ケニアのマサイマラ保護区(※)で小型飛行機を自ら操縦し、象牙・銃器の探知犬、密猟者の追跡犬とともに、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する滝田明日香さん。2023年、ケニア政府から麻酔銃の所持許可書を得て、野生動物治療が可能になった。今回は、絶滅危惧種クロサイの個体識別のため、耳に刻みパターンを入れるオペレーション「イアノッチング」にパイロットとして参加したが、クロサイがなかなか見つからない……。


※ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系は同じ。

3日目にやって来たナエク
10分もたたずにサイを見つける

1日目のスポッターレンジャーのおじさんは結局、クロサイを1頭発見してくれたが、初めての飛行機に揺られて3時間ぐらい経った時点からすっかり飛行機酔い。頼りないったらありはしない。

そして2日目のスポッターレンジャーはさらにひどくて、丸一日飛んで1頭もクロサイを見つけることができないときた。このペースでは、何の役に立っているのかわからない。こっちのやる気も失せ気味になってきたのだが、3日目に女性スポッターレンジャーのナエクと出会ってから、すべてがうまく回り出した。

3日目の早朝に、キーコロックロッジのエアストリップ(滑走路)に着地すると、もう一機のスーパーカブにはすでにスポッターレンジャーが乗り込んでいた。私は、前日クロサイを一頭も見つけられなかったレンジャーとのコンビは勘弁してほしいと、心の中でお願いした。

私の飛行機に向かって歩いて来たのは小柄な女性レンジャーのナエクだった。飛行機に乗りたいっていうだけで来たんじゃないでしょうね、と一瞬、疑ったのだが(そういう人が多い)、私がスポッターを決められるわけではないので文句は言わないでおくことにした。飛行機に乗るのは生まれて初めてだと言うので、最初のスポッターレンジャーのように飛行機酔いしないでほしいなーと思いながら滑走路から離陸した。

すると、驚くことに地上を離れて、滑走路から一番近い茂みの上を飛び始めて10分も経たないうちに彼女は「サイ、見つけたー」と軽く言った。本当か!?と半信半疑で彼女がサイを見たという場所に円を描いて戻った。「ほら!」と彼女が指を指す方向を見ると、確かにクロサイの灰色の背中が茂みの間から見えた。私もサイを上空から見つけることに慣れていないので、ちゃんと目でクロサイだと確認するのに上空を2回転してやっと見定めることができた。

クロサイは飛行機の音が上空でするとフリーズして、茂みの中から灰色の背中が見えたり隠れたりしている。上から見るとまるで岩のように見えて、勘違いしてしまう。身体が大きいサイを見つけるのがこんなに難しいこととは思わなかったので、ちょっと驚いた。ナエクはクロサイを空から見つけるのは初めてにもかかわらず、その1時間後ぐらいにまた「茂みの開けた場所に4頭いるー」と声をあげた。


成獣3頭と子ども、計4頭
そのうち2頭が、候補のサイ

何? 4頭? 母親と子どものサイが一緒にいる? シロサイならわかるが、ほぼ単独で移動しているクロサイが4頭も一緒にいるところなんて、私は今まで見たことがないぞ。彼女の数え違いだと思って転回して、サイたちがいる茂みの上空をもう一度旋回した。ナエクは「やっぱり、4頭いるー」とうれしそうに地上を示す。本当に4頭もいるのかー? 私も一生懸命目を凝らして茂みのサイを数えた。確かに4頭のクロサイが茂みの開いた場所にいた。しかも、不思議なことに成獣が3頭もいる。ナエクは「このエリアにいつも4頭でいるのよ、母親と子どもと、たぶん前の子どもと大きなオス」、かなり不思議な組み合わせである。

無線で地上チームとエリアル・サポートチーム(航空チーム)にクロサイを4頭見つけたことを伝えると、すぐさまスーパーカブが飛んできた。「イアノッチングの候補サイかどうかを確認する」と言う。そして、彼はサイの上を低空飛行で飛びながらロングレンズのカメラでサイの耳の写真を撮ってきた。さらに飛行機を操縦しながら、そのカメラのモニターの画像を携帯のカメラで撮り、ワーデン(公園長官)に携帯で送って確認を取るなど神技のようなことをしてくれた。どうやらいつもツァボで毎日のようにパトロール中にやっているので慣れているようだ。車で携帯いじって画像送信するのも危ないのに、飛行機を操縦しながらそれをするとは、恐るべしブッシュパイロットたち。

ワーデンから4頭のうち2頭が候補サイだという確認が取れると、地上の獣医チームがダーティング(麻酔を打つ)用のヘリコプターでこちらに向かってくるようにと指示が出された。ヘリコプターとのコーディネートと地上チームの誘導などやったことがないので、難しいことは他のパイロットたちに任せて、彼らが到着すると、私は次のクロサイを見つけることにしてその場を離れた。

リスクが高い2歳未満のサイ
ナエクが見つけたサイは16頭

クロサイを発見するのも簡単な仕事ではなかったが、空からクロサイの子どもの年齢をチェックするのはさらに困難な仕事だった。多くの候補サイが子どもだったのだが、2歳未満のサイはダーティングのリスクが高すぎるので候補から外される。無事にサイをうまく発見することができても母と子どもの場合は、無線から「子どもの年齢は?」という質問が戻ってくる。この年齢チェックを空から行うのが至難の業なのである。

年齢は、角のサイズと、母親と隣り合わせにした時の身体の大きさを比べて、推定する。だいたい、飛行機の音が聞こえるとサイは移動し始めてじっとしてはくれない。母親の肛門の下まで背丈が届く大きさだと2歳らしいが、走っているサイじゃまったく背丈がわからない! ライノ・スポッティングは、本当にいろいろな意味で難しすぎる仕事だ。

サイ_イラスト


結局7日間で40時間、サイを探しながら飛び続けたのだが、その中で30時間はナエクと飛ぶことになった。サイを見つけるのがうまいので、彼女を私の飛行機から絶対に外さないでほしいとワーデンに頼み込んで、最終日までずっと彼女と飛び続けた。彼女が最終日までに見つけてくれたクロサイは、合計16頭。その中で候補サイも4頭いて、初めてのライノ(サイ)・スポッターとしては上出来だとみんなに絶賛されたのも、ナエクがいなかったら不可能だった。

そんないいコンビになった私とナエクだったが、一番の試練は最終日だった。最終日の朝のフライトが終わった時点で、「これからスーパーカブがナイロビに戻るので、午後のスポッターパイロットはお前のみだからな」と突然言われることに。なんでも他の仕事に戻らないといけないので、マサイマラでの仕事は今日の朝が最後らしい。えーっ! 本当に午後は、私がヘリコプターとのコーディネートをして、地上チームを誘導するのーっ!? !? 突然大役が回ってきてしまった。私たち女性チーム、この至難をちゃんと乗り越えられるのか!?

(文と写真 滝田明日香)


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山脇愛理(アフリカゾウの涙  代表理事)

三菱UFJ銀行 渋谷支店 普通 1108896
トクヒ)アフリカゾウノナミダ





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以上、ビッグイシュー日本版484号より「滝田明日香のケニア便りvol.32」を転載。

たきた・あすか

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1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。 https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。







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