東京電力福島第一原発では、今も溶融した核燃料(デブリ)に水をかけて冷やしている。この冷却水はデブリに直接触れるなどして放射性物質を高濃度に含んでいる。さらに建物には地下水が流れ込み、この汚染冷却水と混ざって汚染水の量を増やしている。かつて毎日400tを超えていた汚染水発生量は、東電の努力もあり80t程度にまで減った。
(この記事2024年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 480号からの転載です)
原子炉建屋に流れ込む地下水
恣意的に測られる追加放射線量
東電は、多核種除去設備(ALPS)などで汚染水に含まれる放射性物質を基準値以下にまで取り除いた「ALPS処理水」を海水で100倍以上に薄めて海に排出している。2023年度は4回に分けて計約3万1200t(トリチウム放出量:5兆ベクレル)を放出した。24年度は7回、約5万4600t(トリチウム放出量:14兆ベクレル)を放出する予定で、2024年4月19日から5月7日にかけてすでに5回目の放出を行った。
国・東電は「ALPS処理水」の海洋放出を“安全”だと説明する。と同時に国はALPS処理水を「液体放射性廃棄物」と定義しており、文字通り放射性物質で汚染された廃棄物なのだ。含まれる放射性物質の量やその有害性など、さまざま疑問があるが、ここではそれ以前の話をしたい。他に福島第一原発から放射性物質は漏れていないのかということだ。
一般的に原発からの放射線量は、敷地境界で年間1mSv(ミリシーベルト)を超えないように規制されている。だが、福島第一原発では事故時に放出された放射性物質の影響で、敷地境界の放射線量は基準を大きく超えている。そのため基準を緩和して、事故後に発生したがれきや汚染水などによる「追加」放射線量を年間1mSvまでに制限している。だが、「追加」になる基準が恣意的なのだ。
セシウム濃度高い排水路の水
完全ではない海側遮水壁
特に重要なのは構内に複数ある排水路を流れる水だ。東電によれば、雨が降った4月25日のK排水路を流れる水の放射性物質濃度は、セシウム137で1リットル当たり15Bq(ベクレル)だった。海に流れ出るこの水は「追加」対象にはならず、対象になるALPS処理水(希釈後)やサブドレン水、地下水バイパス水(図)などの放射性物質濃度を大きく上回っている。
国は事故時に敷地内に降った放射性物質を雨が取り込んだものだから、「排水路を流れる水は“追加”には該当しない」のだという。がれきや汚染水に混ざる放射性物質はどれも事故時に発生した。しかし「追加」に区分されるものとされないものがある。詭弁というほかない。
もう一点、疑問がある。東電は2015年、地下水漏出を食い止めるため、福島第一原発の専用港(※)に長さ約780m、深さ約30mもの巨大な壁(海側遮水壁)を作った。だが完全な遮水壁はこの世に存在しない。19年3月時点の資料で東電は、海側遮水壁を超えて海に流れ出る地下水量を毎日30tと評価した。
この流れ出ている地下水はどのようなものなのだろうか。東電は建屋から汚染水は漏れていないと説明する。だが建屋周辺や海側遮水壁近くの地下水の放射性物質濃度を見ると、複数の測定地点で数値が大きくなっている。放射性物質が追加で地下水に混ざらないと説明がつかない。このような水が地下水として同原発の専用港に流れ出ているのではないのか。
国・東電は福島第一原発がしっかりと管理されているかのように説明する。だが福島第一原発からは、今もなお放射性物質が放出されている。この事実を国内外にきちんと説明する必要があるだろう。
(松久保 肇)
※原子燃料などの輸送や冷却水の取り込みなどを行う原発専用の港
松久保 肇(まつくぼ・はじめ)
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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