<前編を読む>
現時点でもすでに多くの魚が資源枯渇の危機を迎えている。そのために「資源が減っているものに関しては漁獲量を制限することもやむをえないでしょうね」と鈴木さんは語る。「資源を守るということが第一義に重要。魚は増やそうと思えば増えるんです」
その具体例として挙げられたのが秋田のハタハタだ。
秋田の特産品であるハタハタは、かつて箱一杯の量であっても庶民が気軽に買うことのできる魚だった。それが一時期から枯渇してしまい、絶滅寸前まで追い込まれる。そこで地元の人々が、平成4年から3年間の禁漁期間を置くなどして努力を重ねた結果、今では復活の兆しが見えるほどにハタハタの姿が回復してきた。鈴木さんの言う「魚は増やそうと思えば増える」とはそうした実例を受けてのことだ。
しかし、それなら漁獲制限や禁漁をどんどん進めていけばいい、という単純な話でもなく、漁業を生業としている人たちにとって、それは「食い扶持を減らせ」と言われるのに等しい。
「漁師は魚がいれば獲りますよ。そうでしょう?お金が落ちてたら拾うじゃないですか。それをやめろというのは無理ですよ」
だからこそ今、それぞれの分野からの協力が求められている。
資源を守るために禁漁や漁獲制限を行うのは仕方がないかもしれない。けれど、そうして困ってしまう漁業を行政は支援することができるはずだし、私たち消費者も、魚の「本当の価値」を知ることによって、その対価をきちんと支払っていくことができるはずだ。
「ほら、あれがあるでしょう。無農薬・有機栽培のオーガニック食品。そういうものだと高くてもみんな買うでしょう。こだわりについては高くても買うっていう人がけっこういるんだ。魚は健康にいい、味もいい、季節性もある。いろんな良い点があるってことをよく消費者に知ってもらって、高くなりますけども買ったほうがいいですよ、と伝えていく。それで消費者がそういうのを買えば、魚を獲る量が少なくても、漁師の生活は楽になるんだ。100で100稼いでいたものを、50で100稼げればそれでいいわけだから」
そうした魚との新しいつき合い方が必要になるこれからの時代に、築地という場所が果たせる役割も大きいのかもしれない。
築地の場内で一般の人が魚を購入するのは残念ながら難しいが、その代わりここには「場外市場」という隣接する市場があって、そこでは誰もが魚を買い求めることができるのだ。スーパーでばかり魚を買うようになってしまった今の時代。ここ築地には、魚屋のなつかしい匂い、その道のプロから直接品物を買うことのできる安心感、心地よさが今でも残っている。旬の魚を聞くのもいい。料理の方法を教えてもらってもいい。魚の良さを再発見するには格好の場所だ。
「そういう対面販売ね。魚屋は古来からの良い文化だったんだけど、町からはなくなってきてるからなぁ。築地にはまだそういう対面販売の良さが生きてるよ。そういう場所をもっといろんな所でつくらなきゃいけないんだ」
これから魚を買いに行こうと思っている人たちへ、最後に鈴木さんからのお願いがある。
「健康に良くって、味が多様で、種類が多い。生でよし、煮てよし、焼いてよし、蒸してよし、干してよし。魚をうまく活用すれば食生活は非常に豊かになる。それが日本の食文化でもあるっていうことですよ。それを大切にしてもらいたい。しかし魚はいつまでも自由には食べられないから、貴重なたんぱく源として大切に扱ってもらいたい。そのための値段もお支払いしていただきたい。それが日本の漁業を守り、子々孫々の世界の魚を守ってゆくことになるんです」
(土田朋水)
Photos:高松英昭
(2007年9月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第79号より ※肩書きは当時)
現時点でもすでに多くの魚が資源枯渇の危機を迎えている。そのために「資源が減っているものに関しては漁獲量を制限することもやむをえないでしょうね」と鈴木さんは語る。「資源を守るということが第一義に重要。魚は増やそうと思えば増えるんです」
その具体例として挙げられたのが秋田のハタハタだ。
秋田の特産品であるハタハタは、かつて箱一杯の量であっても庶民が気軽に買うことのできる魚だった。それが一時期から枯渇してしまい、絶滅寸前まで追い込まれる。そこで地元の人々が、平成4年から3年間の禁漁期間を置くなどして努力を重ねた結果、今では復活の兆しが見えるほどにハタハタの姿が回復してきた。鈴木さんの言う「魚は増やそうと思えば増える」とはそうした実例を受けてのことだ。
しかし、それなら漁獲制限や禁漁をどんどん進めていけばいい、という単純な話でもなく、漁業を生業としている人たちにとって、それは「食い扶持を減らせ」と言われるのに等しい。
「漁師は魚がいれば獲りますよ。そうでしょう?お金が落ちてたら拾うじゃないですか。それをやめろというのは無理ですよ」
必要な、魚との新しいつきあい
だからこそ今、それぞれの分野からの協力が求められている。
資源を守るために禁漁や漁獲制限を行うのは仕方がないかもしれない。けれど、そうして困ってしまう漁業を行政は支援することができるはずだし、私たち消費者も、魚の「本当の価値」を知ることによって、その対価をきちんと支払っていくことができるはずだ。
「ほら、あれがあるでしょう。無農薬・有機栽培のオーガニック食品。そういうものだと高くてもみんな買うでしょう。こだわりについては高くても買うっていう人がけっこういるんだ。魚は健康にいい、味もいい、季節性もある。いろんな良い点があるってことをよく消費者に知ってもらって、高くなりますけども買ったほうがいいですよ、と伝えていく。それで消費者がそういうのを買えば、魚を獲る量が少なくても、漁師の生活は楽になるんだ。100で100稼いでいたものを、50で100稼げればそれでいいわけだから」
そうした魚との新しいつき合い方が必要になるこれからの時代に、築地という場所が果たせる役割も大きいのかもしれない。
築地の場内で一般の人が魚を購入するのは残念ながら難しいが、その代わりここには「場外市場」という隣接する市場があって、そこでは誰もが魚を買い求めることができるのだ。スーパーでばかり魚を買うようになってしまった今の時代。ここ築地には、魚屋のなつかしい匂い、その道のプロから直接品物を買うことのできる安心感、心地よさが今でも残っている。旬の魚を聞くのもいい。料理の方法を教えてもらってもいい。魚の良さを再発見するには格好の場所だ。
「そういう対面販売ね。魚屋は古来からの良い文化だったんだけど、町からはなくなってきてるからなぁ。築地にはまだそういう対面販売の良さが生きてるよ。そういう場所をもっといろんな所でつくらなきゃいけないんだ」
これから魚を買いに行こうと思っている人たちへ、最後に鈴木さんからのお願いがある。
「健康に良くって、味が多様で、種類が多い。生でよし、煮てよし、焼いてよし、蒸してよし、干してよし。魚をうまく活用すれば食生活は非常に豊かになる。それが日本の食文化でもあるっていうことですよ。それを大切にしてもらいたい。しかし魚はいつまでも自由には食べられないから、貴重なたんぱく源として大切に扱ってもらいたい。そのための値段もお支払いしていただきたい。それが日本の漁業を守り、子々孫々の世界の魚を守ってゆくことになるんです」
(土田朋水)
Photos:高松英昭
すずき・けいいち
1936年、静岡県浜松市まれ。築地魚市場株式会社社長。59年、大洋漁業(現マルハ)に入社。北洋のカニ、サケマス漁船に乗船する。その後、大都魚類を経て現職。
(2007年9月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第79号より ※肩書きは当時)