セクスティングとは、自撮りのわいせつ画像や動画、あるいは露骨な文章をオンラインにアップしたり、携帯電話で送ったりすることをいう。14〜18歳の約7千人を対象としたオーストラリアの調査によると、性的な画像やメッセージを「受け取ったことがある」が86%、「送ったことがある」が70%と、セクスティングが若者にとって「普通の行為」である実態が浮き彫りとなった。豪エディスコーワン大学の研究者ジゼル・ウッドリーらが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
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セクスティングを罰することの是非
筆者らは、オーストラリアの10代のセクスティング、ならびに人間関係と性教育(RSE)の実態について研究を行った*1。30人の若者(11〜17歳)へのインタビューを49回実施し、1年後にも19回のインタビューを実施した。その結果、セクスティングの話題を避けるやり方では若者には何のためにもならず、むしろ教育現場でセクスティングのリスクを伝え、お互いを尊重しあう関係性の築き方や、セクスティングを求められた場合の対処法を教えるべきであることが明らかとなった。*1‘Send Nudes?’: Teens’ perspectives of education around sexting, an argument for a balanced approach
オーストラリアの多くの州・地域では、性行為は16歳からと法的に認められているが、セクスティング行為は18歳以上と定められている。未成年(オーストラリアでは18歳以下)の性的画像は、オーストラリア連邦法で違法とされている「子どもの性的搾取コンテンツの作成」とみなされるためだ。このため、未成年同士でのセクスティングは、同意の有無にかかわらず、法的にも倫理的にも複雑となる。州によって対応が異なるものの(警察や検察にも裁量権がある)、未成年者の裸の画像を所有あるいは送信は法律違反にあたり、未成年者である自分の裸の写真の所有も(たとえ他の人に送信していなくても)違法である。
しかし、セクスティングに対するこのような法的措置は、守るべき未成年者を罰することになり、セクスティングにまつわる恥ずかしさや恐怖感を植え付けてしまいかねないと研究者たちは論じている。
「するな!」の一点張りでは効果が薄い
筆者らの調査対象者の多くは、ファーストキスを経験するよりも前の10〜13歳の時点でセクスティングを初体験していた。また、学校での教育はセクスティングのリスクを伝えるばかりで、生徒たちがほぼ聞く耳を持っていないことも分かった。「性的な画像を送るなと言うだけ」「なぜヌード画像(の所有や送信)が悪いのかばかり。注意されたところで、みんなあまり聞いていません」。また、付き合っている者同士のセクスティングは安全と考えているようで、「付き合っている人となら、お互いを信頼しているし、問題ないんじゃないかな」という声もあった。Karolina Grabowska/ Pexels, CC BY
「してはならない」のメッセージだけでは、成人になるまでセックスをしないようにと教える性教育と変わらず、それでは10代の妊娠や性感染症を防ぎきれていないことは周知のとおりだ。それよりも、総合的な性教育はセックスの初体験を遅らせ、避妊具の使用率を高める効果があることがわかっている。性に関する重要な情報を適切に伝えることで、若者を守りやすくなるのだ。
若者たちからはセクスティングの被害についての声も聞かれた。「サイバーフラッシング」と呼ばれる、性的な画像を勝手に送りつけられたのが初めてのセクスティング体験だった者が多く、自分の性的な画像を同意なしに他の子に流出させられた人を知っているとの声も少なくなかった。このような個人画像の流出は「リベンジポルノ」といわれ、「テクノロジーの発達による性暴力」の一種であり、もちろん違法行為だ。
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セクスティング行為に遭遇する前に教育を受け、「心がまえをしておきたい」という意見もあった。「小学校の高学年から年齢に応じたセクスティング教育を始めるべき」という中学生の声や、「セクスティング行為は日常的に起きている」という高校生の声もあった。インターネット上の安全性について、お互いを尊重すること、合意を得ることの大切さを教育で伝えるべきとの意見もあった。「私的なものをだれかに送ったらどんなことが起こり得るのか、分かっていない人もいるので、教育がとても大切だと思います」
「16歳未満はセックスをしない」「10代は飲酒しない」「違法ドラッグをする人はいない」と同じで、「違法だからセクスティングをする人はいない」というのは幻想に過ぎない。若者の間でセクスティングが日常的に行われている実態に目を向け、被害を防ぐ教育を提供すべきだ。
英国の最新の学習指導要領では、セクスティングの法的問題よりも、セクスティングにかかわった若者の「恥ずかしい思い」をできるだけ減らそうとするアプローチを取っている。これは、若者には自分の身体と性的な自我について、よく考えて選択する権利と責任があるとの考えにもとづく。オンラインセックスも数ある性的行為の一つである。中立的な情報の提供によって、性にまつわる関心・行為は人間の成長において重要なことのひとつであると伝えていくべきだ。
親や教師としては、若者の現実を踏まえ、リスクを含む適切な情報を伝えられるよう努めるべきだ。10代の若者にとっては、「してはならない!」と言われるよりも、現実世界でそうある(すべき)ように、相手の同意を得て、尊重することの大切さについて話し合う方が受け入れやすいだろう。
セクスティングに関する支援機関もある。
Take It Down
https://takeitdown.ncmec.org/ja/ (日本語)
オーストラリア:
eSafety Commissioner
https://www.esafety.gov.au/
児童搾取対策センター
https://www.accce.gov.au/
Raising Children Network
https://raisingchildren.net.au/teens/entertainment-technology/pornography-sexting/sexting-and-teenagers-practical-steps-for-problem-situations
何よりも、どんな話でも相談しやすい環境を普段から心がけ、問題が起きたときたときには、大人は困っている自分を助けてくれるのだと子どもが感じられるようにしておくことが重要である。
著者
Giselle Woodley
Researcher and Phd Candidate, Edith Cowan University
Lelia Green
Professor of Communications, Edith Cowan University
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年3月14日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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