2024年11月にCOP29*1 の開催が予定されている。当初、その組織委員会メンバーは全員男性だった。この事実を受け、活動団体「SHE Changes Climate」が「気候変動は世界全体の誰しもに影響する問題」との旨の声明を出すなど反発の声が高まった結果、複数の女性が委員会に加わることとなった。

気候変動という世界レベルの課題に取り組むには、多様な視点や経験が求められる。委員会のジェンダーバランス是正によって環境問題対策によりよい結果がもたらされるはずと主張するのは、伊ルイージ・ボッコ―ニ大学公共経済学教授でジェンダー平等の研究者パオラ・プロフェータだ。『The Conversation』寄稿記事にて、その理由を以下のように述べている。



*1 国連気候変動枠組条約第29回締約国会議。2024年11月11日〜22日にアゼルバイジャンでの開催が決定している。


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photo:pixabay

1 環境意識の高さ

リーダーが地球環境を大切に思う気持ちは、気候政策にもそのまま反映される。「欧州社会調査(European Social Survey)」の調査では、「温室効果ガスの排出削減に責任を感じるか」「自身のエネルギー使用を制限することで温室効果ガスの排出削減になる」といった問いに「はい」と回答する人の割合は、欧州各国で一貫して男性より女性の方が上回っていた。自然や環境を大切に思う気持ちや、気候に影響をおよぼす行動への責任感がより強いといえるのではないだろうか。

2 行動への積極性

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相とフィンランドのサンナ・マリン元首相はそれぞれ、首相就任時に「気候変動は緊急事態である」と宣言し、気候変動の緩和に向けた世界的取り組みに貢献する施策を発表した*2。

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2019年5月14日 ガブリエラ・ラモスOECD事務総長首席補佐官兼G20シェルパ(左)とニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相(右)
Photo courtesy of Hervé Cortinat / OECD

「候補者比較調査(Comparative Candidate Survey)」のデータによると、環境保護施策が必要だと考える割合は、男性政治家より女性政治家の方が高いと示されている。国会議員選挙に立候補した政治家のうち、「環境保護のためにより強力な対策を講じるべき」と考える候補者は女性83%に対し、男性75%だった。

筆者自身の研究*3 でも、個人の特性(年齢、思想・信条、学歴、宗教、職業、子どもの数など)を加味しても、性別によって有意な差がみられた。

*2 女性議員の方が厳しい対策を打ち出していることを明らかにした研究がある。Gender and climate change: Do female parliamentarians make difference?
*3 Gender Equality and Public Policy(April 2020)


3 よりよい成果

意思決定に関わる女性が多い企業は、環境保護や持続可能な社会に向けた取り組みで、より実績を上げる傾向がある。筆者の研究でも、女性取締役・部門長を3人以上擁する企業は、環境保護における特定の成果指標でより成果を出していた。管理職に占める女性の割合が高い場合も同じ結果が得られた。(なお、この研究結果は、大気・土地・水の汚染、生物多様性への影響、再生不可能なエネルギー・水・土地・森林・鉱物の使用、廃棄物の扱い、問題改善に向けた製品開発など、さまざまな指標を用いて測定したもの)

4 利他的なアプローチ

かつて米国の社会学者ナンシー・チョドロウが著書『母親業の再生産:性差別の心理・社会的基盤』(1978年刊行)で説いたように、「世話をする人」は思いやりがあり、養育的、保護的、協力的であることを期待される傾向にあり、現状ではその役割を担わされているのは多くの場合女性だ。女性は男性よりも利他的なアプローチで社会と関わる傾向があることを示した実験研究もある*4。

*4 Which is the Fair Sex? Gender Differences in Altruism

5 家庭生活で育まれる環境意識

環境問題への捉え方が性別によって異なることは、性別による役割やさまざまな機会の違いも影響しているだろう。仕事に費やす時間が短く、家庭で過ごす時間が長い人(多くの場合、女性)は、リサイクルや水の節約といった家庭生活における環境意識がより高いという仮説(biological availability hypothesis)もある。また、女性は健康や身の安全への関心が男性よりも高い傾向にあり、それは環境問題への関心の高さにも反映されている。

6 確実な結果を求める

一般的にハイリスク・ハイリターンを好みやすい男性と違い、女性はよりリスクを避け、確実に結果が得られる方法を選ぶ傾向がある。意思決定に男性以外が加わることで、これまでにない視点が加わり、より多くの人を巻き込んだ創造的な問題解決能力がもたらされやすくなるだろう。

オンライン編集部補足:2020年の厚生労働省の調査によれば、ギャンブル依存が疑われる人は、男性は3・7%、女性は0・7%。https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document41.pdf


気候変動という万人に影響をおよぼす問題に取り組み、真の変化を起こすには、男性以外の視点も生かしつつ、多様な方策や行動を打ち出していかなければならない。どんな人がリーダーシップを取るかは、いかなる意思決定プロセスにおいてもきわめて重要な要素であるが、社会的役割に差異のある現代社会では性別が果たす役割も大きい。国際レベルの気候会議にジェンダーの多様性を確保し、よりバランスの取れた決定を促す。いち市民として、有権者として、意思決定者として、私たち一人ひとりの選択が問われている。

By Paola Profeta
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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