かつて大手電力会社は地域独占が認められ、投資は電気料金に含めて回収できていた。東京電力福島第一原発事故後、電力自由化が行われ、新しい電力会社などとの競争が必要になった。そこで、国や原子力業界は、自由競争下での原子力推進のために「原子力事業環境整備」と称して、さまざまな支援を行ってきた。







(この記事2024年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 488号からの転載です)

廃炉費用を託送料金に上乗せも
電気事業者「まだ足りない」

たとえば原発廃炉費用の託送料金(送配電網の利用料金)への上乗せ、福井県や青森県で行われている「共創会議」(原子力施設が地域と共生する環境の整備や、産業の複線化などを国・地域・事業者が共同で検討、交付金を支給する仕組み)などがある。事業者らはそれでもまだ足りないと主張していて、最新の環境整備に向けた議論が、8月20日、経済産業省の原子力小委員会で行われた。私も22人いる委員の1人として参加した。

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説明者は経産省のほか、東京電力・関西電力など大手電力10社と電源開発、日本原子力発電が設立した電力中央研究所の研究員、電気事業連合会(大手電力10社の連合体、電事連)の副会長、原子力産業界の自主的安全性向上対策のための組織である原子力エネルギー協議会の理事長で、主なテーマは「既設・新設原発への国の支援」だった。

電事連の要求はこうだ。原発の建設には10年以上の長期間を要する。建設期間の収入がないのは困る。建設期間の想定外の長期化や、建設費が上振れするリスクもある。廃炉にする費用などにも不確実性がある。こうしたリスクを国で面倒を見てほしい。事業収益性についても確実性がほしい、また事故が起きた時の原子力賠償も無限責任のため不確実だ。電力会社は原発の安全対策投資や火力発電所の燃料調達のため、金融機関からの借り入れが膨らんでおり、送電網や新規原発への投資のための借り入れができないので何とかしてほしい(具体的には国などに債務保証をしてほしい)――。

運転開始からすでに60年近く
このありさまなら、やめるべき

電事連の要求にある程度マッチする制度が英国で導入されている。「規制資産ベース(RAB)」と呼ばれるこの制度は、建設から廃炉までにかかるすべての費用を積み上げたうえで、これに収益を上乗せしたものを規制料金で回収するというものだ。もし建設費などの費用が上昇した場合、その分も回収できる。かつての総括原価方式と同じで、事業リスクはすべて消費者に押し付けることができる。

まったくあきれ果てる。要するに原発のリスクを負いたくないから国に面倒を見てほしい=消費者に押し付けたい、と言っているのだ。委員会ではこの電事連の主張に同調する意見が相次いだ。私は「電事連さんの説明は、要するに私企業が経済競争力のない原発を進めるために、国民負担を求めていると理解しました」「日本初の商用原発である東海原発が運転を始めてからもう60年近く経過しましたが、いまだにこのありさまなのであれば、それはやめるべき事業だ」と発言した。

今年は国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の3年ごとの改定年にあたり、改定作業が行われている。原子力業界はこの中に原発新設支援策を書き込むことを狙っている。おそらく「原発新設」ではなく「脱炭素電源」への支援策と書き込むだろう。そうすれば原発だけでなく、「脱炭素火力」と呼ばれる水素やアンモニアを燃料にする火力発電所へも支援ができるうえ、原発補助金という本質をごまかすことができる。書き込まれれば、数年後に市民には理解できない複雑怪奇な制度が導入されることになるだろう。このような政策を許してはならない。(松久保 肇)

松久保 肇(まつくぼ・はじめ)

1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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