コロナ禍の影響で、ペットを飼っていた人が生活に困窮し住まいを失い、行き場をなくすケースが増えている。生活が危機に直面した時、愛するペットとの暮らしをあきらめなければならないのだろうか?

作家・活動家で愛猫家の雨宮処凛さんをゲストにお迎えし、「ペットと共に生活を立て直すための困窮者支援活動」について認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表の稲葉剛と有限会社ビッグイシュー日本のスタッフ佐野未来がお話を伺った。



※この記事は、2022年2月22日(スーパー猫の日)に「ボブという名の猫2 幸せのギフト」公開を記念して行われたオンライントークイベント「BIG ISSUE LIVE特別企画『ボブについて語ろう』」の内容を元に再構成したものです。

犬猫の飼い主を支援する「反貧困犬猫部」の活動

雨宮処凛さんは反貧困ネットワークの世話人として活動する傍ら、「反貧困犬猫部」を立ち上げ、コロナ禍で困っているペットや飼い主たちをフード代や宿泊費、医療費の面で支援している。

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雨宮処凛さんと愛猫のぱぴちゃん(17歳)

「反貧困犬猫部」の活動が始まったのは、2020年6月。貧困問題の解決に取り組む団体が連携して立ち上げた「新型コロナ災害緊急アクション」に寄せられたある女性からの問い合わせがきっかけだった。その女性は飼い犬と共にアパートを追い出されて行き場がなくなり、手持ちのお金も尽きてドッグフードを買えなくなってしまったという。

コロナ禍では多くの人が仕事や住まいを無くし、それまでは問題なくペットの食事代や医療費を払えていた人も、このように突然路頭に迷ってしまうケースが相次いだ。

ペットを飼っていた人が住まいを失うと、人間が一人で住まいをなくした時より多くの困難が立ちはだかる。ペット連れだとビジネスホテルやネットカフェ、シェルターでの一時滞在も難しい。また、動物病院の費用は人間のような保険が使えないため、飼い主本人の医療費より高くなってしまう可能性も高い。

その女性は生活保護の相談に行った際、「生活保護を受けるならペットを処分しろ」と言われたという。実はペットを飼っていても生活保護は利用できるのだが、役所でそのような対応をされるケースは少なくない。窓口での対応によって適切な公的支援にアクセスできない水際作戦の問題が、ここにもあった。

生活に困窮した人がペットと共に生活を立て直すのはより厳しいと感じた雨宮さんは、飼い主を支援するために「反貧困犬猫部」を立ち上げた。するとすぐに全国から多くの寄付が集まった。中には、「これまで貧困問題に関心がなかったが、飼い主が貧困状態になるとそのペットまで苦しい思いをしてしまうということに気づいた」「誰かのペットが辛い思いをしている現状に耐えられない」という声が多くあったという。

「反貧困犬猫部」への寄付金は、困窮する飼い主へのペットフードの送付、ペットと一緒に入れるシェルターの家賃や動物病院の治療費などとして活用されている。

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コロナ禍で困っているペットたちを助けるために発足した反貧困犬猫部 
小さな命を守るため お力をお貸しください〜「反貧困犬猫部」を立ち上げました - 1587953093 ページ! (hanhinkon.com)

ペットと暮らせる個室シェルター「ボブハウス」

ボブは、世界で最も有名な「ストリート・キャット」。
元・英国版ビッグイシュー販売者のジェームズ・ボーエンはかつて、薬物依存症に苦しんでいた。治療や路上脱出に向けた心の支えとなったのがボブ。

2012年にボブと自らの経験を綴った『ボブという名のストリート・キャット』はベストセラーとなり、2016年には映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」が公開された。そして2022年2月25日、続編映画「ボブという名の猫2 幸せのギフト」が日本公開されている。



ジェームズはボブと出会う少し前に、ホームレス支援のための公的アパートで生活を開始していた。そこが独立したワンルームアパートで、ペット可だったことがこの「奇跡」のストーリーを可能にした。しかし、日本の都心ではペット可物件の数が少なく家賃も高いため、生活保護を受けてペットと暮らすのは贅沢だと言われたり、そもそもすぐに物件が見つからないこともある。

2匹の保護猫と暮らす稲葉が、以前より必要性を感じていたペットOKのシェルターを実現させようと決意したのは、2020年6月、ボブの訃報の翌日だった。

「(ボブとジェームズさんの話を知っていたから)『名前はボブハウスにしよう!』と思いました」と稲葉は言う。実現に向け寄付を集め、2020年7月にはオープンにこぎつけた。
現在は3室まで規模を拡大、これまでに20代〜50代の約10人が利用している。

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稲葉と愛猫のサヴァちゃん(6歳)。もう一匹の本名錦松梅、略して梅ちゃん

入居者のある女性は、かつて大型トレーラー運転手だった。しかし病気で働けなくなったことをきっかけに転職し、その仕事もコロナの影響で失った。家賃を払えなくなってしまった彼女は福祉事務所に相談に行くが、窓口では「ペットと一緒だと生活保護を受けられない」と、制度に関する虚偽の説明をされたため、新宿で愛猫とふたり路上生活に。しかしボブハウスに愛猫と入居できたことで生活保護利用に繋がり、現在は別の賃貸物件に入り、病気の治療を始めることができたという。
(このエピソードは、東京新聞でも取り上げられている。*)

*「ねこちゃんがいたから<新宿共助>」:『東京新聞』2021年11月10日/中村真暁

このように、ボブハウスがなければ路上生活が長引いた可能性があった人たちがスムーズに次の支援に繋がることで、早く生活を立て直している。飼い主にとって家族の一員であるペット。困った時でも安心してペットと暮らせる環境があることで、飼い主も次のステップに踏み出すことができていると言えるだろう。

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最初に入居した「まーちゃん」の様子はビッグイシュー基金通信で取り上げられた。

また、稲葉のはじめた「ボブハウス」はボブの飼い主・ジェームズの耳にも届いている。 この活動を知ったジェームズは、「これこそが最高の追悼になるだろう。僕を救ってくれたボブが、これからも多くの人々や動物を救うことになると思うと、悲しみも和らいでくる」 と話している*。

*ジェームズ・ボーエン「スペシャル企画:ありがとう、ボブ」『THE BIG ISSUE JAPAN 389号』

ペットと共に生活を立て直せる社会へ

映画『ボブという名の猫』を見ると、医師がボランティアで診察してくれる動物病院*が登場する。しかし日本ではまだ、イギリスのようなペットへの支援の仕組みを確立できていない。

*National Animal Welfare Trustホームページ

東日本大震災の時も仮設住宅にペットが入れず、行き場を失ってしまったという問題が浮かび上がった。その時の教訓をもとに環境省は13年、災害時に飼い主がペットを連れて避難する「同行避難」のガイドラインを策定したが、11年経った今でも丁寧な議論や対策が進んでいるとは言い難いのが現状だ。

ペットと一緒に生活を立て直すという考え方が一般的に広まってそのためのセーフティネットが整備されれば、災害や経済危機で予期せず暮らしが苦しくなってしまった時でも安心してやり直せる人が増えるだろう。

雨宮さんや稲葉が取り組んでいる「ハウジングファースト型支援」*は、まず初めに安心して体や心を休めることができる「住まい」が確保されることが基本となる。それは誰もが持っている権利でもある。その上で、それぞれの人が個別に必要とする支援を得て暮らせることを目標としている。

 *「住まいは人権である」として、家を無条件で提供する生活支援のあり方。

「本当はこういったシェルターは公的に準備してほしい。例えば公営住宅をペット可にして、数部屋をシェルター利用できるように確保するなどすれば、すぐにでも全国で実現できる」と雨宮さんは提案する。そして「ペットフードを必要な人に届けてあげるといった支援は誰にでも参加できると思うから、ぜひ周りに必要そうな人がいたら助けてあげてほしい」と呼びかけた。「そして、あなたがペットを抱えて生活に困っているならば、遠慮せずに『新型コロナ災害緊急アクション』に相談して欲しい」

辛い時、苦しい時、もう一度立ち上がるために支えとなるのは、家族やペットといった「守りたいもの」の存在が大きい。

ジェームズとボブのストーリーには生きる苦しさと、ともに生きる喜びとが細やかに描かれており、多くの人の共感を得ている。愛するペットと一緒に住み続けられる社会を願い、雨宮さんも稲葉も今日も活動を続けている。

ボブハウスの取り組み
https://tsukuroi.tokyo/2020/08/24/1161/

映画「ボブという名の猫2 幸せのギフト」 オフィシャルサイト
http://bobthecat2.jp/

THE BIG ISSUE JAPAN422号
スペシャル企画:ストリートキャット・ボブ
422_H1_SNS_yokonaga
https://www.bigissue.jp/backnumber/422/


雨宮処凛
1975年、北海道生まれ。作家・活動家。
格差・貧困問題に取り組み、この国の”生きづらさ”に関して、著作やメディアなどで積極的に発言。 「反貧困ネットワーク」世話人。
雑誌『ビッグイシュー日本版』に「雨宮処凛の活動日誌」連載中
2021年4月 『コロナ禍。貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』かもがわ出版、上梓。最新刊は『生きのびるための「失敗」入門』(河出書房新社)

稲葉剛
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事、いのちのとりで裁判全国アクション共同代表、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授。
ボブハウスの他にも、2021年10月からは、町中に困窮者向けの1泊分緊急支援パックを設置する「せかいビバークの取り組み」https://sekaibivouac.jp/ を始めている。

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