(THE BIG ISSUE JAPAN 第88号より)

88_13colum-mandela-illust


「世界政府」大統領?ネルソン・マンデラと南アフリカ



私たちはいつの日か国連とは別に世界政府を持つことになるかもしれない。その際、大きな争点となるのは「いったい誰が大統領になるべきか?」ということだ。もちろん世界政府の実現は現実的に困難極まりないものだが、選挙だけだったら今すぐにでもやってみることはできる。

実際、イギリスの公共放送局BBCは実験的な「国際選挙」を行い、その結果を05年9月に発表。初代世界政府大統領としてトップ当選を果たしたのは、南アフリカの前大統領ネルソン・マンデラだった(ビル・クリントン、ダライ・ラマ、ノーム・チョムスキーなどの名前がそのあとに続いている)。

しかし、なぜ世界政府大統領にマンデラが選出されるのか。今いちピンとこないという人も多いだろう。そこには世界と日本のあいだに認識のギャップがあるかもしれない。

事実、マンデラの世界的な名声にはすさまじいものがある。当時の米大統領ビル・クリントンや英首相トニー・ブレアも彼には最大級の賛辞を送り、電話一本かかってくれば最大限の協力を惜しまなかったという。本国南アフリカでも彼は神様のような尊敬を集めているし、それは過去の葛藤にもかかわらず、白人や黒人という人種の壁をも越えたものになっている。

マンデラがそのような名声を獲得した大きな理由のひとつには、アパルトヘイトの崩壊に伴なう新たな虐殺の回避がある。暴動と暗殺の頻発により収拾困難な状況に陥った南アフリカで彼は異例のテレビ出演を行った。それは現職の大統領に代わって、停戦と和解を全国民に呼びかけるメッセージだった。この行動がなければ南アフリカは更なる流血や内戦に見舞われていただろうといわれている。

26年の長きにわたる投獄生活から解放され、マンデラが世界に訴えたのは、復讐ではなく、赦しの偉大さだ。マンデラはアフリカのトランスカイ地方のテンブ人に生まれたが、子どものころから村の会議によく顔を出していた。結論が出るまでとことん話し合い、全員一致が基本となる村の会議で、彼は対話の術とその重要性を学んだ。そのときの経験、アフリカの智恵が役立ったのだ。この世界が彼を必要とする理由にこそ、未来への道筋を見い出すべきだろう。

(土田朋水)