2023年10月25日に福島第一原発内のALPS(多核種除去設備)施設内で、配管の清掃作業を行なっていた作業員5人が汚染水を浴びて被曝する事故が起きた。東京電力によれば5人の被曝線量はベータ線量で最大6.6ミリシーベルト(20代の男性)と評価されている。5人のうち1人は身体汚染なし、4人のうち2人は除染して基準以下に(4Bq/cm2)なったが、残る2人は線量が下がらず、福島県立医大附属病院に入院した。
汚染廃液を浴び作業員被曝
3次下請けの3社5人
東電は、綿棒による鼻のスミア検査では汚染が検出されなかったということから「内部被曝はなかった」としている。しかし、除染(シャワーを浴び、タワシなどで擦るのだろう)しても汚染が残るということは、皮膚の毛穴などから汚染廃液が染み込んだと考えられる。入院した2人は28日に退院したが、2週間ほどの経過観察が必要だとのことである。20代という若い男性の最大被曝に心が痛む。
ALPSでは、汚染水が前処理設備から本体設備へ入っていく前のところで、炭酸塩による配管の目詰まりを硝酸を使って洗浄する作業を定期的に行なっている。東電によれば作業は3系統それぞれ年に一度程度との説明だった。炭酸塩と硝酸との反応でガスが発生、今回はこれまでになく多量で、このため、つないでいた仮設のホースがガス圧でタンクから飛び出して、作業員2人が廃液を浴びて被曝した。その後、廃液の回収作業を行なったことにより被曝が5人に拡大した。
作業員らは元請けの東芝エネルギーシステムズ社の3次下請けで、わずか5人の作業員は3社に属していた。複雑な下請け構造が垣間見えるが、これが事故の背景にあるのではないか。
アノラック着用せず作業
東京電力の実施計画違反
被曝の直接的な原因は2人がアノラック(厚手の特殊作業服)着用による防水対策をしていなかったことにある。これまではガス圧を監視しながら、硝酸注入量の調整で、同様の事故は起きたことはなかったという。仮設ホースが外れるに至った詳細な究明が求められるが、東電はアノラック着用の周知徹底で済まそうとしている。しかしこれで再発防止になるのか、心もとない。
東電の当初の発表では漏れ出た廃液量は100cc程度と公表していた。この程度の漏洩にしては被曝線量が多すぎると筆者は疑っていた。案の定、31日の報道によれば、漏洩量が数リットルと実際は桁違いに多かったのだ。東電のホームページにはこれに関するプレスリリースはなく、おそらく記者会見でのやりとりなのだろう。
東電によれば、作業員の聞き取りでわかったという。しかし、100cc程度で済まないことは被曝人数や被曝線量からして当初からわかっていたはずだ。なるべく事故を小さく見せようとする意図が窺える。東電だけではない複雑な下請け構造の中で事業者側にもその意図があると言える。契約解除で仕事がなくなることを恐れるのだ。
さらに、事故を小さく見せようとする意図では経済産業省も例外ではない、西村康稔大臣は10月27日の記者会見の席上「何か規定に違反しているわけではない」と発言している。
しかし、山中伸介原子力規制委員長は11月1日の記者会見において、「私自身東京電力の実施計画違反であるというふうに認識しております」と明確に述べている。実施計画は原子炉等規制法に基づくもので、ここで作業手順としてアノラックの着用が義務付けられているからだ。(伴 英幸)
(2023年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 469号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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