一風変わったリサイクルショップがある。使われなくなった家具や家電に再び命を吹き込むのは、薬物やアルコール依存症の克服に奮闘している人たちだ。
依存症を抱える人に修理技術を習得してもらい、廃棄物を減らして環境問題にも寄与する北マケドニア首都近郊にある回復施設「レト・ホープ」を訪ねた。
 

この記事は『ビッグイシュー日本版』387号(SOLDOUT)からの転載です。

回復への第一歩は丘登り
店の売上は施設の運営資金に

 薬物やアルコールへの依存から立ち直ることができる上、“壊れたら捨てる”文化に抗い、環境への負担軽減を試みる一石二鳥の方法がある。社会的企業の「レト・ホープ(Reto Hope)」は薬物・アルコール依存症者向けのプログラムを提供する回復施設である一方、施設内の店舗では入所者が修理した家具を販売している。

 2008年に北マケドニアに開所された「レト・ホープ」は、首都スコピエ市内の小さな村バティンチに拠点を置く。村の幹線道路に車を停め、徒歩で丘を登った先に、新たな人生を開くその施設はある。回復プロセスの第一歩は、この丘登りから。克服までには長い道のりが待っているということを足で感じ、異なる視点から人生を見つめるには以前よりも少し高い位置に上がってみるのがよいということを体感するのだ。

 丘を登り終えると、2軒の住宅が連なる3階建ての施設が見えてきた。敷地内には店舗のほか庭や小さな果樹園、犬小屋も併設されている。店内に入ると、修理済みの飾り戸棚、コーヒーテーブルや調理器具、花瓶などのほか、ラグマットや毛布、洋服類などといった家庭用品が所狭しと並んでいる。

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クローゼットやシステムキッチン、雑貨、服飾品などが並ぶ店内/Photos: Tomislav Georgiev

「修理の終わった新しい家具が入ると、すぐにお客さんが目をつけます。質のよい品は売れるのも早いですね。ただしアンティークのものは滅多に売れないですが」と施設の運営者ニコラ・チュレヴスキは話す。ヘッドボードに精巧な銅の装飾が施された立派な木のダブルベッドは600ユーロ(約7万2千円)。「いつものお客さんたちからすれば高額な商品です。簡単には売れないでしょうが、値下げをするつもりはありません」と言う。

 というのも「レト・ホープ」は、店の売り上げを施設の運営や食材・生活用品の購入、回復プログラム参加者の滞在費用など諸経費の支払いに充てている。店のスタッフとして二人の従業員を雇っているほかは、入所者の支援、修理技術を教える人など、数人のボランティアに支えられている。 「ここにいる人はみな、依存症に立ち向かう人々の力になるため自ら望んでこの施設にかかわっています。給料を受け取ってもいなければ、誰も仕事だとさえ思っていないでしょう」


回復者がともに働く工房
自分も“人の役に立てる”実感

 この施設の源流となった「レト」は85年にスペインで創設されたのがはじまりで、同様の理念をもつ施設はメキシコ、エストニア、タンザニア、クロアチアなど世界各地に広まっている。もとはキリスト教系の薬物依存症回復施設だったが、入所者への改宗強制はなく、宗教や国籍などによらず受け入れている。

 北マケドニアの施設ではヨーロッパ遠方の国々からも入所希望者がやって来る。この施設で生活をしながら回復プログラムに参加し、状態が安定すれば家具修理の技術を学び始める。入所者にはみな同じプロセスが等しく適用され、この手法が依存症治療に効果的であるのは長年の実績が証明している。

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木材を裁断する入所者/Photos: Tomislav Georgiev

 ニコラもこの施設で依存症から回復した一人だ。「この場所では他の薬物に頼らない方法(※)で克服に取り組んでいます。私は19歳の時に施設を訪れ、回復後も続けて携わる道を選びました。同じ境遇を経ているので、当事者の思いや困難が手に取るようにわかるんです。回復プロセスも経験済みなので、先輩として自分の経験を伝え、励ますことができる。人の役に立てて、何か価値のあることをしているという実感があります」

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修理工房。左の男性は依存症から回復した後もここで働き続けている

 施設1階にある家具の修理工房は広々とした清潔で快適な空間だ。隅には修理を待つ椅子が積まれ、懐かしいデザインの古い冷蔵庫もある。工具やネジは一本一本に至るまで置き場が定められている。

「もちろん修理品の販売には、資金調達以外の重要な側面があります。作業への継続的な参加やフルタイムの労働を通じて、責任感や正しい行動を自覚できるようになるのです。私たちは、入所者が自律した人になれることを大切にしています。どのような道に進むかにもよりますが、施設での学びは卒業後の仕事でも役に立つでしょう」

 さらにここでは、家電製品の修理や再生可能な資源の分別、そのほか要望があれば引っ越し作業や草刈り、洗い物、配達などのサービスも提供している。

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自分たちで修理した自転車/Photos: Tomislav Georgiev

当初は地元の人々も警戒
依存症は今もタブーで支援不足

 今ではひっきりなしに作業の依頼が舞い込むが、すぐに信頼を得られたわけではないという。12年前に施設ができた当時は、地元の人々から警戒された。 「『薬物依存症者が来るなんて大変だ!』と言われていたんです。でも、入所者たちが働く姿を目にするうちに関係改善は進み、今では見方も変わったようです。施設は整っていて静かですし、私たちは近所の方々の手伝いにも積極的です。カーペットを掃除したり、薪を割ったり、草を刈ったり……。一番のお客さん、お得意さまは村のみなさんですね」

 施設長のギレルモ・ペレスは、妻とセルビアからやって来て3年半が経つ。「依存症から立ち直る方法の存在を広く知ってもらうのが私たちの使命です。入居者が依存症を克服し、新たな人生を送れるようになるのを願っています。私たちにとっての成功とは、回復したかつての入所者が今日という日を明るく生きることなのです」と話す。

 今後は依存症の予防啓発や施設のさらなる認知向上にも力を入れていく予定だ。入所者はチラシなどを見てやって来るほか、スタッフが依存症の問題を抱えている人と個人的に親しくなるなど口コミが最も効果的なのだという。

「今後も当事者や家族に連絡を取り合っていくと同時に、依存症予防のイベント開催や学校などにも出向いていきたい」とギレルモ。「依存症は未だにタブー視されており、当事者への支援不足が深刻な事態を招いているのです」と付け加えた。

「レト」とはスペイン語で「チャレンジ」の意味だ。依存症を乗り越えようとする人々を希望とともに見守る「レト・ホープ」は、一度手放された家具を再生させ、人々の人生も回復させている。 (Maja Ravanska, Lice v Lice/INSP/編集部)

※ 即時の断薬が困難な人に、効き目の長い薬物を提供する「ハームリダクション」を指していると思われる。薬物依存症者を排除や厳罰の対象としてみるのではなく、薬物関連の害を減らし、孤立を防いで支援しやすくする考え方。

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