ケニアのマサイマラ保護区(※1)で小型飛行機を自ら操縦し、象牙・銃器の探知犬、密猟者の追跡犬とともに、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する滝田明日香さん。2023年、ケニア政府から麻酔銃の所持許可書を得て、野生動物治療が可能になった。今回は、絶滅危惧種クロサイの個体識別のため、耳に刻みのパターンを入れるオペレーションに、パイロットとして参加する。


※ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系は同じ。

知らずに受けた大変な仕事
ライノ・スポッターパイロット

野生動物の治療のケースが増え続ける中、マラソラプロジェクトで購入した小型飛行機バットホークの出番も増え始めた。3月に入ってケニア野生動物公社がクロサイの個体識別のために耳に番号を意味する〝刻み〟を入れるオペレーション「イアノッチング」に「ライノ(サイ)・スポッターパイロット」として参加することになった。

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Photo: Fabio Lotti/Shutterstock

サイを麻酔で眠らせてから行う作業なので、本来なら獣医チームに参加したかったが、パイロットがもう一人ほしいというので、エリアル・サポートチーム(航空チーム)の一員になったのである。ライノ・イアノッチングは、野生動物獣医の見習いにライキピア地方に行った時に何度か参加したことのあるオペレーションである。しかし、当時はグラウンド・チーム(地上チーム)としてで、エリアル・チームとして参加するのは今回が初めてのことだ。

ライノ・スポッターパイロットの経験がある友達に電話して、今度スポッターとしてイアノッチングに参加することになったと伝えると、「スポッターの仕事、ちゃんと理解している?」と聞かれた。「サイを探すんでしょ?」と答えると、苦笑いして「それだけじゃないよ。簡単な仕事じゃないぞ」と返ってきた。

「スポッターはまず、早朝に飛んでサイを探す。見つかったらグラウンド・チームに連絡をしてサイがいる場所まで彼らが移動できるように誘導する。その間、サイを見失わないように、上空で円を描きながらサイから目を離さない。グラウンド・チームが到着したら、ヘリコプターから獣医がダーティング(麻酔銃を撃つ)できるように、引き続きヘリの上空で円を描く。麻酔が入るとサイは走り出すので、ヘリコプターはサイをグラウンド・チームが辿り着きやすい場所に誘導する。スポッターはさらにヘリコプターの上で円を描きながらグラウンド・チームを、ヘリコプターのいる場所まで誘導する指示を出す。麻酔が効き始めたサイが茂みなどに消えて見失ってしまわないように、円を描きながら飛んでいる間も絶対にサイから目を離してはいけない。麻酔のかかったサイが水の中に入って溺れたり、谷間に転倒したりしないようにヘリコプターがプロペラの爆風を使ってクロサイの走る方向をうまく転換させなければならないので、絶対に見失ってはいけない。見失ってサイが死んだら、それはスポッターのせいだ」

ものすごく大変な仕事だということを把握しないで受けてしまった。電話の話だけでかなり緊張したが、しかたない。引き受けてしまった以上、気合を入れてやるしかない!


チームは100人弱に
GPSタグ、角には衛星発信機も

ドキドキしながら、ライノ・イアノッチングの開始日、会議が始まるキーコロック・ロッジにバットホークで向かった。ケニア野生動物公社、ナロック州政府など政府の役人をはじめ、チームは100人弱の巨大なオペレーションだった。エリアル・チームは、私以外にツァボ国立公園ベースのシェルドリック・ワイルドライフ・トラストからのヘリコプターと固定翼機(※2)スーパーカブが参加していた。

※2:機体に固定された翼に生じる揚力を利用して飛行する航空機。

20歳そこそこの若い兄弟パイロットは、シェルドリック・ワイルドライフ・トラストの創立者ダフニー・シェルドリックの孫息子たちで、ティーンエージャーの時から飛んでいる凄腕パイロットと聞いていた。ケニア野生動物公社の獣医チームもトップ獣医が参加していて、絶滅動物クロサイにかかわることの重大さをひしひしと感じた。

現在マサイマラに生息しているクロサイは、58頭である。サイの耳に個体識別マークを入れる以外にも、耳にGPSタグと角に穴を開けて衛星発信機を装置するのである。耳のタグは携帯のアプリでレンジャーがサイの居場所を知るためのもの。この角に装着する衛星発信機のために、マサイマラに大きな発信アンテナを5本建てるなど、ものすごく壮大なプロジェクトで、数年の準備期間がかかっている。
 今回のターゲットは、耳に識別パターンが入れられていない21頭の個体が候補に挙がっている。スポッターとして、その候補に挙がっているサイを探さないといけないのだ。

私の小さい飛行機の横に並んで待機しているのは、ブッシュパイロットに大人気なテイルドラッガー(後輪式)の「スーパーカブ」。離陸と着地をショートディスタンス(短い距離)ででき、滑走路以外でも着地できる巨大なタイヤがあり、アフリカ全土の国立公園などの僻地で大活躍している機体である。

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そのケニア白人の青年パイロットたちは、ツァボ国立公園の河原に不時着する遊びなどをティーンエージャーの頃からやっている敏腕パイロットとして有名。そんなパイロットたちと飛んで大丈夫なのか? 足を引っ張るんじゃないか? と心配になった。慣れているグラウンド・チームの獣医チームに入った方が無難じゃなかったのかと思ったが、今さら断ることもできない。度胸決めてやるか!

サイ保全チームのレンジャー同行
飛行機酔いして見つからないサイ

それぞれの飛行機には、パイロット以外にライノチーム(サイ保全のチーム)のレンジャーが同行してくれた。彼らはいつも地上からサイの居場所を毎日確認していて、どのサイがどのエリアに生息しているのかをとても詳しく知っている。

候補に挙がっているサイがどこのエリアにいるか? 飛び立つ前に会議をして、誰がどのエリアを飛ぶかを決めることになった。スポッターパイロットを初めてやることをみんなに説明して、山の間など気流が乱れるエリアを外してもらうことにした。難しいエリアは経験豊富なパイロットたちに任せた方が無難だからである。何せ彼らはツァボでライノ・スポッティングの仕事を毎日のようにやっているので慣れている。私は私で、マイペースに安全な地形でサイをがんばって見つけることにするぞ!と意気込んで、滑走路から飛び立った。

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サイを助手席から探す役割のライノ・スポッター、女性レンジャーのナエク

しかし、ライノ・スポッティングはそんな簡単にできる仕事ではなかった。最初に一緒に飛んだおじさんレンジャーはサイを見慣れていなかったようだ。他のチームが無線で「サイ、1頭目発見」とか報告してくる中、私の機体ではまったくサイが見つからない。おまけに3時間飛行機に揺られ、すっかり飛行機酔いしてくれたレンジャー。明日は飛びたくないと。うーん、初日からこれじゃ、かなり前途多難である。まだ6日間もあるのに大丈夫なのか? 私の初めてのブッシュパイロットとしての大役、今後はどうなるかと心配になったが、3日後に女性レンジャーのナエクと出会ってから急に状況が変わったのである。

(文と写真 滝田明日香)


「アフリカゾウの涙」寄付のお願い
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山脇愛理(アフリカゾウの涙  代表理事)

三菱UFJ銀行 渋谷支店 普通 1108896
トクヒ)アフリカゾウノナミダ









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以上、ビッグイシュー日本版483号より「滝田明日香のケニア便りvol.31」を転載。

たきた・あすか

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1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。 https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。







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