<前編を読む>
先に効果が出たためメカニズム解明はこれから
イケダ: 難聴の方々にとって、この製品はどれくらい効果があるんですか?
中石: 色々と検証はしているんですが、たとえば補聴器使用者ですと、濁音や母音・子音の明瞭度などにおいて検査をしてみたところ、平均的に15%ほど改善されているという結果でした。
もちろん、通常のスピーカーも並べて検証するのですが、それでは何の音が発せられているのか分からないんですね。また、人工内耳の方にとっても、効果は出ています。
イケダ: このスピーカーを使って音が聴こえた人は、やはり感動しますか?
中石: たいてい不思議がられます。耳から少し離れたところで聴こえるので、いままでにない感覚だと言われますね。
イケダ: この製品の面白いところは、たまたまできちゃったところですよね。
中石: 効果が先に出てしまったので、現在そのメカニズムを解明しようとしています。東京都立産業技術研究センターの博士の方が協力してくれることになったので、一緒に考えていこうというところです。
そもそも、「スピーカーにおける人の聞こえ方」に関する指標がないんですよね。
音質などを含め、スピーカーの音響特性としての検証は確立しているのですが……
これまでスピーカーと言うと、音楽を聴くためのものでした。この商品のように
難聴の方への聞こえを改善するというスピーカーはなかったので、これから指標づくりを進めていきます。
イケダ: 専門家でも分からないというのは、とても面白いですね。
中石: そうなんですよ。ただ最近、私がこのスピーカーの調整をしていることもあり、「この音だと補聴器に相性がいい」といったことは感覚的に分かるようになってきました。
イケダ: これから指標もできて、メカニズムも分かってくると、難聴者向けのスピーカーがもっと一般化していきそうですね。
せっかくプロダクトがあるので、ぜひデザインについても教えてください。
中石: 初号機はアルミの箱にフラットスピーカーと高音質再生を可能とするアナログアンプを入れたものなのですがこちらでも効果を得る事ができました。
そこで、デザインが心理的に影響することが大きいので、スピーカーらしくないデザインを考えることにしたんです。使用時と未使用時で形を変えていることもあり、未使用時はアロマですかとよく言われますね(笑)。
(未使用時)
スピーカーだと思われないようなデザインにして、とある聾学校にもお貸し出したところ子供たちにも非常に人気です。やはり、「かっこかわいい」というか、やわらかく自然と環境にとけこむようデザインを意識しました。
(正面から)
「伝えるために利用する」という視点を提供したい
イケダ: プロダクトはどうやってつくっているんですか?
中石: 元々はNPOで進めたいとおもっていたんですが、製造となると製造会社との取引が難しくなりました。それなりの数を作るとなるとお金もかかるのすがNPOでの資金調達は現在の日本ではむずかしいと考え、ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社をつくったんです。
製造と販売は会社の方で行い、検証や難聴の理解を進めるイベントなどをNPOで行うような棲み分けをしています。また、12月から「聴こえのあしながさんプロジェクト」をNPOで立ち上げ、このプロダクトを聾学校などにも寄贈していく予定です。
子供たちの聴こえというものは、学習にとって致命的ですよね。すでに東京都をはじめ16校ほどから、寄贈してほしいという声もいただいているのでプロジェクトを実現していきたいと思います。
イケダ: 現状で1台あたりの値段はいくらなんでしょうか?
中石: 20万円前後くらいですね。価格は抑えたいんですが、どうしても初期生産数が少なかったり、いろんな技術を入れているので高くなってしまいますね。
イケダ: 今後は会社として製造を増やしていくということでしょうか?
中石: そうですね。また、製造はもちろん増やしていきたいのですが、これまでは難聴と言えば補聴器という形での認識はありますが、スピーカーシステムで難聴者の方の支援ということはあまりイメージしにくいので、知っていただくのに時間がかかりそうです。まずは、コミュニケーションサポートシステムで実現する聴こえの支援のイメージを少しずつ浸透させていきたいと思います。
難聴は聴く方も話す方も難しい問題です。補聴器は聞こえにくい方がつけるというものでしたが、この商品では「伝えるために利用する」という視点を提供していきたいと考えています。難聴者側だけでなく、伝える必要のある健聴者側にも積極的に利用されることで、「聴こえのユニバーサルデザイン」を広めていきたいですね。
イケダ: 今日は貴重なお話ありがとうございました。
・ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 | COMUOON