,366名の死者が出ているが、3千名以上の死者が出ているのはエジプト(人口約1億2百万)と南アフリカ(人口約5千9百万)のみ。

参照: What African Nations Are Teaching the West About Fighting the CoronavirusAfrica COVID-19 stats

とはいえ、「第一世界」は他の国々よりはるかに豊かで、この先もそれは変わらないだろう。しかし新型コロナウイルスの大流行を経験したことで、「​​第三世界」では新たな考え方が沸き起こるかもしれない。

政府の最も基本的な役割は「国民の安全を守ること」。 国民が健康でいられるようにすることは、人々を暴力から守ることと同じくらい重要なことである。本当により良い生活を提供してくれる国はどこなのか、自分たちは本当に米国や英国、フランスのようになりたいのかと疑問を持つ人が増えるのではないだろうか。合理的な考えをする人なら、欧州や北米よりもケララやセネガル(又は東アジア)での生活に惹かれるかもしれない。コロナ禍が新たに説得力ある論拠を提示している。

By Steven Friedman
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo


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