生理や生理用品についての話題がタブー視されてきた中国で、ここ最近、これらの問題に声を上げる女性たちが現れ、変化が起きようとしている。セント・アンドルーズ大学国際関係学の博士研究員チー・ツァンによる『The Conversation』寄稿記事(2024年3月)を紹介する。
 

この数ヶ月、生理用品にかかる税金の高さに抗議の意を示すキャンペーンがSNS上で広まった。

Period Pride などの草の根団体が、インスタントメッセージアプリ「WeChat」の公式アカウントで、女性向け商品の価格が高すぎることに異議を唱え、多くの女性の支持を集めているのだ。2023年冬、ピンク税(女性向け商品が男性向け商品よりも高価になる傾向)の負担を訴えるハッシュタグ #PinkTax がSNSで広まっているのも、運動の盛り上がりを示すもう一つの証拠だ。この問題は、中国では買い物熱が高まる「国際女性の日」(3月8日)にも注目が集まった。

Period Pride では、いわゆるピンク税を廃止または引き下げた約20カ国と中国の状況を比較し、コンドームや避妊薬などの非課税商品に対し、生理用品に高い税金が課せられている事実を指摘した。しかし、このように公の場で生理に関する議論が起きるなど、数年前までは考えられなかったことだ。

生理用品に輸入品と同じ13%の付加価値税率

大きな課題となっているのが「生理用ナプキンの価格」だ。中国では、生活必需品とされる商品への課税率は11%にもかかわらず、生理用ナプキンには輸入品と同じ13%の付加価値税率が課せられている。2021年に開催された第13期全国人民代表大会の第14回大会で、生理用品を無料提供する提案がなされた。これに対し、財務大臣は同年6月、生理用ナプキンへの課税率13%はそれ以前よりも減税されたものになっていると回答した。2023年9月、政府は付加価値税法の最新版を発表し、国民の反応を見た。Period Prideなどはいち早く、生理用品への課税が高すぎると声を上げている。

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Photo courtesy of Natracare

中国では、“生理の血に触れた者は汚される”とみなされ、従来、生理中の女性は寺院に入ることを禁じられ、今日でも生理中の女性の参拝を禁じる場所もある。「生理」という言葉を口にすることすら嫌悪され、「大きなおばさん」「あれ」と婉曲表現を使う女性も多かった。西洋のフェミニスト運動の影響を受け、中国のフェミニストたちが生理をタブー視する風潮に向き合うようになったのは2000年代初め頃から。2003年、中国版『ヴァギナ・モノローグス*1』にも登場したダンス「Menarche(初潮の意)」はその顕著な例の一つだ。

*1 米の劇作家イヴ・エンスラーによる女性器を巡るモノローグ劇。世界各地で上演されている。

コロナ禍に突入した2020年2月、中国のSNS上では、長時間労働を強いられる女性の医師・看護師たちが、十分な生理用品を入手できず、まともにナプキンを変える時間もない現状に注目が集まった。生理用品の寄付を募るキャンペーンが支持を集める一方で、「生理用品は必需品ではない」と批判する声も少なくなかった。

生理用品を買えず、ちり紙や古タオルでしのぐ地方部の少女たち

もう一つの問題は、生理用品を買うことができない若い女性が、特に地方にはたくさんいることだ。2020年8月、中国最大のSNS「Weibo」のユーザーがネットで購入した大量の生理用ナプキンの画像を投稿したことで、価格面およびタブー視されている風潮から、地方に暮らす女性たちが生理用品を十分に入手できていない現状がクローズアップされた。貧しい地域に暮らす少女の5%が生理用品を使っていないこと、13%が親に買ってほしいとお願いできていない現状を指摘した報告書もある*2。ざらざらの紙(ちり紙など)、古タオル、古着などでしのいでいる女性も少なくないのだ。

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jozzeppe/iStockphoto

*2 参照: Campaign for Affordable Menstrual Products Gains Ground in China

2022年9月には、SNSへの投稿がきっかけで、高速列車内で生理用品を販売すべきかどうかについての議論が起きた。車内販売に反対する者たちは、“汚らわしい”生理用品を食べ物と一緒に販売することへの疑問を呈した。生理について男性の無知ぶりが露呈された背景には、学校での性教育の不十分さ、親や教育提供者がこの話題を忌避してきたことも影響しているのだろう。このような議論が起きること自体、女性がないがしろにされ、生理用品を汚らわしいものとみなす風潮の証である。

「政府に対抗」ではなく「建設的な議論」を巻き起こす戦略

Period Pride では、中国の政治状況を踏まえた戦略を取っている。外国勢力の手先とみられるリスクを避けるため、政府に“対抗”するのではなく“協調”する戦略を選んでいるのだ。そのため、賛同者には抗議活動に打って出るのではなく、政府提供の政治参加チャンネルの活用を促している。これを効果的でないと見る向きもあるが、従来の抗議活動よりもリスクの低い方法であることは間違いない。高速列車内での生理用品の販売をめぐる議論も、政府の正統性に真正面から挑んでいるわけではないため、厳しい検閲に引っかかることなく、ビジネス上の利益を中心に展開している。

今後、政府ウェブサイト経由での提言によってピンク税に変化が起きるかどうかはまだわからない。しかし、たとえ何も変わらなくても、提言によって自分たちの声を届けようとする行為によって徐々に変化が起きる素地がつくられ、SNS上で議論を繰り広げることで、長らくタブー視されてきた生理の受け止め方に変化が起きていくだろう。

By Chi Zhang
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo



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